国家読書開発プログラム2.0

ポーランドでは,国を挙げて図書館を中心とした読書関連施策が進められている。図書館に行くと,「○○のプログラムで図書を購入しました」といった掲示があったり(下の写真),ウェブページでもプログラムによる図書購入について触れられていたりする。

この施策の正式名称は「国家読書開発プログラム2.0」(Narodowym Programem Rozwoju Czytelnictwa 2.0,略称NPRC)である1。「2.0」の計画期間は2021年から2025年で,第1期(2016〜2020年)に続くものである。スローガンは「読書にはよいことしかない」である。すばらしい! 2026年以降の第3期も,検討中でほぼ実施が決まっている2

ちなみにポーランドでは,このプログラム以前から民間の助成金が図書館発展に大きな役割を果たしてきた。中でも有名なのは,図書館開発プログラム(LDP: Library Development Program)である3。これは,ポーランド系アメリカ人自由財団(PAFF)とビル&メリンダ・ゲイツ財団のパートナーシップのもと実施されてきた。図書館開発プログラムでは,小規模図書館への支援に力が入れられてきた。特に,図書館職員の人材育成,PCなどの機器整備などが進められた。この取組は国家読書開発プログラムとは補完関係にある。今回,訪問した図書館でも,LDP助成に対して申請を行っているところは多かった。

さて,国家読書開発プログラム2.0で驚くべきは,その予算規模である。5年間で総額11億PLN(約423.5億円)を予定しており,うち6.35億PLNが国から支出される。残りは自治体が財政状況に応じて負担する。図書館が申請するには,自治体の自己負担額を明記しなければならない。全体の費用の配分は国と自治体で6:4である。例えば6万PLNの補助に対して,4万PLNを自治体が自己負担することが求められたりする。参考までに,日本との人口比を考慮して換算すると,この施策の総額は日本の約1,398億円に相当する(3.3倍すると)。単年度では279億円である。日本の2024年度の公共図書館の図書購入予算が211億円であることを考えると4,規模の大きさがわかる。

この施策では,4つの「優先事項(Priorytet)」が示されている。施策全体の所管は文化・国家遺産省(Ministerstwa Kultury i Dziedzictwa Narodowego)で,国立図書館(Biblioteka Narodowa),書籍研究所(Instytut Książki),国立文化センター(Narodowe Centrum Kultury),教育科学省(Ministerstwo Edukacji i Nauki)がそれぞれの以下の「優先事項」を担当している。

優先事項1は「1.1」と「1.2」があり,1.1は「公共図書館サービスの向上」である。これは,新刊図書の購入,電子書籍やオーディオブック,シンクロブックのリモートアクセス提供などへの補助である。担当は国立図書館であり,この項目に予算総額の半分弱の5億PLNが充てられる予定である5。先日行った,人口約4万人のミンスク・マゾビエツキ市では,2021年からの4年間で計158,308PLN(日本円で約600万円超)の補助を受けている。かなりの額である。なお,この補助金を受けるには,Academica端末の設置と土曜日開館が求められる。

「1.2」は「全国規模の図書館ネットワーク構築」である。これは,全国の比較的規模の大きい146館の蔵書目録を統合するものである。これにより,リアルタイムでの共同目録作業を可能にするとともに,コレクションの利用可能性の向上を図る(どこが何をもっているかが分かる)。これは図書館法第27条1項の規定,「図書館資料及びその他の情報源の利用を可能にする統一された図書館業務及び情報提供を行う」を実現するためのものである。具体的にはEx Libris社のAlmaシステムとPrimo検索エンジンへの統合が目指されている。例えば先日訪問したワルシャワ公共図書館(コシコヴァ)ではすでに導入済みであり,他図書館の蔵書も一括して検索できる。

優先事項2は「図書館インフラへの投資」で,書籍研究所が担当している。農村部や小規模都市の図書館で,高齢者や障害のある人,小さな子どもを持つ家庭などに配慮した空間整備,建物の近代化,設備の購入などが支援対象である。

優先事項3は「幼児教育施設・学校・教育図書館への新刊書購入支援」で,教育科学省が所管する。幼少期の読書習慣の定着を狙い,学校図書館等における新刊図書購入や設備整備に対して補助が行われる。他に,少なくとも2025年は読書推進イベントも実施可能である。

優先事項4は,図書館を「社会的統合を促進する機関」に位置付けるものである。国立文化センターが担当している。図書館を「第三の場所」とし,地域の人々が文化活動を通じてつながる拠点として機能させようというものである。公募により助成金「BLISKO(図書館|地域|イニシアチブ|コミュニティ|協力|草の根)」を配分する。職員のスキル向上や地域との連携,コミュニティ活性化などのプロジェクトが想定されている。

これらの施策を概観し,まずは,予算規模に驚かされる。日本の文部科学省の公共図書館向け予算は….雀の涙のようなものである。施策のウェブページにあるように,公共図書館を活性化する上で,効果が実証されている施策を採用している点も手堅い。図書館の魅力向上とその現代化を,自治体や図書館の自助努力を引き出しながら進める施策はよく練られている。「1.2」のAlmaシステム導入等は,コストに見合う効果が期待できるのか注目されるところである。

Wola区 Biblioteka na Woli
  1. https://nprcz.pl/ ↩︎
  2. https://lustrobiblioteki.pl/2025/02/narodowy-program-rozwoju-czytelnictwa-3-0-zapowiedz-kolejnej-edycji/ ↩︎
  3. https://en.pafw.pl/program/development-of-local-communities/library-development-program/ ↩︎
  4. https://www.jla.or.jp/ibrary/statistics/tabid/94/Default.aspx ↩︎
  5. https://nck.pl/dotacje-i-stypendia/dotacje/nprcz20 ↩︎