2005年にニーダーザクセン州立図書館から現在の名称に変更された1。略称はGWLBである。ニーダーザクセン州には他に2館の州立図書館が存在する。この図書館のルーツとなるゲルフ家宮廷図書館は1665年,ヨハン・フリードリヒ侯爵によって設立された。それから間もなく,1676年から1716年までの40年間,ライプニッツがこの図書館の図書館長を務めた。他の州立図書館と同様,学術図書館であり,一般向けの資料を提供する市立図書館とは一線を画す。現在の図書館に直接つながる建物は1976年に建設された。それまでは州の文書館などと同じ建物にあったようである。2003年まではハノーファー大学の学部図書館の運営も担っていたが,それらは現在は大学に移管されている。
建物は無骨だが,洗練されている印象である。2015年に改修され,コンクリートがむき出しになった部分がある。神奈川県立図書館旧本館を思い出す。公式ウェブによれば,所蔵資料は200万点以上である。開架されているのは一部で,多くは閉架から請求する。入口近くにはレクチャールームがある。また,ライプニッツの大きな顔が来館者を見つめている。館内は展示が非常に充実している。以前は資料を展示するスペースが十分ではなかったが,改修によって整備された。そもそもこの図書館は,ユネスコ記憶遺産に登録されている資料など「世界レベル」の資料を多く所蔵している。8世紀から9世紀のモンゼーア断片,多くのインキュナブラ,ライプニッツの所蔵品などがある。また,彼が仕えたイギリス王ジョージ2世の時期の資料も充実している。訪問時には,6メートルにおよぶ羊皮紙の巻物「エステル記」が展示されていた。
なんといっても,この図書館コレクションの特徴のひとつは,ライプニッツ関連資料である。コレクションの一つであるライプニッツの書簡はユネスコ記憶遺産に登録されている。訪問時には数学に加え,植物,鉱山,動物など多才なライプニッツの業績を示す資料が展示されていた。ライプニッツが発明した機械式計算機も展示されている。書簡や原稿はほぼすべてデジタル化されているという。興味深かったのは,ライプニッツが破り捨てた原稿の断片を復元する作業についてである。紙片の復元には大変な手間がかかるが,それを可能にしたのは,東ドイツの秘密警察を所管していた国家保安省シュタージが破棄した文書を復元する際に開発された技術とのことであった。
もうひとつ注目すべき資料が,ミャンマーの資料である2。当時のビルマ王アランパヤがジョージ2世に手紙を送った。その手紙は,24個のルビーがちりばめられた純金の板に,あの丸々のミャンマーの文字が刻まれている。これもユネスコ記憶遺産に登録されている。
いくつか興味深い点を述べる。まず,この図書館は,州の法定納本法に基づき納本図書館としての役割を担っている3。そのため,州内で出版された資料を網羅的に収集してきた。これに基づきニーダーザクセン書誌が作られる4。納本制度の歴史は古く,1737年にさかのぼる。当初は検閲と結びついた制度であった。近年は法律が改正され,電子データやウェブサイトなど無形データの納本も義務化された。違反した場合,最高5,000ユーロの罰金が科される。
資料収集は人文科学や社会科学が中心である5。特に,歴史,神学・宗教学,哲学,ドイツ語学,社会科学などに重点が置かれている。これらのうち専門性が高い資料を収集している。日本の都道府県立図書館と比較して,より学術的な資料を収集している印象である。子どもの読書推進にも力を入れている,ニーダーザクセン州読書促進アカデミーの拠点館として,研修講師の派遣,読書推進プログラムの提供,保育所や学校,図書館の専門家向けの研修なども行っている。
分類は学術図書館独自の方式を用いている。また,一部の発行後間もない図書には館独自の分類記号が付けられている。この図書館はドイツ国内のK10plusと呼ばれる書誌ユーティリティに参加している。これは2019年に図書館サービスセンター(BSZ)と共通図書館ネットワーク(VZG)が統合してできたものである。ドイツ最大の共同目録システムで,研究図書館や大学図書館を対象としたものである。
過去の目録を見せてもらったが,普通の図書館のようなカード式ではなく,カードを束ねた冊子を箱に入れて管理する方式だった。それが壁一面に整然と並んでいる。ドイツ特有のKasten-Katalogと呼ばれるもので,シュレッティンガーの跡を継ぐプロイセンの図書館員たち,特にFriedrich Althoffが普及に大きな役割を果たしたとされる。彼は書架で天井を支える建築様式を導入した人物としても知られているようである。
一般向けの市立図書館との関係についてだが,日本の感覚で州立図書館は市立図書館を支援していると想像して訪問した。しかしこの図書館は,実際には研究志向が強く,日本で言えば大学図書館や文書館により近い存在のようであった。市立図書館などへの協力は全くないわけではないが限定的であり,研究支援,納本図書館としての機能,州内の歴史資料や地域資料の収集・組織化が活動の中心となっていた。






- https://www.gwlb.de/home, https://de.wikipedia.org/wiki/Gottfried_Wilhelm_Leibniz_Bibliothek_%E2%80%93_Nieders%C3%A4chsische_Landesbibliothek ↩︎
- https://www.gwlb.de/die-bibliothek/weltdokumentenerbe ↩︎
- https://www.gwlb.de/die-bibliothek/pflichtexemplarrecht/, https://voris.wolterskluwer-online.de/browse/document/ea05645d-00c8-3da2-a21c-808b4170a41d ↩︎
- https://www.gwlb.de/niedersachsen/niedersaechsische-bibliographie ↩︎
- https://www.gwlb.de/leibniz/arbeitsschwerpunkte-projekte/leibinz-forschungsbibliothek-und-leibniz-bibliographie ↩︎