高齢者との会話サービス

コロラド州アダムス郡にある図書館が,Anything Connect Lineという電話によるサービスをしている(図書館ウェブサイト)。毎週水曜日から土曜日の10時から14時まで,職員が電話を受けつけている。市民は自由に電話をかけて,職員と本,音楽,映画などの話を楽しむことができるという。

図書館の職員が,電話の前で市民の電話を待ち,ただ会話を交わすというサービスは,一見風変わりに思える。しかし,図書館の職員と本の話しをする中から,新たな発見があるかもしれない。高齢者の中には,図書館が力を入れている電子書籍などによるオンラインサービスを受けることができない人もいるであろうし,そうしたサービスを好まない人もいるであろう。また,日頃から図書館の職員と会話を楽しんできた利用者であれば,そうした職員と話しをすることを楽しみとするのは当然かもしれない。しかし,このサービスは「図書館のサービス」を超えて,より広い文脈に位置づけられるかもしれない。

2020年5月21日のVOA LEARNING ENGLISHの記事でも似たようなサービスの記事があった(Free Calls Offered to Older Americans Living Alone)。こちらは,図書館ではなく市や民間団体などが,市内の高齢者に電話をかけるというものである。高齢者はコロナウイルス感染時の重症化リスクが高いため,地域によっては,依然,外出しないことが推奨されている。記事によれば見ず知らずの人からであっても,かかってきた電話で高齢者は会話を楽しんだり,生活上の支援の情報を得ることができるという。さらには,人とのつながりを感じることができる。

日本でも高齢者の外出自粛が長期間におよぶ中で,社会問題になりつつある。2020年5月23日の朝日新聞(朝刊32面)は「外出自粛 高齢者の健康問題は」と題して,会話減少がストレスや不安の原因になることが紹介されている。記事では会話を増やす方策として,「リモート食卓」が紹介されている。これは,離れて暮らす家族がオンライン会議アプリを使って一緒に食事をするというものである。

このように見てくると,アダムス郡の図書館サービスは,単なる風変わりなサービスではなく,図書館サービスの枠組みを超えた意義あるサービスなのかもしれない。