カリフォルニアの本棚とPalaceプロジェクト

カリフォルニア州立図書館は電子書籍サービスとして「カリフォルニアの本棚」(California’s Bookshelf)を提供している1。これは州立図書館が,州内住民に対して直接電子書籍サービスを提供する仕組みであり,その提供の枠組みが興味深いため,ここで紹介したい。

「カリフォルニアの本棚」は州全体を対象にした電子書籍サービスであり,州内に居住する住民が電子書籍と電子オーディオブックにアクセスできる。公式ウェブページによれば,20以上の言語で7万点以上のタイトルを含み,総点数は約20万点以上とされている。年間貸出数は18万件(2025年)である。中には,同時利用制限のないパブリックアクセスのタイトルが5万点以上含まれている。

利用するには,まず,iOSまたはAndroidのデバイスで「Palace」というアプリをダウンロードする。ダウンロード後,アプリ内の「ライブラリを探す」という機能を使い,「カリフォルニアの本棚」を見つけて追加する。利用開始時にはバーチャルカードを作成する。その際,州内居住であることGPSで確認される。この確認は初回時のみである。

この仕組みにより,利用者は地元の図書館を介さずに,州立図書館が提供する電子書籍サービスを利用できる。住民にとっては,地元の市やカウンティが提供する電子書籍サービスに加えて,州立図書館による電子書籍サービスを利用できることになり,選択肢が増える。

このサービスで注目されるのが,LYRASISが運営するPalace Projectというプラットフォームである2。Palaceという名称は,エリック・クリネンバーグの著書『集まる場所が必要だ』に由来する。アメリカの公共図書館では,OverDrive / Libbyという民間の電子書籍サービスが広く普及しているが,Palace Project は,図書館界主導で構築されたプラットフォームである。

Palace Projectでは,多くの出版社による著作やパブリックドメインの著作が用意されている3。また,アプリを提供しており,利用者はそれをダウンロードした上で,図書館が提供する電子書籍サービスを選択して利用する。このとき,Palaceのアプリでは,複数の図書館の電子書籍サービスを一括して管理(貸出・検索等)できる。例えば,地元の図書館がOverDrive / Libbyのサービスを提供しており,かつPalace Projectとの連携を行っている場合,その電子書籍サービスをアプリ上で追加し,上記のカリフォルニアの本棚と一括して管理することが可能となる。このことを実現するため,Palace ProjectではOPDS(Open Publication Distribution System)という電子書籍配信のプロトコルが用いられている。これにより,異なる電子書籍サービスを,単一アプリ上で扱うことが可能になっている。

Palace Project は,もともとLYRASISと米国デジタル公共図書館(DPLA)が中心となって進めてきたプロジェクトである。カレントアウェアネスでも紹介されている4。これはナイト財団の助成金によって推進されてきた。LYRASISは,DSpaceなどのオープンソース・ソフトウェアの導入支援や技術サポート,ホスティングを行ってきた団体である。その後,2022年に図書館サービス・技術法(LSTA)の助成金(「eBooks for All」)を受けたことで活動が本格化した。アプリは,ニューヨーク公共図書館(NYPL)が開発したLibrary Simplifiedのオープンソースコードを元に開発されている。また,電子書籍のファイル形式はオープンな技術を基盤としたEPUBが採用されている。

Palace Projectには,図書館が選書を行うためのマーケットプレイスが用意されている5。ここでは,大手出版社から独立系出版社まで1,000社以上の出版社のタイトルが提供されている。図書館は,こうした選択肢の中から選書を行い,市民向けサービスを構築する。参加する出版社には Big5 やAmazon Publishing,Audibleも含まれている。マーケットプレイス全体では,120万点以上のタイトルがあるとされる。それらの貸出条件も多様で,例えばある電子書籍では,2年間無制限 / 1年間無制限 / 回数ライセンスといった複数の契約形態が示されていた。図書館ではこれを見ながらコレクションを構築していくわけである。

図書館によっては,独自にPalace Projectのコレクションを持っている例もある。ロサンゼルス市やサウス・パセデナ市などはその例である。また,州立図書館は,2023〜2024年にかけて州内23の図書館に対し総額860万ドルの支援を行い,Palace用の電子書籍コレクション購入を促してきた6。これらのコレクションは,利用者が地元の利用券を用いてアクセスする。なお,Palace Projectはカリフォルニア州に限らず,ワシントン州やジョージア州などでも展開されている。

Palace Projectにはいくつか興味深い点がある。まず,選書の主導権が図書館側にあることである。もちろんマーケットプレイスという限定付きではあるものの,例えばOverDriveのリストから選書する場合と比較すれば自由度が高いようである。また,出版社が大手出版社から独立系出版社まで1,000社以上含まれている点も注目される。さらに,電子書籍ファイルがEPUB形式で提供され,アプリ自体もオープンソースを元に構築されている点は,このサービスの設計思想とも整合している。さらに,電子書籍市場においてOverDrive / Libbyという選択肢に対し,もう一つの選択肢を示したことも重要である。

日本の図書館の文脈で考えてみたい。まず,州立図書館が直接住民にサービスを提供している点は興味深い。日本でも一部の都道府県が同様のサービスを提供している例はあるが,住民の選択肢が増えることには意義がある。また,日本でも電子書籍サービスのマーケットが寡占化する傾向が見られるが,こうした取組は,健全なマーケット構築にとっても重要である。さらに,出版社の多様化などの点でも意義がある。このことは「選書」の主導権を図書館側に取り戻す一助になるかもしれない。最後に,LYRASISという団体の存在も重要である。図書館の立場から,電子書籍サービス提供を主導する団体が日本でも生まれないだろうか。

  1. https://www.library.ca.gov/services/to-libraries/californias-bookshelf/ ↩︎
  2. https://thepalaceproject.org/ ↩︎
  3. https://thepalaceproject.org/why-palace/ ↩︎
  4. https://current.ndl.go.jp/e2432 ↩︎
  5. https://thepalaceproject.org/marketplace/ ↩︎
  6. https://www.library.ca.gov/services/to-libraries/californias-bookshelf/ ↩︎