行ったところ(6/24)

ルブリン市立図書館 分館 38

ルブリン市は,ルブリン県の県都であり人口は約32.5万人である。ポーランドの南東に位置する。市内には図書館分館が40館ある。ワルシャワを超す人口当たりの図書館数である。それぞれ1から順番に番号が振られている。行ったのは38である。2015年にできた比較的新しい図書館で,独立した建物である。郊外にあり,周囲には新しい集合住宅が並んでいる。図書館の裏側は公園である。よくある集合住宅に入っている図書館と比較すると,かなり広い。平日午後に行った。中に入ると,文学書の書架がある。書架の高さが高い。高い図書を取るための脚立が用意されている。右側に通路があり,書棚が左右に並ぶ。片側に一般書,もう一方に文学書が置かれている。全体として一般書の比率が少し高い印象を受けた。図書にはいわゆるブッカーがかけられている。書棚にはカラフルなソファーが埋め込まれている。ここでは,一人の男性が図書を選んでいた。さらに奥に進むと展示スペースがあり,PCが4台並んでいる。また,天井から吊るされた少し「宇宙的な」デザインの椅子もある。バブルチェアと呼ぶようである。もとに戻って入口を背に直進すると,カウンターがある。入口付近にカウンターがあるわけではない。職員は1名で対応していた。そういえば,日本では職員が立っていることが多いが,ポーランドでは座って対応することが一般的なようである。小さな音だが自分用に音楽が流れている。カウンター前には雑誌やオーディオブックが並んでいる。さらに奥へ進むと児童コーナーがあり,そこには隠れ家的な小部屋もある。ここでは多様なプログラムが行われている。子ども向けに簡単な運動や絵を描く活動,著者を招いたトークショー,音楽会などである。なお,ルブリン市の市立図書館には「図書館協議会(Rada Biblioteczna)」が設けられている。大学の研究者など5名で構成されている。図書館の方向性やプロジェクトの提案,近隣大学との連携などを協議する諮問機関として位置づけられている。ただし,具体的な活動内容は分からなかった。ポーランドでも新しいタイプの図書館が生まれていることが分かった。

ルブリン市立図書館 分館 6

2021年に開館したルブリン市の分館である。集合住宅の一角に入っているが,よくある小さな図書館と異なり,スペースはかなり広い。およそ400㎡ほどの広さである。この図書館も基本的には空間が個別に区切られておらず,いわゆる日本の公共図書館のような一体的な空間である。設計を手がけたのは,ポーランドの新しい図書館設計で評価を受けているGrzegorz Kloda氏である。この図書館は複数のデザイン関連の賞を受賞している。公式サイトによれば,オーディオブックなどを含めた蔵書点数はおよそ3.5万点である。日本の感覚からすると,施設は小規模だが,ポーランドの分館としては大きい。中に入ると,まずアートギャラリーがある。訪問時,ちょうど男性が展示の準備をしていた。そのギャラリーをとおって左側に進むと,改めて図書館の入口があり,カウンターがある。カウンターの前には,書棚を兼ねたソファーが設置されている。館内にはさまざまなタイプの椅子が置かれている。窓際には多くの鉢植えが並び,緑が満ちている。これはこの図書館が構想段階から「グリーンライブラリー」を目指して設計されたことによる。その背景には,隣接するザクセン庭園の再開発事業と連携して図書館が構想されたという経緯があるようである。奥に行くと児童用スペースがあり,ちょうどそこでは図書館員が展示の準備をしていた。カウンターを背に右手にもスペースがある。その先には蛍光色のライトが色を変えて光る「ウォーターウォール」がある。他の図書館ではあまり見ない仕掛けである。その近くに小さなグループ学習室のような部屋があり,利用者が一人,読書していた。これで図書館は終わりかと思ったところ,ウォーターウォールの先にスペースがあり,中高生と見られるグループが談笑していた。ビブリオセラピーやボードゲームなどの活動のための部屋で,少し隠れ家的な場所になっている。日本の図書館的には小さいが,ウォーターウォール,豊富な緑,そして多様なスペースなど,うまく作れば様々な工夫ができることが分かる。

クラクフ県立図書館

ポーランド南部のマウォポルスカ県にあるクラクフ県立図書館に行った1。マウォポルスカ県の人口はおよそ340万人である。県立図書館はクラクフ市内にある。クラクフはかつてポーランド王国の首都であり,映画『シンドラーのリスト』の舞台にもなったところでもある。この図書館は県内への支援を行うとともに,クラクフ市民にもサービスを提供している。ちなみにクラクフ市には市立図書館もあるが,それとは別組織である。以前,この図書館は市立図書館も兼ねていたが,現在は分離されている。建物はもともと兵舎だったもので,それを改築している。非常に広い。部屋ごとに役割が分かれているのはポーランドの図書館らしい。音声図書・点字図書,児童・青少年向け,レンタルコレクション,アート関連,マウォポルスカ県とクラコフ関連資料,ビジネスとヨーロッパ情報,外国語資料などなど。サービスの内容自体は市立図書館と大きく差別化されているわけではないという。資料の種類はバラエティー豊かである。文学書以外の一般書も多い。ただし,専門的な資料は大学図書館に任せているとのことだった。コレクションは50万点である。貸出用の部屋の資料だけでなく,他の部屋の資料も貸出している。音声・点字図書の部屋では,点字図書,触れる絵本,録音図書,DAISY図書,点字が貼られた拡大資料(紙幣も!)などがあった。録音図書はカセットテープのものを見ることができた。ケースは日本と異なり,長方形の箱型(カステラのような形)のものだった。そうした資料は利用者への直接配達も行っている。「Larix」と呼ばれる小さなデバイスも貸出していた。これはメモリカードに約4,000冊分の録音図書を入れて再生できるものである。日本の図書館でも似たようなものを見かけたことがある。メインの建物の近くには2013年開館の「Arteteka」と呼ばれる別の建物がある。歩いて5分ほどである。ここでは芸術とテクノロジーに焦点を当て,新しいメディアを中心にサービス提供している。現代アート,ボードゲーム,PC,CD,DVD,コミック,ゲームなどなど。ゲーム機やVR機器もあり,館内でプレイできる。館内は若い人たちが多く,テーブルで作業しているグループが多く見られた。

クラクフはウクライナからの移民が多い。そのため,この図書館でもウクライナ移民のためのポーランド語講座や交流の場を設けている。こうした活動はセーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルや情報社会開発財団(FRSI)から支援を受け,「すべての人のための図書館。新たな冒険」というプログラム名で実施されている。ウクライナ出身の職員も雇用され,日常的な業務を担っている。館内では市民の絵画展が開催されていたが,ウクライナの人による作品も飾られていた。職員研修も尋ねた。県内の図書館職員向けのものとしては,いわゆる図書館情報学的なものだけでなく,より現代的ニーズに応える内容を実施していると感じた。具体的には,図書館との関連で,読書と脳の関係,幼児の言語発達,環境問題,生物多様性,デジタルスキル,SNS,人工知能,Googleの各種ツールの使い方などである。さらに,図書館の状況の分析方法,高齢者支援,若者のボランティア活動を意義あるものにするための能力開発などもあった。最後のテーマについてだが,ポーランドでは,図書館で働く上で実務経験が重視されており,若者がボランティアを通じて経験を積むことが多い。別のところで,図書館もそうした労働力に支えられている部分があるとも聞いた。そうした学生にとって意義ある経験になることを目指しているのであろう。全体に,図書館情報学では扱わないような現代的スキルに焦点が当てられており,日本の研修内容を考える上でも参考になると感じた。なお,これらの研修は国の予算によって支えられている。

図書館の裏側には屋外で読書できるスペースがあり,その周囲は緑豊かな公園になっている。6月の晴れた日には,花粉症でない人にとって最適な読書スポットである(ポーランドでも春は花粉の季節である)。全体として,市立図書館との明確な差別化をしていない点は興味深かった。ポーランドでは,地域ごとに歴史的経緯も関係して市立図書館と県立図書館の関係が独特であると感じた。

クラクフ市立図書館 分館 22

クラクフ市の人口はおよそ80万人である。図書館の数は60館ほどで,ワルシャワほどではないものの,1館あたりの人口で見るとかなり多い。2017年に,市内に4つあった異なる図書館システムが統合され,単一の図書館システムとなった。こうした設置主体の規模拡大は,ポーランドに限らず,他国でも見られる傾向である。ただし,県立図書館ほどの大規模図書館はない。今回,分館の一つである22番に行った。場所はクラクフ中心部のマルカ・グレフティ公園の近くである。集合住宅に入っている。図書館としては小規模でおそらく50㎡程度であろうか。蔵書は2024年12月の数値で1.9万点である。ワルシャワの分館と似ている。建物の入り口はドアが開け放たれていて,とてもウェルカムな雰囲気である。図書館員もとてもフランクであった。入口近くにはポーランド人作家であるスワヴォーミル・ムロージェクの特集コーナーが設けられている。入口から入ってすぐの部屋には,文学書が並んでいる。並び方は言語別ではなく,著者名順である。図書館員によると,日本の作家では村上春樹や川口俊和の作品が人気とのことだった。奥にいくと,小さいながらも子ども向けコーナーが設けられている。シュレックがこちらを見ていた。Komic(コミック)のコーナーもある。施設全体としては,クラクフの分館はワルシャワとよく似ていた。あと,図書館の雰囲気は職員によってずいぶん変わることも印象的だった。

クラクフ市立図書館の図書館報(6月号)があったので,見るてみると図書のレビューのコーナーがあった2。10点の図書が紹介されていたが,日本関連が4点も載っていた。Andrew Juniperの“WABI SABI”,Jola Jaworskaの“JAPONIA”,望月麻衣の“KAWIARNIA POD PELNYM KSIEZYCEM”,ドリアン助川の『あん』である。最後の著作の出版社はヤギェウォ大学出版局! 日本への関心が高いことに驚かされる。

ワルシャワ市ビアウォウェカ区(Białołęka) 大人・子ども・青少年貸出図書館 69 クロソヴァ

ワルシャワ・チョシュチュフカ駅から歩いて5分ほどのところにある3。駅は林の中にあるようなところで,ワルシャワ市内とは思えない。図書館は郵便局のとなりにある。図書館は2024年9月に新しく建てられたものである。古くなった図書館を廃止して移転してきたとのことである。ワルシャワ市内の他の図書館と比較して,かなり広い。2階も図書館である。700㎡ほどある。ただし,蔵書数は,大人向けと子ども向けの図書館が一緒になったような規模であり,ほかの図書館と比較してそれほど多いイメージではない。外壁は木材が使われており,環境に配慮している。この図書館はグリーンライブラリーを意識して作られている4。太陽光発電や雨水タンクもある。棚差も木である。周囲は林の緑に囲まれたとても気持ちのいい環境にある。複数の建築賞を受賞しているが,その中にはグリーンビルディング関連の賞もある5。入口のドアはボタンを押すと開く。中に入ると,テーブルのある少しくつろげるスペースがある。窓が非常に大きく,夏に向かう今の季節には外の緑が心地よい。ここには,たくさんの本を用いたオブジェがあった(写真)。見たことのないものである。古い本をリサイクルしてイベントの際,作ったものとのことである。作るのは難しくないが,折り目をつけるところはコツがいるとのことだった。1階は大人向けのフロアである。入口を背に左手に行くと文学書を中心とした書架が並んでいる。カウンターがあり,その奥にはソファーなどの置いてあるブラウジングコーナーもある。そこにも大きな窓があり,眺めがすばらしい。2階へは階段またはエレベーターで上がる。階段の途中にも大きな窓がある。壁にはムーミンのお話の一場面とおぼしき大きな絵が描かれている。2階は児童青少年向けのスペースで,書棚は低く見通しがよい。2階にもカウンターがある。天井は斜めになっていて,そこから光が差し込む。フロアの奥では,お母さんが子どもに本を読んであげていた。ここも,大きな窓から林の緑がきれいである。2階にはほかにちょっとした小部屋があり,ボードゲームなどが置かれていた。図書館の公式ウェブサイトを見ると,さまざまなイベントを実施している。ボードゲームクラブ,アートワークショップ(子ども向け),人形劇,読書会,作家を招いたミーティングなどである。人形劇のチラシには「いらすとや」のイラストが使われていた。ポーランドでは,図書館だけでなく町内会のチラシでも「いらすとや」のイラストが頻繁に使用されている。日本のソフトパワー,おそるべし,である。ちなみに別のところで「いらすとやのイラストですね」と図書館員に尋ねたところ,出典は知らないようであった。図書館であるが外観も内観も,環境配慮型の図書館として気持ちのよい空間を創出していた。特に林の中にあることを強みとしてうまく生かしていた。

ワルシャワ市ヴォラ区 成人と青少年向け図書室 80 児童と青少年貸出図書館 36  デジタルレドゥトヴァ

Wola地区のレドゥトヴァ通りにある図書館に行った6。比較的最近改修された施設で,低層の建物に入っている。スペースはワルシャワ市内の他の図書館と比べて広い。大人向けと子ども向けの図書館がひとつになっていることも関係している。行ったのは平日の昼頃である。館内には何人かの利用者がいた。検索機の前で資料を探している女性,カウンターで何かの手続きをしている家族連れ,ゲームゾーンでPlayStationを楽しんでいる3人の子どもたち,子ども向けコーナーでぶらぶらしている兄弟と思しきふたりの子ども,そしてイベントルームで話し込んでいる高齢の女性などである。ちょうど6月末で学校が終わり,夏休みが始まったばかりという時期でもあり,子どもたちが図書館に来る時期なのかもしれない。図書館の入口脇には自動返却機が設置されている。RFIDを使ったものであった。また,自動貸出機も設置されていた。他の図書館ではあまり見なかったものである。ただし,入口にはゲートは設けられていない。入口が狭いためと,利用者はみな地域の人で,顔見知りであるためであろう。館内に入ると,左側が大人向けのコーナーである。カウンターは奥にある。蔵書は文学書中心である。表紙を見せるような「面陳」の工夫がいたるところで見られた。日本の図書館のようにブッカーがかけられている図書もあった。背表紙にはタイトルと著者名を分かりやすく表示している。非常に親切である。入口すぐのスペースは,改修の際に設けられた部屋でゲームゾーンと呼ばれている。PlayStationとディスプレイが2台,左右の壁に設置されており,子どもたちがそれぞれゲームをしていた。ほかに,ノートパソコンでゲームのようなものをしている子どももいた。他の図書館でもゲーム機が設置されているのを見たことがあるが,実際に遊んでいるのを見たのは初めてだった。右側は児童・青少年向けのコーナーである。YA向けの図書から始まり,一番奥には絵本が並んでいた。書棚の上には,プログラミングができるロボットやコントローラーが置かれていた。実際,この図書館ではプログラミングのワークショップが開かれている。ScratchやMakeCode(マインクラフト)を使ったプログラミンが行われている。その奥にはイベントルームが設けられており使われていない時は解放されている。訪問時には高齢の女性二人が話し込んでいた。改修では外観を変えるのは難しいであろう。しかし,ゲームゾーンやイベントルームが設けることで,新たな機能が生まれ,それが図書館の新たな利用者,新たな使い方を生み出しているように感じられた。

ウッチ市立図書館 63 TUVIM

ウッチ県はポーランド中央に位置しマゾフシェ県と接している。ウッチ県の人口は約240万人で,ウッチ市はその県都である。人口は約65万人である。ウッチ市では,2017年に市内5つの地域の図書館システムが統合されて一つになった。現在,市内には図書館が58館ある。1.1万人に1館の割合であり,ポーランドの他地域とほぼ同じ図書館密度である。ウッチ市は,聞き取りをした図書館員からぜひ行ってみるべきと推薦されたところである。

TUVIMは比較的新しい図書館で,2020年に開館している。再開発に伴って整備された集合住宅に整備された。市の中心部にあり,周辺の文化複合施設(EC1)の一角にある7。名称は,建物が面している通りの名になっている詩人Julian Tuwimにちなんでいる。図書館に入るには,その通りからパティオ(中庭)を通る。パティオには読書を楽しむためのデッキチェアが設置されている。ここには図書館設置に伴ってかえでが植えられている。訪問した日は大雨警報が出るほどの天気だったため,屋外の読書どころではなかったが,晴れたこの季節は間違いなく気持ちのよいスペースである。ここにはJulian Tuwimの壁画も描かれいる。

建物正面は全面ガラス張りで開放感がある。中に入るとガラス側は吹き抜けになっている。鳥のさえずりが聞こえる。はじめはさえずりにも気づかなかったが,実は2階のスピーカーから流されている音だった。館内は白を基調としている。面積は600㎡ほどで,開館時の蔵書は約1.6万点と,日本の高校の図書館よりも少ない8。しかし,それ以上に広く,また多く感じられる。訪問したのは平日午前中だったが,大雨の中,何人かの利用者が返却などに来ていた。

入口を入ってすぐに「島」のようにカウンターが配置されている。日本ではカウンターはバックヤードとつながっていることが多いが,ポーランドでは島のカウンターもよく見られる。入口右側には「BookCrossing」の棚がある。本を交換するところである。中には図書館の蔵書も含まれている。この図書館の蔵書には,請求記号がほとんどついていない。ついているものも,たとえば犯罪小説はkryminałの「K」といった簡略な記号のみで,装備がかなり省略されている。ただし,他のウッチ市内の図書館では請求記号のついているところもあった。図書館ごとに方針が異なるのは興味深い。図書には2次元バーコードが使用されており,裏表紙の内側に貼付されている。貸出時には固定した読み取り機に,図書を開いてかざして読み取らせていた。

0階には犯罪小説,ノンフィクション,伝記といったジャンルがあった。児童書のコーナーもあったが,部屋などには分けていない。そこにはカーペットが敷かれカラフルな円形の椅子などが置かれている。同じフロアにはドアを2つ隔てて「暖炉の部屋」と呼ばれる閲覧室もある。しかし,日本の閲覧室のように学習用の机が一方向に並んでいるわけではない。丸テーブルが5つほどあり,それぞれ椅子が5脚置かれている。グループ学習向けのようである。奥には簡単なソファもある。しかし,図書館員によればここは静かに学習する場所とのことであった。プロジェクターやスクリーンも備えられており,イベントなどにも利用されている。

1階に上がると,目を引くのがエアロバイクである。これは「エナジーバイク」と呼ばれ,スマートフォンなどの充電ができる。ただし,実際にはあまり使用されていないということだった。1階にはロマンス,外国語の本,ポーランド語の小説などがある。ソファも設置されており,くつろげる雰囲気である。少し離れたところにはブランコになっているソファもある。書架も低めに設計されていて圧迫感がない。奥には青少年向けの部屋があり,コミック,ボードゲーム,テーブルサッカー,プレイステーションなどが置かれている。

図書館は,ガラス張りになっていることで,パティオの緑や光を多く取り込むことができる。それらによって開放感が感じられる図書館であった。また,サードプレイスとなることを意識して建設されたとのことだったが9,確かにそうした意図が感じられる図書館でもあった。

この図書館では,Instagram,Facebook,YouTubeなどを活用して情報発信を行っている。そのうち,YouTubeでは多くの動画が公開されていた。直近のものが,社会活動家で,ヴィーガンでもあり,そしてフェミニストでもあるカロリナ・スコウォロン=バカ(KAROLINĄ SKOWRON-BAKĄ)氏との対話イベントだった10。著者の新刊『フェミニズムはベジタリアン』(Feminizm to weganizm)に基づき,対話が展開された。対話の相手も,この分野の専門家である。会場は0階の暖炉の部屋である。「なぜあなたはベジタリアンに目覚めたのか,きっかけを教えてください」という質問から始められた。1時間ほど経過したところで,会場からの質問を受け付け,後半30分は参加者とのやりとりであった。対話の相手として専門家を招くことで,より深い議論が可能になっているように思われた。他にも著者を招いたイベントが多数公開されていたが,見た限りでは当該分野の専門家が対話の相手を務めていた。

ウッチ市立図書館 29 Mediateka MeMo

ウッチにあるMeMoは,Biblioteka(図書館)ではなくMediatekaと名乗っている。図書館ではなくメディアライブラリーであり,図書を含む多様なメディアに焦点を当てている。公式ウェブによると,伝統的図書館コレクションと最新テクノロジーを融合させた空間とされている。まさに,そんな感じである。とはいえ,ウッチ市立図書館の一分館でもある。建物は,ウッチで著名な資産家であったルドヴィク・マイヤーの19世紀後半のヴィラを改修したものである。市の中心部にある。2022年に開館した。改修には欧州基金が用いられている。2024年には「Modernizacja Roku & Budowa XXI w.」という建築賞の歴史的建造物再生部門で賞を受賞したとのことである。

入口を入ると受付カウンターがある。ここでは利用券作成や予約資料の受取りができる。利用券があればすべての施設を無料で利用できる。図書館グッズも販売されている。カウンターを抜けて進むと右手に無人のクロークがある。左手には2階まで吹き抜けになっている屋内パティオがある。光を通す天井と,各部屋をつなぐガラスの通路が見える。明るく開放的である。ここでは,展示やコンサートなどのイベントも行われている。特になにもない時は多くのソファが置かれ,お話しをしたり一休みできるようなスペースである。0階には小説の置かれた部屋がある。機能ごとに部屋が分かれている点は,多くのポーランドの図書館と同様である。MeMoでは部屋ごとに名前がつけられていて,ここは「daDA」である。犯罪小説やノーベル賞受賞作家の作品がある。カズオ・イシグロの著作もあった。比較的人気のある図書がある印象である。ガラス張りの個室があり,利用者が勉強していた。ソポトの図書館でも見かけたような一人用ソファも置かれている。その隣には「LEGOWISKO」という部屋があり,ここではなんと10万個のLEGOパーツがあるという。壁一面にパーツを入れた小さな箱が並んでいる。関連イベントも頻繁に開かれている。続く「MULTIWERSUM」には,日本,アメリカ(DCやマーベルを含む),ヨーロッパのコミックがある。日本のコミックがかなりを占めている。蔵書数は公式サイトによると約4,000点とのことである。ここではないが,いくつかの図書館でコミックの収集について議論がないのかを尋ねたところ,みな資料の評価は利用者がするとの回答であった。サブカルチャーを含む多様なコンテンツへのアクセスに意義を見いだしていることが分かる。ボードゲームもある。その奥にはカフェがある。カフェはおしゃれで広く,お菓子やケーキなども提供されている。

1階には歴史書などを集めた部屋(polana)がある。ここには公園をイメージしてブランコが置かれている。その隣には静寂室(MONTAZOWNIA)がある。文学書以外の資料が置かれていて,インターネット利用も可能である。入口には「静かにするように」との注意書きがある。奥には児童向けの部屋がある。部屋には小さな小屋のような読書スペースや,投影して遊べるスクリーンなどがある。このスクリーンは硬い素材でできており,インタラクティブなゲームができる。「Dysonans」と呼ばれるミュージックルームではパーカッションなどの多様な楽器がそろっており,練習に使える。最も驚かされたのは「SALA GAMINGOWA」と呼ばれるゲームの部屋である。PlayStation,Xbox,VR,シミュレーターなどが並ぶ。椅子もゲーミングチェアである。職員がひとり常駐している。10台ほどのディスプレイがあり,うち半分ほどは使用中であった。通常のコピー機のほかにスキャナーや3Dプリンタ(当日は故障)もある。2階には会議室や職員用スペース,さらに写真と映像スタジオがある。スタジオには照明が備わっているのに加えて,NikonやSonyのカメラ,グリーンスクリーンなどがある。設置されているPCではAdobe Creative Cloudも利用できる。また,小規模ながら映画上映用の部屋もある。MeMoではイベントも多様である。例えば,カメラを持ってウッチ市内を撮影しその写真を共有するもの,ストップモーションアニメの制作,LARP(ライブアクションロールプレイング)のシナリオ作成などである。

日本でも,例えばミュージックルームを備えている図書館はあるが,これだけ多機能な図書館は珍しい。ゲームができる施設を設ける図書館はほとんどないであろう。その役割・機能は,創造,娯楽,テクノロジー,教育,人材育成,地域参加などにまとめられそうである。訪問して「図書館」という概念の境界域にあるような施設と感じた。「図書館ってなんだろう」を考える上でよい施設である。市民が高機能な機材に無料でアクセスできることには大きな価値がある。一方で,機器の陳腐化対応,不具合対応,専門人材(ボランティア)の確保,利用活性化などの課題も想定される。そうした問題への対処も気になるところである。ポーランドの「新しい」図書館の方向性の一つとして,こうした図書館が考えられている点は興味深かった。

ヤギェウォ図書館

クラクフにあるヤギェウォ大学の図書館に行ってきた。ヤギェウォ大学は,ワルシャワ大学と並ぶポーランドの代表的大学である。この図書館はその大学の図書館である。そして,ここは国立図書館の一つでもあり,法定納本も行われている。行ったのは新館である。2000年ごろに建てられた建物で,訪問は,単に「行ってみる」ことが目的である。というのも,この図書館は,これまでのポーランドの図書館関係者との会話の中で,何度か話題に上がっていたためである。図書館の詳細は日本語のWikipediaの記事に載っている11。とにかく貴重な資料がたくさんあり,以前,盗難事件もあった。館内に入るには,3日間有効の利用券を作る。入口のカウンターでパスポートを提示し,手続きをする。荷物は入口近くのカウンターで,ロッカーの鍵をもらいカバンを預ける。手持ちの荷物は館内用のかごに入れて持ち込む。こうした手続きは入口の警備員の方が丁寧に教えてくれた。2階には,この図書館の代表的な閲覧室がある。2つの棟をつなぐような位置にあり(左の写真),天井から自然光が差し込む。明るく,広々としているのが印象的であった。

  1. https://www.rajska.info/ ↩︎
  2. https://cyfrowa.biblioteka.krakow.pl/dlibra/publication/8597/edition/7180 ↩︎
  3. https://www.bibliotekabialoleka.pl/wypozyczalnia-dla-doroslych-i-mlodziezy-nr-69/ ↩︎
  4. https://www.bryla.pl/ekologiczna-biblioteka-na-warszawskiej-bialolece-otwarta-zdobyla-juz-wiele-nagrod ↩︎
  5. https://bialoleka.um.warszawa.pl/-/biblioteka-przy-klosowej-otwarta- ↩︎
  6. https://www.bpwola.waw.pl/redutowa-2/ ↩︎
  7. https://ec1lodz.pl/ ↩︎
  8. https://uml.lodz.pl/aktualnosci/artykul/tuvim-najpiekniejsza-lodzka-biblioteka-id35392/2020/7/3/ ↩︎
  9. https://bibliotekapubliczna.pl/artykul/Biblioteka-jako-trzecie-miejsce/10395 ↩︎
  10. https://www.youtube.com/watch?v=4yxUVuVldzo ↩︎
  11. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%82%AE%E3%82%A7%E3%82%A6%E3%82%A9%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8 ↩︎