日本では,図書館法第7条の3において図書館の評価が定められている。その方法としては,「望ましい基準」で,自己評価,第三者評価,改善に向けた取り組み,そしてそれらの積極的な公表が求められている。ただし,これらを具体的にどのように実施するかについては定めがなく,個々の図書館の取り組みに依存している。台湾では全国レベルで図書館の評価表彰制度が運用されている。ここではその制度を紹介する。台湾の評価表彰制度は,大きく2つに分けられる。
一つ目は,「臺灣閱讀風貌及全民閲讀力」(台湾の読書風景と国民の読書力)の一環として毎年実施される「全国公共圖書館借閱排行」(全国公共図書館貸出ランキング)である1。これはカレントアウェアネスでも紹介される2。ランキングであるが,まず各自治体が年度ごとに「業務評鑑」という文書で活動状況を報告する。そこに記された数値データをもとに,6つの指標が計算される。具体的には,住民一人当たりの蔵書数,貸出点数,来館者数,利用登録者数(対市民比),予算,ウェブサイトの利用状況である。
これらの指標は標準化された上で重み付けを行い,総合的なスコアが算出される。重み付けは自治体の区分によって異なる。たとえば直轄市では蔵書数25%,貸出点数20%,来館者数20%,利用登録者数10%,予算15%,ウェブサイト利用状況10%である。この総合的なスコアにより図書館を自治体の区分ごとに順位づけし,上位の図書館が表彰される。
自治体の区分は,直轄市,県市(人口40万人以上と40万人以下),鎮郷市(人口3.8万人以上,2.2~3.8万人,1~2.2万人,1万人未満)である。これとともに,前年度から伸び率が高かった図書館も表彰される。2024年には,訪問した図書館の中では,台北市,新北市,桃園市などが直轄市部門で表彰され,南投県埔里郷などが人口3.8万人以上の部門で表彰を受けている。
「臺灣閱讀風貌及全民閲讀力」ではこの評価に加えて,読書傾向の調査と「読書の達人(愛閲達人)」が選出されている。読書傾向の調査では,図書館で読まれている図書がジャンル別に紹介されており,たとえばコミックでは『ONE PIECE』『進撃の巨人』『深夜食堂』といった日本の作品が上位を占めている。これは,図書館がこうした作品を所蔵していることを示しており,コミックが公共図書館で市民権を得ていることを表している。「読書の達人」では,図書館をよく利用している人,ボランティア活動などに関わっている人などが選出される。
二つ目は,2年に一度行われる「教育部図書館貢献賞」である3。この賞は,図書館運営やサービスにおいて顕著な貢献をした団体・個人を表彰するものである。台湾の図書館法第4条2項に基づく図書館が対象で,公共図書館に限らず各種図書館が対象になっている。公共図書館の場合は,直轄市または県の主幹機関(教育局など)が選考のうえで推薦する仕組みになっている。
この賞は,2020年に制度変更が行われ,賞の格付けを高めるとともに対象とする館種を拡大した。これにより,公共図書館に限らず全ての図書館種別を対象とするようになった。カテゴリは,総合的な運営成績を評価する「模範図書館賞」,優れた図書館員を表彰する「優秀図書館職員賞」,運営計画で優れた成果を上げた「優秀図書館管理賞」,公共図書館建設等に貢献のあった「地方首長賞」,図書館支援に貢献をした個人等を表彰する「特別貢献賞」などである。2023年には,模範図書館賞として6館が選ばれ,今回訪問した中では高雄市立図書館草衙分館や台南市立図書館が受賞していた4。最終選考は,教育部に図書館情報学の専門家や学者などからなる委員会が設置され決定される。
今回調査した図書館の中には,「どの図書館の,どの取り組みを推薦するかを決めるのが非常に悩ましい」という担当者の声もあった。また受賞館に対するコメントも聞かれ,管理職がこの賞をかなり意識している様子も感じられた。教育部が主導し,国家図書館に委嘱して実施している制度であるため,図書館としても真剣に取り組まざるを得ない面があるようだ。
こうした表彰と一体化した評価には,当然ながら良い面と課題がある。「全国公共圖書館借閱排行」で言えば,評価指標が明確であるため,図書館として目指すべき方向性を設定しやすい点は長所である。また,国が指標を変更することで図書館の活動を方向づけることも可能である。
一方で課題もある。例えば,一人当たりの蔵書数を重視すれば,資料の廃棄は進まず,古い図書が書架に開架され続けてしまう。また,評価を意識するあまり,数値だけを良くしようとすることで,バランスを欠くサービスになったり,公共性を欠く取り組みが行われる可能性もある。不正データのリスクも否定できない。また,そもそも,自治体の面積や人口密度といった条件に違いがあるため,一律の評価には不満が出ることも考えられる。特にそれが行政評価と結びつけばなおさらである。もちろん,異なる条件の中でも,求められる指標をどう高めていくかということに知恵を絞り,創意工夫が促されるのであれば,ポジティブに働く可能性もある。
「教育部図書館貢献賞」についても,良い面と課題がある。良い面としては,新しい取り組みに積極的に取り組む意欲につながること,そして表彰を通じてその取り組みが図書館界で共有,波及することが期待できる。一方で,地道な取り組みよりも目立つ成果が評価されやすくなり,リソースがそちらに偏る懸念もある。
また,両制度に共通するプラス面としては,教育部が図書館事業を後押しするという姿勢を明確にしている点が挙げられる。このことは,自治体の図書館に対する施策にも影響を及ぼす可能性が高い。なにごとも,国の方針は自治体の施策選択に大きな影響力を持つためである。