新型コロナウイルス基本的対処方針の意味

本日,5月4日,新型コロナウイルス感染症対策本部から「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下,対処方針)が示された。この文書は修正版であり,もとは2020年3月28日に出されたものである。この文書中に「図書館」という語が出てくるので,見てみたい。

対処方針は,31ページにおよぶ。対策本部開催直後にこうした文章をとりまとめることができることから分かるのは,日本の官僚制度の優秀さと,方針(少なくとも大筋)は以前から決まっていたということだ。この文書の構造は以下のようになっている。

前文(経緯をまとめたもの)
一 新型コロナウイルス感染症発生の状況に関する事実
二 新型コロナウイルス感染症の対処に関する全般的な方針
三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項

この中で,もっともボリュームがあるのが「三」であり,「図書館」もそこに出てくる。「三」は実施に関わる重要事項の書かれているところである。ここの構造は以下のようになっている。

(1)情報提供・共有
(2)サーベイランス・情報収集
(3)まん延防止
(4)医療等
(5)経済・雇用対策
(6)その他重要な留意事項

図書館が出てくるのは,このうちの「(3)まん延防止」である。(3)はさらに以下のような構造になっている。

1)外出の自粛(後述する職場への出勤を除く)
2)催物(イベント等)の開催制限
3)施設の使用制限等(前述した催物(イベント等)の開催制限、後述する学校等を除く)
4)職場への出勤等
5)学校等の取扱い
6)水際対策
7)クラスター対策の強化

図書館が出てくるのは「3)施設の使用制限等」である。ここは,主に都道府県知事によって休業要請がなされた施設をまとめたところである。「3)」はさらに,特定警戒都道府県,それ以外の都道府県,事業者及び関係団体,に分かれている。そして,図書館が(今度こそ)出てくるのが,その最初の「特定警戒都道府県」である。「特定警戒都道府県」であるから,東京都を含む13都道府県に向けて書かれたところである。文章を引用すると,以下のとおりである。少し長いが段落全体を引用する。

なお、施設の使用制限の要請等を検討するにあたては、これまでの対策に係る施設の種別ごとの効果やリスクの態様、対策が長く続くことによる社会経済や住民の生活・健康等への影響について留意し、地域におけるまん延状況等に応じて、各都道府県知事が適切に判断するものとする。例えば、博物館、美術館、図書館などについては、住民の健康的な生活を維持するため、感染リスクも踏まえた上で、人が密集しないことなど感染防止策を講じることを前提に開放することなどが考えられる。また、屋外公園を閉鎖している場合にも、同様に対応していくことが考えられる。

「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」p. 15

現場にリスク評価をする時間や専門知識があるのか分からないが,とりあえず,都道府県知事が要請に関し判断する,とされている。そして,例示的に博物館,美術館,図書館は一定の条件付きで「開放することなどが考えられる」とされている。これら3施設は,いうまでもなく新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令第11条1項9号の施設である。あえて開放する施設に挙げていることから感じられるのは「図書館は開放してもよいのでは?」というニュアンスである。その際の条件は,「人が密集しないことなど感染防止策を講じること」である。

なぜ,図書館が挙げられたのか。それはよく分からない。図書館は次に挙げられた「屋外公園」同様,安全と考えられたのかもしれない。この判断は奇しくも,ジョン・ホプキンス大学と同様の評価である(記事参照)。

さて,「特定警戒都道府県」の箇所で図書館が挙げられたことから,いわんや特定警戒都道府県以外をや,である。今後,多くの都道府県で再開に向けた取り組みが進められる可能性がある。さて,見逃しがちなこととして,そのあとの「事業者及び関係団体」がある。ここには以下のように書かれている。

③ 事業者及び関係団体は,今後の持続的な対策を見据え,5月4日専門家会議の提言を参考に、業種や施設の種別ごとにガイドラインを作成するなど、自主的な感染防止のための取組を進めることとし、政府は、専門家の知見を踏まえ、関係団体等に必要な情報提供や助言を行うこととする。

「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」p. 16

この役割は,図書館に関わる協会や学会などに期待されていることかもしれない。