ポーランドでは近年,公共図書館を含む大規模図書館で,Ex Libris社の図書館システムAlmaと検索システムPrimoの導入が進められている。2025年には153のメインライブラリーに導入されている(分館を含めると899館)1,2。将来的には参加を希望する図書館すべてへの導入も視野に入れている3。Almaは資料の発注,予算管理,ライセンス管理,目録作成,統計作成など図書館業務全般を担うLSP(Library Services Platform)と呼ばれる。Primoは検索インタフェースとして,利用者向けに文献情報を提供するシステムである。このシステムはSaaS(Software as a Service)として提供され,参加館は全体で単一のシステムとして使用する。
日本でも大学図書館を中心に導入されている。慶應義塾大学と早稲田大学も共同して導入している。しかし,ポーランドでは公共図書館でも導入が進められているのである。日本では,AlmaやPrimoの導入はどちらかというと,ウェブスケールディスカバリーやKnowledge baseのメリットが強調されてきたように思う。その意味では,電子ジャーナルや電子書籍などで強みのあるシステムと考えてきたが,ポーランドの公共図書館に導入が進んでいるのは別の理由があるからであろう。このことについて,分かる範囲で整理しておきたい。
ポーランドでは,このシステムの導入は,2018年以降,国立図書館を中心に進められてきた。「OMNIS e‑Serviceプロジェクト」と呼ばれている4。このための予算は,当初,欧州地域開発基金と国のデジタル政策関連資金(Digital Poland Projects Centre)によってまかなわれた。現在は,読書推進の国家政策「Narodowy Program Rozwoju Czytelnictwa 2.0」の一環として推進されている5。
実際に訪問した複数の図書館では,このAlma+Primoの導入が進められていた。それらは,国立図書館,ワルシャワ大学図書館,ヤギェウォ図書館,ルブリン県立図書館,ワルシャワ市立図書館などである。また,ラチンスキー市立図書館でもまもなく導入予定である。公共図書館は県立からグミナまでを含んでいる。ある図書館では「何度か応募してやっと導入が決まった」と話していたので,かなりの人気である。導入した図書館で聞いた範囲では,評価は概ね肯定的であった。「導入して困った」といった声は聞かれなかった。
このシステム導入のねらいは,図書館業務の効率化とサービスの高度化にある6。たとえば,目録業務においては国立図書館の書誌を基礎に共同して作成し,典拠情報も利用する。これにより,ほとんどの図書館の目録作成がコピーカタロギングで済む。ヤギェウォ図書館でさえ独自の書誌作成は4〜5%である7。同時に,図書館によってはこれまでよりも高品質の目録を利用できる。また,複数の図書館が共通のシステムを利用することで,利用者は参加館の所蔵情報を可視化できる。そのことは,利用者にとって資料の入手可能性を高める。そして,図書だけでなく,雑誌記事,電子書籍,古印刷本,写本,楽譜,地図,雑誌も一つの検索窓から検索できることで,Google検索に慣れた利用者にも便利である(と,ある図書館員が言っていた)。
システム的にいうと,Primoは,データの持ち方の面で,もともと複数館でコンソーシアムを組むような利用を前提とした機能を備えている8。したがって,確かに多くの図書館で利用することのメリットは大きいのかもしれない。また,従来のILS(統合図書館システム)と異なり,システムはクラウド上にある。これにより,システム更新などはクラウド側で実施され,図書館側で専用のサーバを設置する必要がなくなる。とはいえ,自館のサーバが全く不要になるのかについてはよく分からない。図書館職員は,専用ソフトウェアではなくブラウザ上で操作する。
こうしたメリットに加えて,多くの図書館で導入することにはコスト面でのメリットも考えられる。すなわち,導入館が増えれば,スケールメリットによってコストダウンが実現される可能性があるためである9。なお,現状,参加館はコストを負担せず,国が負担している。それには,システムの利用,サーバー保守,アップデート,ライセンス,データのとインポートとエクスポート,技術サポート,バックアップ,ITスタッフ,研修の費用を含んでいる10。これらの金額は今回,分からなかった。
日本において,同様の取組みをした場合,現在,各自治体が個別に導入・維持しているILSの経費を大幅に削減できるかもしれない。この経費に年間数億円かかっている図書館も珍しくないはずである。しかし,個別の図書館が行ってきたきめ細かな業務を単一システムがカバーすることは難しいであろう。また,現状のMARCと同等の質のものが維持されるかも不明である。さらに,外国企業(イギリスのClarivate社)に図書館システムを委ねることの問題なども議論される点かもしれない。MARCデータ購入費も削減できる可能性もあるが,MARCは選書,購入,装備など様々な業務とも密接に関連しているので,変更にはかなりのエネルギーが必要であろう。
- https://bn.org.pl/en/news/5724-conference-of-users-of-the-national-library-union-catalogue-one-system-many-benefits.html ↩︎
- https://bibliotekapubliczna.pl/artykul/Nowy-system-biblioteczny-w-chmurze/9080 ↩︎
- https://www.bn.org.pl/projekty/omnis/archiwum/faq/ ↩︎
- https://bn.org.pl/projekty/omnis/o-projekcie/ ↩︎
- https://www.bn.org.pl/aktualnosci/4889-system-alma-i-wyszukiwarka-primo-za-darmo—trwa-nabor-wnioskow.-narodowy-program-rozwoju-czytelnictwa-2.0.html ↩︎
- https://igelu.org/wp-content/uploads/2023/09/National-Library-of-Poland.PPT.pdf ↩︎
- https://bn.org.pl/en/news/5724-conference-of-users-of-the-national-library-union-catalogue-one-system-many-benefits.html ↩︎
- 酒見佳世. 早慶図書館システム共同運用: 電子資料. MediaNet, no. 27, p. 23-27, 2020. ↩︎
- 上野友稔. コラム: 電気通信大学附属図書館における Ex Libris 社製 Alma の導入について: 国立大学における事例. 情報の科学と技術, vol. 73, no. 9, p. 369-373, 2023. ↩︎
- https://bn.org.pl/en/news/5724-conference-of-users-of-the-national-library-union-catalogue-one-system-many-benefits.html ↩︎