エストニアの現職者資格制度

エストニアの図書館で人材育成の話をしていたとき,EstQFの話が出た。タリン市の中央図書館で説明してくれた図書館員はEstQFのレベル7とのことであった。国立図書館(RARA)に行った際は,1年間の研修を実施しており,その受講によってレベル6の資格申請要件を得られるという。興味深い制度なので紹介しておきたい。

日本では,大学の司書課程などで文部科学省が定める科目を履修すれば,卒業時に司書となる資格を得られる。また,現職者に対しては,図書館での経験や自己研鑽,著作などをもとに,日本図書館協会が認定司書という名称を付与している。一方,エストニアでは,大学での図書館情報学教育は,現在,タルトゥ大学のみで行われており,広く行われている状況にはない。しかし,このEstQFによって能力に応じた資格を取得することができる。

EstQFとは,エストニア政府が設立したエストニア資格認証機関(Estonian Qualifications Authority)が定める資格枠組みのことである。パン職人,会計士,建築士など多様な職業の資格が規定されており,8段階制となっている1。8が最高位である。正式な教育制度ともリンクしており,学士号は6,修士号は7,博士号は8に相当する。そのため,大学学部課程で図書館情報学を学べば自動的にレベル6となる。また,大学で学んでいなくても,一定の経験や自己研鑽によってレベル6を得ることができる。RARAはこの6相当の研修を提供しているわけである。

EstQFはEUのEQF(European Qualification Framework)に準拠している。つまり,エストニア独自の制度ではありつつも,EUが定める資格枠組みに沿って資格が規定されているわけである。EUの中でもEQFに基づいて自国の図書館員の資格制度を定めている国はあまり多くない。この資格は,図書館での人事制度とも結びつけられているとのコメントも聞かれた。しかし,これは自治体によるとのことであった。実務経験に基づく資格付与機関はエストニア図書館協会である。

図書館員については,レベル6から8で規定されている。それぞれにおいて,一般的に求められるスキルと必須能力が箇条書きでまとめられている。例えばレベル6では,一般的なスキルとして「業務において図書館員の倫理綱領を遵守する」などが挙げられている2。必須能力の一つには「コレクションデザイン」があり,「図書館の目標と対象グループの情報ニーズに基づいて,収集する情報を特定して選択する」と記載されている。こうした能力が求められる,というわけである。

レベル6の申請に際しては,勤務経験や一般的な研修受講(5年間で80時間),職業訓練(RARAの研修がこれにあたる)が要件となる3。書類としては,履歴書,教育歴や研修受講の証明,自己分析,専門的活動に関する説明が必要である。このうち自己分析では,23項目にわたって5段階評価が求められる。たとえば,「図書館の目的と対象グループの情報ニーズに基づいて,収集する情報を明確にし,選択する」について5段階で自己評価を行うわけである。審査は書類と面接によって行われる。申請に要する料金は50ユーロである。有効期間は10年間で更新制度が設けられている。2006年から2020年までに1,056名に資格が発行されたという4

日本の認定司書制度と比較すると,似ているところもあれば異なることもある。実務経験や研修受講を評価する点は類似している。しかし,国家の資格枠組みに組み込まれていること,3つのグレードがあること,処遇とリンクしていること,必要な能力が規定されていること,さらに審査で面接があることなどが異なる。最上位のレベル8の資格が存在することは,図書館員の社会的地位向上にプラスの影響があると考えられる。また,職場での処遇と連動することで,自己研鑽を強く促進する仕組みとして機能しているといえる。

  1. https://kutsekoda.ee/en/estonian-qualifications-framework-estqf ↩︎
  2. https://www.kutseregister.ee/ctrl/en/Standardid/vaata/11094648 ↩︎
  3. https://eru.lib.ee/kutse-andmine/kutse-andmine-2025 ↩︎
  4. https://lbbjss.wordpress.com/wp-content/uploads/2020/12/lepik_a_24.11.2020.pdf ↩︎