LAカウンティ図書館の図書館制度

ロサンゼルス市は,非常に複雑な行政区域を持つ自治体であり,市域の内部に別の市が存在したりしている。ウェストハリウッド市も,そのような市の一つである。ウェストハリウッド市は制度的には独自の図書館を持たず,市内にはロサンゼルス・カウンティの図書館が設置されている。カウンティは市よりも広域の自治体であり,カリフォルニア州では州内全域がいずれかのカウンティに属している。

ここでは,ロサンゼルス・カウンティ(以下,LAカウンティ)の図書館制度について整理しておきたい。思い返せば,日本の図書館法成立に大きな影響を与えたとされるキーニー(Philip Olin Keeney)はカリフォルニア州にいたこともあり,日本の図書館構想には,カリフォルニア州の図書館制度の影響が見られるとも言われている1。もちろん現在のカリフォルニア州の図書館の制度・状況は,当時とは異なっているが,歴史的には接点があった。

カウンティの図書館制度については,州法によって規定されている。カリフォルニア州教育法典(California Education Code)では,タイトル1,ディビジョン1,パート11が図書館に関する規定であり,設置主体ごとに条文が設けられている。第6章では郡立自由図書館(County Free Libraries)について定められている2。Article 1ではカウンティ図書館の設立,民間委託の制限,市との契約,リバーサイド・カウンティに関する特例などが規定されている。Article 2では図書館長の任命と地位,資格要件,職務および権限が示され,Article 3では管理委員会の役割,広域的な監督,財政に関する事項が定められている。

州法とは別に,LAカウンティには,図書館委員会に相当する機関としてLibrary Commissionが設置されている3。ここでは,これを図書館委員会と呼ぶ。この図書館委員会は,政策,管理,運営,サービスなどについて,管理委員会(Board of Supervisors)および図書館に対して助言を行う。ここで注意が必要なのは図書館委員会と「管理委員会」は別の機関であることである。

管理委員会は,5名から構成されるカウンティの最高意思決定機関であり,立法,行政,司法の機能を兼ね備えている。管理委員は5つの選挙区から選挙で選ばれる。所掌分野は広範であり,図書館はその一分野に過ぎない。図書館委員会は,管理委員会の助言機関であり,市民意見の聴取や,さまざまな課題に対する提案・勧告も行うが,意思決定の権限は持たない。

図書館委員会は20名で構成されている。内訳は,市から10名,カウンティから10名である。市側の委員については,選考委員会が設けられ,各市の市議会議員の中から選出される。カウンティ側の委員は,5名の管理委員が2名ずつ選出する。このように,市が存在する地域と,それ以外の地域があるため,それぞれから,しかも同数の委員が選ばれるようになっている。委員会は,原則として2か月ごとに開催されている。

なお,図書館を設置できる市は,自前で図書館を運営しない場合,州法に基づきカウンティと契約を結ぶことで,図書館サービスを住民に提供できる仕組みとなっている4。市であるにも関わらずカウンティの図書館が設置されているところはこうした形態でサービスを提供している。前述したウェストハリウッド市も,この方式を採用している。

図書館予算は,固定資産税に基づいて図書館費が規定されており,これが徴収される。徴収された財源は,カウンティの一般財源となり,管理委員会が最終的な予算を決定する。なお,カリフォルニア州では,「提案(proposition)13」により,図書館が大きな影響を受けたことが知られている。これは,1978年に住民投票で可決された憲法改正案で,州が徴収できる固定資産税を大幅に減額するものであった。この影響は図書館に限ったものではなかったが,図書館も深刻な危機に直面した5。その後,減少した固定資産税の配分については州法であるAssembly Bill 8(AB 8)によって規定された。ここでは,当時の自治体ごとの配分状況を基準とした比率で徴収するとされた。この方式は,現在においても基本的に有効である。

固定資産税を基準とする方式では,裕福な自治体は多くの予算を確保することができるが,貧しい自治体では不十分な予算水準が恒常化する(図書館予算も同様)。特に,オハイオ州のように州による助成金がないと,自治体の徴税能力の違いがそのまま図書館サービスに反映してしまう6。このことは,LAカウンティに限らずカリフォルニア州全体の問題である。

職員制度については,基本的にカウンティが担っている7。ライブラリアンは I からVまでのランクが設定されており,数字が大きくなるにしたがって,求められる職責と水準が高くなる。例えば,ライブラリアンIIIは中規模図書館の管理運営を担うが,ライブラリアンVは大規模図書館の責任者である。ライブラリアンにはALA認定のMLSが求められる。実際の公募を見てみると,ライブラリアンIIIなどの職位では,LAカウンティ図書館等でライブラリアン II として1年以上勤務した経験などが要件とされている。こうしたランク付けは,図書館への聞き取りでは多くの図書館で共通しているようで,相当する職務に就いている他図書館システムのライブラリアンも応募できるようである。

ライブラリアン以外にも,排架などを担当するパブリックサービス支援職,情報技術面を支援する職,運営サポートの職などがある。統計によれば,職員数は868名であり,うちALA-MLS保持者は269名であった。詳細な運用までは不明であるが,オハイオ州のように図書館が主導する人事制度とは異なるようである。

全体として,カリフォルニア州のカウンティの図書館制度はオハイオ州と大きく異なることが分かった。アメリカは広い。そして,カリフォルニア州内でも,市とカウンティとでは異なる制度である点も興味深い。ただ,カウンティによって州内全域に図書館サービスが提供されている点は重要である。日本でも今後,都道府県が市町村の各種事務を補完することが進み,図書館もそうした事務となるかもしれない。LAカウンティの事例は,住民意見の反映方法や負担のあり方などで参考になるかもしれない。

  1. 三浦太郎. (2000). 占領期初代図書館担当官キーニーの来日・帰国の経緯および彼の事績について. 日本図書館情報学会誌45(4), 141-154. ↩︎
  2. https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displayexpandedbranch.xhtml?tocCode=EDC&division=1.&title=1.&part=11.&chapter=5.&article= ↩︎
  3. https://lacountylibrary.org/library-commission/ ↩︎
  4. https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/37615/files/201321652_master%20thesis.pdf ↩︎
  5. https://current.ndl.go.jp/book/14425, 水上柚香子(2015). 米国における公共図書館サービスとアウトソーシング, https://www.slis.tsukuba.ac.jp/grad/assets/files/pub/2014/s1321652.pdf ↩︎
  6. https://www.visaliatimesdelta.com/story/news/2022/09/20/california-cities-towns-only-get-libraries-they-can-afford-proposition-13-hurts-library-funding/10435925002/ ↩︎
  7. https://lacountylibrary.org/career-opportunities/ ↩︎