日本では,公共図書館への国の補助金による支援は限定的である。かつては図書館建設のための補助金が文部省から支出されていたが,地方分権の推進や零細補助金整理の一環として,すでに廃止されている。一方,台湾では,国からの補助金が各種支出されており,公共図書館への国の支援体制が日本とかは大きく異なる。ここでは,台湾でどのような補助事業が行われているかを簡単に見ていく。
台湾の補助事業は,國立公共資訊圖書館のウェブページに掲載されている。すでに終了した事業を含めて10の補助事業が載っている1。これらは図書館が応募可能なものであり,それぞれに補助事業の根拠となる施策があるが,ここでは主に補助事業自体に焦点を当てる。なお,複数年にわたる補助事業については,事業の詳細が年度ごとに変更されることがあるが,ここでは初年度の実施計画を参照している。以下では5つ紹介する。
まず,「公共圖書館作為社區公共資訊站計畫」(地域情報発信拠点としての公共図書館)は,2017年から2020年にかけて実施された。これは「国民へのブロードバンドインターネット環境の普及計画」に基づくものである。オンライン学習や地域社会の情報ステーションとしての公共図書館の機能強化を目的とするものであった。通信環境やコンピュータ設備の整備,タブレットの貸出,電子書籍のダウンロードサービスなどが実施されていた。2017年から2018年の募集では22館が採択された。成果として,多くの館がPCの利用環境を整えている。今回,訪問した多くの図書館でもPCの利用環境が充実しているところが多かった。補助事業による規範化が作用している可能性は十分考えられる。
次に「公共圖書館閱讀設備升級實施計畫」(公立図書館閲覧設備整備実施計画)は,2017年から2024年まで実施された。教育部の「国家図書館及び公共図書館の読書環境向上支援実施要領」が根拠である。老朽化した閲覧環境の改善を目的とし,書棚の更新,空調設備の導入,閲覧机やゲートの設置,プロジェクターの整備などが行われている。今回訪問した新北市立図書館土城親子分館もこの補助事業により施設を改修していた。
「建立縣市圖書館中心實施計畫」(県市図書館センター設置実施計画)は2017年に実施された。県市図書館センターの設置を支援するものである。台湾では,近年,県と郷・鎮といった基礎自治体との連携を重視しており,県には中核機能を持つ図書館センターの設置が促されている。今回,原住民vusam図書館を訪問する際,バスから目にした屏東縣立圖書館総館は,この補助事業によって整備された施設であった。返す返すも見てくればよかった。
「公共圖書館耐震能力改善實施計畫」(公共図書館耐震改修実施計画)は,2023年から2025年にかけて実施されている。行政院の「公共危険建築物の補強と再建計画」が根拠施策である。台湾も地震国である。耐震診断をして補強が必要と判断された図書館が対象である。緊急性や自治体によるマッチングファンドへの対応(つまり自治体にも相応の支出をしてもらう)などが採択の基準となっている。2023年には18館が対象とされている。
最後に,「建構合作共享的公共圖書館系統計畫」(協力と共有を基盤とした公共図書館システム構築計画)は,教育部による施策であり,県市レベルでの図書館の一体的な運営体制構築を目指すものである。これに基づいて各種の補助が行われるため,國立公共資訊圖書館のウェブページには補助事業名としては掲載されていない。この計画には「健全直轄市圖書館營運體制計畫」と「建構合作共享的公共圖書館系統計畫」のサブ計画がある。特に,後者では,文化局図書館(県立図書館)を中心に,域内の図書館の統合が促されている。そこでは,直轄市の総館・分館体制をモデルにした組織形態確立が目指されている。先ほどの「建立縣市圖書館中心實施計畫」もこれに基づく補助金である。それには,郷・鎮などの図書館への指導・調整体制の整備も含まれる。
また,その一環として実施されているのが「全国公共書館 線上選抜書系統利」である。これは選書ツールであり,多様な書誌情報を統合的に扱うことを可能とし,域内図書館が選書を行うことを可能にするシステムである。選書結果はCSVで出力でき,発注やMARCとしての出力も可能である。
最後のものをのぞき,これら補助事業は國立公共資訊圖書館のウェブサイトで公開されている。事業の実施機関も同館であり,一部事業では国立の図書館が計画策定に関与している例もある。実施部門が教育部に付属することで,中央官庁もノウハウを共有でき施策立案,実施がしやすくなっているように思える。こうした点は日本と大きく異なる。
台湾の補助事業は,県と郷・鎮の関係を再構築するような制度設計もあれば,施設や機器の整備,耐震補強などの施設中心の補助金もあるが,全体としては施設や設備といったハード面に重点が置かれている印象を受ける。国が関与することで,自治体の図書館にとっては,アドホックな財源を確保でき,結果として,図書館が変わるきっかけとなっている。補助対象となる図書館の数も少なくはなく,事業の規範化も作用するように思える(「みんなやっているので,うちもやろう」)。
韓国の例を含めて考えると,台湾と韓国はともに図書館が発展過程にあること,そして国と国立図書館の関与が強いことを指摘できる。さらに,両国では広域自治体の域内図書館への関与が積極的である点でも類似している。これに対して日本では,図書館数の増加は止まり,貸出点数なども減少に転じている。そして,国の関与は弱く,県の役割はあいまいなままである。
それぞれの政策の違いは,マクロな政策動向(地方分権等),図書館発展の段階,実施部門(国立図書館)の組織的位置づけなどが複雑に絡み合って,決まってくるのかもしれない。両国を単純にまねをすることはできないかもしれないが,参考にすることで日本の図書館の新たな発展のきっかけを考えられるかもしれない。
- https://plisnet.nlpi.edu.tw/Frontend/SubsidyProgram/Index ↩︎