危険と隣り合わせの図書館

図書館に訪問し滞在していると,さまざまな状況に出会う。先日,カリフォルニア州内のある図書館にいたときのことである。ちょうどトイレの前にいたところ,警備員と図書館スタッフが男子トイレの前でしばらく中の様子をうかがい,その後,中に入っていった。すると直後に,大きな袋をいくつも持った男性がトイレから出てきた。このときは特に問題は起きなかったようだが,トイレ内での何らかの行為,たとえば薬物使用などが疑われた事例であったようである。

そもそも北米の図書館周辺では,薬物中毒者などが多く集まっている場所も少なくない。そのような地域では,図書館内で何らかの事件が発生しても,特に不思議ではない。ニューヨークの図書館で机に座って作業をしていたときには,斜め前に座っていた男性の周囲に警備員,図書館員が集まってきて,退館を促している場面に遭遇したことがある。見た限りでは,利用者が問題行動を起こしているようには見えなかったが,何らかの事情があったのかもしれない。同様に,警察官によって利用者が退館を促される場面は,カナダでも遭遇した。

このように,図書館が緊迫した状況に包まれることは,北米ではそれほど珍しいことではないようである。これはロサンゼルスやニューヨークに限らず,北米の図書館全体に共通する傾向とも言える。実際,コロンバスでは,こうした職場環境が一因となって,図書館職員による労働組合設立の動きが進められていた。そのため,多くの図書館では警備員が配置されている。

ロサンゼルス公共図書館(LAPL)の状況について,ある記事が具体的な数字を示している1。それによると,72ある分館のうち25館について911番,日本でいう110番への通報回数を調査したところ,年間で合計900回以上の出動要請があったという。1館あたり36回となり,平均すると1か月に3回程度の要請が行われていた計算になる。通報の理由として挙げられているのは,ホームレスが関係する事案が多く,その暴力行為,薬物使用,立入規則違反などであった。

図書館としても,記事中で図書館長が述べているように,こうした問題にどこまで関与すべきなのか戸惑いがある。「こうしたことへの対処も図書館の仕事なのだろうか?」という疑問であろう。また,図書館スタッフ自身も,常に危険と隣り合わせの環境で働くことに疲弊している現状が語られている。この問題はLAPLの図書館委員会でも議題となっており,2025年7月の委員会では担当部署であるLibrary Experience Officeから報告が行われている2。それによれば,これまでの警察や警備員による対応に加え,ソーシャルワーカーやメンタルヘルス専門家,外部パートナーと連携した,より包括的な対応体制を構築しているという。同時に,職員への訓練やサポートを含めた総合的な取組みも進められているという。

もちろん,このような状況は図書館に限った話ではない。筆者自身も,長距離バスで移動中に薬物中毒と思われる乗客に遭遇しびっくりしたことがある。また,飲食店などで激しい口論を目にしたことも何度かあった。しかし,図書館は基本的に,どのような利用者も受け入れるという建前を持つパブリックスペースである。そのため,こうした事例は相対的に多いのではないだろうか。社会のあり方が変化すれば,図書館もまたその影響を免れない。

日本でも,ある市立図書館の図書館協議会で,認知症と思われる男性が来館し,繰り返し新聞を破ってしまう事案が報告されていた。その際には,利用者の状態に早く気づき,適切な関連部署につなぐことの重要性が教訓として確認されていたのを記憶している。場合によっては,その場での対応だけでなく,関係機関との連携強化や,職員への訓練,それを支える体制整備が求められるのであろう。

  1. https://www.westsidecurrent.com/news/librarians-across-los-angeles-say-they-no-longer-feel-safe/article_b32b3249-47a8-4fd1-8aea-6ca6015f8c76.html ↩︎
  2. https://www.lapl.org/sites/default/files/Minutes_07-10-2025_Board_Retreat.pdf ↩︎