オハイオ州では2025年から,図書館への予算配分方式が大きく変更された。これまでは一般歳入基金(GRF)に一定比率をかけて自動的に決まっていたが,州下院が主導して新たに予算項目を設け,通常の予算のように議会で審議して予算額を決定する仕組みに変更された。これにより,政治的意向が反映されやすい仕組みになった。加えて,その際,一部の下院議員から支出の条件が付された。その中には知的自由とも関わるLGBTQ+関連図書の取り扱いに関する規定が含まれていた。ここでは,そのことについて簡単に整理しておきたい。
その話しに入る前に,オハイオの州議会では,近年,図書館の知的自由,そしてそれを守る制度を攻撃する提案が繰り返されている。2024年には共和党議員によって,青少年に「有害」とされる資料を除架しない場合,州予算の支払いを止める法案が提出された1。他にも,「わいせつ」とされる情報を提供した図書館員に刑事罰を科す法案もあった2。また,図書館委員会によるLevyの住民投票提案を制限する法案や,委員任期を7年から4年に短縮する案も審議されてきた3。図書館員への聞き取りでは設置主体をカウンティに一元化する案も出てきているとの話しも聞かれた。これらは図書館委員会の権限を弱め,政治的統制を強めることを意図したものとされている。これらのうち,2025年には実際に委員任期が4年に変更されている。
さて,LGBTQ+関連資料についてである。今回,州知事が提出した予算案に対し,一部共和党議員は予算配分方式の変更とともに,予算支出の条件として「性的指向または性自認や性表現に関連する資料を,主に未成年者の目に触れない図書館の一部に排架すること」を求めた。これは,図書館にあるLGBTQ+関連の蔵書の取り扱いに関する事項であり,まさに知的自由に関わる問題である。下院はこの規定を含めた予算案を可決し,上院に送付した。
その予算案に対して,図書館界は強く反対した。上院の教育委員会などで,図書館員や図書館関係団体が意見を述べ,この条項の問題点を訴えた4。問題とされたのは,文言が曖昧であること,曖昧ゆえに図書館員に大きな負担がかかること,子どもの資料アクセスはこれまでも親がコントロールしてきたこと,未成年者の目に触れないスペースを物理的に確保するのが難しいこと,そして図書館は知的自由が守られるべき場所であること,等である。上院の審議においても最終的にこの条項は残されたまま知事に判断が委ねられた。その後,知事は条文が「曖昧で」「実施困難」であるとして拒否権を発動した5。こうして当該条項は成立しなかった。
米国では図書館の蔵書が政治問題化していることは日本でも知られている。そうした中,コロンバス・メトロポリタン図書館をはじめ,多くの図書館,図書館員,さらにはオハイオ図書館協議会(OLC)など職能団体が知的自由の立場から一貫して反対してきた。このように知的自由を強く主張できる背景の一つには,図書館が政治的にも行政的にも高い自律性を維持できる制度(図書館委員会やLevy)の存在がある。とはいえ,図書館を訪問した際の聞き取りでは,近年の動向に対する懸念が聞かれた。特にGRFの変更(Line-Item化)は大きな衝撃を持って受け止められていた。知的自由の問題をきっかけに,図書館の自律性を危うくする動きが続いていることが懸念される。
- https://ohiocapitaljournal.com/2024/06/05/ohio-republican-proposes-bill-that-would-defund-libraries-over-materials-government-deems-harmful/ ↩︎
- https://www.oft-aft.org/press/oft-opposes-hb-556-and-hb-622 ↩︎
- https://www.statenews.org/government-politics/2025-11-04/bill-would-let-ohio-taxing-authorities-keep-library-levies-off-ballots ↩︎
- https://ohiocapitaljournal.com/2025/05/19/ohio-library-systems-advocates-push-back-on-house-provision-to-hide-certain-materials/ ↩︎
- https://ohiocapitaljournal.com/2025/07/01/ohio-libraries-celebrate-veto-of-budget-measure-censoring-materials/ ↩︎