国立図書館のAcademica

ポーランドでは,デジタル学術出版物貸出サービス(Cyfrowa Wypożyczalnia Publikacji Naukowych)「Academica」というサービスがある1。これは頭文字をとって「CWPN Academica」,あるいは単に「Academica」と呼ばれている。2014年にポーランド国立図書館により開始されたサービスである。日本の国立国会図書館デジタルコレクションに近い。

Academicaで提供される資料は,ポーランド国立図書館のコレクションをデジタル化したものである。収録対象期間はよく分からないが,雑誌記事などでは2025年の資料までヒットした。全てではないが,OCRによるテキスト化も行われている。対象は研究および学習目的の図書や雑誌である。文学書などは,歴史的で価値の定まったものなどはデジタル化されているが,最近のものはデジタル化されていない。2025年6月現在,380万件以上のデータにアクセスできる。

このサービスは物理的なILL(図書館間相互貸借)を代替するものと位置づけられている2。つまり,従来の郵送による資料の送付に代えて,デジタルデータを通じて迅速に資料を利用できるようにする,というわけである。ポーランドの公共図書館では,非所蔵資料の他自治体からの相互貸借をサービスとして提供していないことがある。また,サービスを提供していたとしても手続きや時間がかかる。そのような状況において,すぐに資料にアクセスできる点は大きな利点である。利用者の利便性,図書館側の効率化は,ともに大きい。

デジタル化された資料のうち,パブリックドメイン資料や国立図書館が権利者から許諾を得ている資料は,自宅からアクセスが可能である。また,著作権が切れていない資料は,登録図書館の専用端末から利用できる。図書館での利用にはアカウントの作成が必要で,ダウンロードや印刷はできない。

公式ウェブページによると登録図書館は全国で3,800館を超える。登録図書館の多さは,国家読書開発プログラム2.0の助成を受ける際,導入が求められていることもある。ただし,グミナの図書館への聞き取りの中では,利用がそれほど多くないことや,利用までの手続きが煩雑であることなどが課題として挙がっていた。

日本の国立国会図書館では,著作権が切れていない資料は,絶版等の資料であれば,個人向け送信サービスの対象となる。しかし,絶版等でない資料は国立国会図書館の館内での利用に限定される。これに対し,Academicaでは個人向け送信サービスは行っていないが,著作権が切れていない資料であっても,地域の図書館に設置された端末からアクセス可能である点は注目される。

実は,Academicaでは著作権が切れていない資料のアクセスには制限がある。それは「One Copy, One Access」の制約である。つまり,物理的に所蔵している資料のコピー数に応じて,同時アクセスできる人数が制限される。他の登録図書館ですでにその資料が同時刻に利用されていれば,他の図書館からはアクセスできない。そのため,Academicaでは予約制度がある。「One Copy, One Access」を徹底することにより,著作権保護資料の国立図書館外への展開が可能になっているのかもしれない。

  1. https://academica.edu.pl/ ↩︎
  2. https://lustrobiblioteki.pl/2014/10/academica-pierwsza-bezplatna-wypozyczalnia-publikacji-naukowych-polsce/ ↩︎