行ったところ(7/8〜)

タリン市カラマヤ分館

エストニアはバルト三国の一つであり,電子政府をはじめIT先進国として知られている。人口は140万人弱で,日本でいうと京都市やさいたま市に近い。エストニアでは,図書館統計がエストニア統計局から公開されている1。しかし,個別の図書館に関する詳細なデータは一般には公開されていないようである。これまで,日本と韓国をのぞき個別図書館のデータを詳細に公開している国はない。2024年の全国的な統計によると,エストニアの図書館数は480館で,近年は減少傾向にある。ただし,さいたま市には25館しかないことを考えると,かなり多い。平均蔵書数は2.1万点で,日本と比較するとかなり少ない。年間貸出点数は940.1万点で,国民一人あたりの貸出点数は6.9点となり,これはかなり多い。職員数は1,249人である。バーチャルによる訪問という指標もあり,317.3万回である。電子化の進展に伴い,こうした指標を増やしていくことは正しい姿勢であろう。首都タリンの人口は約46万人で,市内には19館の図書館がある2。ポーランドの主要都市と比べると少ないが,日本の自治体と比較すると多い。また,移動図書館も走らせており,バス型の車両で約4,000冊積まれている。週4回,決まったコースを回るとともに,金曜日は学校など,土日はイベントなどに訪問している。今回訪れたカラマヤ(Kalamaja)図書館は,旧市街に近いエリアにある3。もともとは漁師町だった地域である。図書館の手前と奥で,大人向けと児童向けのエリアが分かれている。図書館内には熱帯魚の入った大きな水槽があり,目を引く。蔵書構成は文学以外の資料も多く,日本の公共図書館に近い。文学はエストニア文学と外国文学に分類されており,日本の文学作品もいくつかある。別のところで聞いたことだが,村上春樹はエストニアでも人気があるとのことだった。ポーランドの図書館でよく見かけたコミックは,ほとんど見当たらなかった。図書にはRFIDタグが付けられており,自動貸出機も設置されていた。雑誌や新聞も多くはないが提供されている。面白いのは,タリンでは新聞を貸し出していることである。最大10点まで,21日間借りることができる。ただし,最新号は対象外である。この図書館で興味深かった取組のひとつが「メモリーラボ」である。入口近くのガラス張りの部屋がそれで,利用者が自分で古い写真や記録をデジタル化できる。部屋ではスキャナーのほか,GIMPやIrfanViewなどの画像編集ソフトも利用できる。編集したデータは持ち帰ることができる。また,編集作業に関するトレーニングも予約制で提供されている。ほかにも,家系図作成のためのワークショップや,デジタルアーカイブを紹介するセッションなども用意されている。また,「ものの貸出」を行っている点も興味深い。この図書館では主にスポーツ,健康器具などを貸出している。ウォーキングポールもあった。これらにはバーコードが付けられている。また,カウンター前では不要になった図書のセールも行われていた。売却できることは公共図書館法第13条2項で定められている。日本では友の会などが廃棄された図書を譲り受けて販売しているのを見たことがあるが,ここでは図書館が直接販売している。売り上げは新たな図書の購入に充てられているとのことである。そのほかにも,いくつか注目すべきサービスがあった。タリン市の図書館では,図書を自宅まで配送してもらえる(最大5冊)。費用は4.5ユーロで,返却は配送または直接返却を選べる。身体的な問題のある利用者には無料で届けている。また,春から秋にかけて「図書館自転車」を運行しており,公式ウェブによると,街で道に迷った人に声をかけたり,図書館のイベントを紹介したり,通りすがりの子どもに物語を語ってあげたりしているという。ルートは決まっておらず,人が多そうな地域を回っている。図書館の存在を広く知らせるためのユニークな取組である。ポーランドも北欧の図書館の施設,サービスを参考にしていたが,エストニアはより類似しているように感じる。

エストニア国立図書館(Eesti Rahvusraamatukogu)

エストニア国立図書館は1918年に国家図書館(State Library)として設立された4。1988年以降は「エストニア国立図書館」と称されるようになり,議会図書館としての役割も回復している。現在,エストニア国立図書館は大規模リノベーション中である。開館は2027年の予定である。現在はタリン市内のタルヴァ通りの図書館の他,複数の場所で運営されている。タルヴァ通りにある図書館はその中で中核的なものであるが,銀行のビルを間借りしている。外観からは図書館とは想像できない。スペースとしては,通常の図書館として見れば十分な規模だが,国立図書館としては当然小さい。本来の蔵書約350万冊のうち,この場所にあるのはごく数パーセントである。この建物の入口には「RARA」と大きく書かれている。RARAはエストニア国立図書館の略称である。図書館に入ると,入口脇に,エストニアの図書の歴史を描いた漫画が掲示されている。図書館は1階と2階に分かれており,1階が社会科学,2階が人文科学の資料を所蔵している。分類はUDCである。小さな書庫もある。書庫(といっても小さな事務室)では分類,出版年,分類順に分類されていた。例えば,1-22-xxxxは,1がサイズのタイプ,22が2022年出版を意味している。排架の効率を考えてのことである。そこには目録カードボックスもあったが,日本でよく見るような明るいブラウンではなく,黒色だった。もともとあった施設の関係のためのようだった。職員の部屋は日本で言えば大部屋に近い。ただし,新しい図書館では部署ごとに個室になる予定だという。当日は平日だったが,出勤している職員は少なかった。オンライン勤務に加え,この時期,エストニアでは長期休暇を取る人が多いからとのことだった。今回,インタビューで,エストニア国立図書館の概要から,サービス,人材育成など様々な話を聞いたが,それらは別の機会に書くとして,3つのオンラインサービスと納本関連の制度について紹介しておきたい。オンラインサービスであるが,まず「Mirko」は「私の図書館」の意味で,全国の図書館の蔵書を検索し,自宅などに配送するサービスである5。また,ここでは国内で出版された電子書籍の閲覧も可能である。全国的総合目録のような役割も果たしているが,参加館のシステム自体が統合されているわけではない。ゆにかねっと+県ごとの横断検索に電子書籍サービス+配送システムが加わったもの,という感じだろうか。もう一つの「Digilab」は,国立図書館が保有するデータ活用を促進する試みである6。デジタルヒューマニティーズ的アプローチからデータ活用を考えているもので,データを可視化するツールなどを提供している。NDLのNDL ラボに相当するものであろう。「DIGAR」では,図書や新聞,雑誌,地図,楽譜,写真,ウェブサイトなどのデジタルデータを公開している7。NDLのデジコレに相当するサービスであるが,将来的にMirkoなどと統合される予定とのことである。エストニア国立図書館では「出版社ポータル」というサイトを運営しており8,出版社はそこでISBNを取得する。納本は4点とされており,あわせて電子ファイルの提出も必要である。提出されたファイルはDIGARで閲覧に供される。電子ファイルが提出されない場合は,もう1部の追加の納本が求められ,図書館側でデジタル化するという。電子ファイル提出は,日本でも視覚障害者等に対するデータ提供の迅速さ,正確さ向上の観点から参考にできる。9月以降に新しい図書館に移転をするとのことで,事務スペースには段ボールが積み上がっていた。この小さな図書館が,どのような図書館に生まれ変わるのか,機会があればぜひ見てみたい。

タリン市立ヌルメヌク分館

この図書館はタリン郊外にある9。周囲は集合住宅が立ち並んでいる。スポーツ複合施設と同居しており,図書館は4階にある。分館ではあるが比較的広い。白を基調とした内装で,天井が高く開放感がある。入口入ってすぐには児童コーナーがあり,子どもたちの絵が飾られていたり,ボードゲームなどが置かれていた。奥へ進むと児童書の棚が並んでいる。ロシア語で書かれた日本の神話と伝説の図書が面陳されていた。他に,エストニア語の『おしりたんてい』が目についた。エストニアにはロシア語話者も一定数いるため,ロシア語の図書も所蔵している。大人向けの図書は,文学書だけでなく一般書もそれなりに所蔵されていた。テーブルを活用して表紙を見せる「面陳」が多く,図書を魅力的に見せる工夫がされている。貸出や返却に訪れた利用者の中には,図書館職員とずいぶん長く会話を交わす常連と思われる利用者もいた。地域に根付いている様子がうかがえる。展示スペースでは,デジタルアートコンテストの受賞作品10点が展示されていた。いろいろな作品があったが,日本人が書いたとしてもおかしくないような作品も多い。中には明らかに日本の漫画文化の影響を受けたと思われる作品もあり,絵の中に「いいね」「寿司」などの日本語が描かれていた。カウンター前には,図書の販売コーナーがあった。0.15ユーロからである。また,ここでもスポーツ用具の貸出が行われていた。サッカーボール,バドミントンのラケット,ヨガマット,自転車用ヘルメットなどである。サッカーボールのようにバーコードを貼れないものについては,どう管理しているのですかと尋ねたところ,別の管理用のリストを作成しているとのことだった。カウンター脇の閲覧スペースには,PCの設置に加え,階段状のステージもあり,イベントに使えそうな構造になっていた。児童コーナーの奥には部屋があり,イベントに利用されているとのことだった。ここは書庫も兼ねていて,利用頻度の落ちた図書が置かれていた。一定期間経過後,販売に回されるとのことである。この部屋では,エストニア語の言語カフェが毎週開催されている。時間は1時間から1時間半程である。毎回,参加者は10人以上に集まっているとのことで,出身国としてはウクライナ,ベラルーシ,モンゴルなど多様な背景の人々が集まっているという。最近ではイラン出身の参加者が来て,質問責めにあっていたという。言語カフェでは,テーマを決めて話すこともあれば,自由に会話することもあるとのことだった。運営は図書館員が担当することもあれば,ボランティアが担当することもある。周囲に話し相手がいない人にとって,このような場が貴重な会話の機会となっているとのことだった。明るく,天井が高く,気持ちのよい図書館であった。

タリン市立ラアグナ図書館

タリンの中心部から少し離れた郊外にある10。周りは集合住宅などが立ち並ぶ。ラアグナ(Laagna)図書館の前にはコミュニティガーデンがある。図書館はこのスペースを活用して,詩人による「詩のピクニック」などの催しを行っている。建物は外から見ると少し古い印象だが,中に入るとそうは感じない。何年か前に改修したようである。入口を入ると通路があり,まっすぐ進むと大人向けのコーナー,左に行くと児童向けのコーナーである。入口脇には集会室があり,この日は10人ほどの大人がボードゲームをしていた。訪問したのは土曜日の午前中である。まっすぐ進むと,OPACや自動貸出機とともに展示ケースがあり,中に赤ちゃんの人形が展示されていた。かなりの年代物である。入口すぐの場所には目録用のカードケースがあり,引き出しを開けると中に小袋に入った種が入っていた。この図書館は「Seed Lending」(種の貸出)を行っている11。タルトゥ市の取り組みをモデルにしたという。種の袋には植物の名前,特徴,生育に適した環境,温度などの情報が書かれている。「貸出」とはいえ返却期限や延滞料はなく,うまく育てられれば種を返却すればよいという感じである。なんと,この種もOPACに登録されている。図書館の前にあるコミュニティガーデンとも協力パートナーという形で連携している。市民はコミュニティガーデンを無料で借りることができる。大人向けの部屋では,カウンター前に雑誌が並び,その脇の目録のカードケースにはいくつかの小さな鉢植えが置かれていた。これは「植物交換クローゼット」である。利用者は鉢植えを持ち帰ったり,新たに追加したりすることができる。あとで気づいたのだが,この図書館は,壁や書棚も含めて緑を基調としていた。こうした取組を含めてグリーンライブラリ的活動に熱心なようである。書棚を見ると文学作品が多い印象だが,一般書もそれなりに揃っている。各国文学の「M」の棚を見ると,村上春樹や村田沙耶香の作品が並んでいた。人口から考えると市場規模は大きくないが,日本文学がそれなりに翻訳されているのは驚きである。児童室の向かいには青少年向けの部屋があり,プレイステーションとディスプレイが置かれていた。テーブルサッカーやジェンガなどもあり,青少年が気軽に集まれる工夫がされている。日本のコミックは『進撃の巨人』など数点置かれていた。コミックの大きさが日本のものと比較して少し大きめだったので,最初は気づかなかった。ちなみにタリン市内には,コミック,フィギュア,タピオカ,KPOP,ゲームなどを扱うお店があり,活況を呈していた。図書館がコミュニティガーデンを活用して地域と関わる取組は興味深い。

タリン市立カンヌクケ図書館

タリン郊外で集合住宅が立ち並ぶ中にある12。独立した建物である。訪問したのは土曜日午後である。図書館の前には大きな広場があり,この日は野外図書館が開かれていた。カートに図書が入っており,その周囲にはシートが敷かれていた。天気に恵まれ,まさに屋外図書館日和である。図書館の建物の前には,予約受取機がある。入口を入るとすぐ,かなり大きなロボットのオブジェがある。職員に聞いたところ,このオブジェはずいぶん前からあるそうで,いつ,誰がつくったのかは分からないとのことだった。かつては目を赤く光らせていたが,子どもが怖がるのでやめたそうである。それでも怖いようで,2歳くらいの男の子が元気に図書館に走ってきて,ロボットに気づき「ファッ!」と声を出して立ち尽くしていた。図書館内には自動貸出機がある。図書館は2階建てで,1階は大人向けの図書,雑誌,新聞と,児童向けのコーナーがある。この図書館でもスポーツ器具の貸出を行っていた。キックボード,スケートボード,ヘルメット,ボール,ステップベンチ,ヨガマットなどなど。カウンター近くでは図書の展示が行われており,書店のようにうまく展示していた。訪問中,利用者は途切れることなく訪れていた。2階には青少年向けのコーナーがあり,ここでも日本のコミックがあった。『ONE PIECE』や『ポケットモンスター』などである。プレイステーションが設置された部屋もあり,VRの利用も可能とのことだった。小さなビリヤード台などもあり,YA層が集まりやすい工夫が多く見られた。この図書館には,イノベーションラボ(メーカースペース)がある13。訪問した日は閉まっていたが,特別に開けてもらうことができた。中には3Dプリンター,フィルムカッター,レーザーカッターなどの数多くの機器があった。近くには,ラボで制作された作品が展示ケースに並べられていた。どんなものを作れるかが分かる。機器の利用は無料で,消耗品であるフィラメントなどは実費とのことであった。小さなロボットもあったが,他にレゴのロボットなどを使ったプログラミング体験のサークル活動も行われている。トレーニングは利用者の要望に応じて行っているとのことだった。郊外の図書館らしく,地域に根付いた活動をしていた。

タルトゥ市立タンメリナ図書館(Tammelinna)

タルトゥ市の人口はおよそ9万5千人である。エストニア第二の都市である。この市には,本館を含めて5つの図書館がある。タンメリナ図書館は分館の一つである14。この図書館は,市の中心部から少し離れた住宅街にある。建物はそれなりの年数を経ていると思われるが,ひどく古いわけでもない。内部は改装されていて古さを感じない。内装はオレンジ色を基調とし,明るい。入口にはゲートが設けられている。図書にはタトルテープが貼られていた。ただし,まもなくRFIDが導入されるとのことである。入ってすぐ右側には児童室があり,親子が本を読んでいた。児童室が独立して設けられているので,音の問題は少ないだろう。左手には図書の販売コーナーがあり,古本屋とまでは言わないが,かなりの冊数である。入口前にはボードゲームやDVDが置かれていた。コーヒーの自動販売機もあり,価格は0.8ユーロである。カウンターの横に新刊書が並べられている。図書の装備は簡素で,ブッカーはカバーが剥がれないようにそれを固定する程度である。階段を上って2階へ行くと,右手に青少年向けの部屋がある。その奥にはXbox,PlayStationがあり,Nintendo Switchも利用できる。ソファやテーブルもあり,若者が集まれる工夫がされている。歩くと床が「ミシミシ」と音がする。建物の古さを感じる。階段左手の部屋には多くの図書がある。エストニア文学,外国語文学,一般書などである。シリーズものは横積みにされているものもあった。独特の排架方法である。テーブルには面陳の図書も多く,図書を魅力的に見せていた。当日は見ることができなかったが,この図書館にはアクティビティルームがある。VRキット,ミシン,ペーパーカッティング,3Dペンなどがある。これらは予約制で利用できる。図書館内にはムーミンの図書やグッズが多数飾られていた。これは,ムーミンの1冊目が刊行されて80年ということで,他の図書館でも同様の展示を行っているとのことである。また,館内ではトリン・シャフ・パット氏の抽象画の展示も行われていた。絵画は一つの場所というわけではなく館内のいろいろなところに展示されていた。また,図書館では多様なイベントが開催されており,詩人を招いた詩の夕べ(天気がよければ屋外で開催),地域の「ホームカフェデー」に合わせたイベントなどである。後者は,図書館で焼き菓子やコーヒーを提供し,館内あるいはその前で読書や音楽,展示を楽しんでもらうイベントである。また,読書犬がおり,予約をすることで,ゴールデンレトリバーのYatoくんに読み聞かせをすることができる。エストニアの読書年にあわせて,タルトゥ市立図書館では「500ページ読もう!」というキャンペーンもしている15。書名,ページ数,名前を書いて応募するもので,応募箱がカウンター前に置かれていた。最優秀者には記念品が贈られるとのことである。決して大きな図書館ではないが,提供されているサービスの多彩さには驚かされる。

タルトゥ市立アンネリンナ図書館

中心市街地から少し離れた集合住宅の中にある16。緑に囲まれた気持ちのよい図書館である。館内の大きな窓からも緑がよく見える。室内には観葉植物が飾られていて緑あふれる空間である。この図書館は分館にしてはかなり大きい。建物の外観は古い印象を受けるが,内部は改装されて古さを感じない。建物中央の入口を入るとすぐにカウンターがあり,職員がひとりで対応している。カウンターはガラスかプラスチックで利用者と区切られている。これはタルトゥの他の分館と同じである。この図書館は利用者が非常に多く,多いときには5人ほどの列ができていた。職員によると,「月曜日の朝だから」(日曜日が休み)とのことだった。館内にはソファやテーブル,椅子が多く配置されており,ゆったり過ごせる工夫がされている。入口入って左側は新聞・雑誌コーナーがあり,その近くでは図書の販売も行われていた。奥にはインターネットコーナーがあり,利用者が利用していた。図書館内は滞在利用も多い。入口入って右側にはYA向けと児童のコーナーがある。小さな滑り台,ボードゲーム,テーブルサッカー,木製のレールの遊具,そしてビデオゲーム機(PlayStation 4 Proなど)も設置されていた。ビデオゲームは個室で利用できる。子どもがひとりでゲームをしていた。図書以外にも楽しめるものがたくさんあるのが興味深い。YAコーナーには多くの日本のコミックがあった。『NARUTO』『バンパイア』『ジョジョの奇妙な冒険』『ベルセルク』『ブルーロック』『Deamon Slave』『呪術廻戦』『東京喰種トーキョーグール』『フルメタル・パニック!』『Dr.Stone』『チェンソーマン』『北斗の拳』『僕のヒーローアカデミア』『鬼滅の刃』『20世紀少年』『炎炎ノ消防隊』などなど。これほど翻訳されていること,そして図書館が所蔵していることに驚く。ちなみに,ここの図書館では日本語でも簡単な挨拶をされ,そのことにも少々驚いた。2階にはエストニア文学,外国文学,ノンフィクション,一般書など,大人向けの図書がある。一般書がかなり充実しており,ロシア語の図書も児童書を含めて多く所蔵されている。ハーレークインロマンスや,それに類するロシア語の軽読書用図書も多い。友人と一緒に勉強する若い女性たちや,ブラウジングする高齢者も多い。この図書館にもアクティビティルームがあり,ミシンの貸出しが行われていた。また,液晶ペンタブレット(Wacom Cintiq 27QHD)があり,マンガ制作や3Dモデリング用のソフトウェアが利用できる。図書館内では多くの展示がされていた。展示ケースでは「本と猫」というテーマで,猫と関連する図書やカップなどが飾られていた。この展示は1〜2ヶ月ごとに入れ替わるとのことであった。また,2階の壁面全体を使って写真展が行われていた。ドミトリ・コチョフ氏による「ウクライナは私の理想」という展示である。来館者が感想を記帳できるノートも用意されていた。白黒の写真で,見る者に何かを訴えかけてくるような作品だった。他にもインドレク・アルスーという作家の粘土作品の展示もあった。日本のフィギュアに似た作品であった。こうした各種展示は,エストニアの図書館が文化的機関としての性格を強く持つことの反映と感じた。ちなみにタルトゥの図書館では,図書をスキャンしてメールで送ってもらえるサービスがあり,料金は0.5ユーロである。館内コピーがA4で1枚0.1ユーロなので,その5倍である。タンメリナ図書館同様,通常の図書館としての活動に加えて,多様なサービスが提供されていることが印象的だった。

タルトゥ市立オスカー・ルツ図書館本館

タルトゥはタリンにつぐ,エストニア第二の都市である。大学町としても知られており,特にタルトゥ大学はその名を広く知られている。ちなみに図書館・情報学は,エストニアでは現在,タルトゥ大学でしか教えられていないとのことである。本館は,観光地でもある旧市街のすぐ脇にある。建物は1935年に建てられたもので歴史を感じさせる。正面入口の上にある2階のバルコニーには机が置かれ,若い女性が作業をしていた。オスカー・ルツはタリン出身の作家である。入口を入ると,ここでも図書の販売が行われていた。多くは0.5ユーロなどと手頃だが,1978年版のブリタニカ百科事典は150ユーロと少し高めである。2024年の統計によると,タルトゥ市の図書館の蔵書数は555,995点,登録利用者数は37,316人,年間来館者数は431,991人,バーチャル訪問は387,828回,年間貸出点数は951,017点である17。また,職員は80人である。人口9.5万人であるので,貸出密度は約10と多い。アンネリンナ分館などを見ると,この数値にも納得がいく。

本館は4階建てで,各階,左右に分かれて部屋がある。各部屋に図書館員が1名から2名配置されている。各部屋がドアで区切られているのがポーランドと似ている。1階は新聞室と児童青少年室である。新聞室には合冊された新聞が多くあった。他に人気のある図書の展示,文献複写,予約資料の受取なども行える。児童青少年室へと通じる施設は改修中のため,事務用入口から入るようになっていた。書棚には同タイトルの図書が平積みされていた。入口付近に奇妙な昆虫が昆虫ケースに入ってうごめいている。マダガスカルゴキブリとのことである。この季節,児童室にあるとすれば,日本ではカブトムシだが,大分趣が違う。1階には他にクラウドプリントというコーナーがある。これは自宅から印刷したいファイルをアップロードして,印刷を受け取れるものである。Print in Cityという民間のサービスで,日本ではコンビニで提供されている。自宅にプリンタがない人にとって便利である。

2階はエストニア語による文学書と一般書である。ロシア語の文学書は3階の外国語コーナーにある。文学作品は,青少年文学,歴史小説,SF,犯罪小説,ロマンスなどのカテゴリに分かれている。背表紙のシールの色で識別している。コミックもあり『伊藤潤二の猫日記』『僕のヒーローアカデミア』『バガボンド』『薬屋のひとりごと』『東京喰種トーキョーグール』『夏目友人帳』『異世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました。』『fangirl』などなどである。コミックの翻訳の多さと所蔵数の多さには驚かされる。アンネリンナ分館とは重複しないものも多い。分館では装備が簡易だったが,本館の文学書では通常どおりブッカーで装備が施されていた。ただし,一般書ではまったく装備されていないものもあり,使用頻度などを考慮してメリハリをつけているのかもしれない。このフロアの一般書は人文社会系である。文学書との構成比率は分館と大きく異なり,非常に豊富である。資料の中には,ロシアからの独立前後に発行されたと思われる古い図書も見られた。

3階は外国語の文学書と一般書である。文学書は,ロシア語の図書が最も多いが英語の図書も多い。日本語の図書もあり,これらは,タルトゥ大学にミヤノ先生という方がいて,その学生がよく利用しているとのことだった。図書館員が教員の名前を知っていることに驚かされる。エストニアの名門大学で日本語が教えられ,そこから日本語図書が所蔵され,そして利用につながっているのは,日本理解という点でも貴重なことである。この階の一般書は,技術,自然科学,コンピュータなど5類から7類(UDC)が中心である。入口近くに3Dプリンターが2台,ミシンが2台置かれている。ここはアクティビティルームと呼ばれているが,コーナーといった方が適当であろう。他にドキュメントスキャナー,フィルムスキャナー,ラミネート機もある。男性がスキャナーの操作方法を図書館員に尋ねていた。PCも5台ある。奥にはアーティストブックの展示もあり,見事であった

4階はホール(と言っても小さい)と音楽室である。ホールではちょうど『Lindprii』というドキュメンタリー映画が上映されていた。音楽室には図書に加え,レコード,楽譜,楽器,CDなど多様な資料があった。タリンと同様,楽器の貸出も行っており,ギターやウクレレが人気とのことである。

この図書館でもさまざまな活動が行われている。「カフェ」として言語カフェ,文学カフェ(読書会)などが,また,「トレーニング」(利用者教育)として,電子書籍リーダー,スマホ,Googleツール,インターネット検索,データベース検索,Facebook・Instagram,Microsoft Teams,国家電子サービス,ESTER図書カタログなどの使い方を教えている。提供メニューはタリンと似ている。加えて,学校向けに「アクティブラーニングクラス」が用意されている18。たとえば中学3年生向けには,タルトゥの地域調査に使える各種データベースを紹介するコースなどがある。教育メニューを事前に提示することで,教員にとっても利用しやすくなっていると思われた。

公式ウェブサイトで特に面白かったのは「タルトゥの思い出」である19。ここにはいくつかのメニューがあるが,「フィクションに描かれたタルトゥ」では,地名などで検索すると,文学作品中の該当箇所の断片を読むことができる。身近にある通りや建物がどう文学作品に描かれているかを知ることができ面白い。1,195人の著者による作品が対象となっている。また,文学に関する史跡を地図上で可視化しており,これは日本の「ししょまろはん」の活動に似ている。「タルトゥの物語」というメニューでは,市民のタルトゥの思い出が付箋のように画面上に表示されている。市民がこの街をどう記憶しているのかを知る上で興味深い。ユネスコ創造都市ネットワークの「文学の都市」に選ばれていることも,こうした取組につながっているようである。

図書館員によれば,現在の図書館は手狭になっているのが課題とのことだった。人口9万人の市にしては決して小さくはないように思えるが,現在の施設では十分利用者ニーズに応えられないのであろう。新しい図書館の話も少し出ているようだが,まだどう転ぶか分からない状況のようである。ちなみにこの時期(7月中旬),市民は休暇を取って郊外などに出かけている。そのため,図書館の利用者は少ないそうである。街を歩いているのは外国人ばかりだと話していた。日本の夏とは状況が大きく異なっているようである。

ウッチ市立図書館 ロズグリフカ(Rozgrywka) 14

ウッチ市では,近年,新しい図書館の建設や既存施設の改修が続いている。この図書館もその一環として2019年に改修された20。そのことにより現代的な図書館に生まれ変わっている。改修には欧州地域開発基金などの外部資金が活用された。図書館はウッチ市のBałuty地区にある。ウッチ市の郊外にあり周りは団地である。図書館は独立した平屋建てで,日本の一般的な図書館と似ている。面積は375㎡とそれほど大きいわけではない。訪れたのは平日の11時ごろである。開館して間もない時間帯だったが,ポーランドで見た図書館の中で,一番混雑していた。利用者がひっきりなしに来館していた。前日に大雨があったことも関係しているのかもしれない。いつもこんなに混雑しているのかと尋ねると,「混んでいるときもあれば,そうでないときも」とのことだった。利用者の多くは近隣住民と思われ,高齢女性が多い。入口を入ると,多くの図書館同様,BookCrossingのコーナーがある。さらに進むと右手壁面に地域情報の掲示板があった。不要品の交換や中古品販売の案内,個別学習の案内,エジプト人の図書館ボランティアの紹介などが掲示されていた。かなり乱雑だが,それだけ情報交換が活発と感じた。今まで,こうしたコミュニティの情報を掲示している図書館は見たことがなかったので興味深かった。図書館内で一番の人気コーナーは,新刊書のコーナーである。来館者は入口を入ると,まず,そこを見て興味を引く図書がないか探していた。その横にはなぜかアーケードゲーム機がある。こうした遊び心が心地よい空間を作っているのかもしれない。蔵書は文芸書が中心で,ポーランド文学,ロマンス,伝記,犯罪小説などが多い。その中に「地域の図書コレクション」が少ないながらあった。この図書館の図書にはDue Dateのスリップが貼付されていたが,紙は大きめの付箋であった。返却日を知らせるだけでなく,利用状況が分かり興味深い。例えば,日本の奈須きのこの『空の境界』(Puste Granice)はかなり借りられていることが分かる。奥にはイベントスペースがあり,最近では,英会話,アートワークショップ,アラビア語会話などが開催されていた。なぜか卓球台もある。スペースの奥にはソファが設置されていた。ここは靴を脱いで入る。イベントがないときは解放されており,当日は親子連れがくつろいでおり,女の子がずっと歌を歌っていた。その横にはドアで仕切ることのできる児童室がある。児童室にしてはスペースは大きくはない。入口を右に進むと,くつろぎスペースでソファとテーブルがあり,そこにはボードゲームも置かれている。窓際には3セットのソファとテーブルがある。その奥にはPCが4台あり,うち3台が使用中だった。カウンターには2名の図書館員がおり,ひっきりなしにくる利用者に対応していた。利用者が図書の場所を尋ねることも多く,フロアに出て案内していた。遅延料金と思われる支払いをしている利用者もいた。カウンター脇にはコミックコーナーがある。『ドラゴンボール』『コブラ』などがある。また,イベント情報がホワイトボードに書かれていた。この図書館ではカウンターでコーヒーを頼むことができる。これは他のウッチ市の分館と同様である。そのために小さなコーヒーマシンが置かれているが,当日は混雑で,それどころではなかった。コピーの他,スキャンも有料だができる。カウンター前には返却された図書を置くブックトラックがあり,そこも新刊書コーナーと並ぶ人気スポットである。滞在中,利用者同士がその前で図書について大きな声で話をしていた。全体として,図書利用が非常に活発な図書館という印象を受けた。また,図書館が地域にしっかりと根付いていることが強く感じられた。

ウッチ市立図書館 コストカ(KOSTKA) 26

行ったのは平日昼前である。この図書館もウッチ郊外にあり,少し離れたところには商業施設が立ち並ぶ。図書館はそこから100メートルほど離れたところにある。図書館の周りは団地で,図書館も11階建ての団地の1階部分に入っている。外から見ると少し暗い印象があったが,中に入ると白を基調とした明るい空間だった。この図書館は2021年に改修している。中心はほぼ正方形の壁のないつくりになっており,窓際には,くつろげるスペースが設けられていた。利用者は次から次へと訪れており,夫婦で訪れる利用者も見られた。利用者は入館時に「ヂェンドブリ」と挨拶している。ポーランドでは,普通のお店に入る時も店員に挨拶する。カウンター横にはソファが置かれており,イベントなどにも利用されている。コーヒーマシンもある。カウンターでは小さな音で音楽が流れている。静かな図書館というより活気のある図書館である。Facebookからもそんな雰囲気が伝わってくる21。蔵書は2万点ほどである22。もっと多い印象である。奥には「人気の学問文献」(Literatura popularnonaukowa)という小部屋がある。そこには文学や歴史以外のジャンルの図書が並んでいた。乱暴に言えば日本の0類,3類,4類,5類,6類,7類,8類の図書が並んでいる。「人気」とついているのは,専門書ではなく一般向けの図書であることを示していると思われる。ポーランドの図書館では,こうしたジャンルの図書を積極的に提供している印象はあまりない。この部屋の中央にはPCが4台設置されていたが,訪問中にこの部屋も含めて利用者はいなかった。図書は,ポーランドの小説,外国の小説,犯罪小説,ロマンス,歴史,ノーベル賞受賞作品,戯曲,伝記,エッセイなどに分けて並べられている。カウンター前には図書館員の推薦図書が並べられている。数名の利用者が館内で本を選んだり,閲覧していた。改装前は知らないが,今の図書館の図書館内は明るく,活気のある図書館であった。

ウッチ市立図書館 トラフ(TRAF) 71

ウッチ郊外の団地の中にある。2022年に改装が行われ,図書館は明るく,きれいな印象を受けた。平日の午後に行ったが,館内には乾かした木や草のような素材で作られたオブジェがいくつが置かれていた。それがよいアクセントになっていた。図書館の広さは200㎡ほどで,蔵書数は1.6万点とされているが,それ以上あるように見えた。入口を入って右側には図書館員の事務スペースと,犯罪小説やファンタジーの部屋があるが,いずれも小さめである。訪問時には,職員がそこの部屋で図書に分類のシールを貼る作業をしていた。ポーランドの分館では,バックヤードのスペースが十分ないためか,開架スペースで作業する姿をよく見かける。左手に進むとカウンターがあり,2人の職員が座っている。その先に広がる部屋はほぼ正方形の開架スペースである。白を基調として明るく,コストカの分館とも雰囲気が似ていた。フロア中央のテーブルには,午後からのイベントに向けた準備が行われていた。この日は子どもたちによるブレスレット作りのワークショップが予定されていた。黒板には今後のイベント情報が書かれており,数週間先にはマリオ関連の企画があるとのことだった。図書の分類はUDCのような細かい方式ではなく,「Kriminal」の「K」のようにジャンルごとのシンプルな記号を貼っていた。Kの中は著者名順である。目的の資料にたどり着けるのであれば,簡単でよいという思想が感じられた。収集しているジャンルは,ウッチの他の分館と大きな違いはない。資料のバーコードは,日本の図書館でも使われているような細長いバーコードと,2次元バーコードが混在しており,現在,新しい方式へ移行中とのことだった。ここでもDue Dateのスリップが使われており,日付が押せなくなったものには付箋を折って裏に押してあった。分かればよい,ということであろう。一番奥には児童スペースがあり,絵本を中心とした児童図書が並んでいた。ここには子ども向けのコミックも置かれていた(大人向けは別に置かれていた)。団地の一階という制約された環境の中でも,窓を大きくとり,自然光を多く取り入れていた。図書館内に置かれたオブジェも含めて,気持ちのよい空間づくりがされていた。

  1. https://andmed.stat.ee/et/stat ↩︎
  2. https://keskraamatukogu.ee/ ↩︎
  3. https://keskraamatukogu.ee/raamatukogu/kalamaja-raamatukogu/ ↩︎
  4. https://www.rara.ee/ ↩︎
  5. https://www.rara.ee/laenuta/mirko/ ↩︎
  6. https://digilab.rara.ee/ ↩︎
  7. https://dea.digar.ee/ ↩︎
  8. https://www.rara.ee/partnerile/kirjastajale/kirjastajaportaal/ ↩︎
  9. https://keskraamatukogu.ee/raamatukogu/nurmenuku-raamatukogu/ ↩︎
  10. https://keskraamatukogu.ee/raamatukogu/laagna-raamatukogu/ ↩︎
  11. https://keskraamatukogu.ee/kojulaenutus-2-2/seemnelaegas/ ↩︎
  12. https://keskraamatukogu.ee/raamatukogu/kannukuke-raamatukogu/ ↩︎
  13. https://keskraamatukogu.ee/kohalkasutus/innovatsioonilabor/ ↩︎
  14. https://www.luts.ee/et/tammelinna-harukogu ↩︎
  15. https://www.luts.ee/et/sundmused/lugemisvaljakutse-loeme-500-lehekulge ↩︎
  16. https://www.luts.ee/et/annelinna-harukogu-0 ↩︎
  17. https://www.luts.ee/et/statistika ↩︎
  18. https://www.luts.ee/et/aktiivoppe-programmid ↩︎
  19. https://tartu.luts.ee/ ↩︎
  20. https://uml.lodz.pl/kalendarz-wydarzen/wydarzenie/rozgrywka-startuje-14-wrzesnia-zobacz-jak-zmienila-sie-biblioteka-przy-powstancow-wielkopolskich-id30306/2019/9/12/ ↩︎
  21. https://www.facebook.com/bibliotekaprzykostki/?locale=pl_PL ↩︎
  22. https://www.portalsamorzadowy.pl/polityka-i-spoleczenstwo/lodz-biblioteka-miejska-zmodernizowala-kolejna-filie,273991.html ↩︎