南投県立図書館の域内支援

南投県内の行政機構は,直轄市とは異なり,日本同様,広域自治体である県と基礎自治体を単位として構成されている。図書館もそれぞれの自治体に属しており,今回訪れた埔里鎮立図書館も,埔里鎮に属している。組織的には首長 — 主任秘書 — 附属機関の一機関に位置づけられている。他の基礎自治体では,民政課や社会課などに設置されることが多いという1。日本で一般的に見られるような教育委員会のもとに置かれるわけではない。また,直轄市のように教育局や文化局が所管するわけでもない。ただし,南投県には文化局があり,図書館は文化局の所管である。

南投県の図書館ネットワークは,13の基礎自治体の図書館に加え,県,そして国家公共情報図書館中興分館と新栄記念図書館・玉蘭文化センターを含めた16機関で構成されている。国立と私立の機関も加わっている点は興味深い。このネットワークは「家族」とも呼ばれ,その中核は南投県の文化局図書館である。南投県内では,3か月に1度,ネットワーク全体の業務連絡会議が開かれており,ネットワークの図書館が順番に会場となり情報交換を行っている。

基礎自治体に対する各種の支援を見てみたい。まず,南投県では図書館システムが共通化されており,個別の図書館が図書館システムを構築する必要がない。このような県全域に対する統一的なシステムは他県でも同様に構築されているようであり,それによって共同目録作業や後述する相互貸借が可能になっている2。そのこともあり,個別図書館での目録作業は,行政資料など非流通資料が中心だという。電子書籍も「台湾雲端書庫@南投」が用意されており,県民に開放されている。なお,「台湾雲端書庫@南投」は県の事業と言うよりも,全国的に運用されている仕組みであり,県単位でこれらに参加しているというのが正確であろう。その意味では,県を支える仕組みとして,全国的な仕組みがあるということになる。

つぎに,相互協力やプログラム実施についてである。まず,利用者自身が南投県全体の蔵書をOPACで検索・予約することができる。また,利用者が借りた資料は県内のいずれの図書館でも返却することができ。読書推進活動も県が推進している。たとえば乳幼児向けの読書ギフトパックはウェブ上で全県的に告知されており,埔里鎮の市民は埔里鎮立図書館で受け取ることができる。

これら以外に,図書館法第17条の図書館評価に基づく指導・助言を行っている。例えば,個別の図書館では,「業務評鑑」として「現況及自我評析」というものを毎年,県に提出している。日本でいう図書館評価である。内容は,定量的な「現況」と,定性的な「自己評価」に分かれている。現況は,開館時間,諸室の面積,職員数,経費,蔵書数,利用,行事などで,自己評価は,定量的な評価では書けない活動などや,重点目標,今後の展望などが対象である。県はこれらを集約した上で評価し,全国でもさらに評価し,優秀図書館を選んでいる。逆にパフォーマンスが不十分な図書館は国立図書館と各県の文化教育局が実際に訪問し、指導・助言を行ったり講習会で指導を受けることもあった。こうした県の関わり方は,戦前の日本の「中央図書館制度」に近い関係のようにも見える。

以上,南投県の事例を見てきた。一つの事例ではあるが,県立図書館が域内の図書館を支援する状況は,日本の都道府県立図書館と基礎自治体立の図書館の関係と類似するところが多い。ただし,定期的な会合,全県的プログラムの実施,図書館の評価などから見ると,日本よりも県と基礎自治体の関係がよりパターナリスティックなものにも見える。こうした仕組みに対して,直轄市と比較して,なお機能的ではないとの批判が図書館界にはあり,県内におけるより統合的な図書館システムを目指すべきとの意見もあり実際に教育部も関わる取組みもあるようである。どちらが望ましいとは簡単には言えないが,興味深い事例である。

  1. 柯皓仁, 葉乃靜. (2018). 國家圖書館107年研究計畫: 「健全直轄市立圖書館營運體制及建立公共圖書館協調管理組織體系先期規劃」期末報告. 國家圖書館. ↩︎
  2. 俞維澐, 賴麗香. (2015). 臺灣公共圖書館以自動化系統為基礎之館際合作現況. 公共圖書館第1集, 1-15. ↩︎