シンシナティ・ハミルトン郡公共図書館では,2019年に施設整備計画の策定を「次世代図書館構築」プロジェクトとして進めた1。これは,全館を対象とした中長期的な施設マスタープランで,10年間にわたる施設改善の方向性を示すものである2。
計画の策定にあたっては,すべての図書館で市民の声を聞く機会が設けられた。そこでは,フォーカスグループインタビューやワークショップが実施された。そして,3,000人以上の市民から意見が集められた。その結果を踏まえ施設整備計画がまとめられている。整備の財源としては,2018年に住民投票によって承認された1ミルのLevyが用いられる。これは10年間限定の増税である。年間の施設整備費は約1,900万ドルである。
計画全体の方向性として掲げられているのは,持続可能性,最先端の図書館,多様性と包摂性,透明性,顧客重視,アクセスの最大化である。いずれも,近年の公共図書館政策において重視されている観点と言える。
各図書館については,整備の基本的方向性が,以下の類型で示されている。メンテナンス,アクセシビリティ向上,内部空間の改善,戦略的投資,移転・新築,である。例えば,ハイドパーク分館では,「アクセシビリティ向上」が示されており,施設の老朽化,とりわけエレベーターの改善などが必要とされていた。
また,計画では,41館を規模に応じて,中央館,大型館,通常館,近隣館の4類型に分類し,あわせて5つの地域に区分している。この整理によって,各館に求められる機能や役割が導き出されている。5つの地域ごとに,人口の動向,人種的構成などの特徴も整理され,各地域毎に特定の機能(例えばメーカースペース)などの利用可能性なども整理している。ハイドパーク分館は「近隣館」に位置づけられており,整備される機能は限定的なものとなっている。
各館の方針は,施設の現況,コミュニティからの要望,専門的知見に基づく推奨,長期的ビジョンなどとして示されている。ハイドパーク分館の場合,「施設の現況」では,予約資料ピックアップの短時間利用が多いとされている。「コミュニティからの要望」については,魅力的な空間にしてほしい,既存の建物を維持してほしい(ここはカーネギー図書館),利用時の安全性に配慮してほしい,といった要望が挙げられていた。もちろん,ADA(アメリカ障害者法)に基づくアクセシビリティ確保など,現行の法的規制に対応する改修が前提である。
この計画で興味深いのは,単に老朽化対策や法令対応として施設を更新するだけでなく,図書館の規模や周辺館との関係を踏まえて,各館に求められる役割や機能を明確にしている点である。あわせて,利用者の意見や地域の利用者層を丁寧に分析している点も重要である。その上で,現代の図書館利用の実態に即した施設整備を進めていることが,計画の特徴といえる。