バリー公共図書館では,電子書籍サービスとして「CloudLibrary」を導入していた1。CloudLibraryは電子書籍,電子オーディオブック,電子雑誌などを提供している。契約するタイトル数は「数千」とされる。利用できるデバイスは幅広く,ウェブブラウザ,スマートフォン,タブレット,電子書籍リーダー(KoboやNookなど)である。ただし,Kindleは利用できない。
このCloudLibraryの特徴は,他の図書館が契約する電子書籍も利用できる点にある2。オンタリオ州内で,同サービスを導入している複数の公共図書館がコンソーシアムを形成し,電子書籍を共有している。この仕組みは「CloudLink」と呼ばれている。この仕組みは少し複雑である。バリー公共図書館の利用者は,まず自館の所蔵する(契約する)電子書籍を借りることができる。もし貸出中であれば予約できる。一方,他の図書館が提供している電子書籍については,誰も利用していなければ借りることができる。しかし,もし他の利用者が借りている場合は,そのタイトルは検索や画面から消える。つまり存在が消えてしまう。返却されると,また表示されるようになる。また,他館の資料は予約できない。このように,すべての資料を平等に利用できるわけではない。
CloudLibraryは元々,Bibliothecaのサービスだったが,現在はOCLCが提供している3。北米以外でもオーストラリアなど複数の国で導入されている4。オンタリオ州では「CloudLinking Consortium(CloudLink ON)」という形で,20館以上の公共図書館がこのネットワークに参加しているが,その詳細は公開されていない。州内の電子リソースの共同調達を担うOLS(Ontario Library Service)でも,このコンソーシアムに関する情報は見当たらない。このことから,この電子書籍共有の仕組みは,CloudLibraryという製品自体がそうした機能をサービスとして提供している可能性が高いように考えられる。実際,製品のウェブページでは,宣伝文句としてコレクション共有を低予算で可能とすること,CloudLinkによる同一州の図書館との連携がうたわれている。
CloudLibraryの情報は限られるが,この仕組みで特に興味深いのは,電子書籍の共有方法である。電子書籍をすべての参加館が完全に平等に利用できるわけではない。利用者にとって不便である分,コストを抑えられている可能性が高い。日本の図書館では,電子書籍の利用可能タイトル数の少なさと高コストがサービス継続の課題となっている。こうしたサービスもひとつのアイデアではないだろうか。