スコットランドの図書館評価

日本の図書館法第7条の3は,「図書館は、当該図書館の運営の状況について評価を行うとともに、その結果に基づき図書館の運営の改善を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と定めている。多くの公共図書館ではこの規定に基づき図書館評価を実施しているが,実施方法は図書館によって異なっている。

一方,スコットランドにはスコットランド図書館・情報協議会(The Scottish Library and Information Council: SLIC)があり,この機関が「How good is our public library service?」(HGIPLS)という評価フレームワークを開発している1。公共図書館がこれを使用する義務はないが,実際にはこの枠組みを参考に評価をしている図書館もある。ここでは,HGIPLSがどのような評価方法を提案しているか簡単に紹介する。

HGIPLSはSLICによって開発された図書館評価のフレームワークであり,ヨーロッパ品質経営財団(EFQM)の組織改善フレームワークで用いているRADARアプローチ(Results, Approach, Deployment, Assessment and Refinement)を参考にしている。もともとは2007年に策定された「公共図書館品質改善マトリックス」が原型であり,2022年に改訂された最新版では,従来の5つの品質指標(Quality indicator)が3つに簡略化された。その3つは,「読書のサポート」「学習のサポート」「コミュニティの関与」である。評価はこれらの品質指標を6段階で行う。

評価の手順は次のとおりである2。まず,どの品質指標を評価するか図書館が自ら決定する。評価する事項は,個々の図書館で選択できるようになっている。次に,定量的・定性的なエビデンスを収集する。定量的なデータは数値で表されるもので,定性的なデータは利用者からのフィードバックや個別の利用者の変化など,構造化されていない情報などを指す。その上で「だから何?」という問いを立て,図書館の達成を明確化する。続いて,現実的な評価を6段階で下し,自己評価レポート(最大8ページ)を作成する。こうした活動では,できるだけ多くの図書館員の参加が推奨されている。最後に,ピアレビューを受ける。評価者はスコットランドの図書館職員3名から選出され,1日かけて訪問・面談・証拠の確認などが行われる。評価者には事前に改善点を含む自己評価レポートを送付しておき,評価者はそれをもとに評価を行い,レビュー結果を2〜3ページでまとめる。

各品質指標には主要テーマが設定されており,それに基づいてエビデンスを示すことが求められている。たとえば「読書のサポート」では,次の4つのテーマが示されている。

  1. 図書館は,変化するニーズに応える高品質な物理的・デジタル空間を備えている
  2. 図書館は,資料・サービス・プログラムの充足性,範囲,適切性の面で多様なニーズを持つ人々に対応する
  3. 図書館は,信頼性が高く正確な情報へのアクセスを通じて,人々が情報に基づいた選択を行えるよう支援し,積極的な市民参加を促進する
  4. 図書館は,地域および全国的な取り組みを通じて,読書・リテラシー・数理能力の育成に主要な貢献者となる

全体的に幅を持たせたテーマ設定である。これらのテーマには考慮事項も示されており,「ニーズをどのように特定しているか」など,具体的な証拠を示す際の手がかりとしている。

HGIPLSは評価手法を標準化することで,図書館の評価活動を支援する仕組みといえる。テーマは比較的抽象的であるため,各館の実情に合わせた柔軟な運用が可能である。また,定性的評価を認めている点や,「だから何?」と問うことでインパクトの可視化を促す点など,注目すべき特徴が多い。日本の公共図書館では評価活動が標準化されていない。評価事項,評価手法などを標準化したフレームワークを用意することは,日本の図書館にとっても有益な取り組みとなるのではないだろうか。

  1. https://scottishlibraries.org/how-good-is-our-public-library-service/ ↩︎
  2. https://scottishlibraries.org/how-good-is-our-public-library-service/how-good-is-our-public-library-the-framework/ ↩︎