(2)議論のあり方
前回に引き続いて図書館協議会の議論をしていく。図書館協議会では活発な議論が期待される。意見が出されずに,議論が尽くされないようなことは避けたい。あるいは「事業報告に対して委員が承認するだけ」(『図書館ハンドブック 第6版』, 2005, p. 146)も避けたい。議論が低調な場合,どうすればよいだろうか。
まず,議題設定が適切である。これは前述した。つぎに,議題に関して事務局より説明があるが,その説明は丁寧かつ簡潔であることが望ましい。一応,委員は事前に資料に目を通してきているが,会議でもある程度の説明は必要であり,その説明は丁寧であることが期待される。あわせて簡潔さを求めるのは,しばしば事務局の説明が長時間におよび,協議の時間が十分とれないためである。また,情報量が多く,何を協議すればよいのか不明確になることもある。バランスは難しいが,丁寧かつ簡潔に説明を行い,しっかりと協議の時間を十分確保したい。
事務局の説明が終わると協議が始まる。発言が出ない場合,委員が考える時間をつくるため,委員長が質問をする,議題を整理する,議題と関連する委員に意見を求める,といったことも行われる。はじめに質問を受け付けることもある。やがて,委員が挙手して発言を求め,委員長が指名する。指名された委員は発言をはじめるが,このとき,事務局の方に向かって質問をし,あるいは意見,要望を伝えておしまいとなることが多い。これでは,協議会として議論を深めることにつながらない。質問を事務局にすることは当然だが,意見は実質的に事務局に対するものであっても,少なくとも委員に向かって発言するようにしたい。そのことにより委員間で議論が展開するかもしれない。
協議において委員長の役割は重要である。まずは,委員が安心して発言できる環境づくりをすることとタイムマネジメントがある。また,議論の方向性,目標を示すこと,協議の時間を十分に確保すること,不明確な発言や質問の意図を確認すること,なども必要であろう。こうした委員長の役割は最初に紹介した森田(2006, 2016)に詳しい。
図書館協議会の議論は,しばしば「言いっぱなし」になることが多いことは前述した。とくに,必ずしもひとつの結論を求められていない場合だと,委員が多様な(勝手な)意見を述べたところで,議論が閉じられることがある。この場合,意見の取捨選択は事務局に丸投げとなる。議題によってはそうした議論でもよいと思うが,図書館としては,できる範囲で出された意見を参考にするとともに,事後の報告が協議会とのよい関係には重要である(草谷, 2014, p. 416)。また,議事録の確認を次回の協議会で行うような場合であれば,その際に確認するのが比較的簡単かもしれない。
(3)議論を広げる
図書館協議会は,通常,全員が参加する定例会で,事務局の説明を聞いた上で協議していく。しかし,議題によっては,別の形で議論をしたほうがよいこともある。ここでは,そうしたものをいくつか紹介したい。まずは,委員によるプレゼンテーションがある。協議のテーマによっては,そのことに詳しい委員がいる。そうした場合,その委員にプレゼンテーションをしてもらい,それを素材に議論を深めることもできる。
委員のプレゼンテーションと似ているが,職員等の意見を聞く(ヒヤリング)こともある。協議テーマと関係する担当職員に出席してもらい,説明を受けたり質問をしたりする。担当職員は図書館の職員に限らず,図書館以外の部署の場合もある。たとえば,渥美は,教育センターの職員から説明を聞いたことを報告している(渥美, 2012, p. 36)。筆者は,かつて指定管理者の職員から話しを聞いた。事務局は多くの場合,庶務あるいは管理部門が担当しているため,図書館現場と多少距離がある。実務を担っている職員から話しを聞く機会があると図書館に対する理解はより深まる。
次に,小委員会を設置することもある。通常の定例会では,議事進行が決まっており人数も多いため,委員が自由に発言することは難しいが,少人数(通常は3〜4名程度)の小委員会では比較的自由に発言できる。筆者の経験では,提言の原案を作成したり,図書館評価の実務を担当したりする場合に,こうした方式が活用されてきた。佐藤は,新館準備の際,有志委員が小委員会を構成し,議題検討などを行ったことを報告している(佐藤, 2007, p. 86)。小委員会での自由な議論を保証するため,非公開とし,議事録も公開されないこともある。図書館協議会の条例,規則等で明示的な規定がなくても,「協議会の運営に関して必要な事項は委員会が定める」といった規定にもとづき設置されるようである。小委員会は多くの場合,委員から選出されるが,複数の小委員会が設置されるときは,全員がいずれかに入ることもある。情報公開の点では多少,難があるが,自由な発言により議論を深めることができる。
他に,よく行われることとして見学がある。協議テーマと関係のある図書館などに事務局と委員で行くものである。事前に下調べをして質問事項を送付し,図書館見学後,その回答を聞くこともある。見学により共通の経験を持てるので,その後の議論が活発になることもある。
(4)委員をよく知る
図書館協議会の委員とは,通常,定例会で顔を合わせるだけである。しかし,それだけでは,お互いをよく知ることは難しい。開催頻度が年2,3回であればなおさらであろう。視察などに行くと,協議会のときとは違う一面が見られたり,話しをしたことのない委員と話しをするきっかけを持てる。しかし,お互いをよく知る上では,少し「昭和」っぽいが,懇親会もよい。事務局職員を含めての懇親会は,お互いをよく知るよい機会である。渥美は,「顔見世の懇親会を毎期開催するのだが,幹事は副会長の役目である」(渥美, 2012, p. 37)とし,「委員全員が,できる限り出席するので盛会」であるという。こうしたことをきっかけに,委員の発言をより深く理解することができるようになることもある。
(5)場外での活動
場合によっては「場外」の活動がある。通常の取り組みでは,直面する課題を解決できないような時である。たとえば,公共施設再編計画で図書館を複数館廃止することが計画化され,図書館協議会に諮問されるようなときである。このような重大な決断を図書館協議会の数回の審議で決定するとしたら,どうであろうか。しかもそのことが市民にはほとんど知らされていないとしたら。このようなとき,場外での活動が必要になってくる。塩見のいう「行動する協議会」である。場外の活動は大きく2つに分かれる。ひとつは,市民の関心を喚起するような活動である。たとえば津川(2005, p. 21)は祝日開館を考えるシンポジウムを図書館協議会が主催したことを紹介している。もうひとつは,図書館を飛び越えて教育長や首長と面談したり,意見書を提出したりすることなどである(草谷(2014, p. 416)。こうした活動が規則上の根拠を持たない場合,委員参加を任意として任意的な団体で活動することもある。
7.図書館協議会の存在意義
図書館協議会に対しては,長く「形骸化」「お荷物」「成果をあげている事例は乏しい」「期待感が概して低い」(塩見 & 山口, 2009)とも言われてきた。制度的位置づけを考えれば,そうした指摘も的を射ているかもしれないが,委員として参加している限りでは,決して「無用の長物」ではなく,ときには図書館運営に一定の貢献をしているようにも思う。草谷(2014, p. 416)も,意見書提出等の活動により資料費が大幅にアップしたこと,司書職採用が採用されたこと,指定管理を阻止したこと,などを活動の成果として挙げている。制度的には強い影響力を持っていないとしても,状況によっては,図書館運営を左右する存在になりうるのではないだろうか。
図書館協議会については,近年,委員任命基準が緩和されたり,委員報酬が地方交付税措置されている。こうした新たな状況により図書館協議会の設置率が上昇し,開催回数も増えていくかもしれない。全国各地の図書館協議会の活動実績を集積し,経験の共有化をはかること(平野, 2007, p.81)はますます重要になっている。
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