トロントはオンタリオ州の州都であり,人口はおおよそ300万人である。横浜市と比較すると小さいが,大阪市より少し大きい。カナダにおける経済,文化の中心都市である。トロント公共図書館(TPL)のルーツは1830年代に遡るが,公費による無料図書館が成立したのは1883年である1。1998年にはメトロポリタントロントと6つの自治体が合併してトロント市が成立し,図書館も7つの図書館委員会が統合され,現在のTPLが誕生した。図書館数は100館である。
2023年の統計を見ると,コレクションは1,050万点で,資料貸出は2,499万点(電子資料を含む)である2。うち,貸出資料のうち物理的資料は1,268万点,電子資料は1,231万点である。電子資料の貸出が半分を占めているのが注目される。その内訳は,電子書籍が666万点,電子オーディオブックが330万点,電子雑誌が136万点などとなっている。電子資料を含めた貸出密度は8を超える。単純に比較できるものではないが,よく利用されている図書館である。
来館者も4,600万人と非常に多い。プログラムは年間,34,487回開催され,741,298人が参加している。北米でも有数の来館者数,貸出数,電子書籍利用数を誇る。最近の出来事としては,延滞料徴収の停止(2022年),大規模なサイバー攻撃(2023年),全館での日曜日開館(2025年)などがある。現在は Strategic Plan 2025-2029 に基づいて運営されている。ガバナンスは他のオンタリオ州の公共図書館と同様,図書館委員会(Library Board)が管理している3。図書館委員会は図書館長を任命する。職員数は約2,400人で,うち約1,800人がフルタイムである。巨大組織である。
ここはメトロポリタン・トロント・レファレンス図書館として1977年に開館した。設計は,ノース・ヨーク中央図書館と同様,日系カナダ人のRaymond Moriyamaである。建物の中央部は吹き抜けになっており開放感がある。天井にはガラス窓がある。図書館内は直線だけではなく,曲線を用いた柔らかな造りで,全体として優しい印象を与える。館内の壁は白,階段などはブラウンである。
入口を入ると左手にカフェ「バルザック」があり,いつも混雑している。その隣には「ユースハブ」と呼ばれる10代向けのスペースがある4。ここには職員が常駐している。Teenコーナーも近くにある。ゲートを入るとカウンターがあり,問い合わせを受ける「Info」と貸出カウンターがある。なお,各階にもカウンターがあり,昔の都立中央図書館のようである。1階右手には「インフォメーション・コモンズ」がありPCの台数に圧倒される。ここを含めて全館のPCは240台と,非常に多い。この階にはラーニングセンターと呼ばれる部屋が2つあった。講座が頻繁に開催されている。ワードを使った履歴書作成,高齢者向けの安全なデジタル利用,インターネットの基礎,Python入門,3Dデザイン,Adobe Illustrator入門,人工知能を学ぶ,などがあった。これとは別にデジタルイノベーションハブという部屋があり,3Dプリンタなどが置かれている5。部屋の前にはその制作物が置かれていた。Adaptive Tech Centreは障害者向けの部屋である。その近くには,Browseryと呼ばれる貸出可能な図書を集めたコーナーがある。貸出図書館に相当する。Holdsの棚,自動貸出機も並んでいた。フロア中央は閲覧席である。なお,閲覧席は館全体で1,250席ある。ここにLibrary Settlement Partnershipのコーナーがある6。常に,というわけではないが,利用者が相談をしている姿が見られる。






この階にはTDギャラリーや,除籍資料・寄贈資料を販売するBOOKENDSサウスがある。TDギャラリーでは年4回,特別コレクションの展示が行われる7。訪問時は街の商店における19世紀以降のショッピングバックが展示されていた。ショッピングバッグは図書館員によって収集されてきたものである。こうしたエフェメラを以前から収集してきたのがすごい。BOOKENDSは市民による寄贈資料中心で,来店者が多かった。カウンターにはボランティアが二人座っていた。CD,DVDなども販売されている。1階には閲覧席奥に Beeton Hall と呼ばれる部屋があり,各種イベントや結婚式にも使われる8。訪問していた期間中も,よくイベントが開催されていた。地下には「トロント・スター・ニュース・ルーム」があり,新聞コレクションがあるが,訪問時は一部が4階に移動されているところだった9。他に製本された楽譜や美術関連雑誌の合冊本もあった。



2階は「人文と社会科学」(背ラベルはHSS)のフロアである。この階より上の図書は,基本的に館内閲覧のみである(背にopenshelfとある)。東京都立中央図書館と同様である。この階にはフォート・ヨーク分館で紹介した『Young Voice』の原画などの展示があった。また,Bram & Bluma Appel Salon というイベントスペースがあり,作家やアーティストを招いたトークなどが行われる10。少し上品な感じのスペースである。企業法務に関わる弁護士などを集めたカンファレンスが開催されていた日もあった。トロントのローカルヒストリーコーナーもあり,住所録,地図,議会会議録,家系図調査資料などが並ぶ11。透明な小部屋(POD)も多くある。これは他の階にもあり館全体で15室ある。予約制で常に埋まっていた。3階は「ビジネス,科学,技術」(BST)である。それらの図書以外に,集密書架があり,出版10年以内の雑誌の合冊本がある。Norman G. Hinton Learning Theatre は,壁で仕切られていない空間で,講演・映画・詩など多用途で使われる。使用されていない時は閲覧席である。






4階は「言語と文学」(LANG)である。Jack Rabinovitch Reading Roomがあり12,カナダの代表的な文学賞であるギラー賞関連資料,作家の創作を支援する「The Writers’ Room」などがあるが,訪問時は工事のため閉室していた13。ドナーリストには,Rakuten Kobo & Rakuten Over Driveなどがあった。また,ELS資料が充実しており,レベル別に語学学習の図書が排架されている。これらは借りることができる。多言語コレクションも豊富である。調べてみると,アラビア語,ベンガル語,中国語,クロアチア語,チェコ語,エストニア語,フランス語,ドイツ語,ギリシャ語,グジャラート語,ヘブライ語,イタリア語,日本語,韓国語,クルド語,マケドニア語,マラヤーラム語,パンジャーブ語,ペルシア語,ポーランド語,ポルトガル語,パシュトゥー語,ルーマニア語,ロシア語,サンスクリット語,セルビア語,スペイン語,タガログ語,タミル語,ウクライナ語,ウルドゥー語,ベトナム語,イディッシュ語,先住民諸語,第二言語としてのフランス語のものがあった。日本語資料も多く,図書館情報学関連の図書はなかったが,周辺には『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などが見られた。BENNETT FAMILY FOUNDATION CANADIAN LITERATURE COLLECTIONもこの階にある。これは,カナダ人による文学コレクションを集めたもので,実業家で図書館への貢献が大きかったアヴィ・ベネット氏の名前にちなんで命名されたものである
5階は「芸術」のフロアである。Marilyn & Charles Baillie Special Collections Centreは独立した部屋で14,アーサー・コナン・ドイル関連資料を含む特別コレクションがある。部屋はガラス張りで,閲覧席は円形である。コナンドイルのコレクションの中には,日本語の翻訳図書も見られた。音楽コレクションも充実している15。レコードの視聴用キャレルがある。製本された楽譜も多く4.5万点以上あるという。また,Pictureコレクションがあり,雑誌から切り抜いた画像に件名が付けられ,キャビネット内のフォルダに収められていた。100万点以上あるという。索引はカードになっている。デジタル化もされているが職員のみのアクセスである。中を見てみると,例えば,Rain というフォルダのあとは Rain Acid –> Rainbows —> Rainbows Art といった順番にフォルダが並んでおり,フォルダ内には複数枚の切り抜きが入っている。切り抜きの一枚一枚には蔵書印と一連番号が付されていた。



貸出について,電子書籍の利用が多い印象である。トロント市内の Indigo という書店でベストセラーとして売られていたタイトルをいくつかピックアップして所蔵状況を確認すると,例えば,『The stranger in room six』は紙版46(予約8),電子オーディオブック6(予約51),電子書籍15(予約13),『Girl on girl』は紙版35(予約184),電子オーディオブック23(予約163),電子書籍22(予約64),『One day, everyone will have always been against this』は紙版90(予約436),電子オーディオブック50(予約214),電子書籍45(予約332),大型活字本15(予約49)となっていた。タイトルによって差はあるが,電子資料の利用が進んでいることが分かる。また,最後のタイトルは各種媒体を合わせると200点あるように,それなりに購入していることも分かる。



レファレンス図書館という位置づけで,多くの閲覧席と開架資料があった。貴重な資料も多く所蔵していた。全体に,広く,深く,専門的な資料を閲覧できる点で,東京都立図書館と似ていると感じた。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Toronto_Public_Library, https://www.torontopubliclibrary.ca/about-the-library/library-history/ ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/about-the-library/annual-report-2023.jsp ↩︎
- https://www.policyalternatives.ca/wp-content/uploads/2024/11/MuchMoreThanBooks-1.pdf ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/services/youth-hubs.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/using-the-library/computer-services/innovation-spaces/digital-innovation-hubs.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/new-to-canada/toronto.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/programs-and-classes/exhibits/trl-exhibits.jsp ↩︎
- https://venuerentals.tpl.ca/toronto-reference-library-beaton-room-1-1 ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/books-video-music/specialized-collections/toronto-star-newspaper-centre.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/using-the-library/appel-salon/ ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/history-genealogy/lh-collections.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/services/jack-rabinovitch-reading-room.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/services/the-writers-room.jsp ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/books-video-music/specialized-collections/ ↩︎
- https://www.torontopubliclibrary.ca/books-video-music/specialized-collections/performing-arts-centre-music.jsp ↩︎