スコットランドの図書館計画

スコットランドでは,Scottish Library and Information Council(SLIC)が「Forward: Scotland’s Public Library Strategy 2021–2025」という全国的な図書館計画を策定している1。SLICは国に対して図書館および情報に関する助言を行う独立した機関である。この計画は日本でもカレントアウェアネスで紹介されている2。ここでは,この計画の内容とともに,策定プロセスや特徴について簡単にまとめる。

スコットランドは英国でも図書館に関して独自の法制度を持つ。この計画もスコットランド独自の計画である。計画の全体像は,まず「ビジョン」があり,それに3つの「テーマ」と呼ばれる柱を持つ。それぞれの「テーマ」には5つの「戦略目標」が設定されている。そして全体を「成功への基盤」が支えるという構成になっている。計画の「ビジョン」は「公共図書館を通じてスコットランドのコミュニティを支え,力づける」である。

テーマは「人々(people)」,「場所(place)」,「連携(partnership)」の3つである。少なく見えるが,その内容は比較的広く設定されており,戦略目標はある程度,網羅性を持っている。以下,3つのテーマに含まれる戦略目標を簡単に記す。まず,「人々」では,読書・リテラシーへの貢献,健康・経済成長・コミュニティ強化に資するプログラムの実施,信頼できる情報へのアクセス,職員への新たなスキル習得機会の提供,そして多様な情報リソースとプログラムの提供が示されている。「場所」では,人間中心の設計原則,新しい利用者層へのサービスデザイン,デジタルと物理的空間の融合,地域・国の多様な文化資源の提供,新たなビジネス支援の方法探索が挙げられている。「連携」では,図書館のメッセージを広く伝えること,SDGsへの貢献,投資収益率提示による予算確保,一貫したデータ測定と自己評価によるサービス改善などが挙げられている。

計画の中心として記述されているのは15の戦略目標である。それぞれの戦略目標について「目指す方向」,「SDGsとの関係」,「自治体の行動」と「全国的な行動」が明記されている。さらに国内外の事例(ケーススタディ)が記載されている。例えば,「1. 人々」の「1.1 リテラシーと学習」の戦略目標では,「目指す方向」として「国のプログラム実施や地域の取組により,コミュニティにおける学習格差を解消することで図書館を読書とリテラシーの先導的貢献者に位置づける」とされている。「自治体の行動」は3つ挙げられ,その一つとして「「すべての子どもは図書館のメンバー」プログラムにより5歳未満の初期学習と学校準備に関わる」などが記載され,「全国的な行動」としては「同プログラムを全国で開始すること」などが記されている。このように自治体と全国的な行動をリンクさせている点は計画の実現性を高めるものと言えよう。

全体を見て気づく点として,まず,プログラムが情報リソースと並列して置かれているなど重視されている。そして利用者を中心に据えようとしていることも特徴といえる。計画ではしばしば提供者側中心となりがちであるが,利用者の視点を重視しようとしている。一方,日本の地方自治体の図書館計画にしばしば見られる蔵書に関する記述(蔵書の充実等)や「交流・出会い」といった文言は前面に出ていない。後者はコロナ禍に策定されたことも影響しているのかもしれない。

策定プロセスも特徴的である。策定のために行ったこととして,包括的な文献調査,ミーティング,ワークショップ,インタビュー,フォーカスグループインタビュー,質問紙調査が挙げられている。包括的な文献調査をまず実施している点が注目される。また,量的,質的な調査を実施していること,多様な関係者による参加・対話により策定されたことも興味深い。しかも,これらの参加者には,スコットランド,イングランド,ヨーロッパ,北米の図書館員,ステークホルダー,利用者・非利用者,図書館所管部署などが含まれていた。多様な関係者が参加している。コロナ禍という状況下での策定のため,オンラインを活用して広範な関係者にリーチした点も注目される。

この計画のもう一つの特徴は,国家政策との関連付けである。スコットランドでは政府が「国家業績フレームワーク(National Performance Framework)」を策定している。これは,国が示す幸福のためのビジョンとされ,地方自治体の活動指針ともなっている。「Forward」もこれと関連付けられており,国,地方自治体の政策にどう貢献するかの観点も含まれているわけである。日本でも地方自治体の図書館計画ではそうした観点がしばしば含まれるが,国レベルの計画では確かに国の政策との協調は不可欠である。また,国際的な枠組み(SDGsなど)とも整合性を持っている。

2025年段階でこの計画がどの程度実現したかの詳細は分からないが,国レベルではいくつかの進展や支援が見られる。例えば,戦略目標3-5と関連して「Scottish Library and Information Council」が策定した「How good is our public library service?」が改訂されている。また,計画の実現に向けて,SLICは「Public Library Improvement Fund (Scotland)」(PLIF)を通じて関連プロジェクトに資金提供も行っている。こうした予算的裏付けも計画実現には重要である。

  1. https://scottishlibraries.org/forward-scotlands-public-library-strategy-2/ ↩︎
  2. https://current.ndl.go.jp/car/44714 ↩︎