オンタリオ州バリー市にある1。バリー市はトロントの北,約80kmに位置し,シムコー湖の西岸にある。地理的にはシムコー郡に含まれるが,市として独立して運営されており,図書館も同様の位置づけである。人口は約15万人ほどで,日本で言えば小さめの地方都市という印象である。市内には図書館が3館あり,中心的な図書館がダウンタウン分館である。ほかに「図書館キヨスク」と呼ばれる自動貸出返却機が2か所に設置されている2。これは韓国やポーランドなどで見たロッカー式の装置よりも簡便である。ダウンタウン分館は1996年に開館しており,2階建ての建物である。1階は主に大人向け,2階は子ども向けであった。
1階にはフィクション,一般書,新聞・雑誌,ティーン,大型活字本,DVD,ビデオゲームソフト(DS,PlayStation,XBox)などを所蔵する。他にカフェ,メーカースペース,PCコーナー(コンピュータ・ラボ)がある。PCはよく利用されていた。ビデオゲームソフトは多く所蔵している。こうしたビデオゲームソフトの貸出はカナダでは一般的とのことであった。1階の中央部分には「ギャザリングスペース」と呼ばれる空間がある。普段は閲覧席だが,演台やスクリーンが設置されておりイベントも開催できる。2階は児童向けで0〜12歳が対象であり,屋外のリーディング・ガーデンと呼ばれる空間もあった。訪問した10月中旬だと,そろそろ晴れた昼間でも外の作業は寒くなる季節であった。館全体では,書架の間や窓際に座席があるとともに,PODのような空間も配置され,閲覧する場所は豊富である。また,カウンターの後ろには雑誌などを閲覧できるブラウジングコーナーがあった。以下,興味深い点を中心に述べていく。
まず,入口を入ると左手にカフェがある。訪問時は閉まっていた。このカフェはボランティアによって運営されている。基本的に必要なものは全て図書館が提供し,ボランティアはカウンター対応のみとのことだった。コーヒーは2カナダドルもしない価格で,非常に手頃である。コーヒー以外に,お菓子,カップ麺,ジュースなども販売している。このカフェと入口を挟んだ反対側にはボランティアの部屋がある。ボランティアは市内で200人(!)ほどが活動しているという3。



ボランティアの部屋の奥には「コミュニティ・インパクト・ラボ」と呼ばれる部屋がある4。ここは地元のYMCAやジョージアン・カレッジのソーシャル・イノベーション学部と連携して設けられた施設で,ソーシャルイノベーションを意図した施設とのことである。学生,研究者,地元企業と連携して,社会課題の解決やビジネスモデルの設計・実践などを行う場とされている。部屋にはアイデアを出し合ったり議論するためのツールがそろっていた。この図書館にはメーカースペースも併設されており,それらを活用した取り組みも期待されているようだった。
「もの」を貸出す「Library of Things」も充実している5。入口の一番目立つところに多数のカードを収納するパンフレット・ラックのようなものが置かれており,そこに多くのパウチされたカードがある。利用者はそれを選び,カウンターで借りる。貸出されているものを見ると,自然観察用のアドベンチャーキット,バードウォッチングキット,ボタンメーカーキット,認知症ケアキット,クリカット・ジョイ,楽器,金属探知機,カラオケマシン,VHSやカセットテープのデジタル化キットなど,非常に種類が多い上に,興味深いものが多い。すべて無料で借りられる。
「Library of Things」横のガラス張りの部屋にはソーシャルワーカー的な仕事をするスタッフ(ヒューマン・サービス・ナビゲーターと呼ばれる)が常駐していた6。月曜から木曜の午前10時から正午までは予約なしで相談が可能である。このスタッフはホームレス,住宅不安,食料不安,貧困,失業,メンタルヘルス,依存症などの問題に対応しているとのことだった。それ以外にも,ケースワーカーが滞在したり,依存症,障害者,住宅支援などに特化した相談を受けるスタッフが滞在する時間も設けられている。図書館ではこれまでもこうした問題に関する情報提供を行ってきたが,専門的なスタッフがいることで,適切な機関やサービスにつなげることができるようになったという。



館内ではDVDも多く所蔵されている。訪問時,実際に複数の利用者がコーナーをブラウジングしていた。図書館ではストリーミングサービスのhooplaも契約しているが,それにより視聴できるタイトルは限られるとのことで,DVDの需要は依然として高いとのことだった。これまで見てきた図書館の中には,ストリーミングへ移行したところもあれば,依然としてDVDなども購入しているところもあった。契約しているストリーミングサービスでカバーできる作品や予算削減の圧力などが方針に影響を与えているように感じた。
図書の購入はWhitehots Incという業者を通じて行われている7。装備を見ると,ハードカバーにはビニールカバーがつけられているが,ペーパーバックにはついていない。裏表紙の内側にはRFIDタグが貼付され,セルフ処理にも対応していた。図書,MARC,装備はセットで購入しているため,納品後すぐに排架可能とのことだった。ILS(図書館システム)はSierraを利用している。しかし,利用者のインターフェースとしてはBiblioCommonsを導入している8。BiblioCommonsは,OPAC上で図書の表紙を効果的に見せるなど,利用者の図書選択を支援する機能が充実している。SierraとBiblioCommonsはAPIで連携している。このようにILSとBiblioCommonsを併用する図書館は北米では多いようである。なお,図書館システムの共用などをコンソーシアムで行っているかを尋ねたところ,そうしたコンソーシアムには参加していないとのことだった
メーカースペースは「クリエイティブ・スペース」と呼ばれている9。利用は材料費を除いて無料である。設置されている機器は豊富だった。3Dプリンター,大判プリンター,ミシン,製本機,フォトプリンター,レーザープリンターなどなど。興味深い点は基本的に利用者に自由に使わせている点である。利用前に講習等の受講は不要で,利用者は予約,または機器が空いていればその場で利用できる。もちろん,機器を学ぶ体制は整っており,オンラインチュートリアルで学習することが推奨されている。また,ワークショップも開催されている。ただし,自分で利用することが原則で,図書館員は初歩的な質問やセットアップのみを支援する。したがって,図書館員はこの部屋の近くに常駐するような体制にはなっていなかった。訪問時,2名ほどが利用していた。



資料の利用,予約,遅延は無料であり,オンタリオ州の他館からの取り寄せも無料である。州内の図書館の図書取り寄せは実際にはお金がかかるが,図書館が負担している。ただし,遅延に関しては,21日以上遅れると利用停止となり弁償しないと再度利用できない。オンタリオ州では,近年,多くの図書館が延滞料を廃止している10。スコットランドでも無料化が推進されていたように,こうした傾向は他国でも見られる。プログラムも充実しており,訪問日の翌日は3館で9件,その翌日は13件のイベントが予定されていた。興味深いプログラムをいくつか挙げると,「クラフトナイト」はクリエイティブ・スペースで10代の若者を対象に18時からもの作りを楽しむもの,「麻雀 meet up」はみんなで麻雀を楽しむもの,「修理カフェ」は修理が必要なものを一緒に修理するもの,「AI検索最適化」はビジネスでAI最適化のためにできることを学ぶもの,などである。最後のものは専門家を招いてオンラインで実施している。
最後に運営面について述べる。オンタリオ州にはPublic Libraries Actがあり11,図書館には,この法律に基づいてBoard of Trusteesが設置されている。この委員会は慈善団体として独立した法人格を持っている12。委員は9名から構成されており,市民7名,議員2名である。委員会の役割は政策指針の決定,市に対する予算要求,運営監督などである13。また,図書館長に当たるCEOの選出も行っている。年8回ほど開催され議事録が公開されている。2025年の議題をざっと見ると,職員の労働問題,予算修正,土地の取得・処分,戦略計画,コレクションポリシーの改定など経営の根幹に関わることが議論されている。日本の図書館協議会のようにサービスのあり方が議論されているのとは大きく異なる印象を受けた。
- https://www.barrielibrary.ca/about-bpl/branches/downtown-branch ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/borrow/library-kiosks ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/about-bpl/volunteering ↩︎
- https://www.barrietoday.com/local-news/new-lab-space-at-downtown-library-to-focus-on-complex-social-problems-9533265, https://barrie360.com/ymca-simcoe-muskoka-georgian-college-barrie-public-library-community-impact-lab/, https://futureofbelonging.ca/ ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/borrow/library-of-things ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/services/social-services-and-supports ↩︎
- https://www.whitehots.com/ ↩︎
- https://www.bibliocommons.com/ ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/services/creative-spaces ↩︎
- https://www.cbc.ca/news/canada/kitchener-waterloo/ontario-libraries-overdue-fine-free-benefits-1.6562304 ↩︎
- https://www.ontario.ca/laws/statute/90p44 ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/about-bpl/about-the-library/policies/bylaws-for-the-regulation-of-the-business-of-the-board.pdf ↩︎
- https://www.barrielibrary.ca/about-bpl/about-the-library/board-of-trustees ↩︎