台湾の公共図書館の法制度について,文献を探したが管見の限り見つけることができなかったため,備忘のため分かる範囲でまとめておきたい。
台湾には「図書館法」がある1。成立したのは2001年で,最終の改正は2015年である。条文は20条からなる。制度に関わる事柄であるが,まず,第3条で主管機関として,中央(国)は教育部(部は日本で言う省),直轄市,県(市)は各自治体と定めている。中央の主管機関は教育部だが,2012年の省庁再編により文化部が設置され,公共図書館に関わる取組を協調して行うようになっている。自治体には,日本のように首長から一定程度独立した教育委員会は存在しない。
第4条2項は,図書館の種類について,設置機関,サービス対象,設置目的の観点から5つに分類している。公共図書館については,「各級主管機関,市町村,個人,法人または団体が設置」する,と書かれている。各級主管機関とあるように,国も設置する点や,個人も設置できる点など,設置主体は日本の図書館法よりも広い。ちなみに台湾には国立図書館は3館あるが,そのうち国立台湾図書館と国立公共資訊図書館は公共図書館にあたる。
第5条では,「図書館の設立,組織,専門職員の資格要件,経費,蔵書構築,施設設備,運営管理,サービス普及その他の遵守すべき事項に関する基準は,中央主管機関が定める」とされている。これに基づいて,後述する「図書館の設立及び運営の標準」が定められている。
第10条1項は「図書館には館長,主任または管理員を置き,必要に応じて専門職員を配置して前条に定める業務を処理させることができる」としている。前条に定める業務とは利用者サービスを指す。また,第10条2項は「公立図書館の館長,主任または管理員は専門職員が務める」と定めている。同条3項は「公立図書館は,公務人員任用法の定めるところにより,第1項の職員を雇用する(後略)」とある。このように公立図書館の職員については,特に2項と3項の規定を設けている。
台湾では地方公務員を含めて公務員は公開試験による国家考試で採用されるのが原則である。そして,この国家考試には,「図書情報管理」という枠があり,この合格者は大学図書館や公共図書館などに配属され専門職員となる。ただし,これ以外にも専門職員になる方法はある。そのことは,「図書館の設立及び運営の標準」で別途,述べられている。また,契約職員などは自治体や図書館が試験を実施して採用することもある。
第17条は「各級主管機関は,定期的に図書館業務の評価を実施しなければならない。評価の結果,成績が優良な者には,表彰または補助金を付与し,成績が不十分な者には,改善を促す措置を講じなければならない」と定めている。ここでは,評価の中で表彰などを行い,いわばモデル事例を示すことも規定している。日本の図書館評価と比較してだいぶ「明るい」感じである。
次に,「図書館の設立及び運営の標準」(以下「標準」)ついてまとめる2。最新のものは2016年に公布され,2021年に改正されている。「標準」では,公共図書館を2つのタイプに分けており,1つは「公立公共図書館」で,もう一つが「私立公共図書館」である。ここまでは日本の図書館法と類似している。しかし,「標準」は,前者の公立公共図書館を,さらに,1. 国立図書館,2. 直轄市立図書館,3. 県(市)立図書館,4. 鄉(鎮,市)立図書館,5. 直轄市山地原住民地区立図書館,に分類している。日本では公立公共図書館にあたる図書館は区別していないが,台湾では5つに分類している。国が設置する点,原住民に配慮した地域の図書館を別のカテゴリに分類する点で,日本と異なっている。
第4条では「図書館には少なくとも1人の図書館専門職員が置かれ」ることを定め,さらに公共図書館では,職員総数に占める割合を1/3とすることを求めている。しかし,台湾の図書館で話を聞いた限りでは,3割以上の専門職員配置については,必ずしも守られていないようだった。
第5条は「図書館専門職員」について規定しており,大学の図書館情報学部を卒業していること,図書館情報学分野の著作を刊行していること,図書や史料系への公務員の任用資格を有すること,大学等において図書館情報学の課程を20単位以上修得していること,図書館の専門業務に3年以上の経験を有すること,など各種要件を定めている。多様な背景を持つ人材を専門職員として認めていることが分かる。職員数は,この標準の附表1で示されており,例えば,直轄市の市の場合は人口5,000人につき職員1名となっている。人口が200万人であれば,400名ということになる。
第6条では,図書等の資料費について規定しており,全体経費の15%以上とすること,とされている。また,蔵書数は附表2で,人口一人あたり2冊とされている。施設の大きさについては,附表で,例えば直轄市本館は20,000㎡以上とすること,分館は1,800㎡以上とすることなどを規定している。韓国と同様,数値基準を示している点で日本と異なる。
標準に加えて,各種サービスガイドラインが作成されている。これは,教育部が中国国家図書館に作成させたものである。そうしたものとして6種あり,それらは多文化サービス,高齢者サービス,読書療法,コンピュータ的思考,創造的空間,アクセシビリティに関するものである。それぞれ図書として刊行されている。
最後に所管部署について補足しておく。今回訪問した一般的な直轄市の公立図書館は,文化局または教育局などに属す「二級機関」であることが多った。ここでいう「級」は首長からの距離のことで,二級機関といった場合,教育局などの下に位置づけられる機関,という意味である。日本の基礎自治体では部課制を採るところが多いと考えられるが,二級機関といった場合は「課」レベルにあたる。
また,日本であれば,中央政府,県,基礎自治体の3層があり,図書館行政的には,県と基礎自治体の関係は法律的に明示されていない。県,そして基礎自治体は協力支援関係にはあるが,それは「望ましい基準」などに基づくもので,緩やかなものである。しかし,台湾の場合,直轄市のような2層構造のところと県・基礎自治体という3層構造のところが混在している。そして,数百万人の人口を抱え,人口の7割が居住する直轄市では総館と呼ばれる中央館が,域内の図書館のコントロールタワーになり統合的に図書館行政を進めている。この点は日本と大きく異なる。