オハイオ州の視覚障害者等に対するサービス

サウスウェスト公共図書館を訪問した際,障害者サービスに関するパンフレットがあった。内容は,オハイオ州における,視覚障害者や印刷物利用に障害のある人へのサービスを紹介するものであった。ここでは,そのパンフレットの内容を参考にしつつ,クリーブランドにある「オハイオ州視覚障害者及び印刷物利用に障害のある人のための図書館」(OLBPD: Ohio Library for the Blind & Print Disabled)1を訪問して聞いた情報も含めて,オハイオ州の視覚障害者等へのサービスの概要を簡単に整理しておきたい。

オハイオ州では,視覚障害者等に対して,基本的にOLBPDとオハイオ州立図書館が役割分担をしながら,議会図書館(LC)のNLS(後述)と連携してサービスを提供している。このうち,中心的な役割を担っているのはOLBPDであるため,以下ではOLBPDを中心に話を進める。クリーブランド公共図書館では,印刷物利用に障害のある人への貸出サービスを1903年から行ってきた。以前はシンシナティ・ハミルトン・カウンティ公共図書館も同様のサービスを提供していたが,2013年以降,クリーブランド公共図書館に集約された。それまでは,州を北と南に分けて地域分担がなされていたようである。OLBPDの運営費は,クリーブランド公共図書館の予算に加え,連邦政府(LSTA)および州からの資金によって支えられている2

OLBPDでは,資料貸出に加えて,支援機器へのアクセス,各種プログラム,読書案内,レファレンスなども行ってきた。また,OLBPDは,NLS(National Library Service for the Blind and Print Disabled)の地域図書館(regional library)としても位置づけられている3。NLSは,1931年に設立された視覚障害者および身体障害者のための全国的なサービスを実施する機関である。これは,米国議会図書館(LC)の障害者サービス部門にあたる。NLSを介して,全米のサービスは一定程度標準化されており,ここで紹介する内容は,オハイオ州に限らず,他州でも概ね同様に提供されているようである。

利用者がサービスを利用する場合,OLBPDなどを介して資料を郵送で受け取る方法と,BARDを通じてダウンロードする方法があり,いずれも無料で利用できる。BARDとはBraille and Audio Reading Downloadの略称で,点字図書や録音図書を検索しダウンロードできるサービスである4。日本のサピエなどと類似のサービスである。OLBPDを利用して資料を受け取る場合,資料には,録音図書,点字図書,デジタル点字図書などがある。少し古いが,2020年の全種類の貸出点数は,582,317点に上るという5。参考までに人口規模が多少,類似している東京都と比較をしてみる。東京都はオハイオ州より200万人以上,人口が多いが,個人貸出の点数は112,310点に留まっている(2024年度。公共図書館だけの数字)6

専用再生機器と付属品の貸出も行われている7。貸出はオハイオ州立図書館が担当している。これも無償である。利用者は1万人を超える。OLBPDでは,ほかにも,点字の絵本や雑誌,Playaway,音声ガイド付きDVDなどが用意されていた。さらに,点字翻訳,画面拡大,テキスト読み上げのソフトなどへのアクセスや,それらに関する利用支援も行われている。最近では,録音のために新たなスタジオを設置している。これらのサービスの利用資格は,アメリカに居住している人,あるいは海外に居住するアメリカ人で,通常の図書を読むことが困難な人である。具体的には,視覚障害,弱視,図書を把持できない,ページをめくれない,目で文字を追えない,読字に障害があるなどである。

訪問時,教えてもらったこととして,BARDの録音図書を利用するには,専用再生機器のほか,スマートフォンやタブレット,Alexaなどがあるとのことだった。専用再生機器としては,従来よりメモリ(真ん中の写真の手前の薄緑のカートリッジ)を用いた再生機が使われてきたが,最近ではWiFi機能を備えた機種(DA2)が登場している。HumanWare社のVictor Readerの最新機で,WiFiに接続することでBARDから直接コンテンツをダウンロードできる。スマートフォンやタブレットでは,BARD Mobileというアプリが提供されており,資料のダウンロードや再生が可能である。画面上には資料一覧や再生ボタンが表示されるが,視覚障害のある利用者の場合,ボタンの位置が分からない。そのため,iOSのVoiceOverやAndroidのTalkBackといったジェスチャー機能を用いて操作する。この点で,Apple社のOSは高く評価されているようであった。

さらに,Alexaなどのスマートスピーカーを介してBARDの録音図書を読ませることもできる8。実際に操作を見せてもらったが,Alexaに録音図書を再生するよう言葉で命じるだけで,再生が始まった。この仕組みは,Alexaに,NLSが提供する「スキル」を追加することで実現しているという。操作は,口頭による命令(コマンド)によって行われる。録音図書のファイルはAlexa側に保存されるのではなく,BARDサーバー上のデータをストリーミング再生しているとのことであった。仕組みとしては,AmazonのAudibleに近いようである

このように,再生方法にはさまざまな選択肢が用意されている。図書館員の話では,世代ごとに慣れ親しんだデバイスが異なることや,個人の好みがあることから,多様な手段を用意することには意味があるという。現時点では,操作がシンプルで,多くの利用者が慣れていることもあり,Victor Readerのような専用機器がよく使われているとのことであった。

OLBPDを介してサービスを受ける場合,Victor Readerを用いてDAISY形式の録音図書をメモリ(4GB)に入れて利用する形態が主流となっている。日本でまだ利用されているカセットテープを希望する人はほとんどいないという。利用者はBARDを検索したり,図書館から提供される新刊情報等をもとに読みたい資料を選ぶことができる。また,事前にテーマや好みを伝えておくと,図書館員がそれに沿って選書を行い,貸出を行ってくれる。自分でBARDにアクセスし,検索し,再生するといった一連の操作が煩わしい人にとっては,気軽に利用できるサービスである。実際,そうした利用者は非常に多いようである。

興味深かったのは,Victor Reader用のメモリ提供方法である。以前はメモリごとにタイトルを分けて提供していたが,2022年頃から,利用者ごとにオーダーメイドでタイトルをダウンロードして届ける方式に変更されたという。この方式は,要望による複製(DoD: Duplication-on-Demand)と呼ばれている。OLBPDでは,選書した録音図書をBARDからダウンロードし,メモリに書き込む。一度にメモリに入れる件数は,一応24点とされているが,柔軟に運用されている。おそらく24点はラベルで印刷できる最大点数と思われる。一連の作業も見せてもらったが,メモリの初期化,利用者番号に紐づいた録音図書の書き込み,メモリのカートリッジ用ラベルの印刷といった作業は,相当程度自動化されていた。公共図書館の電子書籍と異なり,ライセンス数の制約がない。そのため複製が可能であり,また,物理的な制約もないことから,予約待ちもない。そして,貸出期限も柔軟である。なお,BARDを運用するNLSは米国著作権法121条に基づき,著作物をDAISY形式の録音図書や点字などに媒体変換することが認められている。

一方で,地域の公共図書館が視覚障害者向けのサービスを行っていないわけではない9。大活字本は非常に充実しているし,オーディオブックも市販の物理資料や電子書籍として豊富に揃えられている。通常のDVDの多くも音声解説(Audio Descriptions)がついているし,電子書籍はフォントの拡大が容易である。また,図書館によっては,視覚障害のある利用者のためのPCを提供しているところもある。例えば,サウスウェスト公共図書館では,特別なキーボードを備えたPCが設置されていたし,画面を拡大するソフトなどを導入したPCを備える館も多い10。さらに,多くの図書館では,視覚障害者を含めて外出が困難な利用者に資料を届けるサービスも行っている。

最後に,簡単に日本と比較してみる。日本では,個別の公共図書館が対面朗読や録音図書の提供などの障害者サービスを担っている。その意味では,利用者と近い距離でサービスを提供している。特に,対面朗読を提供している図書館が多い。一方,オハイオ州では,前の段落で述べたことを除くと,OLBPDとオハイオ州立図書館がNLSと連携しながらサービスを提供している。日本が分散型だとすると,オハイオ州は集中型といえよう。

OLBPDのサービスの中心は録音図書の提供である。その中で,日本で言えば,サピエ等と利用者との結節点のような役割を果たしていた。OLBPDは,利用者の要望を聞いてから,データをBARDからダウンロードし,メモリに書き込んで利用者に届けるという流れをシステマティックに構築している点が興味深かった。また,メディアとコンテンツが完全に分離されており,要望があれば予約待ちをすることなく,いくらでも利用できる仕組みが構築されている点も素晴らしい。制度とテクノロジーをうまく使って高度なサービスを展開していたことが印象的だった。

  1. https://cpl.org/location/ohio-library-for-the-blind-print-disabled/ ↩︎
  2. https://library.ohio.gov/home/news-and-events/all-news/state-library-board-awards-olbpd-grant-2025 ↩︎
  3. https://www.loc.gov/nls/, https://en.wikipedia.org/wiki/National_Library_Service_for_the_Blind_and_Print_Disabled ↩︎
  4. https://nlsbard.loc.gov/nlsbardprod/login/NLS ↩︎
  5. https://www.imls.gov/sites/default/files/state-profiles/evals/ohio5yearevaluation.pdf ↩︎
  6. https://www.library.metro.tokyo.lg.jp/lib_info_tokyo/public/survey/ ↩︎
  7. https://library.ohio.gov/residents/special-services/talking-books ↩︎
  8. https://www.loc.gov/nls/how-to-enroll/sign-up-for-bard-and-bard-mobile/welcome-to-my-talking-books/ ↩︎
  9. https://westervillelibrary.org/assistive-technology-accessibility-tools/ ↩︎
  10. https://www.columbuslibrary.org/adaptive-services/ ↩︎