英国では図書館の個票データへのアクセスは非常に難しい。CIPFA(Chartered Institute of Public Finance and Accountancy)が毎年データを収集しているが,ウェブから簡単に入手できるものではない。そうした中で,サザーク区では住民からの情報公開請求に基づいてわずかだがデータを公開しており1,ウェブ上で確認できる。このデータのうち2024年分を使い,英国の図書館の現況を見てみたい。また,東京都23区で同規模の豊島区と比較をしてみたい。
サザーク区の英国内での図書館サービスの位置づけはよく分からない。ただし,多くの自治体が図書館の閉館や縮小を進める中で,サザーク区は図書館の整備を続けてきた。また,少なくとも図書館運営に対して住民から強い反対運動が起きていることもないようである。実際に見学した2つの図書館も利用者で賑わっていた。サザーク区の人口は31.5万人である2。
豊島区のデータは『日本の図書館 統計と名簿』(2023)を用いた。統計の取り方は異なる可能性があるが,ここでは大まかな傾向を読み取る目的で比較する。結果は次のとおりである。人口,図書館数,来館者数,職員数,図書の貸出数,購入図書数は以下のとおりである。
| 人口 | 図書館数 | 来館者 | 職員数 | 図書の貸出 | 購入図書 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| サザーク区 | 315,000 | 12 | 1,499,770 | 82 | 576,825 | 45,231 |
| 豊島区 | 283,342 | 7 | 1,469,778 | 130 | 2,128,641 | 37,432 |
ここから分かるのは,豊島区が図書館数は少ないこと,来館者数はほぼ同数であること,購入図書数も豊島区が少ないが顕著に異なるとまではいえないことである。職員数がサザーク区で少ないのはフルタイム職員のみのカウントであり,日本のように非正規職員などを1500時間で換算していないためと思われる。なお,サザークではゼロ時間契約の職員はいない。顕著に異なるのは図書の貸出点数であり,豊島区はサザーク区の3.7倍も多い。このことは,日本の図書館の優れた点である。
一方で,ここで疑問として浮かぶのは,貸出数が大きく異なるにもかかわらず来館者数はほぼ同数である点である。考えられる理由の一つは,サザーク区では図書館に滞在する利用者が多いことである。図書館を図書を借りる場所としてだけでなく,場所として利用している可能性がある。もう一つの理由は,各種プログラムの実施である。英国を含む欧米の図書館はプログラムが充実しており,そうした取り組みが来館者数に影響を与えていることも考えられる。他にも要因はあるかもしれないが,貸出以外のサービスに社会的,あるいは行政的に必要性が認められるのであれば,日本の図書館でも積極的にそうしたサービスを展開していく余地はあるだろう。