図書館協議会のよりよい運営のために

1.はじめに

ここでは,図書館協議会の運営が少しでもよくなるようにという観点から,ここ20年ほどの文献(例外あり)と,筆者のささやかな経験を元に委員および事務局に役立つと思われることがらを整理していきたい。図書館協議会については,平山の研究(平山, 2013)もあるし,改善のための方策をまとめた文献(例えば塩見(1990),伊藤(2000)等)もある。ここでは,より「実施レベル」のあり方を整理していきたい。なお,図書館協議会ではないが,国の審議会の運営の実態を扱った文献に森田(2006, 2016)がある。審議会のやりとりが生々しく描かれており興味深い。

地域によっては図書館協議会の団体があり,その中には委員向けのハンドブックを作っていたところもある(細谷, 2005, p. 13)。そうしたハンドブック類はいくつかある(あった)と思われるが,現在,広く共有されているものはないようである。なお,事務局および委員にとってコントロールが難しいこと,あるいはコントロールできないことはここでは扱わない。

ここで扱わないことは,たとえば,委員選出の基準やその選出の実際である。また,図書館法および条例規則の規程類も扱わない。詳しく知りたい人は最近では薬袋(2012)が整理している。また,荻原の調査(2021)もある。法律は扱わないが,図書館法第14条2項の規程は確認しておきたい。条文は「図書館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、図書館の行う図書館奉仕につき、館長に対して意見を述べる機関とする」と規定する。ここから,図書館長から諮問があればそれに応じること,図書館奉仕,つまり図書館サービスついて随時意見を述べること,を確認することができる。その主旨は,「住民の具体的な図書館に対する要望なり意見なりを」図書館の活動に反映させることにあり(西崎, 1970, p.100),要するに住民参加を制度化し住民と協働した図書館づくりをするというものである。後述するが,本来,図書館に諮問すべきことを諮問しない,あるいは図書館サービスについて意見を述べる機会を設けないような協議会もないとはいえない。それらは明らかに法律の主旨に沿わない運用であり批判されるべきだ。開催回数,委員の人数なども重要だがここでは扱わない。

以下,図書館・事務局の姿勢,図書館協議会の運営,情報公開,事前の研修,議論のあり方,図書館協議会の存在意義の順番で整理していく。

2.図書館・事務局の姿勢

図書館協議会の運営のあり方を考えるとき,まず重要なのは図書館,事務局の姿勢である。協議会を重視,あるいはその意見を尊重するか,逆にお荷物と見るかにより,そこでの議論は変わる。実際,協議会に対する姿勢は図書館ごとに異なる。図書館は現場職員が最もよく知っており,素人委員に余計な口出しはしてほしくないという姿勢であれば(伊藤, 2000, p. 65),図書館はお荷物になる。時期,議題,状況によっても異なるであろう。新しい公共複合施設に図書館が入るかどうかが本庁で議論になっている場合には積極的に情報提供をし,有利な意見,提言を出してもらうことに熱心になるかもしれない。

こうした図書館の姿勢に関係することとして,管理職の姿勢,歴史的経緯,行政との関係,市民の関心の強さなどが関係しているようである。このうち,平野(2007, p. 80)は行政との関係を指摘している。図書館協議会の要望を,行政機構の中で実現できないような環境下であれば,図書館は板挟みとなることから,協議会からの要望への対応も厳しいものになる。市民の関心については,市民団体が委員を送っていたり,市民の図書館協議会への期待が高く委員と情報共有をしていたり,毎回傍聴に来ていたりすれば,図書館としても緊張感をもって対応することになる。

3.図書館協議会の運営

図書館,事務局が図書館協議会を適切に運営するために必要なことはなにか。ここでは,議題設定,情報提供,会議運営について述べていきたい。

(1)議題設定

まず,議題の設定である。議題は多くの場合,事務局が設定する。何を議題とするかは,図書館ごとに違いが見られる。本来,議題とすべきことが議題になっていないこともあれば,協議事項とすべきことが報告事項になっていることもある。図書館協議会設置の主旨を踏まえれば,自ずと議題とすべきこと,協議事項とすべきことは決まってくるはずである。もし,委員として協議が必要と考える議題があれば,委員長を介して議題にしてもらうことは当然にあるべきだ。

(2)情報提供

これまでも,図書館側からの情報提供が重要であることは指摘されてきた(例えば草谷(2014, p. 416),佐藤(2007, p. 85))。直面する課題を隠さないこと,丁寧に情報を提供すること,真摯に対応することは,委員の自覚を喚起し,信頼関係を醸成するといわれている。ほとんどの図書館は丁寧な情報提供を心がけていると思われる。このことは図書館にとっても重要である。図書館協議会の議論が,非現実的な方向へと進もうとするときに,実態を伝える正確な情報は軌道修正に不可欠である。情報提供は,図書館の情報公開の場となる点でも重要である(佐藤, 2007, p.85)。

(3)会議運営

会議の適切な運営のため,事務局は事前の資料送付,座長との事前打ち合わせ,シナリオの用意(必要に応じて),事後の議事録作成,公開,などの仕事がある。まず,事前の資料送付である。基本的に会議資料は開催通知とともに送付する。近年は,委員から特段の申し出がない限り,電子ファイルで送付することが多い。送付時期は会議直前であることが多い。あまり前にもらうと忘れることもあるので,会議日が近づいてからでもよいが,前日などでは,ほとんど目を通す時間がない。やはり4〜5日前,資料が大部の場合はそれに合わせて早めに届くようにしたい。委員は会議までに資料に目をとおす。渥美は事前に熟読するだけでなく,委員間でメールのやり取りをしたことを報告している(渥美, 2012, p. 37)。どこまで委員間で準備するかはそれぞれで異なるが,十分な準備をして会議日に挑みたい。

資料準備の関連で,ある自治体の事例を紹介したい。議題によっては,当日配布される資料以外に,図書館の計画を確認したり,過去の図書館評価結果を確認したりすることがある。そのことに事前に気づいて関連資料に目を通してきたり,持参したりすることもあるが,多くの場合は会議中に気づく。その自治体では,委員がそうした際に参照できるように資料をバインダーに綴じて机上においてくれている。このことは,ドキュメントにもとづく審議を可能とする点ですぐれている。関連の国の法規,省令,条例,規則,各種計画,過去の図書館評価結果,答申・提言等,直近2期分の会議録などがあればよいだろうか。他の自治体でもぜひ真似をしてもらいたい。

委員長との事前打ち合わせは自治体によって違いが見られる。おおよそ3つのタイプがある。とくになにもやらないところ,当日の会議前に行うところ,別日程で行うところ,である。打ち合わせに副委員長が同席する場合もある。事前打ち合わせで重要なのは,委員長が議題を理解し,適切に議事を進めることができるようすることである。そのためにはある程度の事前の情報共有は必要であろう。そのことによって,事務局と委員との知識のギャップをうめるために,事務局に補足の説明を求めたり,追加の説明を自らしたりすることもできる。しかし,事前打ち合わせをしていることがあまりにあからさまだと,事務局と委員長で,すでに審議の結論まで取り決めているような印象を与えかねない。注意が必要である。

シナリオについても,図書館によって違いが見られる。これもおおよそ3つのタイプがある。議事次第のみのところ,議題と目安の時間を記載したもの(確認事項など簡単なメモを含む),発言まで記載したもの,などである。熊取町ではシナリオはなく,時間配分のメモのみであるという(原田, 2021, p.29)。委員長にとってはシナリオの有無はそれほど気にかけないと思われるが,事務局としては不安かもしれない。ただし,シナリオを作り込みすぎると議事進行が硬直化して,議論の流れについていけない委員が出ることもある。委員長としては,シナリオにあまりしばられることなく,委員が議論の中身をしっかりと消化していることを確認しながら進行することが肝要であろう。

最後が会議後の議事録作成である。議事録は,議事要旨(発言の要旨)の場合と,会議の発言をそのまま再現した議事録の場合がある。後者は業者に依頼する場合もある。大まかな議論の確認には議事要旨が,発言の詳細まで知りたいときは文字起こしの議事録が望ましいので,2つあればよりよいが通常は1つである。

議事録作成は事務局にとって負担である。作成のため,事務局では原案となる議事録を作成後,委員に送付して修正の依頼をし,修正があった場合は必要に応じて再度,委員の確認をとり,最終的に確定,公開という手順になる。ただし,これは丁寧な場合であり,自治体により異なる。そもそも議事録の確認を委員長や議事録署名人のみにしか依頼しないところ,次回協議会で確認するところ(比較的実施回数が多いところ),上記で述べた手続きをとるところなど,いろいろである。議事録作成では発言者の表記が問題になることがある。個人名とするところ,「委員1」など発言者を識別できるようにするところ,一律に「委員」とするところ,などである。議論の流れを読み取れるようにするためには,発言者を識別できるようにすることが望ましい。 図書館協議会の運営の最後に,事務局によるよろしからざる運営について述べておく。図書館にとって不都合な議論がされることが予想されるときがある。実際,図書館と協議会が厳しく対立することもないわけではない(鈴木, 1998, p. 86)。そのような場合,図書館は,あからさまな対策として,回数を削減する(予算削減を理由として),不都合な委員(委員長)を排除する。そこまであからさまでないとしても,本来,図書館協議会で議題とすべきことを議題としない,議事に載せても協議事項とせず報告事項とする,意見聴取のみとするなどの戦略をとる。さらに,報告のサボタージュもある。行政内部の動き,議会での議論のうち不都合な情報を隠すといったものである。行政内部の決定事項ではないことをどこまで公開するかは図書館の協議会への姿勢によるであろう。他にも意図的に過密日程にして,委員からの議題設定を阻止することもある。こうした一連の「対策」がとられると,対抗することは難しい。そもそも「問題」に気づけない。このようなときに重要なのは,やはり広いアンテナを持つ市民からの情報であろう。こうした事務局の運営は,短期的には「うまくいく」かもしれないが,長期的には市民との関係を毀損し,図書館,コミュニティに悪い影響を与えることは肝に銘じておくべきだ。(つづく)