オーストラリアでは,オーストラリア図書館協会(ALIA)が公共図書館の基準及びガイドラインを策定している1。この概要や外形的な特徴については以前触れているので,ここではその基準の中でも特徴的な点,注目される点を整理してみたい。この基準には量的基準と質的基準があるが,ここでは質的基準の特に内容面に注目する。なお,一般的な事項については触れず,興味深い点を中心に見ていく。
質的基準はG1からG14までの項目で構成されており,それぞれ目的,ガイドライン,考慮事項,追加的情報源から成っている。ここではその中でも「ガイドライン」として示されている文言に注目する。この部分の記述レベルが,日本の「望ましい基準」に比較的近いと判断したためである。
まずG2「ガバナンス」である。ここでは図書館が市(Council)の戦略計画,健康・福祉計画,社会・経済計画などに貢献することの重要性が述べられている。日本の実際の計画も自治体の施策における位置づけを強く意識しているし,他国の図書館計画でも同様であるが,日本の「望ましい基準」では関連の記述はあるものの比較的曖昧である。同じくG2では,可能であれば図書館が議会や市民などに対してアドボカシー活動を行うことにも触れている。図書館界ではこの側面が弱いと指摘されることが多い。その意味では,図書館の意義を積極的に地域に発信する必要性を示している点は興味深い。
G3.1「ポリシーと政策」では,ポリシー文書の作成,公開,定期的な見直しについて述べられている。オーストラリアの図書館では多くのポリシーがウェブ上で公開されている。直近で訪問したフランクストン図書館でも,コレクション構築方針,利用規則,来館規則,PC・インターネット利用規程,プライバシー声明などが公開されていた。業務の一貫性や運営の透明性という観点から重要である。日本でも例規集などで公開されていることは多いが,必ずしも利用者がアクセスしやすい形で公開されていないこともある。また定期的な見直しが十分に行われていない場合もあるのではないかと思われる。
G3.4「技術アセットとインフラ」では,フィルタリングや電子的情報のコントロールに関する方針を定めることが示されている。同時に,原則としてオンラインコンテンツの検閲を避けることが述べられている。自由な情報へのアクセスを確保することは図書館の根幹に関わる事項であり,この点を明確に示していることは重要である。G3.6「マーケティングとプロモーション」では,図書館に関するマーケティング計画を策定すること,マーケティング的手法を用いて市民に働きかけること,さらにそのための予算を確保することが示されている。日本の「望ましい基準」でも広報や情報発信については触れられているが,ここではより積極的な働きかけが想定されている。
G3.7「モニタリングと評価」では,通常の評価に加えて,利用者と非利用者を対象とした調査を2年ごとに行うことが示されている。また特定のプログラムに関して必要に応じて調査を行うことも述べられている。日本の基準でも評価についての記述はあるが,「非利用者」という視点はそれほど強く示されていない。
G4.1「コレクション構築・マネージメント」では,コレクション構築方針の策定とその見直しが示されている。そこには知的自由の考え方を含めること,デモグラフィックデータの分析に基づくことなどが述べられている。また2年ごとの見直しも求められている。日本の収集方針でも知的自由には触れられているが,デモグラフィックデータへの言及はあまり見られないかもしれない。このことは,オーストラリアでは移民が多いこととも関係している可能性がある。
G4.3「ILLを含むコレクションへの利用者のアクセス」では,図書館サービスがユニバーサルアクセスの原則に基づくことが述べられている。また利用者にコレクションの内容が分かりやすく伝わるように,例として表紙を見せる展示の重要性が挙げられている。G4.4「地域研究・歴史コレクション」では,地域資料のデジタル化に際してデジタルアーカイブの標準を用いることが示されている。日本の「望ましい基準」では電子化については触れられているが,デジタルアーカイブ標準への言及は見られない。
G6「プログラム」は独立した項目として設けられている。そこではプログラムに関するポリシーや手順を定めること,必要に応じてコミュニティメンバーと連携すること,図書館のリソースと可能な限り結びつけること,さらに定期的に評価することが求められている。プログラムを図書館サービスの中心的活動の一つとして位置づけていることが特徴である。
G7「技術アクセス」では,図書館のコンピュータで一般的なビジネス用ソフトやクリエイティブソフトを利用できるようにすること,印刷やスキャナーを利用できることが示されている。また図書館の情報資源や政府ポータルに利用者がアクセスできるようにトレーニングやサポートを提供することも求められている。実際,こちらの図書館ではオフィスソフトを使って作業をしている利用者をよく見かけるし,作成した文書を印刷している姿も見られる。
G11「職員」では,レファレンスサービス,情報サービス,テクニカルサービスなどの中核的サービスには資格を持つ職員を配置することが示されている。これは認証された図書館学校の学位を持つ職員を想定している。日本では中核的サービスの範囲が明確でないため,このような書き方は難しいかもしれない。ただしオーストラリアでも「such as」と書かれているように,中核的サービスはそれほど厳密に定義されているわけではないようである。
G14「カスタマーサービス」では,資料やプログラムの情報を利用者に伝える際,ウェブサイト,ソーシャルメディア,電子メール,主流メディアなど複数の手段を組み合わせて広報することが示されている。新しいツールを活用して適切に情報が届くようにすることが求められている。
日本の「望ましい基準」と比較すると,そもそも項目として存在しないものもある。また関連する記述があっても内容や重点が異なる場合もある。記述のレベルにも違いがある。こうした基準は歴史的経緯や周辺制度の影響を受ける。そのため単純に日本の図書館にそのまま当てはめることはできない。しかし「現代」の「図書館」という観点では共通する部分もある。新たな基準を考える際の手がかりの一つになるのではないか。
- https://read.alia.org.au/apla-alia-standards-and-guidelines-australian-public-libraries-may-2021 ↩︎