Libraries Connectedという団体があることは「英国の公共図書館に関わる制度」で触れたとおりである。Libraries Connectedはアドボカシーに関して『図書館アドボカシー: 初心者向けガイド』(以下「ガイド」)をまとめている1。このガイドは英国の公共図書館アドボカシーについて述べたものだが,日本でも参考にできる点が多いため,ここで簡単に紹介したい。なお,ガイドは図書館経験豊富な管理職や他領域の地方自治体関係者,公的部門関係者との対話から作成されたとされている。
ガイドでは,アドボカシー活動を6つに分けて解説している。6つは,1. 目的と対象,2. 関係を構築する,3. 優先順位を理解する,4. メッセージを伝える,5. 図書館の活動を知らせる,6. 図書館のイメージを向上させる,である。順番に見ていく。太字は,筆者の補足である。
「1. 目的と対象」では,まず目的を明確にすることが強調されている。目的を明確にすることで,取組を集中することができる。対象(ターゲット)としては,議員,資金提供者,潜在的なパートナーなどが挙げられている。日本の文脈で述べれば,地方議員はやはり重要になるであろう。英国では議員が執行機関の役割を担う場合もあることを考えれば,日本では首長,教育長,教育委員も対象になると考えられる。
「2. 関係を構築する」では,ターゲットを知り,彼らの役割や選好を理解することに時間をかけることが求められる。そして,適切なコミュニケーションのあり方を検討し,図書館がどのように貢献できるかを伝える。貢献できる領域例として,デジタルインクルージョン,識字向上,社会的孤立の解消などが挙げられている。コミュニケーションのスタートとして,利用登録してもらう,図書館イベントに招待する,サクセスストーリーを共有する,ニュースレターを送る,といった方法がある。しばしば彼らの図書館に関する知識は30年前,40年前で止まっていることに注意する。ここで示されていることからは,何か問題が起きたときに接点を持つだけではなく,日常的に接点を持つことが示唆されている。
「3. 優先順位を理解する」では,自治体が何を目指しているかを理解することが出発点となる。自治体の戦略計画(日本でいえば基本構想)などを確認し,図書館がそれらにどう貢献できるかを明確にする。図書館のサービスは多くの分野と関係づけられるため,貢献先を見つけることは難しくない。議会(日本でいえば首長も)が何を優先しようとしているかを確認し,地方,全国のデータなどでその貢献を論証できるようにすることが必要である。あわせて,議員個人の優先事項を把握することも重要である。自治体政策の優先事項を理解することは,日本の図書館界でも広く共有されていると思われる。
「4. メッセージを伝える」では,まず,議員などターゲットとなるステークホルダーが一般に忙しいことを確認している。そして,メッセージは明確,簡潔で,一貫性があり,説得力を持たせることが必要とされている。過剰な情報は伝わらない。一つの重要なメッセージと,補助的な2〜3のメッセージに絞ることが推奨されている。メッセージは成果ベースとし,図書館が達成できること,その価値を中心とする。それをどのように行うかを示す必要はない。デジタルインクルージョンを例にとれば,「図書館は,高齢者のデジタルに関わる問題を解決する」と書くべきで,「高齢者のデジタル問題解決のために,職員の資質能力向上が必要であり,機器の予算が不可欠である」とは書かない,ということになるであろう。こうしたメッセージは,統計データや利用者の具体例などで裏付けることが必要である。
「5. 図書館のインパクトを知らせる」では,メッセージの根拠となるデータが重要になる。基本は図書館のアウトプットデータだが,地域のデモグラフィックデータ,経済,健康などのデータ活用も指摘されている。サービスが人々の生活をどう変えたかを示すことが重要である。データは図やインフォグラフィックを活用してビジュアルに提示する。データとともにストーリーを用いることも効果的である。利用者の個人的体験などが共感を得られる場合が多い。図書館がなかったらどうなっていたか,という証言も力を持つ。連携している機関から,図書館の有効性を証言してもらうことも有効とされている。
最後に「6. 図書館のイメージを向上させる」では,図書館の評判を高めることの重要性が指摘されている。そのためにはソーシャルメディアの活用や地元メディアに取り上げてもらうことが効果的である。その際は,図書館のキーメッセージを載せてもらうことが効果的である。ここでも個人のストーリーなどを伝えることが有効とされている。
このガイドは英国のものであるが,日本のアドボカシーでも応用できる点は多い。特に,日常的に関係を構築すること,自治体政策と結び付けて図書館の役割を考えること,メッセージは簡潔にすること,成果ベースで訴えること,そしてストーリーを重視することなどは,日本の図書館アドボカシーにとっても重要なポイントといえよう。
- https://www.librariesconnected.org.uk/index.php/news/library-advocacy-beginners-guide ↩︎