ここで述べることは,カリフォルニア州内の,しかも,非常に限られた事例を見聞きした範囲でのことである。そのため,アメリカのライブラリアン,図書館スタッフのキャリアについて正確な姿を描いているものではない。しかし,ALAで認証された図書館学校で学位を得た「ライブラリアン」が,実際にはどういう職員なのか,という点について目にした範囲で備忘のために記しておきたい。
日本では,司書を含む公務員は,現在でも新卒一括採用が一般的であろう。一方で,アメリカでは,図書館学校を卒業した新卒者がすぐに図書館で働くかというと,必ずしもそうではないようである。もちろん新卒で図書館に就職する例もあるであろうが,話を聞いた中では,セカンドキャリアとして図書館を職場に選ぶ人が多かった。このことは,データでも示されている。Library Journal の2024年調査によれば,図書館学校卒業生の平均年齢は34.5歳とされており,「MLS学位と図書館業務が,この分野の卒業生にとって第二のキャリアとして定着している」と指摘されている1。この点からも,新卒一括採用を前提とする日本の状況とは,キャリアの入り口がかなり異なっていることがうかがえる。
セカンドキャリアとして図書館を選ぶ場合でも,経路は一様ではない。図書館学校に通ってから就職を目指す人もいれば,学校で学びながら図書館で働き始める人,あるいは図書館で働いてみてから図書館学校に入学する人もいるようであった。聞いた限りでは,図書館での勤務と図書館学校を並行してこなすケースは,決して珍しくないとのことだった。そのため,図書館で働くといっても,最初はページ職やアシスタント職といった非ライブラリアンのポジションから始める人も多い。そうした職でいくつかのポジションを経験した後,人によってライブラリアンを目指す。
ライブラリアンになるためには,原則として図書館学校に通い,MLS(MLIS)の学位を取得する必要がある。アメリカではオンラインで取得できる学位プログラムが多くあり,働きながら単位を取得することが可能である。カリフォルニアでは,UCLAやサンノゼ州立大学がある。ただし,先の調査によれば,図書館学校入学前に図書館で働いていた人,あるいは在学中に働いていた人は1/3とされている。図書館学校の学生の視点から見たときには,必ずしも図書館での実務経験者ばかりが集まっているわけではないことも,また事実である。なお,図書館学校卒業生のうち,公共図書館に就職している割合は約30%とされている。
働きながら学位を取得するのは容易ではなく,場合によっては5年,6年かかる人もいるということも聞いた。こうした学位取得については,職場が資金面でサポートしてくれることもある。これはオハイオ州でも同様の話を聞いた。但し,その場合は一定期間,当該図書館で働くことが求められることが多い。一方で,図書館で働いている人がすべてライブラリアンのポジションを目指すわけではない。ライブラリアンという「専門職」を支える立場の職員のことを,パラプロフェッショナルと呼ぶ。これらの人の中には,MLSを持っている人が含まれる場合もある2。また,メーカースペースの運営や施設管理といった職種は,もともとMLSが必須ではない。その場合は,それぞれの職に求められる学位や専門的な経験が重視される。
ライブラリアンのポジションは数が限られているため,同一の図書館でキャリアを積んでいくのは難しいことが多い。そのため,人によっては図書館を移りながら,徐々に職位を上げていくことになる。カリフォルニアでは,ライブラリアンの職位としては,典型的にはまずライブラリアン Ⅰ から Ⅲ があり,その上に部門長(Chief of Division),副館長(Assistant Director),館長(Library Director)などがある3。実際に話を聞いた多くのライブラリアンは,かなり多くの図書館を経験していた。日本では,同一自治体内で数年ごとに異動を繰り返すことが一般的であり,「職場を変わる」という点では似ている部分もある。しかし,アメリカの場合は,主体的に組織そのものを変えていく点で,大きく異なっている。
自己研鑽について見ると,研修が義務付けられているという話は聞かなかった。ただし,図書館内での研修に加えて,ALA,PLA,CLA,州立図書館などが提供する研修は数多く行われている。そのため,自主的にそうした研修に参加することが多いようである。ただし,このことは,図書館によって大きく異なる可能性がある。
さて,ライブラリアンと非ライブラリアンの区分は,制度上,明確に分けられている。仮に学部やコミュニティカレッジで,ライブラリー・テクニシャンやライブラリー・アシスタントに関する認定(Certificate)を取得していたとしても,それはライブラリアンとは明確に異なる。ある文献では,MLSの学位が「ゲートキーパー」として機能し,専門職ポジションの要件になっていることが指摘されている(但しその傾向は弱まりつつあるとの指摘もある)4。したがって,MLS 学位を持たない図書館スタッフは,多くの場合,専門職としてのライブラリアンのポストに就くことはできない。しかし,一人の図書館員の視点で見ると,ページ職からライブラリアンへのキャリアは連続的であるように感じる。実務をこなしながら図書館の仕事におもしろさを見いだし,経験を積み,学位を取得してポジションを高めていくという姿である。
- https://www.libraryjournal.com/story/challenges-opportunities-placements-and-salaries-2024 ↩︎
- https://journals.library.ualberta.ca/ojs.cais-acsi.ca/index.php/cais-asci/article/download/1991/1663/2750 ↩︎
- https://www.library.ca.gov/services/to-libraries/statistics/survey-instructions/staff/ ↩︎
- https://www.ala.org/news/2025/08/pla-releases-results-2024-public-library-staff-survey ↩︎