マンチェスター中央図書館

街の中心にある1。建物の前は広場で多くの人が行き交っている。図書館は,ローマのパンテオンに着想を得たという荘厳な建物である2。1934年に建設され,2014年に改修された。グレードIIの指定建造物である。マンチェスターは1850年の公共図書館法成立後,最初に図書館を設置した自治体である3。マンチェスターの図書館の基本データは表のとおりである。イベント開催回数と参加者数は多い。また,来館者密度も高い。入口上の吹き抜けになっている1階では「図書館175周年: 1850年公共図書館法制定175周年を祝う」という展示が行われていた。ちなみにこの図書館の初代司書はエドワード・エドワーズである。入口両脇の礎石は1930年にラムゼイ・マクドナルド首相によって置かれた。説明によれば,来館者は1日5,000人を超え,年間200万人以上と多い。

Manchester 人口 図書館数 1館あたり人口 住民利用率 イベント開催回数(1館/1週間)
589,670 28 21,060 15.8% 8.6
イベント参加者数(1館1週間) 貸出密度 貸出密度(ebook含む) 来館者密度 1館あたりPC台数
140.9 1.4 1.6 4.8 18.1

入口を入ると,シェークスピアホールである。ここの窓には美しいステンドグラスがある。シェークスピアが中央に描かれ,その周りには戯曲の場面が描かれている。天井にはマンチェスター周辺の教区や侯爵の紋章が並んでいる。これも素晴らしい。左側の階段には大理石像「読書する少女」が置かれている。さらに,「働き蜂」のオブジェもある。産業革命期の「世界の工場」に由来するマンチェスター市のシンボルである。寄付のお願いもある。現金を入れるものではなくタッチ式であった。タッチすると3ポンド寄付できる。

グラウンドフロアはカフェ,観光案内,Archive+,パフォーマンススペースなどが並ぶ。ここは以前,書架が並んでいたが,改修後,大きく姿を変えた。カフェは混雑している。ビジターインフォメーションセンターでは,観光関連のリーフレットや地図の他,スタッフが作ったツアー一覧などがあり役立つ。また,主要観光地の写真や案内をまとめたクリアファイルも置いてある。これを熱心に見ている女性がいた。図書館自体が観光客を引きつける場所なので,こうしたサービスはとても有効である。ここにはライブラリーショップもある。

「Archives+」では地域の歴史を体感できる4。まず,Sound + Visionと書かれた視聴覚ブースでは North West Film Archive(NWFA)や BFI Replay のコンテンツを視聴できたり,グレーター・マンチェスターの方言を聞くこともできる。NWFAとはイングランド北西部の映像を6万点収集しているアーカイブである5。BFI Replayは公共図書館限定でアクセス可能な国立映像アーカイブなどの映像を見られるサービスである6。タッチスクリーンもあり,昔の写真や音声を閲覧したり聞いたりできる。Piccadilly Radio Archive という地域ラジオ局のアーカイブもある。図書館では,その音源をデジタル化してここで公開している。図書館資料としては,ローカル・ヒストリー・レファレンス(貸出不可)とローカル・ヒストリー・レンディング(貸出可)がある。貴重書を閲覧できる特別探索ルームや,ファミリーヒストリー調査に利用できるマイクロフィルムもある。フロア中央部分から上を見ると,閲覧室の天井がガラスをとおして見通せる。これは上の階にある閲覧室中央の旧出納コーナーの床がガラス張りになっているためである。

イベント用の「パフォーマンススペース」は3部屋ある。2025年10月には文学フェスティバルなどが開催される。文学フェスティバルでは,著名な作家を国内外から招いている。日本からは村田沙耶香氏が招待されている。他に展示として,「Acting up 40 years of HIV activism」という企画展が行われていた。全体として,来館者が行き交う図書館1階を,ローカルヒストリのアーカイブを中心にして,パフォーマンススペース,展示,カフェ,ビジターインフォメーションセンターなど一般の図書館と異なる空間作りをしている点が興味深かった。

地下の隣接スペースには「City Library」と呼ばれるレンディングライブラリーがある。フィクション,一般書,グラフィックノベル,PCコーナーなどが並ぶ。入口付近には女子ラグビーワールドカップの特集展示があった。ちなみに図書館では毎月1回,40分ほどのPodcast「Full Volume」を配信している7。図書館のイベントなどを紹介するもので,8月はこの展示に関連した内容を中心にしたものであった。児童室もある。お話会は頻繁に開催されており,小さい子向けやウクライナ語,イタリア語,スペイン語のものもある。奥には Ahmed Iqbal Ullah Race Relations Resource Center の蔵書がある8。これは,黒人を中心とする民族資料を集めたものである。センターはマンチェスター大学が設置したものだが,蔵書はここで公開されている。大学図書館蔵書の乗り入れは,文脈は違うがクローリー図書館でも見られたものである

図書館では多様なプログラムを実施している9。当日,目についたものとしては,「ぬいものクラブ」があった。15名ほど参加者がおり男性もいた。賑やかで楽しそうだった。ウクライナ移民向け相談会もあった。相談会告知のボードには精神的サポート,住宅問題,資格,緊急補助などが内容として挙げられていた。ちなみに9月4日から9月9日まで,マンチェスターではジャパンウィークが開催されており,図書館でも様々なイベントが開催されていた10

この上の階は,実は別のビル(タウンホール)なのだが,1階部分は図書館施設でコワーキングスペース「Generator」がある11。これは英国図書館と連携したBIPCが展開するものである。内部は,日本にもあるような少し高級なコワーキングスペースであった。1日12ポンドで利用できる。zoom会議などができるポッド型スペースやデジタル機器の貸出も行われている。ちなみに,先日,ロンドンのチェルシーの図書館に行ったが,そこにもコワーキングスペースがあった12。そこもやはり図書館とはある程度独立した形で運営されていた。こうした施設の設置は他でも見られた。今後も進むのであろうか。

図書館とタウンホールの間には「ライブラリー・ウォーク」と呼ばれるガラス張りの空間がある。その床に,赤く光っているライトがある。ライトには「メアリー・ヘイズ」と書かれている。これは,1819年に,選挙法改正を求めた民衆を弾圧した事件があり,メアリー・ヘイズは,その際亡くなった女性である13

入口から階段を上って1階に入ると,巨大なウォルフソン閲覧室(Wolfson Reading Room)がある。中央には先述した出納スペースがあり,図書用エレベーターも残されている。4階まで吹き抜けの天井から光が差し込み明るい。周囲には逐次刊行物が並んでいる。室内では,企画展「LGBT財団 クィアの希望と喜びの50年展」が開かれていた。この空間は本当にすばらしい。同じ階にはヘンリー・ワトソン音楽図書館がある14。音楽図書館内には演奏会ができるスペースもある。閲覧室の周囲では「パンク:反逆の芸術」展が行われていた。

閲覧室があるため,2階以上はそれを取り囲む形で施設がある。2階にはインフォメーション&ビジネスがあり,英国図書館と連携したBIPCが設置されている。ここでは多様な資料やプログラムが提供され,3Dプリンター(工業製品試作用)も備えられていた15。4階はレファレンスブックのコーナーで集密書架になっている。ここは,日本で言うレファレンスブックだけではなく,調査研究に使う図書が置いてある。

バックスペースも案内してもらった。開館当時から残る格調高い会議室がある。スタッフの部屋は大部屋で,様々な担当者が一緒に働いている。担当ごとに部屋が分かれている大陸系の図書館のバックスペースとは異なる。休憩室はやはり広い。資料のデジタル化や修繕を行う部屋もあった。グラウンドフロアには逐次刊行物の書庫,地下には24/7で換気された書庫がある。シェイクスピア第二フォリオ(1632年)や14世紀の写本を見せてもらった。ちなみに,ロンドン大火で多くが失われた第三フォリオの方が貴重とのことだった。こうした貴重な資料が市立図書館に,普通にあることに改めて驚かされる。

  1. https://www.manchester.gov.uk/info/500138/central_library ↩︎
  2. https://en.m.wikipedia.org/wiki/Manchester_Central_Library ↩︎
  3. https://www.manchester.gov.uk/info/500325/central_library_building/4586/history_of_central_library ↩︎
  4. https://www.manchester.gov.uk/info/448/archives_and_local_history ↩︎
  5. https://www.mmu.ac.uk/north-west-film-archive, https://en.wikipedia.org/wiki/North_West_Film_Archive ↩︎
  6. https://www.bfi.org.uk/bfi-replay ↩︎
  7. https://www.manchester.gov.uk/news/article/9628/manchester_libraries_launch_brand_new_monthly_podcast_full_volume ↩︎
  8. https://www.racearchive.org.uk/ ↩︎
  9. https://librarylive.co.uk/ ↩︎
  10. https://manchesterjapan.com/japan-week-programme/ ↩︎
  11. https://generatormcr.org/ ↩︎
  12. https://www.rbkc.gov.uk/libraries-0/room-hire/kc-co-works ↩︎
  13. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%99%90%E6%AE%BA ↩︎
  14. https://www.manchester.gov.uk/info/500138/central_library/6316/what_you_can_do_at_central_library ↩︎
  15. https://www.manchester.gov.uk/info/500138/central_library/6316/what_you_can_do_at_central_library/3 ↩︎