タリン市では市民に様々なトレーニングを提供している1。これらは一種の利用者教育といえよう。伝統的に図書館員による利用者教育は図書館のサービスの利用方法を教えることが中心だったが,近年では情報リテラシーに拡大してきたと言われている。とはいえ,多くの日本の公共図書館では,まだまだ,利用方法が中心であろう。その意味では,タリン市では,市民として生活する上で必要なさまざまなリテラシーにまで対象を拡張している点が興味深い。一方で,言語カフェのように,多様化する社会で人々をつなぐ役割も担うようになっている。
トレーニングは,個人向けにもグループ向けにも提供されている。市民であればいずれも無料で受けられる。学校など教育機関にも提供しており,その場合は,特別な申込みフォームが用意されている。全館で共通に実施されるものもあれば,特定の図書館だけで実施されるものもある。申込みはウェブフォーム,電話,電子メールなどである。講師はすべて図書館員が務めている。
分野は,図書館の使い方にとどまらず非常に幅広い。大きなカテゴリで分けると,コンピュータ関連,画像・音声・映像編集,図書館サービス,情報検索とデータベース,各種機器の使い方,電子サービス,読書相談,移民向けの支援,求職者向けの支援などである。それぞれについて,具体的な内容は以下のとおりである。
- コンピュータ関連:PCやインターネットの使い方,メールの作成,ZoomやFacebook,スマートフォンの操作,AIの基礎知識,WordやExcel,Wikipediaのコンテンツ作成など
- 画像・音声・映像編集:Photoshop ElementsやCanva,クロマキー合成を使った写真スタジオでの撮影,映画脚本の書き方,ビデオ編集
- 図書館サービス:OverDriveやNaxosといった電子図書館の使い方,電子雑誌・新聞の閲覧方法,図書館のウェブサイトの利用方法など
- 情報検索:国立図書館や博物館,公文書館のデータベース,家系図作成支援,情報リテラシーの指導
- 各種機器:3Dプリンター,グラフィックボード,電子書籍リーダー,スキャナー,レーザーカッターなど
- 電子サービス分野:オンラインバンキングやネットショッピング,エストニアの電子IDカード,国やタリン市の電子行政サービス
- 読書相談:リクエストに応じて3日以内に推薦図書リストを提供
- 移民向け:「エストニア語カフェ」「スペイン語カフェ」「英語カフェ」「韓国語カフェ」(一定の言語力を前提)
- 求職者:求人情報の探し方,履歴書の作成,面接対策などのトレーニング
これらのトレーニングは年間で個人向けが約6,500回,グループ向けが約2,000回行われている。特に人気があるのは,コンピュータ関連,電子サービス,図書館サービス分野だという。こうした取組は日本でも大いに参考にできるのではないだろうか。聞き取りの中で印象的だったのは,誰が教えているのかを尋ねた際,図書館員が教えているとの回答があり,続けて「図書館員こそ,分からないことがあれば,そのことを一緒に学ぶ姿勢が重要なのではないでしょうか」と語っていたことだ。利用者とともに学び続けることが「成長する有機体」を支えるというころだろう。
- https://keskraamatukogu.ee/koolitused/ ↩︎