ポーランドの図書館職員と図書館の組織構造について,分かっている範囲で備忘のためにまとめておく。
まず,司書資格に関してである。まず,図書館情報学の教育は複数の大学で行われており,たとえばワルシャワ大学でも実施されている。公共図書館の職員の採用情報を見ると,「図書館情報学を専攻していることが望ましい」といった記載があることが多い。ただし,これは望ましいというものであり,必須条件となっているものは今まで出会ったことがない。
資格に関する法的な要件について,1997年に図書館法が立法された当初は,文化大臣令により特定の職位につくための資格要件が詳細に定められていた。しかし,2012年に要件が緩和され,他分野の学位であっても実務経験で司書としての採用が可能になった。その後,2013年には,資格制度が再度見直され,一部行われていた国による認定や審査などがなくなった。この改正は職業規制緩和法(Gowin法)によるもので,数十の専門職の資格要件,実務要件が撤廃された。図書館員だけを対象としたものではなかった。
実際,調査に行ったある図書館では,図書館内に高等教育機関で図書館情報学を修了した者は一人もいないと言っていた。全国的なデータ(2023年)によると,図書館職員として働いている15,200人のうち,図書館情報学などの専門的な高等教育を修了しているものはおよそ48.5%である1。これらの職員の一定数は2012年以前にすでに採用されていたと考えられるため,今後この割合はさらに下がる可能性がある。
現在,図書館情報学の教育は大学だけで行われているわけではない。別のところで述べたように,ワルシャワ公共図書館では,現職者を対象とした図書館学教育が行われている。高等教育機関で図書館情報学を学んだ経験のない職員が増加する中,こうした取り組みはますます重要になっていくのであろう。
次に採用について述べる。図書館長とその他の図書館職員では採用する者が異なる。図書館長は図書館を設置する自治体の首長によって採用される。一方で,通常の図書館職員は原則として図書館長によって採用される。これは日本のように自治体が一括して正規職員を採用する仕組みとは異なる。また,ポーランドでは職員採用の公募が図書館のホームページに掲載されていることが多くあり,外部労働市場が一定程度,存在している印象を受ける。
最後に図書館の組織構造についてである。ここでは,ワルシャワ市のWola区の例を見てみる2。図書館の内部組織は組織規則によって定められている。組織の幹部職員は管理スタッフであり,図書館長,副館長,主任会計士から構成されている。図書館職員への聞き取りによれば,図書館長は図書館の方針を決定し,それを予算や組織の面で具体化する上で,大きな権限を持っているとのことであった。日本では図書館長は館ごとに配置されるが,ポーランドでは自治体ごとに配置されている。
Wola区では,図書館長は副館長および会計士を指揮しながら,法務,人事,管理,IT,健康安全なども所管する。また,個人情報保護の管理にも責任を負っている。図書館の各分館は副館長が所管している。また,副館長はサービス部門をサポートするプロモーション,蔵書構築,人材育成などの部門を統括している。プロモーション部門は,広報業務だけでなく,プログラムの企画・実施も担当している。会計士は財務部門を統括する。
ポーランドの図書館は,日本と比べて自治体からの独立性が高い。図書館は文化機関として自治体の登記簿に登録されることになっており,独立した法人格を有している。これは,自治体からの自律性の高さと関係している。日本のように,庶務部門については自治体(教育委員会)の総務部門と業務を分担しているのとは異なる。注目すべき点としては,広報やイベント企画を担うプロモーション部門と,人材育成を担当する部門が独立して設置されていることである。これらに限らないが,図書館固有のスタッフ部門を業務として明確化することは,日常業務に忙殺されがちなライン部門を効果的にサポートする上で示唆に富むのではないだろうか。