パロス・ベルデス図書館区 半島中央図書館
この図書館は,図書館区(library district)による運営である。カリフォルニアでは,図書館区による図書館システムはそれほど多くない。ここでは,パロス・ベルデス図書館区(PVLD)の半島中央図書館について紹介する1。なお,図書館区については,別の記事で紹介したい。
サービス対象人口は約6.6万人である。自治体としては,パロス・ベルデス・エステーツ市,ランチョ・パロス・ベルデス市,ローリング・ヒルズ市,ローリング・ヒルズ・エステーツ市を含んでいる。これに加えて,ロサンゼルス・カウンティの未編入地域にもサービスを提供している。貸出密度は13.1と非常に高く,来館者数も年間約79.4万人と,人口規模から考えると顕著に多い。図書館スタッフは79人で,うち22人がALA-MLISを有している。
図書館が設置されたのは1928年で,当初から図書館区として設立された2。半島中央図書館は1995年に改修されたが,その際,施設が拡張された。図書館が所在するパロス・ベルデス・エステーツ市は,米国でも有数の裕福な都市として知られており,2025年にはカリフォルニア州で最も裕福な郊外に選ばれている3。地価も高く,それに伴い図書館の収入も豊かである。
地下1階には,パスポート発行センターと事務室がある4。カリフォルニアでは,図書館でパスポート申請を受け付けているのを多く見かける。発行に伴う手数料は図書館の収入となっており,図書館委員会の議事録によると,毎月2,000ドル程度の収入があるようである5。2階部分は屋外の駐車場になっている。
入口を入ると,図書館本体の入口まで通路が続く。その空間では美術品の展示が行われていた。また,友の会の活動が,上品に紹介されている。ゲートを入ると正面が総合カウンターであり,自動貸出機も2台設置されていた。図書館のサービスはほぼこのフロアで提供されている。空間を活かしてソファなどがゆったりと配置されていた。右手には友の会によるギフトショップがある。友の会といえば古書店運営が多い中,ここはやや趣向が異なる。世界各地から集められた雑貨や文具,カード,地元著者の著作,装飾品など多種多様なものが並んでいた。
フロアを入口を背にして右側から見ていくと,まず多言語図書のコーナーがある。中国語,簡体字中国語,ペルシア語,ドイツ語,タガログ語,ベンガル語,ヒンディー語,日本語,韓国語,ポルトガル語,ロシア語,スペイン語など,非常に多様である。中国語は繁体字と簡体字が分かれており,冊数としては繁体字が多い。視聴覚資料としては,DVD,ビデオゲーム,CDなどが豊富にある。DVDは映画,テレビ,多言語映画,ノンフィクションに分かれていた。ビデオゲームを所蔵している点は,ロサンゼルス周辺では珍しい。
奥にはブラウジングコーナーがあり,ガラス張りの壁から自然光が入り心地よい。新聞・雑誌のタイトル数はかなり多く,雑誌のバックナンバーは丁寧に整理されていた。新聞もバックナンバーを吊り下げ型のフォルダに収納し,さらに古いものはマイクロフィルム化してキャビネットに保管していた。この上には,中二階のような学習スペースが設けられている。ブラウジングコーナーの横には,大活字本,伝記,ノンフィクションが並んでいた。
ここまで見てきて驚かされるのは,各分野の資料が充実していることである。雑誌のタイトル数は多く,他館では少ない例もある中で,対照的であった。視聴覚資料についても同様である。
フロア中央にはレファレンスカウンターがあり,その背後にレファレンスブックと大型本が並ぶ。左側にはフィクションが配置されており,複本も比較的多い。例えば,James Clavellの『Shogun』は5冊が排架されていた。パズルの貸出も行っている。予約資料のコーナーもあり,その近くには,図書を傷めずに画像を取り込めるオーバーヘッドスキャナーが設置されていた。
さらに左にはTEENコーナーがあり,「ちょっと読んでみる?(take a bite)」という特集展示があった。フィクションやグラフィックノベルが多く,一部ノンフィクションもあった。その先,一番左が児童コーナーである。ノンフィクション,フィクション,絵を交えた簡単に読める図書(easy reader),独立して読む「章のある図書」(independent),多言語図書,ペーパーバック,コミック,子ども向け雑誌,ボードブック,VoxBooksなどが並び,図書館に貢献のあった人物の名前を冠した見事なお話しの部屋も設けられていた。
奥には,アーカイブラボとローカルヒストリーセンターがある。ここではパロス・ベルデス半島の歴史資料を収集しており,Recollectというプラットフォームを用いてコミュニティアーカイブを構築している6。訪問時,ボランティアが資料の整理を行っていた。スタディールームは全部で18室あり,少人数用が12室,グループ用が6室あった。各部屋には,地域にゆかりのある人物の名前が付けられている。
図書にはRFIDタグは貼付されていない。OPACはSirsiDynixを使用していた。電子書籍はOverDriveやHooplaを紹介していたが,ウェブページを確認した限りでは,Palace Projectは紹介されていなかった。全体として,電子書籍の貸出はそれほど多くない。
いくつか興味深い点を挙げておく。最も興味深いのは図書館区だが,それについてはここでは触れない。まず,この図書館では,さまざまな「機器」の貸出を行っていた7。FlipPalと呼ばれるモバイルスキャナー,Chromebook,モバイルホットスポット,Totspotと呼ばれる子ども向けタブレット,モバイルバッテリーなどが貸出されていた。そのうち,例えば,モバイルホットスポットは68台中,貸出可能なものが10台しかなくニーズの高さがうかがえた。
次に,PVLD独自の事業ではないが,カリフォルニア州立図書館による「すべての物語が大切」(Every Story Counts)という取組が行われていた8。これは州立図書館によるキャンペーンで,期間中,図書館では利用者が図書館をどのように,そしてなぜ利用しているのかについて,データ,ストーリー,写真で収集する9。1月25日から31日までデータ収集が行われていた。アンケートでは,「図書館での体験についてお聞かせください」(温かく迎えられていると感じる/他の人とつながりを築ける等)「図書館をどのように利用しているか」(借用/情報を調べる/プログラムやイベントに参加等),年齢などの共通質問に加え,図書館独自の自由記述の項目がある。PVLDでは「パロス・ベルデス図書館のよい思い出を教えてください」であった。州立図書館は各館のデータを集約し,州全体の利用状況を把握するとともに,各館ごとの結果をまとめ,後日フィードバックするという。州として基本的な統計データを収集しているが,こうした利用者の認識に関するデータ収集も重要と感じた。
最後に,PVLDは,Online Archives of California(OAC)にも参加している10。これは,カリフォルニア州全域の図書館,アーカイブ,博物館などが参加する取組で,350以上の機関が加わっている。訪問した図書館では,ロサンゼルス公共図書館,オレンジ市公共図書館及び歴史センター,サンフランシスコ公共図書館,サウスパサデナ公共図書館などが参加している。PVLDでは,OACを通じて57件のアーカイブ記述を公開している。それらのうち,デジタル化されているものは,Calisphereというサービスを通じて閲覧できる11。これを運営するCalifornia Digital LibraryはDPLAの公式サービス・ハブでもあり,要件を満たした資料はDPLAにも提供されている。






サンタ・フェ・スプリングス・シティ図書館
サンタ・フェ・スプリングス市の図書館である12。サンタ・フェ・スプリングス市はロサンゼルス市の東側にある。統計(2023–2024)によると,サービス対象人口は約1.9万人で,図書館スタッフは17名,うちALA-MLS取得者は5名であった。来館者数は約10.5万人,物理資料の貸出は約12.7万点,電子資料の貸出は約1.5万点である。物理資料の貸出密度は6.8で,カリフォルニア州内では比較的高い。
図書館は市役所やシティー・ホール,プールなどの公共施設が集まる一角にある。図書館正面には,「世界は私の手の中に」と題する寝っ転がって読書する少女のブロンズ像がある。建物はワンフロアである。入口を入ると,内部は細かく区画されておらず,広々とした空間である。館内では仕事,勉強で比較的長時間滞在していると思われる利用者が多く見られた。入口すぐの右側には閲覧や勉強ができるテーブルとソファーのあるスペースがあり,その裏側にも閲覧席が設けられていた。少し進むとカウンターがあり,左側にはブックセール,新刊図書,雑誌,新聞が排架され,ブラウジングスペースもある。ソファでゆったりできそうである。この図書館では,日本の図書館同様,雑誌にカバーが付けられていた。また,Library of Thingsで貸出される「もの」が展示ケースに入っていた。
フロア中央にはTEENのコーナーがあり,近くにはDVD,オーディオブック,グラフィックノベルなどがある。右奥には大人向けのフィクション・ノンフィクションがあり,多言語資料としてスペイン語のフィクション / ノンフィクションもある。書棚には「Don’t want to ask」という張り紙があり,尋ねにくいトピックのDDC番号を案内していた。虐待 / 近親相姦,ニキビ / スキンケア,死などのトピックが挙げられていた。一番奥には行政資料がファイルにまとめられて排架されている。
図書にはRFIDが貼付されている。複本は多くないが,2冊程度のタイトルはちらほら見られた。レファレンス資料は一般図書と混配されている。しばしば別置される大学受験用のSATやACTなどの問題集もDDC順で並んでいた。図書館システム(ILS)はSirsiDynix社である。児童コーナーには,フィクション,ノンフィクション,絵本,グラフィックノベルがあり,スペイン語資料も充実していた。
興味深い点を2点紹介したい。一点目は貸出と予約についてである。通常の図書以外にも多様な機器やものを貸出していた13。Chromebookは4台,モバイルホットスポットは12台用意されている。貸出期間はいずれも6週間である。訪問時点では,どちらも利用可能なものは1台のみで,人気がある。Library of Thingsでは,望遠鏡,太陽観測双眼鏡,CDプレーヤー,ボードゲームなどを貸し出している。州立公園パスの貸出も行っていた。また,図書館に所蔵がない資料についてはILLを案内しており,その際は1点につき5ドルが必要とされている。検索ツールとしてWorldCatが紹介されていた。さらに,カリフォルニア州のZip Booksプログラムに参加している。これは利用者が読みたい図書をAmazon経由で入手し読み終わったら図書館に返却する仕組みである。このことは別に紹介したい。
もう一点は宿題支援である14。サンタ・フェ・スプリングス市では,児童とティーンを対象に宿題支援を行っている。児童は図書館で,ティーンは近隣のティーンラウンジで行われている。訪問時,ちょうど児童向けの宿題支援が行われていた。児童コーナーの入口付近で,図書館スタッフが2人の児童にワークシートを使って教えていた。図書館スタッフがワークシートの答えを問いかけながら進めていた。子どもたちの受け答えはとてもフランクかつ元気で,「教わっている」という雰囲気はなかった。



バーバンク中央図書館
バーバンク市の中央図書館である15。バーバンク市はロサンゼルス市の中北部に位置し,サービス対象人口は約10.5万人である。図書館は中央館と分館2館で,2026年以降は移動図書館を運行する予定である。来館者数は49.5万人,物理資料の貸出は63.2万点,電子資料の貸出は13.8万点であった。物理資料の貸出密度は6.0で,ロサンゼルス周辺では多い。図書館スタッフは66.28人で,うちALA-MLSは20.11人であった。なお,バーバンク市は群馬県太田市の姉妹都市である。
歴史的には,この地域の図書館は当初カウンティー図書館であったが,市の発展に伴い1938年に市立図書館として独立した。その際,蔵書をすべてカウンティに返却したため,書棚が空っぽになったという。現在の中央館は1963年に開館した建物である。現在,図書館では新たな図書館建設に向け,2025年10月以降,住民との対話を始めている16。建設のため,州立図書館から995万ドル(約16億円)の補助金を獲得している。
図書館には,バーバンク市条例に基づき図書館委員会(Board of Library Trustees)が設置されている17。委員は7名で任期は4年である。図書館に関する調査研究と提言,規則の策定と議会への提案,土地取得の勧告,議会に対して図書館全般について意見を述べることなどが権限として定められている。最終的な決定は議会であるが,重要な事項について意見を反映することができるようになっている。
入口を入ると総合カウンターがあり,2階へは左右の階段から上がることができる。1階は主に大人とティーン向け,2階は基本的に児童向けである。1階中央にはインフォメーション・カウンターがあり,その前にPCや閲覧席が並ぶ。いずれもよく利用されていた。入口から見て右側には,予約図書,新刊図書,大活字本,難易度を調整した図書(イージーリーダー,3段階),新聞,雑誌,多言語図書(スペイン語,韓国語,アルメニア語,ペルシャ語,ロシア語),フィクション(ミステリーのみ別置),視聴覚資料(DVDやBlu-ray,CDなど)がある。一番奥には友の会が運営する書店があった。左側にはローカルヒストリー,ノンフィクション,TEENコーナー,種の図書館などがある。また,大型図書は壁面に沿って別置されていた。
雑誌は同一タイトルをバックナンバーも含めて面陳しており,雑誌架はにぎやかな印象であった。フィクションの複本は多くないものの,2冊程度のものは比較的よく見られた。ノンフィクションの最初には「テキストブック」と「公務員」と書かれた書棚があり,大学入学試験や公務員試験の参考書・問題集が並んでいた。テキストブックの中には,「Library Assistant」 や 「Library Director」 など,図書館関連の職の対策本も含まれていた。ノンフィクションの著者記号はDDC / カッター・サンボーンの著者記号 / 著者姓の三段構成である。分かりやすさのためであろうか。TEENコーナーはフィクション,グラフィックノベル,マンガが充実していた。また「Blind Date with a Book」と題した企画展示も行われていた。図書は,包装され中身を分からないようにし,ジャンルと簡単な図書の内容を手書きで書いたメモが付けられている。種の図書館は,目録カードボックスを活用していた。「貸出」の際は,日付と種の種類を記入する仕組みである。
書棚は7段で,最上段と最下段は使用されていなかった。ノンフィクションでは面陳されている図書が比較的多かった。図書にはRFIDが貼付され,館籍シールも貼られていた。OPACからILSはSirsiDynix社であった。
館内にはスタディールームが2室あった。他にデジタルメディアラボ「Spark」が設けられている18。但し,訪問時は閉まっていた。実施プログラムは非常に充実しており,1月分のプログラム案内の冊子は11ページに及んでいた。ティーン・グラフィック・ノベル・クラブ,月の観察会,実物大のキャンディランドで遊ぶ会,各自が静かに読書を楽しむ会など,興味深い内容が多い。また,利用者が自らプログラムを提案できるウェブフォームも用意されていた19。
2階は児童室で,フィクション,ノンフィクション,グラフィックノベル,多言語図書(フランス語,アルメニア語,スペイン語),ボードブック,ピクチャーブック,音声付き絵本,DVDなどが排架されていた。イージーリーダーやGrade 3/4向けのアーリーチャプターブックなど,読書レベルに応じた資料も別置して排架されている。オハイオ州でよく見た「幼稚園に入る前に1000冊読もう」キャンペーンも行われていた20。さらに,リテラシー会議室があり,英語の読み書き能力向上や英会話を学ぶことができる。これはロサンゼルス市の図書館と同様に,カリフォルニア州立図書館の支援を受けて実施されていた21。一対一の指導を無料で受けられる。
注目すべき点を三つ挙げたい。一つ目は,キャリア支援である。1階には「ジョブ・コネクト・ルーム」という部屋が設けられており,職を探している人が利用することができる22。求人検索,履歴書作成,印刷などが可能である。連邦政府関連機関の施設の位置づけである。カウンター近くには過去4か月分の求人票をまとめた分厚いファイルも置かれていた。訪問時,実際に利用している人がいた。さらに,12週間の「ジョブ・コネクト・プラス」というプログラムを実施している23。これは,グループセッションや面談を通じて参加者の個別ニーズに応じたトレーニングを提供するものである。
二つ目は,ソーシャルワーカーを雇用し,社会的包摂に関わる取組を行っている点である。1階には「The Link」という部屋が2024年に設けられていた24。ここでは,シェルター,食料,健康管理,経済的・法的支援などについて相談することができる。ソーシャルワーカーを配置した際の新聞記事から推察すると,図書館に来ている利用者に積極的に声をかけているようである25。
三つ目は,視覚障害者向けサービスにおいて専門機関との接点となっている点である26。入口近くにデジタル再生機器とメモリーが置かれていた。サービスの実施主体はバーバンク市の図書館ではなく,Braille Institute Libraryである。バーバンク市立図書館では,このサービスの紹介に加え,利用登録や機器提供の窓口として機能している。オハイオ州ではクリーブランドにある図書館(OLBPD)が主に対応していたが,カリフォルニア州は州域が広いため,LCのNLS(National Library Service for the Blind and Print Disabled)に基づくRegional LibraryとSubregional Libraryが4館設けられている。それらの間では地域分担がなされている。Braille Institute Libraryは,ロサンゼルスを中心とする南カリフォルニアを担当している。利用者の身近な場所で再生機器の紹介や登録支援を行う接点の存在は,非常に重要である。
四つ目は,専門的業務に従事するライブラリアンの職について,ALA-MLSの資格を不要とする動きが報告されている点である。これは,図書館管理者(library manager)によって進められており,必須要件としないことが検討されていると言う。ただし,バーバンク公共図書館からは,このことに関する情報は出ていない。これに対して,ロサンゼルス周辺の労働組合から反対の声明と署名活動の呼びかけが出されている27。






アップランド公共図書館
サンバーナーディーノ・カウンティにある28。サン・ガブリエル山脈がきれいに見える。図書館は1913年,カーネギー図書館として開館している29。その後,1969年に現在の建物が建設された。建設から時間は経っているが立派な建物で,古さはそれほど気にならなかった。図書館の前には市役所と退役軍人記念碑がある。
サービス対象人口は約7.8万人であるが,図書館は1館のみである。人口規模に比べると図書館数は少ない。スタッフは12.25人で,ALA-MLIS保持者は2人であった。ライブラリアンは少ないという印象である。物理資料の貸出は16.2万点,電子資料は3.6万点で,物理資料の貸出密度と2.1とあまり高くない。州の図書館統計では人件費が示されているが,この図書館は該当する数字が記載されていなかった。図書館は2014年以降,Library Systems & Services(LS&S)にアウトソーシングされている30。図書館委員会(Board of Trustees)は通常どおり設置されており,議事録を見ると,LS&S社から派遣されている図書館長が委員会に出席していた31。
建物は1階と地下1階の構成である。中央部分が吹き抜けになっており地下へ降りる階段があった。天井には円い窓が9つあり,光が入って館内は明るい。入口を入るとすぐ左側に総合カウンターがあり,EnvisionWareの自動貸出機も設置されている32。1階は入口を背にして右側が児童コーナー,左側がフィクションと友の会の書店などがある。訪問したのは土曜日である。児童コーナーには何組かの親子がおり,遊具コーナーで子どもたちが楽しそうに遊んでいた。児童コーナーにはフィクション,ノンフィクション,グラフィックノベル,絵本,厚紙の図書などが排架されている。プログラム用の部屋もあるが,この日は閉まっていた。全体にサインが少なく,棚差しもないため,資料はやや探しにくい印象であった。図書館は全体に空間が区切られていないため,遊具のあるスペースで遊ぶ子どもの声は館内に響いていた。
カウンター左側のフィクション近くには,スペイン語図書,予約図書,新刊図書,大活字本,DVDが並んでいる。フィクションはサイエンスとミステリーが別置されていた。棚は7段で一番下は使われていない。複本はそれほど多くないが,2~3冊程度あるものははいくつか見られた。RFIDは貼付されておらず,ILSはPolarisであった。近くでは,州立公園のパスの貸出に加え,トレッキングポール,双眼鏡,蚊帳など,ハイキングに必要な道具をまとめたバックパックも貸出していた。友の会の書店(Friends of the Upland Public Library Bookstore)は館内で最も人口密度が高かった。主に寄贈本を販売していたが,ミステリーなどは図書館の廃棄図書が中心であり,価格は75セントが最も多かった。
地下1階は,入口を背にして右側を中心に書架がある。一人用の閲覧席もあり,多くが埋まっていた。この閲覧席の机は少し古い印象である。棚は6段で一番下は使われていない。奥にはTEENコーナーがあり,フィクションとグラフィックノベルが排架されている。日本のコミックもここに置かれていた。ノンフィクションの請求記号はDDC/著者の姓/著者名の頭文字1文字であった。スタディールームは2部屋あり,ほかにリテラシーの部屋がある。ここでは識字教育やESLの個別指導をボランティアから受けることができる33。カリフォルニア州全体で行われているプログラムである。訪問した当日も1対1の指導が行われていた。
階段の左側には地図ケースや種の図書館があった。種の図書館は目録カードケースではなくステンレス製のケースが使われていた。横にはフォルダが置かれ,種をいつ,どこに,どのように植えるかといったメモが,種ごとに書かれていた。近くにはアニマルシェルターの犬や猫の写真も掲示され,飼い主が見つかったものには「Adopted」と書かれていた。PCは4台あった。閲覧スペースでは,読書する人,仕事をする人,PCで作業する人,ボーとする人など,さまざまであった。利用者ではアジア系の住民が多い印象を受けた。
プログラムは多様で,ライムタイムと「家族でお話会」は平日,交互にほぼ毎日実施されている。十代を対象としたガーデニングやブッククラブも開催されている。地域の歴史については,カリフォルニア州立大学や州立図書館などと連携し,デジタル化を進めている34。
この図書館はアウトソーシングされた図書館であるが,顕著に他館と異なるかどうかはすぐには判断できない。日本の委託・指定管理図書館のように,職員がそろいのユニフォームを着ているわけでもない。見た中で気になった点としては,棚差しがなく資料探しが難しそうなこと,閲覧席などの設備が古くの更新が十分ではないこと,などを挙げられる。統計データを見ると,ALA-MLS比率や貸出密度はいずれも低い。ただし,貸出密度の低さについては,人口に対して図書館が1館しかないことも影響しているであろう。
そもそもこの図書館は,市が図書館予算として支出している金額が少ない。カリフォルニア州の統計で人口6万人以上9万人未満の30館を対象に一人あたり予算を算出してみると,ここは25番目で24.4ドルであった。アウトソーシングの効果と見ることもできるかもしれないが,しっかりしたサービスを維持するには十分な予算が必要である。一方で肯定的な側面もある。友の会の書店は賑わっており,市民との連携はうまくいっているようであった。また,種の図書館の工夫や展示には,細かな配慮も感じられた。






アーバイン公共図書館 ヘリテージ・パーク図書館
オレンジ郡アーバイン市の公共図書館である35。アーバイン市の人口は約30万人で,人種としては白人が40.1%であるのに対して,アジア系が39.8%とほぼ同じである36。ロサンゼルスとサンディエゴの間に位置し,日本企業も多く進出している。
この図書館は,2025年7月にオレンジ・カウンティからアーバイン市へ移管され,8月に新たに開館した。開館にあたっては施設をリノベーションしている。現在はヘリテージパーク図書館とユニバーシティパーク図書館の2館体制であるが,3月にはケイティ・ウィーラー図書館が加わる予定である。将来的には,住民が自宅から2マイル以内で図書館にアクセスできるよう,配置を検討しているという37。
訪問したのは平日の夕方であった。入口を入ると市の議員を紹介するディスプレイがある。また,ブックトラックがあり,友の会の書店の本が販売されていた。入口左側には友の会の書店があった。小さいながらよく整理されている。その横の集会室では,ティーンがボードゲームをしていた。図書館はワンフロアで,仕切りはほとんどない。
中に入ると利用者が多いのに圧倒される。ロサンゼルスでこれほど利用者の多い図書館は初めてであった。ざっと数えても120人ほどが館内に滞在していた。なお,この図書館は昨年開館したため,2024–2025年のカリフォルニア州図書館統計にはまだデータが掲載されてない。利用者は若者が多く,アジア系の割合も高い印象であった。利用者が多い理由を尋ねると,通常の図書館利用に加え,周辺に大学やコミュニティカレッジが多いこと(カリフォルニア大学アーバイン校もある),Wi-Fiを含むネット利用などを挙げていた。ただし,もともとこの館は,オレンジ・カウンティの中でも特に利用の多い図書館であった38。
入口前に総合カウンターがあり,入口を背にして右側には貸出・利用者登録用のカウンターがある。ほかにもノンフィクション付近と児童コーナーにカウンターがあったが,貸出・利用者登録用以外は一人の席であった。フロアには10人ほど座れるテーブルが3つ並び,その奥にも1つ置かれている。事務室を挟んだ左側にも同様のテーブルが2つあった。このうち2つのテーブルにはPCが設置されている。ほかのテーブルは低めの仕切りで対面と区切られている。学習机やソファ席も充実していた。利用者は,一人や友人同士で勉強する人,PCで仕事をする人,動画を見ている人,読書をしている人など,様々であった。
入口の反対側には,ヘリテージ・コミュニティ公園とつながるテラス席があり,訪問時には10人ほどが勉強していた。ロサンゼルス周辺は1月でも日中は20度を超える日が多く,このテラスはとても気持ちのよい空間であった。
資料は,入口を背に右側から見ていくと,まず予約資料がある。量はかなり多い。その先に多言語図書が並ぶ。ベトナム語,スペイン語,タガログ語,ロシア語,ペルシア語,韓国語,日本語,中国語,アラビア語などがある。続いて大活字本,グラフィックノベル,ノンフィクション,視聴覚資料がある。新聞・雑誌コーナーもあるが,規模は非常に小さい。中央の事務室を挟んで反対側にティーンコーナーと児童コーナーがある。今回,児童コーナーを詳しくは見ていないが,親子連れの利用が多かった。ティーンコーナーの図書は Younger Teen(対象は日本の小六から中三)と Older Teen(高校生)というシールで区別されていた。
自動貸出機は3台あった。アップランド公共図書館と同様, EnvisionWare の製品であった。RFIDは付いている資料と付いていない資料が混在している。カウンティから引き継いだ資料には付いておらず,市で購入した資料には付いているとのことであった。現在は移行途中である。OPACは SirsiDynix の製品で,iPadのような小型ディスプレイのみのOPACもあった。
各コーナーには「Display」と書かれた書棚があった。そこでは,図書を表紙が見える形で展示されている。複本はかなり多い。たとえば フィクションのDiana Palmer の Law Breaker は5冊,ノンフィクションでもIsabel Wilkerson の Caste は4冊並んでいた。予約が多くても来館者のみが借りられる「Its your lucy day」というコーナーもあった。ニーズを踏まえた選書をしているようであった。図書には館名シールが貼られていたので,館籍があるようであった。
興味深いのは,この図書館の移管の経緯である。カウンティから市への移管は,アーバイン市がカウンティに多額の資金を拠出していたにもかかわらず,十分な図書館サービスを受けられていなかったことが背景にあるとされている。カウンティへの運営費負担は全体の28%を占めていたにも関わらず,市内の図書館施設面積は11%にとどまっていたという39。アーバイン市の脱退は,オレンジ・カウンティにとっても大きな影響を与えるものであろう40。当たり前のことではあるが,負担と受益のバランスが適切でなければ,連携は長続きしない。図書館のコンソーシアムや協力体制を設計する際には,こうした点への配慮が不可欠であろう。






オレンジ市公共図書館及び歴史センター
オレンジ・カウンティのオレンジ市にある図書館である41。カウンティ図書館ではなく,オレンジ市が設置運営する図書館である。サービス対象人口は約13.9万人である。図書館は市内に3館ありここは中央図書館である。
図書館スタッフは40.95人で,ALA-MLS保持者は14人である。物理資料の貸出は46.4万点,電子資料は19.1万点であった。電子資料の比率が比較的高い。物理資料の貸出密度は3.3である。図書館には図書館委員会(Library Board of Trustees)が設置されており,地域社会の意見を反映する役割が期待されている42。諮問機関であり,方針や規則,計画の策定を支援する。
図書館は1916年にカーネギー図書館として設置された。現在の建物は3代目である。初代のカーネギー図書館は残っていないが,土台のみが残っているとのことだった。図書館は市の中心部にあり,道路を挟んだ向かいには市役所がある。訪問時には,そこでミネソタ州でのICEと市民との衝突を受けたトランプ政権への抗議デモが行われており,通行する車が賛同のクラクションを鳴らす音が図書館内に響いていた。
入口を入ると,まず建物が立派である。左手にはフィクション,多言語図書(ベトナム語,スペイン語など),TEENコーナーがあった。TEENコーナーにはフィクション,ノンフィクション,グラフィックノベルが並び,奥にはTeen Innovation Labo も設けられている43。ここはティーンの自習スペースも兼ねている。中央にはブラウジングコーナーがあり新聞や雑誌が置かれていたが,雑誌架はやや寂しい。CloudLibrary の電子雑誌サービスが紹介されていた。自動貸出機は Bibliotheca のものが4台設置されている。
右手には大きな貸出カウンターがあり,その奥に視聴覚資料コーナーがある。DVD,CD,オーディオブックなどが並んでいる。さらに奥にはホームワークセンターが設けられていた。火曜日から木曜日に,ボランティアが1年生から6年生までの宿題を支援している。そのさらに奥には児童コーナーがある。児童向けのプログラムでは,スクラッチを使ったゲームコーディングやSPHEROという小さなロボットを使ったプログラミング学習のワークショップなどを行っている。貸出カウンター前には米国250周年をテーマにした展示が行われていた。オレンジ市が所有する「独立の鐘」(Liberty Bell)のレプリカも展示されていた。この鐘はアメリカ独立を象徴するものとされている。
貸出カウンター前の階段を上がると2階である。天井は高く,照明も美しい閲覧室がある。中央にはPCが20台ほど並び,ノンフィクションの書架もある。奥に「リテラシー」と書かれた部屋がある。カリフォルニア州の助成事業である。ここでは,職業スキルに関するワークショップが行われており,求人情報の探し方や面接戦略を学ぶ。また,英語学習の会も開かれている。事前に3本の記事を読んできて,それをもとにディスカッションを行うというものであった。他にスタディールームが2部屋ある。壁際には伝記が排架されていた。電子書籍サービスとして Palace プロジェクトがポスターで紹介されていた。OPAC は Aspen Discovery を使用していたが,これはインタフェース部分である。ILS は Symphony 系のようであった44。書棚は7段で,一番上と一番下は使われていない。複本は比較的多く見られた。
2階奥には,元市長 Joanne Coontz を顕彰したリーディングルームがある。小さな閲覧室であるが,部屋を取り囲むようにさまざまな「もの」が展示されている。スライドプロジェクター,バケツ,タイプライター,野球のグラブとボール,土器など多岐にわたる。若干脈絡がない。一部には解説が付けられていたが,解説のないものもある。そこには「ゆかりをご存じの方はお知らせください」と書かれていた。なるほど。
その近くには「歴史センター」がある。これは2007年の改修時に設置されたものである45。職員不足のため通常は閉まっているが,予約があれば対応してくれる。中を見せてもらうと,貴重そうなコレクションが排架されていた。主に1871年以降のオレンジ市の歴史資料である46。卒業アルバムなども多く所蔵されており,一部は展示されていた。室内には「もの」を多く所蔵しており,衣服などがマネキンで展示されていた。中には約100年以上前の女子バスケットボールのユニフォームもあった。現在のものとはまったく異なるのがおもしろい。図書館の近隣にはいくつかの歴史協会があり,そうした団体とも連携しているとのことであった47。この階には他に種の図書館や,求職情報を集めたファイルが置かれていた。
いくつか興味深いサービスを2つ紹介したい。一つが「ポップアップライブラリー」である48。これは地域の集まりなどに図書館が出向く取組である。日本でも移動図書館などで似た活動が行われているし,他国・地域では自転車を使った例も見られる。ここでは事前に団体からの申し出を受けて実施する。図書館側はキャノピー(テント),机,椅子,テーブルクロスなどを持参する。現地では利用券の発行,資料の貸出,プログラムの広報,賞品付きのゲームなどを行う。図書館の存在を知ってもらう方法として,有効な取組と感じられた。
もう一つはアルツハイマー病・認知症キットの貸出である49。日本でも近年,日本図書館協会などが認知症関連のサービスに取り組んでいる50。この図書館では関連資料や「もの」をまとめたキットを貸出していた。キットはいくつかの種類に分かれており,認知症の人向けの記憶に関するアクティビティ用具や図書のキット,介護者向けの図書や情報のキット,回想法に用いるキットなどがある。たとえば後期認知症の人向けのキットには,関連図書3冊,DVD1点,ぬいぐるみ1点,アクティビティキット4点が入っている。日本では展示中心の取組が多いようだが,こうしたキットも有効かもしれない。






サンタモニカ公共図書館
サンタモニカ市の公共図書館である51。近くにはサンタモニカの海岸がある。サービス対象人口は約9.3万人で,中央図書館が1館,分館が4館ある。今回訪問したのは中央図書館である。図書館スタッフは約73.9人,そのうちALA-MLS保持者は27.0人である。貸出密度は7.4とロサンゼルス周辺では高く,来館者数は31.1万人であった。図書館は源流は1884年にさかのぼるが,現在の中央館は2006年に開館している。環境配慮型建築物の認証制度であるLEED認証を受けている52。また,2008年にはリビングライブラリーを米国で初めて開催したという。
サンタモニカ市では,コロナ禍後の財政悪化により職員が大幅に削減され,2つの分館が限定的開館となっていた53。現在は通常開館に向けた取組が進められている。昨年には,図書館改善のためのコミュニティ・マッピング事業が実施され,フォーカスグループなどを用いた調査が行われている。また,図書館委員会が設置されているが,そこでは財源確保のため,パサデナ図書館を参考にパーセル税導入の検討が始まっていた(2025年7月会議)54。
入口を入ると左手に友の会の図書館がある。そこを進むと盗難防止ゲートが設置されている。ゲートは木材で囲われており,威圧感を与えない。右手には「カスタマーサービス」と書かれたやや大きめのカウンターがある。ここでは貸出,返却,予約資料の受取ができ,自動貸出機も置かれていた。カウンター前にはRED KITSが置かれているが,このことは後述する。
カンター近くにはChromebook端末があり,利用登録に関する案内などが表示されていた。ほかにも,新しく入った図書の展示,赤い図書の展示,ブラックヒストリー月間特集などがあった。赤い図書の展示は,「現行犯逮捕」(caught red handed)の red と read を掛け合わせたものであった。展示の書架は移動式で組み合わせを変更できる。デジタルサイネージでは,作家の青山美智子氏を招いたイベントが案内されていた。Santa Monica Reads という読書イベントの一環である55。左手には中庭があり,パラソルの下に机がいくつか置かれている。緑も多い。サンタモニカの空の下,勉強,仕事はなかなかである。
奥へ進むとインフォメーションカウンターがある。1階にはフィクション,大活字本,雑誌・新聞,視聴覚資料(CD,DVD,オーディオブック),ビデオゲーム,グラフィックノベル,児童コーナー,TEENコーナーがある。フィクションはミステリー,サイエンスフィクション,ペーパーバック,ロマンス,Ready Read などが別置されていた。雑誌・新聞コーナーでは,オンラインアクセス可能なタイトルについて,Libby,PressReader,ProQuest などの案内がそれぞれの雑誌架でされていた。ざっと見たところ,およそ3分の1程度のタイトルがオンラインでも利用できるようであった。一方で,物理的な雑誌も引き続き購入されており,すぐに紙媒体をやめるわけでもないようであった。ビデオゲームは任天堂のものであった。
書棚は6段で,最下段は斜めに傾斜している。OPAC には BiblioCommons が使われており,図書には RFID タグが付いている。複本は比較的多く,Amor Towles 著『Table for Two』などは6冊排架されていた。PCコーナーもあり,20台ほどが設置されていた。ほぼすべてが利用されていた。この階にはリテラシーセンターやスタディールームもあり,スタディールームは児童コーナーや2階にも分散して設けられていた。リテラシーセンターでは,成人向けのリテラシー講座,市民権取得を目指すクラス,ELSクラス(英語学習),テクノロジー関連のサポートが行われていた。
TEENコーナーと児童コーナーは,一般のコーナーと緩やかに区切られている。TEENコーナーはややポップな雰囲気であった。児童コーナーには,ノンフィクション,フィクション,Easy Reader,ペーパーバック,チャプターブックス,絵本,ボードブック,グラフィックノベル,VoxBooks,オーディオブック,CD,DVD(子供向け・教育用),多言語児童書,育児関連図書などが排架されていた。子ども用のテーブルにはPCが置かれており,AWE Learningのアプリが搭載されていた。このことについてはのちほど触れる。
児童向けプログラムとしては,レゴクラブ,ポケモンクラブ,Dungeons & Dragons クラブ,Read for Roger(犬への読み聞かせ)などが行われていた。また,サマーリーディングプログラムでは,ゲーミフィケーション要素を取り入れた Beanstack というアプリが使われており,興味深い56。
2階はノンフィクションを中心としたフロアである。閲覧席も比較的多い。ノンフィクションのほかにDVD(ノンフィクション),レファレンス資料,多言語資料が排架されていた。コレクションの量はかなり多い印象であった。サンタモニカ・ルームと逐次刊行物の部屋は予約制となっている。レファレンス資料には,注釈付きカリフォルニア州法や注釈付き連邦法も含まれていた。また,奥には予約制の「ワークスペース」がある。シェアオフィスのような感じであろうか。ここにはラップトップキヨスクが設置されている。書架周辺の閲覧席は静かなため,作業をしたい利用者には適しているように感じられた。壁画にはStanton Macdonald-Wright の壁画が多く飾られている。
以下,興味深い点について述べる。まず,児童コーナーに設置されていた PC のソフトである。北米の図書館では児童コーナーにPCが置かれていることがよくあったが,どのようなソフトが入っているかはあまり意識してこなかった。今回,確認してみるとAWE の製品が導入されていた57。これには,幼児から児童の就学準備や読み書き能力向上に関わる学習用コンテンツが収録されている。また,メーカースペース的な環境でデジタルスキルを学ぶツールも提供している。主に公共図書館を対象とした製品であり,北米では導入例が多いようであった。
2点目は RED KITS の取組である58。REDは,読書(Read),関わり(Engage),発見(Discover)の頭文字である。テーマごとに,図書,活動の提案,情報源,「もの」をまとめたキットを貸出している。取組のねらいは,自分のペースで学びに取り組めるようにすること,とされている。テーマは,自転車修理,バードウォッチング,脳の健康,マインドフルネス,ストレス軽減,クッキー作り,パイ作り,仲間さがし,家族の歴史,ガーデニング,ウクレレ,L.A.散歩など多岐にわたる。このうち,仲間さがしのキットはすべて貸出中であった。アイデア次第で,さまざまなキットが作れそうである。
3点目は MARC についてである。この図書館には日本語の図書がかなりそろっていた。MARC を確認すると,例えば,吉村昭著『プリズンの満月』は日本語ではヒットせず,ローマ字入力でヒットした。作成機関は議会図書館であった。一方で,タイトル,サブタイトル,著者,出版者,出版地が日本語で記述されているものもった。それらの最初の作成機関は TRCLS となっていた。「TRC図書館サービス」であろうか。確認したデータは少ないが,翻字されるものと日本語で検索できるものが混在しているようであった。日本語利用者にとっては日本語表記が有用であり,日本語を読めない利用者や図書館スタッフにとっては翻字が望ましい。この図書館ではないが,ロサンゼルス周辺の図書館スタッフから聞いた話では,MARC は基本的に図書の納品と一緒に提供されているが,多言語資料は目録担当がOCLCなどを利用して作成しているとのことであった。
4点目として,この図書館ではコミュニティ割引プログラムを実施している59。これは図書館カードを持つ人に地元事業者と連携した特典を提供する取組である。図書館にとっては図書館カード作成のキャンペーンとなり,地元店舗にとっては新規来店者獲得の機会になるのであろう。2025年9月から開始され,カフェでのドリンク10%割引,レストランでの15%割引,ピラティススタジオでのクラス割引などがあった。飲食店が多い印象である。利用は1日1回に限られている。割引に対する経済的補填が行われているかは不明であるが,市を巻き込んだ大々的な取組ではないようなので,おそらく補填していないと推測される。同様の取組は他の図書館でも見たことがある。また,方法は異なるが,オハイオ州のサウスウェスト公共図書館友の会では,地域のスーパーマーケット(Kroger)と提携し,買い物を通じて友の会に収入が入る仕組みを採用していた60。地域ビジネスとの連携が,さまざまな形で行われている点は興味深い。






ロサンゼルス中央図書館
ロサンゼルス市の公共図書館で,73館を束ねる中央館である61。これまで見てきた分館は比較的小規模なものが多かったが,ここは巨大であった。ロサンゼルスのダウンタウンにある。ロサンゼルス滞在中,しばしばこの図書館で作業させてもらった。マグワイア庭園側から歩いて行くと,ポーランドの国立図書館で見たものと似たものがある。階段の段差部分にさまざまな言語で文字が記されているのである。日本語のひらがなやカタカナは見当たらなかったが,日本語の漢字のような文字はあった。ロサンゼルス公共図書館の活動等は,すでに他の分館の紹介で書いてきたので,ここではそれらは省略する。また,所蔵資料の詳細も,建物があまりに巨大であるため省略し,特に気づいた点を中心に記す。
この図書館には4つの入口があり,四方向から入館できるのがおもしろい。それぞれの入口には3M社のゲートが設置されている。いずれのゲートにも警備員が待機しているので少し緊張するかもしれない。1階にはインフォメーションカウンター,貸出・返却カウンターがあり,自動貸出機も設置されている。そのほか,グッズ類を販売するライブラリーストア,ポピュラーライブラリー(貸出用図書館),視聴覚資料室(CD,DVD),成人学習センター,ギャラリー,講堂への入口などがある。成人学習センターは,すでに他のLAPL分館の紹介で述べたので省略する。ギャラリーでは中央図書館開館100周年を祝う展示が行われており,2階のギャラリーなどでも同様の展示がされていた62。
建物の構造はやや分かりにくいが,庭園側の入口を背にすると,手前と奥で建物が分かれている。手前が1926年に完成したグッドヒュー・ビルディングで,奥が1993年に増築されたトム・ブラッドリー棟である63。1986年には大規模な火災が発生し甚大な被害を受けた歴史がある。グッドヒュー・ビルディングの2階には,ティーン向けスペースであるTeen’Scapeと児童室がある。Teen’Scapeには,卵形のチェアや,複数人でにぎやかに使えるPCなど,若者が楽しめそうな工夫が各所に見られた。このスペースの整備には,ティーンによるTeen Councilが関わり,設備改善のアイデア出しや検討が行われた。Councilは,いつもは購入提案,プログラムの企画,社会参加の取り組み(Teen’s Lead Change),ブログ執筆などの活動を行っている64。グラフィックノベルのコーナーでは,日本のマンガが人気とのことであった。特集展示としては,「Read with pride」「Let’s talk about sex」「Banned Book」などが見られた。大学入試やキャリア関連のコーナーもある。
児童室は重厚な雰囲気でとても美しい。訪問時には,その日,開催が予定されていたレゴのイベントの準備が進められていた。児童室には各種の貴重なコレクションも収蔵されている65。また,この階にはギャラリーがあり,中央図書館100周年の展示会が開催されていた66。そして,この階では「ロタンダ」と呼ばれる見事な天井装飾を見ることができる67。
トム・ブラッドリー棟では,まずアトリウムに圧倒される。飾られているパブリックアートも印象的であった68。この棟の1階は「国際言語」のフロアである。基本的なフロア構成は他の階と共通である。まず,入口付近に比較的大きなインフォメーションカウンターがあり,その周囲に新刊コーナー,特集コーナー,レファレンス資料,雑誌コーナーがある。その奥に,各分野の図書を中心とした膨大な資料が排架されている。近年の図書館では低い書架を用いて蔵書数を抑えることも多いが,ここでは高い書架で多くの図書を排架している。中には請求記号を図書の背表紙に直接記入しているような古い本もある。手に取ってみると,1911年刊行の図書であった。閉架書庫はないのかと思うと,「開架されているのは全体の半分以下」とのことで驚かされる。閲覧席はこの規模の図書館としてはやや少ない印象である。館内の設備は少し古く感じられ更新時期に差しかかっていると感じられた。
国際言語フロアには30以上の言語による図書が排架されており,日本語の図書もかなり多い。ここにはニューアメリカンセンターも設置されている。そのサービスは他の分館紹介で述べたとおりである。このフロアでは,姉妹都市である名古屋市から贈られたシャチホコや神輿が展示されていた。2階は「アート,ミュージック,レクリエーション」のフロアである。ここで特に目立つのはシアタープログラムのコレクションである69。それらは,多数のキャビネットに収められていた。製本された楽譜も多い。3階は文学・フィクションのフロアである。ショートストーリーディスペンサーが置いてある70。
地下1階はビジネス・経済分野で,中小企業向けのコレクションやジョブキャリア関連のコーナーがある。ここにはジョブ&キャリアセンターがあり,対面で求人情報などの支援を受けることができる71。地下2階は科学・技術分野で,2013年に開設されたメーカースペースであるオクタビア・ラボがある。ここは,いつも利用者で混雑していた。特許関連の非常に充実している72。地下3階は社会科学・哲学・宗教とコンピュータのフロアである。ロサンゼルス公共図書館は,米国政府出版局,米国特許商標庁,国連,カリフォルニア州の寄託図書館であるため73,それらの関連資料が分野毎に排架されている。この階にはコンピュータセンターもあり,約60台のPCが設置されているほか,Chromebookをラップトップキヨスクで借りることもできる74。
地下4階は歴史と系図のフロアである。ファミリーヒストリー・インデックス(名前から探す)やカリフォルニア・インデックス(件名から探す)が目録ケースに収められている75。ただし,これらは現在ではオンラインでも提供されている。LAPLでのオンライン情報資源の充実ぶりには驚かされる76。Photo Collection(TESSA)など独自に構築されたものも多い77。
全体として,物理資料,電子資料,建物のいずれをとっても非常に充実している。立地もきわめて良い。ロタンダや児童室の美しさも格別である。市民との連携もうまくいっているようで,友の会は図書館システム全体で60以上あり,中央図書館には4つあるという。中央図書館のものはそれぞれ特定部門を支援している。しかし,残念な点は,施設が全体に古くなっている点である。大規模なリノベーションが必要な時期に来ていると感じた。また,多くの観光客を呼び込むことのできる施設だと思うが,実際にはそれほど多くは見られなかった。せっかくの施設なのに,もったいない印象であった。






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- https://www.lapl.org/branches/central-library/art-architecture/tom-bradley-wing ↩︎
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- https://www.lapl.org/collections-resources/gov-docs ↩︎
- https://www.lapl.org/branches/central-library/departments/computer-center ↩︎
- https://www.lapl.org/collections-resources/lapl-indexes/california-index ↩︎
- https://www.lapl.org/collections-resources/research-and-homework ↩︎
- https://tessa.lapl.org/ ↩︎