コロナウイルスの影響は,私たちの生活に大きな影響を与えている。今後,この影響がどこまで広がるか分からないが,図書館における影響範囲について,IFLAのブログが10点に整理している。日本でも考えていく必要のあることが多い。ここではそれを紹介したい(以下は意訳)。
- 今後,景気後退が予想されている。その中で,多くの人が,解雇,ホームレス,貧困などのリスクにさらされることになる。同時に,キャリアを立て直すための学習,各種支援,安全な場所の提供などへのニーズが高まる可能性がある。図書館はそのための場を提供することができる。
- 多くの図書館が資料提供をデジタル環境に移行した。また,オンライン学習の支援を行っている。行動の制限がなくなったあとも,この傾向は継続するかもしれない。図書館にとっては,資源配分とプライバシー確保が課題になる。
- 急激に拡大する政府の経済対策は,長期的に図書館予算を減少させる可能性がある。図書館は社会の復興のため役立ちうることを主張し,十分な予算を得る必要がある。
- 多くの教育機関がオンラインに移行した。しかし,児童生徒にとってそれが完全だったとはいえない。そうした児童生徒への支援が課題である。また,信頼性の高いプラットフォーマーとして,オンラインや生涯学習のコンテンツを自ら,あるいは提供者と連携して提供することが期待される。
- パンデミックの拡大抑制のため,政府は感染者と接触した人の情報を収集し活用している。個人の行動に関するそうした情報の収集は,平時においては望ましくない。図書館は,高いレベルのデータ保護,プライバシー保護,学問の自由,透明性(openness)が必要であることを人々に思い出させる準備が必要である。
- 危機に直面して初めて,現状の著作権がアナログの世界を前提としたものであることが明白になった。現状,権利者が一方的に著作物の利用を許諾しているものもあるが,そうした善意に今後も期待するのは理想的とはいえない。今回の教訓はデジタル時代に,図書館がこれまでと同様のサービスができるよう著作権制度を整備することだ。
- デジタルのインフラが脆弱で不完全であることが明確になった。社会の中で,ネットワーク環境にアクセスできない人がいる。また,十分なスキルを持たない人がいる。図書館はネットワークの基盤を提供し,スキル開発の機会を提供できる。そのための予算配分の対象でもある。
- パンデミックの環境下,各種情報,例えば,統計,地図,論文がオープンアクセス化された。同時に,テキストマイニング,データマイニングの制限も取り払われた。こうしたオープンな情報共有環境は望ましい。将来に向けて図書館は法制度,ビジネスモデルの点でこれらの重要性を主張するべきだ。
- パンデミックの数少ないプラスの効果は,環境問題の改善である。事態が改善されても,図書館には環境に配慮することが期待される。また,リモート環境での業務推進が可能かもしれない。
- 人が幸せになるには文化が必要だ。実際,パンデミックの環境下,デジタルによるそうしたサービスへのニーズが高まっている。そのための投資が必要だ。図書館はそのために役立ちうる。同時に,将来に向けて,図書館員は現在の状況を記録し,保存することが必要だ。
以上,10点,紹介してきた。詳しくはIFLAのウェブページを見てほしい。世界の図書館を視野に入れた指摘であるが,日本の状況と重なることも多い。