ポーランドでは,近年ブッククラブ(ブック・ディスカッション・クラブ)が活発になっている。これは,日本で行われている読書会と類似のものである。図書館に行くと,下の写真のようなブッククラブや著者を招いた講演会の宣伝ポスターをよく見かける。ブッククラブでは,参加者が本を選び,それを読み,月に1度程度集まって意見を延べ,共有し,語り合う。こうしたブッククラブはポーランド全土で展開されており,その数は1,900を超えている(2024年)1。
ポーランドではこの取組を国がイニシアティブをとって進めている。取組は2006年にポーランド書籍研究所(Polish Book Institute)が開始した2。イギリスの読書クラブに触発されたという。書籍研究所は,名称からは民間団体のようにも見えるが,文化・国家遺産省所管の国の機関である。ポーランド文学の国際展開や,日本で言うブックスタート事業などにも関与している。
ブッククラブは主に公共図書館を中心に運営されている。中でも県立図書館の役割が大きい。県立図書館は,各地域におけるコーディネーターとして,公共図書館へのクラブ設立の働きかけや,運営に携わるモデレーターの研修を担っている。研修では,ブッククラブの開催方法,議論の進め方,広報,近年の文学など,実務的な内容が扱われている。モデレーターはブッククラブを実際に主催し,運営し,さらにコーディネーターにレポートを提出するなどの業務も行う。
ブッククラブの活動の目的は,読みもの文化と読書の推進,公共図書館を核としたコミュニティの再活性化,そして新しい図書館利用者の獲得などである。ブッククラブは主に年齢や関心に応じて作られる。全国的には大人向けが1,300,子ども・若者向けが600ほど存在しており,全体の参加者は2万人を超える。近年では,テーマ,メンバーも多様化してきており,「犯罪小説」など特定ジャンルに特化したものや,多世代が参加するものもある。
公共図書館での開催が基本だが,場合によっては学校図書館,大学図書館,文化センター,刑務所,幼稚園などが公共図書館と協力して開催することもできる。著者とのミーティングも奨励されており,近年では年間600回近く行われている。
必要な予算は書籍研究所が負担しており,県立図書館を通じて支出される。それらは,図書の購入費やモデレーターの研修費などである。また,著者イベントの開催費用もここから支出される。2024年には,ルブリン県は132,832ズウォティ(約500万円以上)の助成を得ている。県立図書館は毎年助成金を申請し予算を獲得する。
ブッククラブは図書館本館でも分館でも開催可能である。ルブリン県内では125のクラブが活動している。うち86が大人向けで,39が子ども・若者向けである。クラブによっては2007年から続くものもあれば,短期間で終了するものもある。特に子ども向けのクラブは参加者の成長とともに終了するケースも多い。
使用される図書は,参加者が選ぶが,その際は,文芸評論,文学賞の受賞作,モデレーターやコーディネーターの推薦などに基づくことが多い。ルブリン県では,そのための図書を毎年1,500点ほど購入している。内容は小説に限らない。コミックや詩なども含まれている。ルブリン県で購入した図書は,相互貸借網を通じて一定期間貸し出される。それらの図書は,通常の蔵書とは別に管理される。5年間経過した後,図書はプログラム促進のために寄付されたり,それ以外の活動に使われたりする。
日本では戦前の読書指導,読書会の記憶もあってか,これまで個別図書館による支援はあっても,制度的な支援などはほとんど行われてこなかった。ポーランドでは,読書振興と図書館振興の一環として制度的に支えられている点が興味深い。これらにより,活動を図書館で継続的,安定的に行うことができる。また,子ども・若者向けのブッククラブが多い点も注目される。これも,書籍研究所の財政負担が大きいように思える。コミックなどが含まれているように,対象とするジャンルが広い点もよい。YA層へのアプローチとして有効なのかもしれない。


