行ったところ(1/6〜)

バーモント・スクエア分館

ロサンゼルス公共図書館(LAPL)の分館の一つである1。LAPLの設置主体はロサンゼルス市である。ロサンゼルス市は複雑な形状をしており,虫食いのようにもなっているが,この図書館はそのおおよそ真ん中あたりにある。図書館は6つのエリアに分かれており,この図書館は中央南部エリアに属する。1984年のロサンゼルスオリンピックの会場となったメモリアル・コロシアムはすぐ近くである。1913年に設置されたカーネギー図書館で,館内には100周年を祝うポスターが掲示されていた2。ロサンゼルスはこれまで大きな地震を経験してきたが,ここも耐震の問題から廃館の危機があった。しかし,住民の保存活動もあり耐震補強をしたうえで現在も利用されている。

建物はワンフロアでこぢんまりしている。階段を上がり,ドアを開くと正面にカウンターがある。多くのカーネギー図書館同様,天井が高い。図書館から提供された資料によると内装にはオーク材が使われている。左側は児童フロア,右側はYAおよび大人向けのフロアである。カウンターの後ろには書架やPCが並び,小規模な分館であるが警備員が配置されていた。ここでは,なんと日本語を話すことのできるライブラリアンがいた。かつて日本に滞在していたことがあるとのことだった。

児童フロアには,絵本,グラフィックノベル,フィクション,ノンフィクションなどが並んでいる。グラフィックノベルの書棚の下には,「IMAGENATION」と一文字ずつ彫られたスツールが並んでいた。これを制作したのは,日本生まれで米国を拠点に活動している長澤伸穂氏である3。ノンフィクションはDDC順で配架されているが,サインはDDCではなくHistory,Country,Stateといったキーワードで掲示されていた。請求記号には児童書もカッター・サンボーン著者記号表による著者記号が付されている。奥には,数の数え方,形,アルファベット,色などをテーマとした幼児向け図書がまとめられていた。スペイン語の児童図書も多い。訪問時,親子など3人ほどが滞在していた。

カウンターの後ろには,充実したコミュニティ掲示板があった。また,フィクションの一部(アーバン)や新刊図書の展示とともに,PCが5台設置されている。1台は使用中であった。プリンタやスキャナーもある。書架の間にはガラス製の美しいテーブルが置かれていた。テーブルには全米のBanned Booksのタイトルが記されている。これも長澤氏制作のものである。

入口を背にして右側のフロアは,手前にYA向け図書が壁際に並んでいる。日本のコミックやDCなどのグラフィックノベルが充実していた。DCについてはHooplaやOverDriveの案内があったが,日本のコミックにはその案内が見られなかった。電子書籍サービスには収録されていないのであろうか。フィクションはYA向けがあったが,ノンフィクションは大人向けと混配されていた。書棚には「ティーンは自分で探して」との張り紙があり,妊娠,LGBTQ,ホームレス,摂食障害など,センシティブなテーマがキーワードとDDC番号の対応表で示されていた。YAコーナーのすぐ横にはBrave Spaceと書かれたフライヤーが掲示されている。そこには,自分を受け入れ,励まし,祝福する空間であること,そして「同性愛嫌悪,トランスジェンダー嫌悪,人種差別,性差別などの非難,発言は容認されない」と記されていた。これは関連した活動を行っているロサンゼルスLGBTセンターとの連携によるもののようで,周辺には関連図書が展示されていた。

大人向けフロアには,フィクションとノンフィクションが並んでいる。フィクションはミステリーが別置されていた。複本は少なく,多くても2冊程度である。図書には分館名を示すシールが貼付されており,館籍があることが分かる。RFIDは付与されていなかった。多くの図書の表紙には「14」というシールが貼られている。これはLAPL内の図書館の番号である。ノンフィクションのうち,ジョブ&キャリアと試験準備は別棚であった。試験準備の棚には,教員(CBEST),消防士(Firefighter Exam),軍隊(ASVAB)など,多様な職業に関わる試験対策図書が並んでいた。DVDやCDも所蔵されており,DVDは4日間貸出で,遅延は1日1ドルと表示されていた(通常は1週間貸出で延滞料はない)。NYPLと同様,ケースはロックされている。机と椅子が配置され,小さなスペースだが6名ほどが滞在していた。

興味深かった点を三つ挙げる。第一に,試験準備の棚に「Library Clerk」の問題集4が置かれていた点である。これは他の図書館でも目にしたことがある。アメリカでは採用は面接中心という印象があったが,自治体や職種によっては筆記試験による選考が行われているようである。例えば,ロサンゼルス市に囲まれたバーバンク市では,排架やリクエスト図書の収集,イベント用テーブルの移動などを担う「ページ」職について,選考で筆記試験が課されている5。また,ロサンゼルス郡のアシスタント職でも筆記試験が実施され,内容には図書館に関する基礎知識が含まれている6。問題集はClerk,Senior Clerk,Principal Clerkの三種類があった。アメリカでも筆記試験の選考が行われている点は興味深い。

第二に,図書館入口前で「責任あるコミュニティ開発連合(CRCD)」という団体が3人で情報提供を行っていたことである7。CRCDは南ロサンゼルスの低所得者層の住民支援などを目的とする団体である。情報提供の内容として,まず,有給の職業訓練プログラムの案内を行っていた。プログラムには職探し支援,履歴書や面接対策,キャリア相談も含まれている。また,太陽光発電設備の設置などを含むグリーン産業における職業訓練プログラムの案内もあった。若者向けには,高校や大学への復学支援,高卒資格取得支援,職業訓練プログラムなどがある。CRCDの取組とは別に,図書館では差し押さえや債権回収に関わる弁護士相談会や,無料の健康診断も開催されていた8。英国やカナダでも目にしてきた取組である。行政だけでなく,多様な団体が関与している点も共通している。

第三に,第二次世界大戦時の図書館の様子である。これは図書館から提供された資料に記されていものである9。戦時中,この分館も戦争の影響を受けており,資料によれば停電や空襲に備えて開館時間を短縮していたという。また,ガソリンの配給制への移行等により利用者が頻繁に来館できなくなったことから,貸出点数を5点から10点に増やしたという。8月には職員不足のため長期休館をしていた。さらに,図書館は空襲時のシェルターとして指定され,赤十字の傷病センターとしても利用されていたという。日本の図書館が空襲で大きな影響を受けたことはよく知られているが,アメリカの図書館もまた戦争の影響を受けていたことが印象に残った。

ウェストハリウッド図書館

ロサンゼルス・カウンティが設置する図書館である10。ロサンゼルス・カウンティ図書館のサービス区域はロサンゼルス市公共図書館よりもかなり広い。地域としてはロサンゼルス市から見て北側に大きく広がっている。ロサンゼルス・カウンティ図書館は,カウンティ内にある88の自治体のうち49自治体にサービスを提供している。カウンティ立とはいえ,位置づけとしてはロサンゼルス市と同格である。つまり,自治体としてはカウンティが市を包含するが,市を支援するという関係にはない。今後,日本において都道府県が市町村の公共サービスを補完することが本格的に議論されるようになれば,このような広域自治体による図書館サービスは,一つの参照モデルになるかもしれない。

統計によると11,ロサンゼルス・カウンティ図書館のサービス人口は約325万人である。ロサンゼルス市公共図書館よりは少ないものの,大規模な図書館システムであることは間違いない。中央館は設けられておらず,85の分館で構成されている。職員数は868人で,そのうちALA認定MLIS取得者は269人である。年間来館者数は552万人,物理資料の貸出は551万点,電子資料の貸出は499万点である。2023年にはIMLSのNational Medal for Museum and Library Serviceを受賞している。

ウェストハリウッド図書館はウェストハリウッド市にある。映画で有名なハリウッドとは東側で接し,高級住宅街で有名なビバリーヒルズ市とは西側で接している。周囲はロサンゼルス市に囲まれているが,行政上は独立した自治体である。市の人口は約3.6万人である。

この図書館は2011年に開館した比較的新しい施設である。ガラス張りの建物で,内部には市議会の議場や駐車場もある。さらに,図書館の屋上にはテニスコートが設けられている12。道路から階段を上ると,右側に公園があり,左手に入口がある。入口はサインがないためやや分かりにくい。館内に入るとそこが2階で,総合カウンターがある。開館時間は月曜日から木曜日までが11時から19時と比較的長めである。

館内には自動貸出機がある。横にはHoldsの棚が設けられているが,量はかなり多かった。その前にはLibrary Managerのガラス張りの個室がある。オハイオ州のサウスウェスト公共図書館グローブシティでも職員の個室が利用者の空間と接している部屋を見た。KanopyやHooplaといった電子サービスの案内も目立つ。図書の裏表紙には館籍を示しているシールが貼られており,表紙をめくった前付け部分には受入年月のスタンプが押されていた。RFIDは貼付されていない。OPACを確認すると,ILSはSirsiDynix社製であった。

図書館の白い壁面では,2階,3階で地域の過去の写真や絵画などを用いた展示が行われていた13。かつてこの地域に存在したという遊園地「リメンバリング・ビバリーパーク」の紹介,街の景観をテーマとした「Heart of WeHo」,ウェストハリウッドの歴史を紹介する「Historic WeHo」などである。これらはいずれも市の美術館と連携した企画であった。カウンティ立図書館であるが,地元の市と密接に協働している点が興味深い。

入口入って右側には大活字本やオーディオブックが並び,DVDなどの視聴覚資料もある。この階には児童コーナーもあるが,今回は見ていない。また,この階にはキャリア・ディベロップメント・センターが設けられていた。これはウェストハリウッド市との連携事業で,無料の就職スキルトレーニングやネットワーキングなど,就労支援が行われている14。2階への階段には,天井にパブリックアートが飾られている。また,2階の天井は特に印象的であった。竹製のパネルに,葉や花びら,蔓をモチーフとした模様が全面に施されていた。

2階は,フィクション,ノンフィクション,雑誌の書架がある。この図書館では複本はほとんどなかった。窓際には一人用の席が一方向に並んでいる。とて人気がありすべて利用されていた。新しい建物で,ガラス張りの窓際の席はまさに特等席のようであった。PC席や通常の閲覧席も数多く用意されているが,こちらもほぼ満席であった。ロサンゼルス市の分館と比べて規模が大きく,多くの利用者が滞在している印象である。

館内奥には「Ruth Bader Ginsburg Room」と名付けられた部屋がある。連邦最高裁判事であったRuth Bader Ginsburgの名を冠したものである。この地と特別なゆかりがあったわけではないようであるが,LGBTQや人権擁護に尽力した人物であることから名前を冠した部屋を設けている。市議会では当初,図書館自体に名前を冠することも議論された経緯があった15。その奥には,アート・デザイン(7類),多言語図書のコーナーがあり,ロシア語とスペイン語の資料がまとまって排架されている。ロシア語資料が多いのは,この地域が歴史的にロシア系移民を多く受け入れてきたことに由来している。ロサンゼルス市公共図書館でも地域ごとに収集言語が異なるが,ここでも地域特性がはっきりと反映されている点が興味深い。マンガを含むグラフィックノベルもこの一角に排架されている。ガラス張りのスタディールームは3室設けられていた。

さらにこの図書館では,LGBTQコーナー,HIVコーナー,Ruth Bader Ginsburg Woman’s Empowerment Collectionといったコレクションが設けられていた。ウェストハリウッドは歴史的にゲイ・ヴィレッジとして知られ16,ゲイ男性人口が多かったことから,HIVの影響を強く受けた地域である。そのため,現在の図書館になる以前からHIVに関する専門コーナーを設けてきたとのことであった。

この図書館で印象的だったことを3点述べたい。1点は,カウンティによる図書館でありながら,市との連携や市の影響を強く受けている点である。壁面を使った展示は市による企画であり,キャリア・ディベロップメント・センターも市との協働事業である。LGBTQやHIVのコーナー,ロシア語コレクションも地域特性を強く反映したものであった。Ruth Bader Ginsburg Roomの設置も市議会での議論が背景にある。そもそも,この建物は市が予算を支出し設置している17。このように,広域自治体と市が,さまざまなレベルで関わり合いながら図書館運営を行っている点は,興味深い。

2点目は,「Kindleを借りよう」というコーナーがあった点である。これは,Amazon社のデバイスのKindleに特定ジャンルの電子書籍をあらかじめ収録し,それを貸出すというものである。この図書館に限らずカウンティ全体で展開している。OPACで確認すると,ウェストハリウッド図書館だけで60点以上のデバイスが所蔵されているようで,よく利用されている。ジャンルはヤングティーン,ロマンス,ポピュラー・ノンフィクション,ニューノンフィクションなど多様であった。

3点目として,郡立図書館としての薬物対策が挙げられる18。図書館では,大麻食品について正しい知識を学ぶ講習会を実施している。さらに,近年,全米で深刻化しているフェンタニルの急性中毒への対応として,効果のあるナロキソン(ナルカン)の配布や,薬物にフェンタニルが含まれているかを確認する検査ストリップの配布も行っている。これらを受け取る際に,身分証明書や保険証は不要である。この取組はカレントアウェアネスでも紹介されている19。図書館がこうした薬物対策にまで関わるということはこの問題の深刻度が伺える。

ビバリーヒルズ公共図書館

ビバリーヒルズ市に設置されている20。周辺は市役所,消防署,警察署などの公共施設が集まっている。また,高級住宅街の中にある。図書館内部はかなり複雑な形状をしていた。1965年の開館以降,1990年,2013年に大規模なリノベーションを重ねてきたことと関係しているのかもしれない。統計データを見ると,サービス対象人口は約3.2万人で,スタッフ数は49人であった。そのうちALA-MLS保有者は14人である。年間来館者数は約46万人,物理資料の貸出は約24万点,電子資料の貸出は約4.8万点であった。物理資料の貸出密度は7.5と比較的多い。図書館は本館のほかに,分館がもう一つある。

ガバナンスについては,規模は大きく異なるものの,法的な位置づけはロサンゼルス市の公共図書館と同じである。図書館委員会(Board of Trustees)が設置されており,2021年1月の議事録では,委員全員が市議会議員であった21

入口を入ると,2階まで吹き抜けになっているスペースがある。開放的である。カウンターの近くにはカフェ(Kelly’s Coffee & Dodge Factory)があった22。隣には友の会の書店もある23。入口を背にして右手に児童室がある。部屋の前には木製の大きな車が置かれていた。吹き抜けのある1階部分には主にDVDと自動貸出返却機がある。少し奥に進むとフィクションが始まり,さらに進むとノンフィクションが並ぶ。その先にはティーン向けコーナーがある。続いて伝記,グラフィックノベル,雑誌のあるブラウジングコーナーと続く。一番奥には見事な閲覧スペースがある。勉強がはかどりそうである。この閲覧スペースは,誕生日パーティー,家族の集まり,ビジネスランチなどにも貸出されていた。

多言語図書では,ペルシャ語図書が充実していた。全体として学生の利用が多い印象である。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)からそれほど遠くないことも影響しているのかもしれない。図書にはRFIDが貼付されており,盗難防止装置もあった。OPACにはBiblioCommonsが使われている。展示コーナーでは,かつて地域に存在したライト・マクマホン秘書養成学校の展示が行われていた。

館内のつくりは,全体として伝統的な図書館である。書棚は5段で,一番下の段は使われていなかった。資料は多く排架されており,DVDも充実している。複本はそれほど多くないが,新刊のフィクションでは5冊並んでいるものも見られた。背表紙の請求記号がやや異なっており,レンタルを利用している可能性も考えられる。

2階には7類の図書とレファレンス図書が排架されていた。カウンターはあったが,レファレンス資料の点数はそれほど多くなく,閲覧スペースとしての利用が中心のように感じた。また,ペイリー・アーカイブと呼ばれる部屋があった24。これは,テレビやラジオの過去のコンテンツを搭載するデジタルアーカイブにアクセスできる施設である。もとは,図書館とは別にテレビ等のコンテンツをアーカイブしていたテレビラジオ博物館があったが,最近閉館し,2025年3月に図書館内に設けられたものである25。ニューヨークにも関連の施設があり,現在はペイリー・センター・フォー・メディアとして幅広い活動を行っている26

個人的に興味深かったのは,ペルシャ語図書の目録データであった。MARCを確認すると,ペルシャ語がアルファベットに置き換えられたラテン翻字で表記されている。作成機関が分からなかったが,標題紙部分にOCLC番号が付与されていたため,WorldCatで検索してみると,ちゃんとビバリーヒルズ公共図書館に所蔵と表示された。ここから,OCLCを用いたコピーカタロギングが行われていると推定される。オハイオ州の図書館でも同様であったが,OCLCが目録作成において基盤的な役割を果たしていると感じた。全体として,高級住宅街に立地する落ち着いた雰囲気のある図書館であった。

ジュニペーロ・セラ分館

ロサンゼルス公共図書館の分館の一つである27。この図書館は中央南部エリアに属する。比較的大きな建物だが,ワンフロアである。天井が高く,そこから光が入るほか,多くの窓からも自然光が入り明るい。入口左には成人リテラシーセンターがある。入口付近にはNew American Initiativeのラックが置かれていた。そこには米国市民権・移民局などのチラシやパンフレット,ツールキットのボックスなどが並んでいる。ツールキットの内容は市民権取得に向けた準備に関わる情報である。

手前に貸出などの手続きを行うカウンターがあり,奥にはinformationと書かれたカウンターがある。簡単な相談・処理は手前で,込み入った相談は奥で,という配置であろう。こうした構成はLAPLの分館で共通して見られる。カウンター前にはPCと閲覧スペースがある。資料はフロア右側からスペイン語資料,ノンフィクション,フィクション(壁際),TEENと並び,奥に児童コーナーが設けられていた。

スペイン語資料の棚には,DVDやオーディオブックのほか,日本のコミック(ワンピースなど)も見られる。ノンフィクションはTEENと混配である。ここもピコ・ユニオン分館と同様,6段のスチール書棚が使われており,一番上と一番下の段は使用されていなかった。各段のおよそ半分は面陳用スペースとして使われている。TEENはフィクションとグラフィックノベルがあり,特にMangaと書かれたコーナーには多くの日本のマンガが並んでいた。コーナーの案内にも,ボーカロイドや日本の高校生のキャラクターが使われていた。

児童コーナーには,グラフィックノベル,ノンフィクション,フィクション,ペーパーバック(いわゆるシリーズもの),スペイン語の児童書などが排架されていた。奥には読み聞かせができるスペースがあり,そこには「図書はあなたを明るく照らす」と書かれていた。

中央のPCと閲覧スペースには比較的人が多くいる。PCを使う人や,自分のノートPCで作業する人が見られた。PCにはMS Officeは入っていないが,フリーのオフィスソフトがインストールされている。カウンター後ろにはTEENと書かれた部屋がある。ここはTEENのボランティア活動や関連プログラムが行われるとのことであった。

この図書館で特に興味深かった点は二つある。一つ目は,New American Centerという部屋である28。LAPLでは6館にこうしたセンターがある29。市民権取得を人的に支援するために2018年から運営されている。ウェブページによると,ロサンゼルスには140カ国以上からの移民が暮らしている。そうした移民が市民権を取得するまでの道のりは長い。一般的には,就労ビザで働きながら永住権(グリーンカード)取得を目指し,その後,市民権を取得するという流れになる。ここでは,永住権や市民権取得に向けた文書作成の支援が行われていた。サービスは予約制で,面談内容については秘密を厳守するとされている。また,市民権取得に必要な試験への対策講座も開講されている。さらに,話題となっている米国移民・税関捜査局(ICE)に遭遇した際に,どのような対応が可能かを示す情報もウェブページで提供されていた30。ロサンゼルス以外の図書館でも,そのような場面での対応を書いた小さなカードが置かれているのを見たことはあったが,ここまで踏み込んだ対応をしている例は,これまでの図書館では見たことがなかった(気づかなかった可能性もある)。

もう一つは,「サイバー航海者」(Cybernauts)という事業である31。これは,利用者に対してPCやスマートフォンなどの技術支援を行うものである。具体的には,タブレット,PC,スマートフォンの基本操作,ソーシャルメディアの活用,オンライン情報の探索,オンラインの安全性,基礎的なコンピュータスキルなどの支援をしている。もちろん,図書館の電子メディア利用も含まれる。支援をする職員がこの分館では,月曜日から金曜日の14時半から17時半まで配置されている。訪問時にも,高齢の女性がPCコーナーで相談をしている様子が見られた。なお,このサービスはオンラインでも受けることができる。

サウス・パサデナ公共図書館

サウス・パサデナ市が設置している32。市はロサンゼルス市と西側で接している。この地域はアジア系住民が多い。2020年の国勢調査ではアジア系が34.4%を占め,39.6%の白人に次ぐ。図書館のある一画は緑に囲まれた広場で,公園のような雰囲気であった。とても気持ちのよい場所である。サウス・パサデナは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をはじめ,映画のロケ地としても知られている。

統計(2023–2024)によると,サービス対象人口は約2.6万人,図書館数は1館,職員数は18.95人である。うちALA-MLS保持者は8.75人であった。来館者数は約21.1万人,物理資料の貸出は32.1万点,電子資料の貸出は5.4万点で,電子資料を含めた貸出密度は14.4と高い。

この図書館は何度か増改築を繰り返してきた33。1916年にはカーネギーからの資金提供も受けている。現在の建物は,半分が図書館,半分がコミュニティセンターである。それぞれの入口は異なるが,内部でつながっている。コミュニティセンター部分は1930年に建てられた元の図書館で,訪問時には大きな会合が開かれていた。

図書館は1階と2階があるが,2階は事務スペースと友の会のブックストアであった。1階は入口を入るとすぐにロビーで,カウンターがある。右側が児童室,左側がフィクション,奥がノンフィクションとTEENのエリアであった。ロビーでは,友の会による「サイレント・オークション」が行われていた。これは貴重な図書をオークション形式で販売するものである。展示ケースには5冊の図書が並べられ,それぞれ最低入札額と最小入札単位が示されていた。入札者は,各図書に用意されたブラウン式のブックカードのようなカードに名前と金額を記入する。期限は1月31日13時までであった。最も高値がついていたのは,アーロン・コープランドの『People’s Park』である。現在の価格は60ドルであったが,Amazonの中古図書には37.95ドルで出ていた。その横には「新しいジャンルに挑戦!」という特集展示があり,多様なジャンルの図書が並んでいた。他に自動貸出機,返却ボックスなどもある。

奥に進むと,吹き抜けになったスペースがあり,種の図書館,友の会の特売コーナー,新刊図書,PCなどがあった。種の図書館には,カード目録のケースが再利用されており,中に市販の種が入っていた。「貸出時」は貸出カウンターに持参するよう書かれていたが,これは統計データのためのチェックで,種の返却は不要である。友の会の特売コーナーには「最後のチャンス」と書かれ,50セントなど格安で販売されていた。ここはスペースとしてはかなり良い場所だが,友の会に貸している。小さなコミュニティの図書館では,このように友の会を大事にする姿勢が見られることがある。販売されている図書は,基本的には寄贈図書で,一部,廃棄図書が含まれていた。

新しく入った図書のコーナーもあったが,ベンダー変更のため図書の入荷が遅れることが告知されていた。図書館員によると,ベイカー&テイラーに替わる新たなベンダーとしてイングラムを検討しているが,Amazonの可能性もあるとのことであった。いずれにしても,購入先の変更には業務上の変更・調整事項が多く,時間がかかるという。そうした事情もあり,利用者からの寄贈図書も新しい図書として受け入れ,ここに排架されていた。

左側のフィクションコーナーは「静寂コーナー」にもなっており,新聞・雑誌と閲覧席があった。フィクションはジャンルを分けず,背表紙に「ミステリー」などのシールを貼っていた。書棚は7段のステンレスで,一番上は使われておらず,一番下は背表紙が見やすいように横置きしていた。RFIDは貼付されていない。背表紙には白い細長い紙が貼られ,「Date Due」と書かれ,返却日が押されていた。複本はそれほど目立たないが,ロサンゼルス市や郡の図書館よりは多い印象であった。ミハイル・ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』は8冊所蔵されており,そのうち6冊が排架されていた(2冊は貸出中)。図書館システム(ILS)はSirsiDynix社であった。

このコーナーの奥には,スペイン語と中国語の多言語図書も置かれていた。その棚の上には有権者登録の案内が掲示されている。中国語資料のMARCを見ると,OCLCを用いたコピーカタロギングが行われているようであった。WorldCatにも登録されている。図書館とは別の話だが,コミュニティ掲示板には,日本語と英語を半々で学べるプログラムを持つ学校の紹介があった。駐在する日本人向けかと思ったが,普通のアメリカ人も対象としていた34

ティーンおよびノンフィクションのコーナーには,伝記,オーディオブック,グラフィックノベル,DVD,CD,ESL,大活字本などが配置されていた。グラフィックノベルは,大人向けはアメコミ中心であり,TEENのコーナーには日本のMangaが多く見られた。また,「ジョブ・インフォメーション・センター」と呼ばれるコーナーもあり,日本で言うビジネス支援関連図書がまとめられていた。

児童コーナーには,フィクション,ピクチャーブック,ノンフィクション,コミックスなどが並んでいた。書棚の側面も有効に活用されており,「アメリカンガール」シリーズ,カリフォルニア州の学校で使われている教科書,百科事典『ワールドブック』,子ども向けの古典的名作(Adapted Classics)などが置かれていた。絵本コーナーの最後には,コルデコット賞受賞作品がまとめられていた。PCも設置されており,子どもがゲームをしていた。このエリアでは,アジア系の親子が目立った。また,壁にはなぜか鯉のぼりが飾られていた。図書館は全体として,PC席も閲覧席もよく利用されており,入口のカウンターもひっきりなしに利用者が訪れていた。

この図書館で特に興味深かった点を四つ挙げたい。第一に,日本の図書館と似ている点が多いことである。それも,よく手の行き届いた日本の図書館に似ていると感じた。たとえば,棚差しが他の米国の図書館と比べて多く見られ,書棚には細分化されたテーマも付けられていた。アメリカの図書館ではこうしたサインが少なく,探しにくいと感じることが多かったので興味深かった。OPACの横にはメモ帳と鉛筆が置かれている。これは日本の図書館ではよく見かけるが,海外ではあまり見ない。こうした細々とした工夫が各所に見られ,日本の図書館との類似性を感じた。一方で,日本の図書館では見ない工夫もあった。書棚に,ボランティアによる図書推薦の紙が貼られている。ここには推薦者の名前と推薦理由が書かれていた。

第二に,図書館委員会(Library Board of Trustees)の権限である35。想像していたよりも権限が強いと感じた。図書館委員会は市条例によって規定されており,委員は5名で,地元の弁護士や企業関係者などから選ばれている。権限として,条例や規則の準備,予算案の市長への提出,職員候補者選考のための委員会設置や募集・審査・選考などが定められている。最終的な決定権は市議会や市長に留保されているが,形式的にでもこれだけの権限を持つことは大きい。実際には図書館が原案を作り,それを図書館委員会に通すという運用かもしれないが,日本の図書館協議会と比べるとかなり権限が強い。

第三に,図書館特別税(Library Special Tax)である36。サウス・パサデナ市では,通常の図書館予算に加えて,図書館の目的税を徴収している。これは条例に基づき,土地の区画(parcel)に対して課税するもので,集合住宅の場合は一戸あたり21.28ドルが課される。これによって得られる収入は図書館予算の19.65%を占めている。この課税はカリフォルニア州憲法に基づくものであり,住民投票によって導入・継続が決められてきた。直近の住民投票は2022年で,賛成は86.65%と圧倒的であった。州法「AB 8」に基づく固定資産税の配分に加えて,こうした目的税を上乗せしている点は注目に値する。但し,他の図書館への聞き取りの中では,こうした追加的な徴収はそれほど多くないとのことであった。

最後は,公平性,多様性,包摂性(EDI)への積極的な取り組みである37。図書館では,子どもがこれらの概念を自分事として考えられるよう,「読書のヒント」が作成されており,八つの問いが示されている。たとえば,「図書の中には,異なる年齢,異なる人種,異なる民族,異なるジェンダーのキャラクターがいた?」といったものである。加えて,EDIに関する職員研修の実施,発達障害のある人を対象とした集まり(クラブ)の運営も行われていた38。このクラブは月に一度集まり,映画鑑賞や工作を行っている。さらに,都市図書館評議会(Urban Library Council)の「人種と社会的平等に関する声明」にも署名している39。新たな戦略計画でもEDIの観点からポリシーを見直すなど,今後も取り組みも進めるとのことであった。

ピオ・ピコ コリアタウン分館

ロサンゼルス公共図書館(LAPL)の分館の一つで,コリアタウンある40。エリアとしてはハリウッドエリアに属する。隣接する公園と駐車場は工事中であった。駐車場を地下に移し,その上に公園を整備するとのことである41。あわせて,図書館の読書スペースや交流スペースも設けられる予定である。これまで訪問した分館の中では,最も規模が大きい。以前,カレントアウェアネスで「紙の本のないデジタル公共図書館、ロサンゼルスで検討中」として紹介された図書館である42

建物はワンフロアで,手前に総合カウンター,奥にレファレンス用のカウンターが設けられている点は他の分館と同様である。入口脇にはミーティングルームがあり会合が行われていた。入ってすぐに児童コーナーがある。カウンター近くには閲覧スペースとPCコーナーがあったが,閲覧用のテーブル席が充実していた。訪問したのは土曜日であったが,多くの席が利用されていた。閲覧スペースの奥に,大人向けのフィクション,ノンフィクション,さらにTEENのコーナーが続く。図書館全体は縦長で,奥に進むと韓国語図書のコーナーがある。ここは,かなり充実していた。その左奥には,新しく整備されたメーカースペースがある。

児童コーナーの所蔵資料は他の分館とほぼ同様である。ここにはWish Wallというコミュニケーションボードが設置されていた。訪問時のテーマは「今年の願いは?」で,「健康」や「幸運」といった付箋も見られたが,最も多かったのは「平和」であった。TEENのコーナーには「古典」と書かれた書棚があり,いわゆる「良書」と呼べそうな図書が並んでいた。『ホビット』『マクベス』『ダブリン市民』『ロビンソンクルーソー』などである。その隣には日本のマンガが多く並んでいた。ニーズ偏重にならないよう「古典」でバランスを取っているように感じた。この分館ではBibliothecaの自動貸出機が導入されている。

奥の韓国語図書コーナーの手前には展示スペースがあり,「クリエイター・イン・レジデンス」という取組の展示が行われていた。この取組は,別の機会に触れたい。韓国語図書は一般書を含めて充実していた。あわせてコリアン・ヘリテージ・コレクションと呼ばれるコレクションも配置されていた。部屋としては,他の分館でも見られたNew American Centerと,リテラシーセンターがあった。

この図書館で興味深かった点を2つ述べたい。一つ目は,「コリアタウン・メディアラボ」である43。これはいわゆるメーカースペースである。LAPLでは,こうしたスペースは中央図書館とこの分館にある。ここには,3Dプリンター,3Dスキャナー,クリカット,ミシン,大判プリンター,ソフトウェアとしてCreative CloudやBlender(3DCG制作ソフト)などがある。中でも大判プリンターが特に人気とのことであった。訪問時,4名の利用者いた。オンライン会議などに使えるZoom Roomも2部屋ある。機器の使い方は,対面の講習会やオンラインの学習素材が用意されている。利用者は,そうした機会を活用して機器の使い方を学び,自分で機器を使うのが原則である。機器は予約制だが,空いていればドロップインでの利用も可能である。かなりしっかりした施設であった。

もう一点は,この図書館に限らないが,OPACでSyndetics Unboundというサービスを用いた書誌拡張が行われている点である44。これはProQuestのサービスである。実際に「Great big beautiful life」という図書を検索すると,一覧画面ではFRBR的にはマニフェステーションレベルで表示され,同一作品でも図書,電子書籍,オーディオブックなどが表示される。また,ディスカバリーサービスのように,左側に資料種別や出版年などによる絞り込み(ファセット)が表示される。ここまではILSのOPAC機能による表示である。その後,個々の資料をクリックすると,通常の書誌情報や所蔵情報に加えて,著者紹介,お薦めの図書,類似の図書,当該図書を含むライブラリアンの推薦リスト,各種書評紙の書評,タグ,読者レビュー,受賞歴などが表示される。この中には,日本ではMARCに含まれるものもあるが,ここではSyndetics UnboundというサービスによってOPACの情報に追加して表示されていた。読者レビューやタグはLAPL独自のものではなく,北米の他の図書館とも共有されている。BiblioCommonsと異なり,OPAC全体ではなく,詳細画面で関連情報を追加しており,多少,洗練さを欠く印象である

ピコ・ユニオン分館

ロサンゼルス市のピコ・ユニオン地区にある45。ピコ・ユニオンという名前は,かつてあった通りのピコ・ブールバードとユニオン・アベニューに由来する。近隣にはコリアンタウンがあり,連合国軍最高司令官であったダグラス・マッカーサーに由来するマッカーサー公園も近い。この公園周辺はロサンゼルスの中でもホームレスや薬物中毒者が多く見られる地域の一つでもある。エリアとしてはハリウッドエリアに属する。

入口を入るとカウンターがあり,その先に天井の高いフロアがある。天井のガラスから自然光が差し込んでいる。右側にはTEENコーナー,右奥にはスペイン語資料のコーナーがある。正面奥にはカウンターがあり,その背後にフィクションとノンフィクションの書架が並ぶ。左奥は児童コーナーで,入口左手には成人リテラシーセンターがあった。

TEENコーナーには,フィクション,ノンフィクション,グラフィックノベルなどが排架されている。一人,熱心にMangaを読んでいる少年がいた。ノンフィクションでは,大学進学,メンタルヘルス&ウェルネス,キャリア関連の資料がまとめられている。大学進学のコーナーにはACT,SAT,APといった試験対策図書が並んでいた。キャリアの棚には,日本で言う「なるにはブックス」に近い図書が見られた。右奥のスペイン語資料のコーナーはかなり充実した蔵書である。スペイン語の雑誌も排架されていた。

正面には閲覧スペースとPCが10台設置されたエリアがあり,その奥にライブラリアンがいるカウンターがある。このスペースでは,およそ10名の利用者がPCを使ったり作業をしていた。正面手前には,図書を紙で包み中身が分からないようにした図書が展示されていた。It’s a mysteryというコーナーで,各図書には手書きで推薦理由が書かれた紙が貼られている。

正面奥にはノンフィクションの棚が並び,それを囲むようにフィクションがある。ノンフィクションの棚は6段で,一番下と一番上の段は使用されていなかった。分館番号を示す「70」が図書の天に押され,受入1年以内の図書には「New」のシールが背に貼られている。複本は多くても3冊程度で,ほとんど見られない。OPACは英語に加えて,中国語,韓国語,日本語,スペイン語,ベトナム語,ロシア語,アルメニア語の表示が可能である。ILSにはThe Library Corporation(TLC)のシステムが使われている。ノンフィクションのコーナーには韓国語のコレクションが2列分あり充実していた。とはいえ,近年は南米からの住民の利用が増えているようである。DVD(エンタメおよびドキュメンタリー)は多く所蔵されている一方,CDは少なかった。

児童コーナーには,フィクション,ノンフィクション,絵本,グラフィックノベルなどが揃っている。幼稚園1年生から3年生向けの図書がまとめられ,韓国語やスペイン語の児童書もあった。奥の読み聞かせなどに使われるスペースには「読書は,あなたに翼を授ける」というメッセージが掲げられている。音声で読み上げるVox Booksもあった。

興味深かった点を二つ述べる。一つ目は成人リテラシーセンターである46。これはロサンゼルス公共図書館(LAPL)全体の取組で,ことばを学ぶことを支援している。紹介による映像では,一対一でチューターと英語の問題集に取り組む男性の様子が映されていた。英語を学ぶ機会がなかった料理人の男性が,ボランティアのチューターと3年以上学び続けているという。また,60歳を超えた黒人男性が学ぶ機会を得られたことへの感謝を語る場面も紹介されていた。チューターの選択,学習内容,スケジュールは柔軟なようである。ウェブページによると,マンツーマン指導に加え,英語のリーディング,ライティング,スピーキングを学ぶクラスもあり,スペイン語話者に対してスペイン語の読み書きを教えるクラスもある。母語での読み書きを身につけることが英語習得を容易にするという。この事業は州からの助成金(California Library Literacy Services: CLLS)47に加え,複数の基金によって支えられている。ESLの取組としては,これまで見てきた中でもかなり充実した内容であった。

二つ目は,粒度の細かい課題解決支援である。図書館から帰る際,近くで露天の店舗を出している人々に出会った。調べてみると,エル・ガト・ナイトマーケットという野外の夜市が開かれている48。ロサンゼルスにはこうした露天商が多い。そうした人に向けて,LAPLでは「露天商として成功する」と題した情報をウェブ上で提供している49。そこでは,事業税登録証明書,販売許可証,衛生許可証の取得方法に加え,ビジネスを成功させるための方法,マーケティング,ビジネス英語,お金の管理,コミュニケーションなどを学べる。さらに,信頼できる情報源へのリソースも提供されている。こうした取組が優れているのは,露天商として働く人々の多くが移民であり,行政や法律に関わる手続きへの情報アクセスに困難を抱えているという地域の実情を踏まえている点にある。また,手続き支援にとどまらず,ビジネスやコミュニケーションまで含めた包括的な情報提供が行われている点も優れている。日本の課題解決支援も,地域の実情に即して,このように粒度を細かくしていく必要があるのではないだろうか。

ウェスト・ロサンゼルス地域分館

ロサンゼルス市の西部地区(Western Area)にある50。ロサンゼルス公共図書館(LAPL)における地域分館(regional branch)には,エリアマネージャーが配置され,当該エリアのとりまとめを担う。この分館は西部地区を所管している。図書館の周辺にはソウテル地区があり,そこには日本人街がある。たまたま通りかかったところ,ダイソー,丸亀製麺,くら寿司,公文など,日本人にはなじみのある看板が並んでいた。他にもラーメン店や寿司店,日本人の名前を冠した園芸店などが見られた。周辺の町並みはきれいで,犬の落とし物やゴミが散乱しているようなこともない。

図書館はワンフロアである。入口から入って右側にカウンターがあり,正面奥には「information」と書かれたカウンターがある。左側には児童コーナーがあり,その奥がTEENのコーナーである。インフォメーションカウンターを挟んで右奥には多言語図書が並び,右側にはフィクション,ノンフィクション,雑誌・新聞コーナーがあった。中央にはPCと閲覧スペースがある。全体としてフロアは決して大きくない。以下では,これまで見てきたLAPLの分館と比べて,異なる点を中心に述べる。

児童コーナーには日本語の図書が置かれていた。ただし,スペイン語の図書と比べると点数は多くない。児童向けのグラフィックノベルには,ポケモンやスプラトゥーンといったタイトルが見られた。壁には読み聞かせボランティアの顔写真が掲示されており,「スターボランティア」と紹介されていた。紹介と募集を兼ねた掲示のようであった。TEENコーナーの手前にはZine Collectionsのコーナーがある。この点は後ほど触れる。この図書館では「ティーン・カウンシル」と呼ばれる集まりが開催されており,交流を通じて図書館をよりよくするための活動を月に2回行っている。コミックの所蔵は,アメコミと日本のマンガが同程度で,かなり充実していた。

インフォメーションカウンターのすぐ裏にある「レファレンス」と書かれた書棚には,パズルやボードゲームが多数置かれていた。多言語資料としては,ペルシャ語,中国語(簡体字・繁体字),日本語の図書があり,少し離れた場所にはスペイン語の資料も並んでいた。量としてはペルシャ語とスペイン語の図書が多かった。ブラウジングコーナーには雑誌が40誌,新聞が4紙置かれていた。予約資料(Holds)の隣に「Blind Date with a Book」というコーナーが設けられていた。これは,内容が分からないように包まれた数冊の本を紙袋ごと貸し出すものであった。絵本,一人で読める子ども向けの本,YA向け小説,大人向けフィクションなどがあった。フィクションの新刊棚には,綾辻行人氏の『迷路館の殺人』なども並んでいる。

プログラムとしては,日本人街が近いこともあってか,手巻き寿司を作るといったものが行われていた。また,「禁止図書読書グループ」があり,禁止された図書(Banned books)などを読む読書会が開催されている。

興味深かった点を二つ挙げたい。一点目は,地域分館の位置づけである。別のところでも触れたが,LAPLには全体で73館と非常に多くの図書館がある。そのマネジメントのために市内を6地域に分け,それぞれに「地域分館」(regional branch)を置いている。ウェスト・ロサンゼルス地域分館は,西部エリアを所管する地域分館である。但し,蔵書規模やスペースでは他の分館と大きな違いは見られない。職員によると違いは二点あり,一つは開館時間が長いことである。例えば,月曜日から木曜日は10時から20時までと長時間開館していた。多くの分館が12時から開館であるのと比べると,確かに長い。もう一つは,この図書館にはエリアマネージャーがおり,他の分館からの連絡や報告,問い合わせが集約される。別の図書館でも地域分館について尋ねたところ,「内部的な区別」であり,利用者にとってはあまり関係はないという説明であった。

二点目は,この図書館に設けられているジン・コレクション(Zine Collection)である51。ここではTEENコーナーの手前にあった。LAPLでは,12館でこうしたジン・コレクションを所蔵している。プラスチックの書類ケースのような入れ物に,テーマごとに分けて収められていた。テーマは,アートブックス+フォト,芸術+文化,教育,地域+歴史,コミックス,DIY,映画,TV,化粧品,LGBTQIA+,スポーツ,職業,法律,文学,マインド&ボディ,音楽,警察+刑務所,人種,サイエンス,環境など多岐にわたっていた。内容はしっかり作り込まれたものもあれば,非常に簡素なものもある。全体としては簡素なものが多い印象であった。装備はされておらず,バーコードのみが貼付されていた。

コレクションポリシーによると,Zineは自分で作る著作であり,社会的に疎外されているコミュニティや人々,一般的な出版手段にアクセスできない人たちがDIYで制作する媒体と位置づけられている。図書館では,そうした取組を支援するとされている52。Zineの所蔵を希望する市民は,状態の良いものを10部持参する。図書館側では選定基準に基づいて審査を行い受入の可否を決定するという。ウェブを通じて世界中に情報発信できる時代であるが,地域に確かな情報を残すことができる点で,一定の意義があるように感じられた。

  1. https://www.lapl.org/branches/vermont-square ↩︎
  2. https://en.wikipedia.org/wiki/Vermont_Square_Branch_Library ↩︎
  3. https://en.wikipedia.org/wiki/Nobuho_Nagasawa ↩︎
  4. https://www.amazon.com/Library-Clerk-Passbooks-Career-Examination/dp/1799319318/ ↩︎
  5. https://www.indeed.com/q-library-clerk-l-los-angeles,-ca-jobs.html?vjk=d67283d776540b49 ↩︎
  6. https://www.governmentjobs.com/careers/lacounty/jobs/2040994/library-assistant-i ↩︎
  7. https://coalitionrcd.org/ ↩︎
  8. https://www.lapl.org/whats-on/calendar?field_event_branch_nid=955 ↩︎
  9. https://www.lapl.org/branches/vermont-square/history ↩︎
  10. https://lacountylibrary.org/location/west-hollywood-library/ ↩︎
  11. https://www.library.ca.gov/services/to-libraries/statistics/ ↩︎
  12. https://www.latimes.com/entertainment/la-xpm-2011-sep-28-la-et-weho-library-review-20110928-story.html ↩︎
  13. https://www.latimes.com/entertainment/la-xpm-2011-sep-28-la-et-weho-library-review-20110928-story.html ↩︎
  14. https://jvs-socal.org/weho-works-career-resource-center/ ↩︎
  15. https://www.lgbtqnation.com/2022/01/weho-decides-renaming-library-ruth-bader-ginsburg-hearing-residents/ ↩︎
  16. https://en.wikipedia.org/wiki/West_Hollywood,_California ↩︎
  17. https://www.latimes.com/local/la-xpm-2011-oct-01-la-me-weho-library-20111001-story.html ↩︎
  18. https://lacountylibrary.org/substance-abuse-prevention/ ↩︎
  19. https://current.ndl.go.jp/car/218747 ↩︎
  20. https://bhpl.org/262/Beverly-Hills-Public-Library ↩︎
  21. https://beverlyhills.granicus.com/MinutesViewer.php?view_id=49&clip_id=7596 ↩︎
  22. https://kellyscoffeebh.com/ ↩︎
  23. https://www.friendsofbhpl.org/ ↩︎
  24. https://www.paleycenter.org/events/paleyarchive-bhpl ↩︎
  25. https://www.paleycenter.org/press-releases/paleyarchive-bhpl ↩︎
  26. https://en.wikipedia.org/wiki/Paley_Center_for_Media ↩︎
  27. https://www.lapl.org/branches/junipero-serra ↩︎
  28. https://www.lapl.org/newamericans ↩︎
  29. https://www.cbsnews.com/losangeles/news/los-angeles-public-libraries-immigration-services/ ↩︎
  30. https://www.lapl.org/newamericans/knowyourrights ↩︎
  31. https://www.lapl.org/cybernauts ↩︎
  32. https://www.southpasadenaca.gov/Your-Government/Department-Service-Areas/Library ↩︎
  33. https://www.carnegie-libraries.org/california/southpasadena.html ↩︎
  34. https://verdugowoodlands.gusd.net/vwjdl ↩︎
  35. https://www.southpasadenaca.gov/Your-Government/Boards-Commissions/Library-Board-of-Trustees ↩︎
  36. https://www.southpasadenaca.gov/Your-Government/Department-Service-Areas/Library/About-the-Library/Library-Special-Tax ↩︎
  37. https://www.southpasadenaca.gov/Your-Government/Department-Service-Areas/Library/About-the-Library/Equity-Diversity-and-Inclusion ↩︎
  38. https://www.southpasadenaca.gov/Events-Directory/All-Abilities-Club ↩︎
  39. https://www.urbanlibraries.org/initiatives/racial-equity/statement-on-race-and-social-equity ↩︎
  40. https://www.lapl.org/branches/pio-pico ↩︎
  41. https://la.urbanize.city/post/slow-progress-pico-pico-library-pocket-park-koreatown ↩︎
  42. https://current.ndl.go.jp/car/23055 ↩︎
  43. https://www.lapl.org/labs/kml ↩︎
  44. https://proquest.syndetics.com/ ↩︎
  45. https://www.lapl.org/branches/pico-union ↩︎
  46. https://www.lapl.org/literacy ↩︎
  47. https://www.library.ca.gov/grants/clls/ ↩︎
  48. https://www.youtube.com/watch?v=cHvIztM-LUs ↩︎
  49. https://www.lapl.org/street-vendors ↩︎
  50. https://www.lapl.org/branches/west-la ↩︎
  51. https://www.lapl.org/zines ↩︎
  52. https://www.lapl.org/zines/policy ↩︎