ケンタッキー州フェイエット・カウンティが設置している1。フェイエット・カウンティの図書館数は6館ある。図書館統計を見てみると,職員数は159人であり,うちMLS保持者は32人であった。割合にすると20.1%である。蔵書数は約36.9万点,電子書籍は約7.1万点である。なお,ケンタッキー州には電子書籍の州全体のコンソーシアムであるKentucky Libraries Unboundがあるが,レキシントン公共図書館は参加していない2。統計を見ていると,図書館長の年俸が141,436ドルとのことであった。日本の感覚から言うと非常に高額である。
中央館はレキシントンの中心部にある。1989年に設置された。建物は5階建てである。入口を入ると円形のホールが広がっている。天井からは「フーコーの振り子」が吊るされている3。これは市民からの寄贈によるものである。また,世界最大とされる天井時計も設置されているが,利用者は気づくであろうか。ホールの周囲には展示ケースが置かれ,地域資料などが紹介されている。その中には,この地域の黒人コミュニティに関する資料を集めた「ブラウン・ホッカー・コレクション」もあった。そこでは,そのデジタルコレクションの紹介も行われていた。目につきにくい貴重なコレクションを,もっとも目立つ場所で紹介するという点は,よい工夫だと感じた。



1階には,新刊を紹介するコーナー,展示用のギャラリー,シアターがある。新刊コーナーでは,フィクション,ノンフィクション,児童書,ティーン向け資料,グラフィックノベルなど,各分野の新しい資料のみが並べられていた。特に人気のある新刊を目立つ位置に置くことで,古い資料に埋もれることなく,効率よく利用されるよう配慮されている。シアター(William Stamps Farish Fund Theater)では,音楽,映画,演劇など多様なプログラムが開催されている4。ギャラリーでは地元アーティストの作品が展示されており,訪問時は「森の中へ:野生の生き物」という展示が行われていた。展示作品は販売されているため価格が書かれている。展示期間は6週間とのことであった。



2階は大人向け資料とティーン向け資料のフロアである。ノンフィクションの請求記号は,DDC/著者記号/出版年であった。図書納入については,ベイカー・アンド・テイラーの閉鎖のため,現在,イングラムなどへの切り替えを進めているとのことであった。MARCはOCLCを利用しているほか,それ以外のものも併用しているという。最近は,多数の件名が付与された高品質のMARCでなくても,自然語でヒットすれば十分という利用者も多くなっているのでは,とのことだった。書架は資料を詰め込みすぎず,表紙が見えるよう余裕を持って配架されており,最上段と最下段は使われていなかった。
この階にはPCが10台ほど設置されており,Microsoft Officeなどが入ったラップトップキヨスクもあった。20台中5台が貸出中であった。ノースサイド分館も含めて,レキシントン公共図書館では,ラップトップキヨスクの利用が多い印象を受けた。なお,返却時にはデータは必ず消去されるとのことである。また,DVD,オーディオブック,新聞・雑誌のコーナーもこの階にあったが,新聞・雑誌コーナーは比較的小さく,利用状況に応じて縮小しているとのことであった。
3階は地域資料と系図資料の部屋,そして比較的広い閲覧スペースがあった。ここは静かに利用するスペースとして位置づけられている。興味深かったのは,この大きな閲覧スペースが,もとはレファレンスコーナーであったという点である。ウェブの普及などによりレファレンスサービスへの需要が減少する中で,段階的に縮小され,現在は完全に閲覧スペースとして使われているという。利用者を見てみると,高齢者が隣の公園を眺めていたり,カップルが並んで勉強していたりと,思い思いの利用である。そうした利用者向けに「一度も借りられなかった図書」という特集展示をしていた。



地域資料と系図資料の部屋は「ケンタッキー・ルーム」と呼ばれている5。ここでは,ケンタッキー州およびレキシントンを含むフェイエット・カウンティに関する資料が集められている。市民からの寄贈資料も多い。この部屋の窓には,資料への影響を抑えるための特殊なフィルムが貼られていた。テーマ別のレキシントン歴史索引等がある。新聞のマイクロ資料も所蔵されているが,こちらは2018年までで,それ以降はデジタル化している。図書館における資料のデジタル化はアウトソーシングではなく,書庫内に簡易スタジオを設け,撮影し,デジタル化,OCR処理を行っているとのことであった。古い資料ではOCRの精度が十分でない場合もあり,確認しながら作業を進めているという。
「The Birds of America」の著者であるジョン・ジェームズ・オーデュボンはケンタッキー出身である。ケンタッキー・ルームには彼の図譜が飾られていた。ほかにも関連の資料を所蔵しているという。この部屋の隣には温湿度管理された書庫があり,消火設備も備えられている。ここには貴重資料が多くあるため,書庫の入口付近に,火災時に持ち出すべき資料として,ケースに収められた資料群が置かれていた。



4階は子ども向けフロアである。以前は別の階にあったが,より広いスペースで提供することになり,この階に移った。このフロアには通常の書架のほか,STEM Labと,子どもが比較的自由に遊べるスペースが2か所設けられている。スペースはともにかなり広く,滑り台や乗り物などの遊具がある。小さな子どもにとっては,公園と変わらない空間のようであった。訪問時には,楽しさのあまり大きな声を出し,スタッフに注意されている幼児もいた。また,小さな子どもが遊ぶスペースの近くにはPCが置かれており,保護者がPC作業をしながら,そばで子どもを遊ばせられるよう工夫されていた。児童フロアを重視した改修は,インディアナポリスなど他都市の図書館でも見られる傾向である。



5階は事務室が中心であるが,特に興味深かったのはBoard Roomである。オハイオ州の公共図書館でも図書館委員会向けの部屋は見られたが,ここにも専用の部屋が設けられていた。図書館委員会は月1回程度の開催であるにもかかわらず,なぜ専用室が必要なのかと思っていたが,実際には行政の重要会議などがここで行われているという。部屋は格調高く,椅子も高級なものが使われていることも関係している。この部屋には,図書館のミッション,ビジョン,バリューが掲示されている。図書館委員会は,それを常に目にしながら行われている。
地下にはフレンズ・ブック・セラーがある6。地下に降りると,「こんなスペースが地下にあるのか」と思うほど広いフロアが広がっていた。販売されている図書はジャンルごとに分けられていた。図書館の除籍資料に加え,市民からの寄贈図書も含まれている。見事な図書のクリスマス・タワーもあった。



いくつか興味深い点を述べる。まずシアターで開催されている映画会についてである。シアターでは映画上映も行われており,公開から3か月程度の作品も上映されているという。実際,最近の上映作品には,2025年公開の『F1: The Movie』や『スマーフ』などがある。著作権処理について尋ねたところ,Swank社のサービスを利用しており7,年間のサイトライセンス契約を結べば,大きな金額負担にはならないとのことであった。日本でもこうしたサービスがあると,図書館での映画上映がより充実するのではないだろうか。
二点目として,データベースについてである。図書館ではさまざまなデータベースを提供している。これは Kentucky Virtual Library という取組によるもので,ケンタッキー州立図書館が州全体として一括契約しているデータベースである8。利用時には,データベースにアクセスし,レキシントン公共図書館の利用者情報で認証を行う。認証にはEZproxyが使われており,多くが自宅から利用できる。州で一括契約する仕組みは,オハイオ州の仕組みとよく似ている。
三点目として,STEM Labについてである。STEM Labは Kloiber Foundation の寄付によるもので,3Dプリンタ,小型スタジオ,工作機械(CNCミル)などが設置されていた。訪問時には,3Dプリンタがレゴブロックを「印刷」しており,その様子は部屋の外からも見えるようになっていた。専任の担当職員が配置され,定期的にさまざまなプログラムが開催されていた。バックヤードも見せてもらったが,STEM関連の道具であふれていた。アメリカでは市販の教材や機材が多くあった。分館でもSTEM関連の企画が行われていたが,企画は基本的に各館に任されており,各館の職員が自ら企画を立てているという。それぞれの職員の強みを活かし,知恵を絞って取り組んでいるようだった。
四点目として,戦略計画についてである。戦略計画の決定は図書館委員会の所掌であり,そこが最も重要な役割を果たしているが,図書館内でも策定に向けた各種取組が行われている。図書館には,計画策定を担当する部署(Administrative Team)があり,実務的にはそこが中心となって進めている。策定にあたっては,まず地元の民間企業に調査を委託し,市民,図書館員,関係者への聞き取りをした上で計画案を作成する。その後,図書館委員会や館内で内容を精査しながらまとめていく。さらに,各年ごとに担当部署と調整しながら重点分野の候補を決めるとともに,実施の詳細を詰めているとのことであった。
五点目として,デジタルアーカイブに関する点である。ケンタッキールームにある資料のうち,手書きのものなどはOCRが利用できない。そのため,それらをテキスト化するために,FromThePageというクラウドソーシングのサービスを利用していた9。このサービスでは,ボランティアが書き起こしをする。ちなみに依頼する側は,料金を支払わなければならない。日本で言えば「みんなで翻刻」と類似した取り組みといえるだろう。
- https://www.lexpublib.org/ ↩︎
- https://kyunbound.overdrive.com/ ↩︎
- https://www.worldrecordacademy.org/2023/9/worlds-largest-ceiling-clock-world-record-in-lexington-kentucky-423371 ↩︎
- https://www.lexpublib.org/farish ↩︎
- https://www.lexpublib.org/genealogy-and-local-history ↩︎
- https://www.lexpublib.org/friends ↩︎
- https://www.swank.com/ ↩︎
- https://kyvl.org/ ↩︎
- https://www.fromthepage.com/public_libraries ↩︎