サザーク区にある1。図書館があるカナダ・ウォーターはかつて港湾や倉庫の街であった2。ドックはその後,閉鎖されたが,1980年代以降,再開発が進められてきた。図書館は2009年に開館している。逆ピラミッド型の形が特徴的である。サザーク区には12館の図書館があり,3つのグループに分けて,それぞれにまとめ役の図書館がある3。カナダ・ウォーター図書館はその一つである。図書館のすぐ横には淡水湖が広がっている。
入口を入るとグラウンドフロアにはカウンターと貸出返却機がある。少し奥にはカフェも併設されている。カフェはこじんまりとしているが,賑わっていた。ベストセラーや新刊図書が面陳で開架されている。この階には劇場(カナダ・ウォーター・シアター)がある4。150席のかなり立派な劇場である。劇場の管理は委託されており,運営に図書館員は関わっていない。Library of Thingsのロッカーもあり,一番人気はカーペットクリーナーとのことである。ロッカーの設置で一定の収入を得ているとのことである。グラウンドフロアは1階や2階よりも早く,朝8時から開館している。
1階へは円形の階段を上っていく。木製の螺旋階段で非常に美しい。1階と2階の床にはカラフルな絨毯が敷かれている。1階は児童コーナーやCD・DVD,フィクション中心の図書が排架されている。PCコーナーもあった。カウンターは児童コーナーの近くにある。様々な種類の閲覧席が,図書館の窓際に沿って配置されている。それらはどこもよく利用されていた。特に若者の利用が目立つ。この図書館は同じ区のジョン・ハーバード図書館と同様にジャンル別の排架をしている。1階にはフィクションのほか,伝記,フード・ガーデニング,スポーツ・エンターテインメント,旅行などがある。フィクションはさらに細分化されていた。書棚は蛇腹のように曲がっていて面白い。
児童コーナーは,特に空間を区切らずに設置されている。コーナーを見ていると『ゼルダの冒険』や『ポケモン』などの図書もあった。また,ディスレクシアフレンドリーの棚もあった。そこにはBarrington Stoke という出版社の図書が置かれていたが,読みやすさに配慮したフォントを用いていることなどが説明されていた。児童がいないときは気づかなかったが,放課後になって子どもたちが集まりだすと,かなり賑やかであることが分かった。図書館員も「しょうがない」ということであった。
この階には黒人著作(Black Writing)のコーナーやLGBTQのコーナーもある。これはロンドンの他の図書館でも見たものだが,ロンドンで一般的とのことであった。コミックコーナーには日本のMangaが低書架で3棚分ある。ロンドンで見てきた中でも,かなり充実している。ここは人気があり,特に『ONE PIECE』『NARUTO』『ジョジョの奇妙な冒険』などはよく借りられるとのことだった。実際,当日は学校訪問で中学生が来ていたが,自由時間になるとMangaコーナーに群がっていた。
2階にはアート,クラフト,ビジネス,コンピューティング,健康,歴史,社会科学,自然科学などの一般書が並んでいる。中に「The unexplain」(説明不能)と書かれた棚があった。これはオカルトや超常現象の図書であった。イギリスでもこうした図書は出版されている。2階は1階から吹き抜けになっているが,それを囲む閲覧席はほぼ埋まっていた。階段で上がってきて,下からは気づかなかったが,とても多くの利用者がいたのに驚いた。静かに作業をしている。No Phone Zone,Quiet Zoneと注意書きがあった。多くの人がノートPCを持ち込んでいた。6つのミーティングルームもある。通常は個人に貸出していないが,最近,オンライン会議のニーズが高まっているので,そのための貸出をすることも検討しているという。他にPODの導入も検討しているという。
この図書館でも多くのイベントを開催している。ブックスタート,ライムタイム,お絵かきクラブ,ボードゲームクラブ,チャッターブック(アニマシオンに近い)などがある。開架スペースで,特設の展示をしていたのが「D&D Taster Evening」である。ここでは,テーブルトークRPGであるDungeons and Dragons(D&D)を未経験者向けに体験できるイベントを告知するとともに,ルールブックなどが並べられていた。
この図書館の事務室を見せてもらったところ大部屋であった。職員は全員同じ部屋で仕事をしている。他のヨーロッパの図書館では,部署ごとに小さな部屋が設けられていることが多かったが,だいぶ異なる。大規模館ではないためかもしれない。図書館員は出払っていて,ほとんど人は見当たらなかった。隣にかなり大きな休憩室があり,休憩している職員が数名いた。
以下,興味深かった点をいくつか述べていく。まず,レファレンスコーナーについてである。20冊から30冊程度のレファレンスブックの置かれたコーナーが「レファレンスブック」と書かれており,他にはレファレンスコーナーは見当たらなかった。尋ねてみると,かつてはしっかりしたコーナーがあったが現在はここだけとのことだった。大活字本もあったが,近年は利用が少ないという。電子書籍を導入しており,そちらでフォントサイズの変更ができるためとのことであった。CDやDVDも新規購入は減っているとのことであった。そもそも,再生するデバイスを持っていない家庭が増えているとのことである。映画については,代わりにKanopyというストリーミングサービスを契約している。しかし,こちらはハイカルチャー的な作品が多く,従来のDVDを代替するとはいえないとのことだった。雑誌も購入を減らしており,代わりにPress Readerというオンライン雑誌に移行しているとのことだった。
次に,2階にQuick Readのコーナーがあった5。ここでは,The Reading Agencyが企画する短く読みやすい図書が集められていた。忙しい人でも簡単に読むことができるというコンセプトである。The Reading Agencyのウェブサイトによると,30社以上の出版社と協力し,135タイトルを刊行し,図書館では600万回以上貸出されているという。著名作家による短く読みやすい作品が多い。価格は表紙に1ポンドと書かれている。The Reading Agencyの関係では,日本で紹介されることもある「図書の処方箋」もあった6。これは,認知症,妊娠期の健康管理,心の健康などに関するテーマについて,NHSなどと協力してリストを提供するものである。これらの図書は地域の図書館で借りられるとされており,カナダ・ウォーター図書館では,それらの図書がすぐ分かるよう表紙にシールを貼っていた。
また,この図書館の排架はジャンル別であった。図書の背表紙の請求記号を見ると,まずジャンルを示す記号が書かれており,その下に分類記号が書かれている。図書は,ジャンルごとに書棚に並べられるが,その中では分類記号順になる。したがって,同一ジャンル内には異なる「類」の図書が混在する。このことについて,利用者は慣れているのかを尋ねてみたところ,必ずしも慣れていないこともあるという。一例として『Five times faster』という図書はOPAC上で「363.7 NATURAL WORLD & PETS」と表示されるので,NATURAL WORLD & PETSの棚に行き,363.7を探すことになる。
図書にはカバー,Due Date,RFID,バーコードが付けられている。こうした装備は,他の区と同様であった。このことを尋ねると,基本的に公立図書館の納入業者は寡占化しているとのことだった。したがって同じような装備になるわけである。ちなみに割引率は再販売価格維持制度のないイギリスでは日本では考えられないほどの率である。納入業者は多くの場合,MARCとカバー,装備などをセットにして納品している。ただし,この図書館ではカバーを図書館で付けているとのことだったので,装備の詳細は契約に依るようである。
イギリスの図書館にもコピー機がある。そこにはやはり日本と同様,著作権に注意するようポスターが貼られている。ただし,日本と異なり,別のサービスも提供されている。Princhというサービスである7。これは,自分のPCやスマホからPDFなどを印刷することができるものである。サザーク区の図書館も導入しており,このために来館する人もいるようである。他の図書館を訪問していたとき,この機能を利用しに何人かの利用者が来ていた。しかし,ちょうど,この機械が故障していたため,繰り返し図書館員が事情を説明していた。(張り紙はしてあるのだが)
淡水湖の近くにありすばらしい環境にある。図書館は比較的新しく,また,手が行き届いておりとても気持ちのよい図書館であった。
- https://www.southwark.gov.uk/culture-and-sport/libraries/find-library/canada-water-library ↩︎
- https://en.wikipedia.org/wiki/Canada_Water ↩︎
- https://www.southwark.gov.uk/culture-and-sport/libraries ↩︎
- https://www.canadawatertheatre.org.uk/ ↩︎
- https://readingagency.org.uk/get-reading/our-programmes-and-campaigns/quick-reads/ ↩︎
- https://readingagency.org.uk/get-reading/our-programmes-and-campaigns/reading-well/ ↩︎
- https://princh.com/library-printing-solution/ ↩︎