日本の都道府県立図書館は,県民に対する直接サービスとともに,県内公立図書館を支援する役割を担っている。国立国会図書館と基礎自治体の図書館の間に位置する存在である。一方,ビクトリア州立図書館も,国立図書館と基礎自治体の間に位置する存在である。この点を見ると,州立図書館は日本の都道府県立図書館と似た位置づけにある。ここでは,ビクトリア州立図書館の活動を特に基礎自治体図書館への支援という観点から見てみたい。
まず,ビクトリア州立図書館の制度的位置づけを確認しておく。ビクトリア州立図書館は,すでに述べたように「図書館法 1988」(Libraries Act 1988)で規定されている1。この法律は州立図書館を主な対象としており,その図書館委員会のガバナンスや権限,財産などについて定めている。また,州への法定納本についても規定している。州内の協力に関しては,図書館委員会の役割として,第18条で規定が見られる。具体的には,図書館等のサービス・資源へのアクセス促進のため,図書館等のプログラムにおける協力を監督すること,とされている。ただし,具体的なプログラムの記載はない。
州立図書館はメルボルンの中心地,CBDにある。図書館は鉄道駅の名前にもなっており,その周辺はメルボルンで最も賑やかな場所の一つである。図書館も,いつもたいへんな混雑である。通常の来館者だけでなく,明らかに観光で訪れている人が多い。州立図書館の写真でいつも出てくるラ・トローブ閲覧室にいると,ひっきりなしに観光客がやってくる。建物の外観は歴史を感じさせるが,内部は現代的に改装されている。2階に様々な機能がそろっており,いろいろなタイプの閲覧スペースとともに,各種のホール,ギャラリーがある。図書はレッド・モンドバリー読書室やラ・トローブ閲覧室などに一定程度,排架されているが,この規模の図書館としては少ない。資料は貸出しせず閉架制である。
ビクトリア州立図書館の活動は多岐にわたるため,全体像を簡潔に描くことは難しい。ここでは,年次報告書(Annual reports, 2024-2025)を参考に2,活動を見てみる。まず,報告書から統計データを確認しておく。職員数は289.7人(FTE)である。直接来館者は282万人,登録者数は8.9万人,プログラム実施数は2,027回,プログラム(オンラインを含む)参加者数は14.6万人であった。問い合わせ件数は5.2万回以上,SNSフォロワーは21.2万人である。この図書館は資料の貸出を行っていないため,貸出回数の統計は掲載されていない。来館者数がかなり多い。
以下,報告書で,主にサービスについて述べている「業務報告」(Report of operations)の箇所を見てみる。この部分では,図書館の活動が五つの柱に整理されている。それらは,「必ず訪れたい場所となる」「魅力的なデジタル体験を創出する」「多様なコミュニティを強化する」「学び,知識,文化のための積極的なコミュニティの声となる」「革新的で持続可能な運営を実現する」である。
最初の「必ず訪れたい場所となる」では,来館者数の動向,図書館スペースの活用状況,展示会の内容,各種プログラムの実施状況,新規来館者の状況,パートナーシップ事業,レファレンス対応の実績などが述べられている。特に来館者は三年連続で過去最高を更新しており,年間で282万人,一日平均7,800人が来館したことが報告されている。二つ目の「魅力的なデジタル体験を創出する」では,図書館が提供するデジタル情報資源の収集,利用,公開,拡充の状況,オンラインプログラムの実施などが紹介されている。
三つ目の「多様なコミュニティを強化する」では,先住民族の文化遺産の収集保存と関連展示,移民コミュニティに関する展示,ビクトリア州の貴重資料の収集,起業支援などが挙げられている。訪問中には,「World of the Book」という企画展の中で,百万塔陀羅尼や江戸期の和本など日本の印刷史に関する展示も行われていた3。四つ目の「学び,知識,文化のための積極的なコミュニティの声となる」では,ブログ記事の執筆,誤情報に関するリサーチガイドの作成,著名な作家や研究者による講演会,各種公開イベントの実施状況などがまとめられている。最後の「革新的で持続可能な運営を実現する」では,アクセシビリティの向上,業務効率化,来館者体験の向上を図るための最新技術導入や運営改善の取り組みが述べられている。
これらを見てみると,基本的には州民に対する直接サービス(デジタルを介したものを含む)が中心であり,州内図書館への支援は触れられていない。報告書では続いて「Key performance indicators」が載っているが,その指標として挙げられているのは,図書館への実際の訪問,ウェブサイトセッションを含む訪問,新規来館者,デジタル資料の利用,州内からのオンラインセッション,利用者満足度などである。ここからも,州内図書館への支援に関する項目は見られない。
このように,ビクトリア州立図書館は,基本的には図書館施設とウェブを通じて州民にサービスを提供している機関といえそうである。もちろん,「ビクトリア州の図書館制度と団体」で述べたように,「協働行動の枠組み」などで州内の図書館と関わりがないわけではないが,その関係は限定的であるように見える。このことは報告書の「ビジョン」に示されている内容とも整合的である。そこでは,ビクトリア州の豊かな遺産を守ること,人々がそれを活用して歴史を深く理解できるようにすること,そして現在を形作り,未来に役立てること,が掲げられている。また,コレクションを創造的な方法でデジタル体験できるようにすることも重要な役割として示されている。これらは確かにビクトリア州立図書館が果たすべき役割として説得的でもある。