オーストラリアにおいて公共図書館は,連邦政府の所掌事務ではなく州政府の所掌事務である。したがって,公共図書館に関する法律があるとすれば州が定めることになる。ビクトリア州の場合,図書館法として Library Act 1988 はあるが1,その内容は州立図書館(SLV)とその図書館委員会などを中心に規定したものであり,基礎自治体レベルの公共図書館の規定は見当たらない。当然,州と基礎自治体との関係についても明確な規定はない。この点は,都道府県と基礎自治体の関係が図書館法上,明確に示されているわけではない日本の状況と似ている。
オーストラリアの州によっては基礎自治体図書館について比較的細かく規定しているところもあるので,ビクトリア州の法律はそれと対照的である。また,ビクトリア州では,図書館の運営形態が複数存在しているが,それは地方自治法に基づくものであり,日本における指定管理者制度が地方自治法に規定されているのと制度的には似ている。
基礎自治体に関する法律の規定はないが,実質的には州政府や州立図書館は,公共図書館政策に関与している。このうち,州立図書館の関与として重要なのは,公共図書館ビクトリア(PLV)と共同して実施している各種プロジェクトである。これは「協働行動の枠組み」(Framework for Collaborative Action)と呼ばれており,その中核となっているのが,3年ごとに実施される「州全域公共図書館開発プロジェクト」(Statewide Public Library Development Projects)である。現在は2023-2026年のプロジェクトが進行している2。プロジェクトは「健康と幸福のための図書館プログラム」「先住民のための図書館」「未来に備えた図書館」といったテーマで実施されている。
州政府も重要な役割を果たしている。その中でもLocal Government Victoriaは,図書館への財政支援において中核的な存在である。すでに触れたリビング・ライブラリー・インフラ・プログラムに加え,公共図書館資金プログラム(Public Library Funding Program: PLFP)を実施している3。このプログラムは,コレクションの充実,情報技術の整備,アウトリーチプログラムなどを対象とした資金であり,2025〜2026年度には4,810万豪ドルが支出されている。さらに,バンジル・プレイス図書館の事例でも触れたプレミア・リーディング・チャレンジに対する資金提供も行っている。
図書館関連の重要な団体としては,公共図書館ビクトリア(PLV)がある4。この団体には,州内のすべての公共図書館が参加している。組織としては全公図のような存在であろうか。PLVが担っているのは,公共図書館の価値の擁護,情報共有,スキル開発,そして各種プロジェクトの推進などである。価値の擁護という点では,州政府が新たな政策を打ち出した際,図書館界として意見書を提出している。情報共有については,Special Interest Groups(SIGs)と呼ばれる分野別グループの活動がある。児童青少年サービスやコレクションといった分野に加え,ICT,マーケティング・アドボカシー・エンゲージメント,プログラムとパートナーシップ,読者の育成,リソース共有,持続可能性など興味深いテーマが設定されている。プロジェクトとしては,持続可能性に関するポータルサイトの維持,大人向けの読書推進(Warm Winter Read),子ども向けの読書推進(BIG Summer Read),コロナ後の「図書館に戻って」キャンペーンなどがある。このうち,読書活動については,州立図書館と共同で実施している。
図書館ビクトリア(Libraries Victoria)は,主としてリソース共有に取り組んでいる組織である。その起源は2000年代初頭にさかのぼる。共通の統合図書館管理システム(ILMS)の構築を目指した取組から生じたものであった。現在はSirsiDynixと契約を結びILMSを共有している。別に触れたBLUEcloudもこの枠組みの中で運用されている。現在,31の図書館システムが参加している5。最新の図書館ディレクトリによれば,州内には50の図書館システムが存在しているので,その約6割が参加していることになる。このうち,ワンカード会員制度には28の図書館システムが参加している6。ワンカード会員制度は,共通カードのことで,これによって参加図書館の利用者は,あたかも同一の図書館システムであるかのように他図書館システム蔵書への予約が可能となる。このコンソーシアムの管理とサポートは,公共図書館ビクトリア(PLV)が担っている。
基準については,州独自のものはなく,PLVのウェブページではオーストラリア図書館情報協会(ALIA)の基準が紹介されている7。図書館スタッフに関する具体的な規定も見当たらない。
全体としてみると,制度面では州政府と基礎自治体図書館との関係は必ずしも整理されておらず,そもそも基礎自治体図書館を直接規定する法律を欠いている。そのような状況の中で,公共図書館ビクトリア(PLV)が多様な活動を通じて実質的な調整や支援を担っている点は注目される。また,小規模自治体にとって,図書館ビクトリアによるILSを中心とした取組は,運営を支える上で大きな役割を果たしている。
- https://www.legislation.vic.gov.au/in-force/acts/libraries-act-1988/053 ↩︎
- https://www.plv.org.au/projects/statewide-development-projects-2023-2026/ ↩︎
- https://www.localgovernment.vic.gov.au/lgv-funding-programs/public-libraries-funding-program ↩︎
- https://www.plv.org.au/ ↩︎
- https://libsvic.org.au/client/en_AU/default/?rm=USING+OUR+LIBR0|||1|||0|||true#find-a-service ↩︎
- https://libsvic.org.au/client/en_AU/default/?rm=USING+OUR+LIBR0|||1|||0|||true#one-card ↩︎
- https://www.plv.org.au/resources/apla-alia-standards-and-guidelines-2021/ ↩︎