ハミルトン公共図書館では,Internet Archiveが運営する「Open Library」を通じて,所蔵する紙媒体資料のデジタルアクセスを提供している1。公式ウェブによると,その対象は約5.1万点とされている。利用方法は資料によって異なり,視覚障害者限定,1時間の閲覧,2週間の貸出などである。
Open Libraryは,Internet Archiveが2011年に開始した事業であり,山本による動向のレビューがある2。著作権的には「Controlled Digital Lending」(CDL)という考え方に基づいている3。図書館が所蔵する物理的資料をデジタル化し,対応する冊数の範囲内で貸し出すという仕組みである。つまり,1冊の資料をデジタルで貸出す場合,1点しかデジタル資料は貸出せないし,紙の資料も貸出せなくなる。法的にはアメリカのフェアユース概念を前提としており,日本では関連するフェアユース規定がないため,同様の方式で提供することは著作権法違反になる。アメリカでのCDLに関しては論争が続いている。図書館コミュニティ(例えばIFLA)では電子書籍ライセンスに対する出版社側のコントロールが強すぎるとして,この方式への支持が見られる4。
ハミルトン公共図書館は2019年にこのOpen Libraryプロジェクトに参加した5。対象としているのは,絶版や流通していない貴重書などが中心である。図書館の公式ウェブからアクセスすると,Internet Archive内の「Hamilton Public Library」のページが表示される6。そこでは10万点を超える資料が閲覧可能となっている。先ほどの5.1万点との関係は分からない。個々の資料のメタデータを見ると,ContributorやDonorの欄にハミルトン公共図書館の名が記されていない資料が多い。これは,ハミルトン公共図書館が参加する際,所蔵データとInternet Archive側のデータを照合し,所蔵している資料を自動的に紐付けているためである。したがって,表示される資料の中には,図書館自身がデジタル化していないものも含まれている。
日本では,国立国会図書館が絶版資料をデジタル化しており,国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)の登録者であれば個人が自宅からも閲覧できる。そのため,少なくとも絶版図書に関してはOpen Libraryと同様のサービスが既に実現されていると言える。ただし,著作権が存続している資料でデジコレでも提供されていない資料は,このモデルでは提供できるが,日本では不可能である。
Open Libraryの資料は画像で表示される。これを,ブラウザ上の「BookReader」というインターフェースで読む。あるいは,Thorium(デスクトップ版)やCantook(iOS/Android版)などのアプリからも閲覧可能である。閲覧してみると画像が表示される点でデジコレと似ている。しかし,ざっと見た限り,多くの資料が視覚障害者向けで,一般の利用者が借りることのできる資料は少なかった。また,貸出可能な資料を借りた場合,物理的資料をどのように貸出不可としているのかは明らかでない。そもそも利用登録時に利用券を持つ図書館の情報入力は必要ないようである。
Internet Archiveのハミルトン公共図書館のウェブページには当該図書館が提供する資料の利用統計が載っている。それによると,コロナ禍の期間中,利用点数が急増したものの,それ以降は大きく減少している。紙で借りられるのであれば,あえて画像で読もうとは思わないのであろうか。
- https://www.hpl.ca/articles/openlibrary-internet-archive ↩︎
- https://current.ndl.go.jp/ca2016 ↩︎
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%B6%E5%BE%A1%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E8%B2%B8%E5%87%BA ↩︎
- https://current.ndl.go.jp/car/44234 ↩︎
- https://blog.archive.org/2019/06/03/hamilton-public-library-joins-open-libraries/ ↩︎
- https://archive.org/details/hamiltonpubliclibrary-ol?tab=collection ↩︎