韓国と日本の公立図書館の利用状況を比較してみると,そのサービス構造に違いが見られることが分かる。韓国の公立図書館では,1館あたりの年間貸出点数は109,637点,来館者数は159,137人となっており1,貸出点数よりも来館者数が多い。つまり,来館者全員が図書を借りているわけではなく,図書館を「借りる場」以上のものとして使っていることがうかがえる。
一方,日本では図書館では1館あたりの貸出点数は190,561点で,来館者数は89,180人である(『日本の図書館 統計と名簿』2023年)。貸出点数は韓国の約1.7倍だが,来館者数は半分程度にとどまっている。韓国に比べて,「本を借りる場」としての側面が強い。
また,韓国ではプログラム参加者も多く,1館あたりの年間参加者は20,239人にのぼる。来館者数に対する割合は12.7%である。日本の『社会教育調査報告書』(2018年)によると,読書会・研究会と鑑賞会・映写会などのプログラムの参加者は,1館あたり年間参加者は平均813人である。そのうち児童向けが504人である。参加者は圧倒的に少なく,子ども向けに偏っている(2018年のデータとしたのはコロナの影響を考慮した)。
では,韓国の図書館では,実際にどのようなプログラムが実施されているか。ソウル市のいくつかの区のウェブページを見てみると,図書や読書に関するものが多いが,それ以外にも趣味や生活に密着したプログラムが多く実施されている。たとえば,子ども囲碁講座,ダイエットヨガ,初級中国語,英語講座,ゲームで学ぶ数学,生成AIの活用などであり,内容は多岐にわたる。
日本では図書館のプログラム実施の議論になると,「公民館」との役割分担が話題になるが,韓国にも似たような機能をもつ施設がある。住民センターである。今回,小さな図書館見学のために,何カ所かの住民センターを訪問したが,こうした施設が身近に存在する。こうした住民センターは,行政の出張所であると同時に,地域住民に向けたさまざまなプログラムを実施している。たとえば,ソウル市の冠岳区には住民センターが区内に21か所あり,そこではラインダンス,卓球,ヨガ,英語教室,日本語教室,書道,レザークラフト,民謡教室,カリグラフィーなど,多様な講座が開かれている。図書館と重複するような講座も存在している。
このように,韓国の図書館は日本ほど貸出に力を入れているわけではないが,来館者は多く,プログラムへの参加も活発である。また,日本ではプログラムの実施については公民館との役割分担が議論されることが多いが,韓国でも住民センターのような施設が存在しており,図書館とあわせて地域における学びや交流の場となっているようである。
- https://www.libsta.go.kr/statistics/public/main ↩︎