英国の読書キャンペーン

英国では,2026年を「National Year of Reading 2026」とする予定である1。これは,政府が主導し官民一体で実施するキャンペーンである。このキャンペーンのビジョンは,子どもだけでなく,あらゆる年齢層の人々を読書に(再び)結びつけることとされている。教育省とナショナル・リテラシー・トラストが中心となっており,他にもアーツ・カウンシル・イングランド,多くの出版社,Amazon,Spotify,プレミアリーグ,Libraries Connectedなどが支援や資金援助をしている2。プレミアリーグも関わっているのが面白い。実施はナショナル・リテラシー・トラストが中心である。

背景には,子ども,若者の読書離れがある。ナショナル・リテラシー・トラストの識字調査(2024年)によると,8歳から18歳までの子どもと若者のうち,自由時間に読書を楽しんでいると回答したのは3人に1人だった3。2005年と比較して36%減であり,大幅に減少している。さらに,毎日読書をしていると回答したのは5人に1人であった。教育省のプレスリリースでは,このキャンペーンを実施する背景が書かれている4。そこでは,読書は単なる趣味ではなく,幸福感と自信の向上,将来の収入の増加などと結びついているという。具体的なデータとして,小学生で読み書きが得意な人はそうでない人と比較して生涯で65,000ポンドも収入が多いという5

National Year of Reading 2026で計画化されていることの5つの柱の中で注目されるのが「楽しみのための読書」(reading for pleasure)である。無理矢理,読ませるのではなく楽しいから読もう,という方向性である。そのことと関係して,計画を主導するナショナル・リテラシー・トラストの「楽しみのための読書」のウェブページでは,「読書」概念を広くとっていることが注目される6。具体的には,子ども,若者に読書を促すには,彼らの興味やメディア習慣と調和させることが必要としている。いきなり興味のないことに興味を持たせようとしても無理があるし,スマホなどが生活に浸透している中で,紙の図書を読むよう促しても限界があるということであろう。その上で,映画やテレビに関連した図書,表紙が魅力的な図書,友人・家族からの推薦などが読書の動機として重要とされている。そして,それ以外にも,デジタル形式の活用が挙げられている。

実際,子ども,若者は,「通常」の読書以外に,漫画やグラフィックノベルを読んでいたり,デジタル機器で歌詞やニュースなどを読んでいる。こうしたものも,「読書」として尊重することで,使い慣れたメディアと読書をうまく結びつけることができると指摘されている。この問題の多くの関係者がスクリーン時間(ゲームやYoutubeなど)の長さを問題としていることから,伝統的な読書を最適と考えていると思われるが,それでも現状の社会に合わせて「読書」概念を拡張している点が注目される。形はなんであれ,少なくとも文字を読まなければ,リテラシー向上は難しいという危機感である。

以上,見てきたように英国の「National Year of Reading 2026」は,読書がリテラシーの向上をもたらすこと,そのことが個人の幸福や社会での成功に不可欠であることを改めて確認している。その上で,読書概念を拡大することで現在の社会状況に合わせて人々を読書に(改めて)促そうとしていることが注目される。

  1. https://www.nationalyearofreading.org.uk/ ↩︎
  2. https://www.goallin.org.uk/our-partners ↩︎
  3. https://literacytrust.org.uk/research-services/research-reports/children-and-young-peoples-reading-in-2025/ ↩︎
  4. https://www.gov.uk/government/news/parents-urged-to-read-more-to-boost-childrens-life-chances ↩︎
  5. https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6867d497fe1a249e937cbcdb/Key_Stage_2_attainment_and_lifetime_earnings_reseach_report_-_July_25.pdf ↩︎
  6. https://literacytrust.org.uk/reading-for-pleasure/ ↩︎