Enki Library

ビバリーヒルズ公共図書館では,電子書籍サービスをいくつか提供している。多くの図書館で導入されている Libby や Hoopla に加えて,Biblioboard や Enki Library といったサービスも提供していた。このうち,Enki Libraryはカリフォルニア州独自の電子書籍サービスである1。興味深いのでここで紹介する。

Enki Libraryは,Califa Library Group(califa)がコントラ・コスタ・カウンティと連携して開始した電子書籍サービスである。名称はシュメール神話の悪戯・創造・知恵の神に由来するとされている2。開発は2013年頃から始まっており,当初は州内の参加図書館を中心に提供されてきた3。ベンダー主導ではなく,図書館主導の電子書籍サービスという点では極めて意欲的なサービスであった。その後,新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として,LYRASISの一部門であるBibliolabsと連携して州内のすべての人がアクセス可能な電子書籍サービスであるEnki California Digital Library が開始されている4

Enki Libraryは,SimplyEの読書アプリから利用できたが,2024年にニューヨーク公共図書館がSimplyEのプログラムサポートを終了したことを受け,そのサービスは終了した。現在は,BiblioBoardの配信プラットフォームを用いている。また,この時期,califaによるEnki Libraryのサービスは,州立図書館の支援を受ける形でのサービスに移行している5

BiblioBoardは,電子書籍の配信プラットフォームであると同時に,独自の電子書籍サービスでもある6。収録されている作品は,小規模出版社,独立系出版社,地域出版社,自費出版によるフィクションやノンフィクションなどが中心である。また,SELF-e などの投稿・配信基盤と連携し,Indie Author Project(IAP)に代表されるように,図書館向けに独立系作家やインディーズ作品の流通を支援する取組も行ってきた。同時アクセス無制限を基本としている点や,位置情報を用いた認証方式も特徴の一つである。

現在のEnki Libraryは,上述したようにBiblioBoard の配信プラットフォームを活用して提供されている。利用にあたって個別の登録は不要で,位置情報によってカリフォルニア州内からのアクセスであることが確認できれば閲覧できる。ロサンゼルス市内からアクセスした場合,利用可能なサービスが複数あるため,最初にそれらの選択画面が表示される。具体的には,Enki Library(ロサンゼルス公共図書館,ロサンゼルス・カウンティ図書館,カリフォルニア州立図書館),BiblioBoardの4つのサービスへのリンクである。ブラウザから直接アクセスして利用できる。EPUBの形式で配信されているものはブラウザの自動翻訳機能が利用できた。

電子書籍サービスを図書館が主体的に構築した点は極めて意欲的である。また,出版社との契約も図書館主体で進めた経緯があり,そうした点も民間企業による電子書籍サービスに何らかの風穴を開けようとした点で挑戦的である。こうした方向性は,カリフォルニア州ではCalifornia’s Bookshelf 等の新たな取組に引き継がれている。日本では電子書籍サービスといえば民間企業のものという意識が強いが,図書館主体の取組も可能であることを気づかせてくれる事例である。

  1. https://enki.biblioboard.com/about ↩︎
  2. https://www.chulavistaca.gov/Home/Components/News/News/1476/3175 ↩︎
  3. https://www.libraryjournal.com/story/califa-launches-enki-a-lending-platform-for-direct-ebook-distribution ↩︎
  4. https://califa.org/enki-geo ↩︎
  5. https://califa.org/ebooks ↩︎
  6. https://biblioboard.com/ ↩︎