トロント公共図書館(TPL)では2025年から2029年にかけての戦略計画を策定しており,今後どのような分野に力を振り向けていくのかが分かる1。ここでは,この計画の概要を見てみたい。計画は公式ウェブサイトで公開されている。
ミッションでは,図書館は「無料で平等なサービスへのアクセスを提供する」としており,利用者を歓迎し,支援する環境を用意することを掲げている。また,図書館は「広範な人類の知識,経験,情報,アイデアを保存するとともに,それらに対するユニバーサル・アクセスを促進する」としている。ここでは知識,情報へのアクセスだけではなく,経験やアイデアを含めている点がおもしろい。価値(Value)として示されているのは,「公平性,多様性,知的自由,革新性,包摂性,誠実さ,説明責任,サービス志向」である。こうした価値を明示することは,図書館の基本的姿勢を伝える上で有効である。
計画の中心となる戦略的優先事項としては4点が挙げられている。第1は社会的つながり,市民参加,民主主義である。急速な技術革新,誤情報や偽情報の拡散,社会的孤立などの問題意識が示されており,社会的つながりを生み出し,対話を促し,批判的思考の機会を設ける方針が示されている。このためにTPLではそうした課題に有効なプログラムを開発,実施することがうたわれている。
第2はコミュニティスペースの共有である。人口増加や生活空間の狭小化にともない,包摂的なサードプレイスが縮小しているとされている。そして,人々を歓迎し,安全で包摂的,持続可能な多機能環境を提供することが挙げられている。また,協働学習や静かな学習など,地域のニーズに応じた空間を整備することが示されている。屋外の空間整備にも触れられている。日本の図書館の文脈で市民の過ごせる場所というと,「自習スペース」の問題に帰着しがちであるが,ここでは,より広い社会的文脈から場所のあり方を議論している。
第3は学習と成長である。生活費や教育費の高騰によって低所得者層が必要なスキルを獲得しにくくなっていること,さらにパンデミックによる識字格差の拡大が問題として挙げられている。図書館はあらゆる年齢層に学習機会を提供し,職業的スキルやAIへの対応を支援するとしている。具体的には,読み聞かせやリーディングプログラムの強化,対面・オンラインでの学習機会の確保,AI関連のプログラム提供などが挙げられている。
第4は活動の認知拡大と利用可能性である。図書館サービスは必ずしも広く知られているわけではないし,利用しやすいかといえば必ずしもそうとは言えない。そのため,図書館の認知度を高め,利用可能性を向上させるとしている。具体的には,新規・既存利用者への働きかけ,開館時間の拡大,資料の待ち時間の短縮などが挙げられている。
全体として感じるのは,戦略的優先事項を図書館を取り巻く大きな社会課題と結びつけている点である。そのことにより,図書館の計画をSDGsやトロント市の各種計画と関係づけることを容易にしている。実際,それらとの関係性が図で示されている。取り組む内容としては,プログラムの開発や実施,空間の使い方,開館時間などが強調されており,コレクション構築や情報へのアクセスといった要素はあまりに前面に出ていない。ただ,図書館の活動状況を示した図では,来館者数,貸出点数,プログラム実施数,テクノロジー利用数(WiFiやPC),質問回答数,ユースハブ来場者数,などが示されており,決して軽視しているわけではない。
- https://www.torontopubliclibrary.ca/about-the-library/strat-annual.jsp ↩︎