ハンブルク中央図書館 Zentralbibliothek
ハンブルク市は人口190万人弱で,ベルリンに次ぐドイツ第二の都市である。市立図書館は1899年に開館し,公式ウェブによると年間の来館者数は300万人,貸出点数は1,200万点である。年間16,000回のイベントを開催するなど,活発に活動している1。市内には32館と2台の移動図書館がある。運営は非営利団体が担っており,ハンブルク市の支援を受けている。職員数は423名である。ハンブルクは州でもあり市でもある。州立図書館は別に存在するが,研究図書館であり日本の県立図書館とは感じが異なる。ハンブルク大学図書館が州立図書館を兼ねており,地域資料を収集するとともに,州内出版物の納本図書館となっている。
中央図書館はハンブルク中央駅から歩いてすぐの場所にある。入口前にはステファン・バルケンホルによる「男と女」という足の長い人形が立っている。図書館はかなり大きい。入口入って右手には利用登録カウンターがあり,その前には予約資料が並ぶ。予約資料の中にはPlayStationのソフトも見られた。自動貸出機はLyngsoe Systems社製である。ロッカーや図書館バイクはメタル使用のごっつい作りで,「ドイツ」らしい。図書は通常どおり装備されており,RFIDが貼られている。分類はドイツ独自のASBである。書架の一部では傾斜板を使って面陳をしている。傾斜板は後付け可能な板である。館内には多くの閲覧席がある。
1階(E1)には受け入れ後間もない図書が「街のリビングルーム」と呼ばれるリビングのような空間に排架されている。雑誌新聞コーナーの奥には大きめのカフェがある。逆側には「ドリームホーム」と呼ばれる児童コーナーがある。1階には最近の改修で,展示やイベントを行う「フロントデッキ」と呼ばれるスペースが新設されている2。2階以上には一般書やフィクションが並ぶ。2階には,日本のマンガ「Manga」(3棚),アメリカンコミック「Comics」,カトゥーンなどが置かれているコーナーがあった。窓際に席が設けられているが,とても人気があるようでほぼ埋まっている。台湾の大規模図書館を思い出した。もちろん,ガラス張りの閲覧室もある。2階には音楽資料コーナーもあり,膨大な楽譜が所蔵されている。奥の部屋には小さなステージもあり,ギターを弾いている人がいた。3階には一般書のほか約60台のPCが置かれた部屋があった。
地下1階には青少年向けスペースとメイカーラボ,ブックフリーマーケットがある。青少年スペースには多くのビデオゲームソフトが置かれていた。メイカーラボは2025年5月にオープンし,訪問時には女性が3Dプリンターで作業をしていた。2階の関連図書のコーナーでもラボの宣伝が行われていた。ブックフリーマーケットでは,廃棄資料や寄贈と思われる資料が1ユーロで販売されていた。ちょっとした古本屋の規模である。
ハンブルク駅の近くに,閲覧席も充実した大規模図書館があるのは素晴らしい。建物自体はそれほど新しいわけではないようだが図書館内は改装により現代的な空間になっていた。館内には,多くの利用者が滞在しており,よく利用されていた。いくつか,注目される点を述べると,まず,ドイツでは図書館は有料制である。ハンブルクでは,図書を借りる場合,例えば27歳以上の成人では年間50ユーロが課される。延滞料は1点1営業日につき,0.5ユーロが課される。他にも相互貸借にも料金がかかる。こうした,料金のやりとりのための精算機も設置されている。また,音楽配信サービスとして,NAXOSに加えてFreegal Music+というサービスを提供している。クラシックやジャズ中心のNAXOSに対し,Freegal Music+ではロックやポップスも配信している。アメリカなどの公共図書館でも導入されているようである。こうした配信サービスの充実とともに,CDなどパッケージ型の視聴覚資料に対する需要が減っていくのかもしれない。






ハンブルク市アイムスビュッテル図書館 Eimsbüttel
アイムスビュッテル地区にあるハンブルク市の分館である3。図書館は「ハンブルクハウス」と呼ばれる地区のコミュニティーセンターの中にある。市の出張所とともにカフェ,ホール,会議室などが入っている。施設入口には多様性を支援するレインボーのポスターが貼られていた。訪問時,施設全体は改修中だったが図書館は通常どおり開館していた。改修は,電気系統の交換,防火対策の強化,省エネ対策,バリアフリー化などである。図書館は約600㎡のワンフロアで,天井が高く光が入る。開放的で明るい。2020年に改修を行っており,1965年の施設とは思えない。
利用者は多く,貸出返却に来る人や館内に滞在する人がいた。滞在者は,PCを利用する若者,児童コーナーの家族連れ,ブラウジングする人,職員に質問する人などさまざまである。特に顔見知りと思われる男性二人連れがカウンターの図書館員と長く資料について話していた。ここもそうだが,訪問したハンブルク市の図書館員は対応が丁寧であった。
入口入って左側は施設の中庭になっており,緑がきれいである。訪問時(8月)はあじさいが咲いていた。ここでも「シードライブラリー」が行われていた。中庭に面したガラスの壁に沿ってカウンター席がある。右側には1ユーロでの図書販売(Flohmarkt)があり,図書館の廃棄図書を売っていた。支払いは精算機で現金またはカードで行う。その横にはLibrary of Thingsがあり,ボードゲームのほか,卓球ラケットセット,ルービックキューブ,アクションカメラなどの貸出をしていた。
カウンターは図書館のほぼ中央にある。図書は文学書に加えて一般書も多い。文学書の棚には,中段などに引き出しがあり,オーディオブック(CD)が排架されていた。村上春樹著『1Q84』のCDもある。左奥には青少年文学コーナーがある。小さく奥まっているが独立したである。#BookTokのランキングが掲示されていた。図書館の一番奥は児童コーナーで,小さなステージや小屋があり,手前には子ども向けのビデオゲームや映画などがあった。その横には小さめの集会室がある。これは,改修の際に設けられている。図書館のイベントとしては,編み物クラブ,ドイツ語会話,ビーズブレスレット制作などが定期的に開催されていた。大規模ではないが,手の行き届いたよい図書館である。
注目されるのは長時間開館である。これは,ハンブルク全体で行われていることだが,FlexBibという名称の取組で,図書館員のいない時間帯にも開館していた。この分館の場合は,そうした時間帯は月曜日全日と,火曜日から金曜日の8時〜10時,19時〜21時半,土曜日の14時〜21時半である。これにより,平日は,8時から21時半まで開館している。利用券を入口の機械にかざすことで入館できる。RFIDによる貸出返却や料金徴収も自動化されており,利用者は多くのサービスにアクセスできる。北欧でも分館でこうしたサービスは進んでいた。館内は監視カメラが設置され,記録は72時間保管されるとのことである4。監視カメラシステムは,設置目的,プライバシー保護,撮影範囲の限定などの面で,GDPR(一般データ保護規則)に準拠している。



ハンブルク市アルトナ図書館 Altona
アルトナ駅に隣接する商業施設Mercadoの3階にある5,6。施設は比較的新しい。入口は小さいが奥行きがある。入口すぐの左手には自動返却機が置かれている。図書館の規模はそれほど大きいわけではないが,小型の自動返却仕分け機も導入されている。入口付近には,講演会のチラシが掲示されていた。図書館では,反差別・反極右を意味する「Bunt statt Braun」(カラフルに,ブラウンではなく)というテーマで,9月に一連のイベントを企画している7。チラシには,イラン系ドイツ人で多彩な活動を行うミシェル・アブドラヒ氏を招いた講演会の宣伝であった。チラシからは,ポピュリズムや社会の右傾化に対する強い問題意識が読み取れる。
この図書館でも,他のハンブルク市の図書館同様,モノの貸出を行っている。ロボットや楽器などがある。カウンター近くの柱にはコミュニティ掲示板があり,多くの情報が貼られている。語学教師による生徒募集も多い。日本語教師のものもあったが人気があるようで,連絡先の紙はほぼ切り取られてなくなっていた。掲示板の近くには精算機がある。延滞料や予約料などの支払いに利用されている。
奥に行くと,文学書や一般書が並び,閲覧席も多くある。ソファやビーズクッションも置かれている。低書架の上には面陳の図書がある。見ると,布施知子氏の折り紙の著作や平岩夏野氏の著作などがある。Mangaも多い。ドイツでは,日本のコミックはMangaと呼ぶようで,ハードカバーのアメコミなどをComicと読んでいるようである。一番奥は児童コーナーである。グループ学習室もある。
利用者は多く,滞在や閲覧,貸出のいずれも活発である。図書は比較的新しく,多少古く見えても10年以内のものが多い。イベントも多彩である。ヨガや呼吸法のエクササイズ,折り紙で海の生き物を作るイベント,指文字の学習会などがある。60歳以上対象の映画会では上映後にコーヒーや持参のおやつを楽しむ時間もある。他にビデオゲームを楽しむ会(8月はNintendo Switch)や,ドイツ語学習会も開催されている。
「カラフルに,ブラウンではなく」についてだが,近年,ドイツでは極右政党の支持拡大が進み,図書館界も危機感を抱いているようである。蔵書への攻撃も増えている。こうした中,ドイツ図書館協会(dbv)は「多様性と民主主義のために」(Für Vielfalt und Demokratie)という声明を出して,極右の主張等に抗議する姿勢を明確にしている8。声明では,民主主義や多様性の支持,社会的統合の促進,信頼性の高い情報の提供などを掲げている。また,図書館は政治的に中立であっても,価値中立ではないとして,ドイツ連邦共和国基本法(憲法)の枠組みとその価値を守る立場をとる必要性を述べている9。こうした動向を踏まえると,「カラフルに,ブラウンではなく」というイベントの開催も理解できる。






ハンブルク市ホルステン通り図書館(Holstenstraße)
ハンブルクの中心からそれほど離れていないところにある,小さめの分館である。周囲は集合住宅などが建ち並ぶ。この図書館も集合住宅の1階に入っている。蔵書数は約2.4万点である。館内に入ると,自動返却機や自動精算機がある。1階が大人向け,2階が児童向けであった。入口近くにカウンターがあり2人の図書館員が座っていた。窓側は吹き抜けになっており,ガラスの壁から光が差し込む。明るく開放的である。反対側もガラスの壁で,窓際には閲覧席やPCが設置された席が並ぶ。この図書館にもコミュニティ掲示板が設置されている。館内には何人か利用者が滞在していた。
書架には文学書を含む一般書が並んでいる。ビデオゲームの貸出もしている。特集展示は「夏の過ごし方」であった。天井からは怪獣のオブジェがつるされている。イベントは毎週のお話会のほか,子ども向けの人形劇用の人形作りや,イラストレーターを講師に招いたコミックの書き方を学ぶコミックワークショップなどが行われていた。他に「ドイツ語での対話」も毎週開催され,プロジェクターで絵を投影しながらお話を読む「絵本映画館」も開催している。
1階の奥には小さな集会室があるが,その手前に「もの」の貸出コーナー(Library of things)がある。アクションカメラ,知育玩具,気象観測計,金属探知機,子ども用織機など,面白い品揃えである。2階へはらせん階段で上がることができる。吹き抜け部分の分だけスペースは小さいが,児童室としては十分な広さである。親子連れが図書を読んでいた。全体に,小さな図書館であるが,施設は新しく,明るく,よく手が行き届いていた。
この図書館では図書のベストセラーがフィクションとノンフィクションに分けて掲示されていた。毎週更新されるようである。ハンブルク市の所蔵点数を調べてみた。フィクション1位の”Die Auferstehung”は55点,2位の”Die Hummerfrauen”は54点で他に電子書籍も4部所蔵している。3位”Wir sehen uns wieder am Meer”は51点で他にオーディオブックを6点所蔵していた。ハンブルク市の図書館では,予約に手数料が2ユーロかかる。これは確実に予約を抑制するであろう。電子書籍についてはOPAC上で予約数は確認できなかったが,「予約数が上限に達した」との表示があり,予約に冊数制限があるようである。紙の図書の予約点数や制限の有無については,ログインせずに見ることのできる範囲では確認できなかった。
日本ではベストセラーをめぐって以前より議論がある。そこで比較をしてみた(n=3)。ハンブルク市の人口は約190万人で,札幌市と近い。札幌市の図書館では「貸出ベスト」がOPAC上で確認できる。1位『ともぐい』は91点,2位『青い壺』は65点,3位『三千円の使い方』は64点である。『ともぐい』は大分多いが,それ以外はハンブルクと大きくは変わらない印象である。(データは2025年8月初旬)



ハノーファー市東地区図書館
ハノーファー中央駅の近くにある市立図書館の分館である10。文化センターの一角に入っている。建物はワンフロアで,天井から光を取り入れており明るい。それほど大規模なわけではないが,分館としては大きい。館内に入るとコミュニティの掲示板がある。また,PCコーナーがあり,多くの利用者が使っていた。ここにも他のドイツの図書館同様,料金支払機(Kasse)が設置されている。見ると,CSG Systems社のものだった。図書館員の説明では,お金のやり取りはすべてこの機械を通して行われとのことであった。古くなった蔵書の販売もしていたが,それらも同様とのことだった。
フロアの中程にカウンターがあり,その先には左側に児童コーナー,右側に大人向けの図書がある。蔵書は全体的に新しい。DVDなどの視聴覚資料も充実しておりカウンター近くに置かれている。図書のディスプレイも工夫されている。ここでもDVDやCDが図書と混配されていた。旅行コーナーなどに置かれたDVDなどは特に効果的と感じた。また,電子書籍の新刊について告知のため表紙を展示している。イベントも多く開催されている。少し先には,隣接する公園でポケモンカードの交換会が開かれるとのことだった。
いくつか印象に残ったことを述べる。図書館の中程で,ヒジャブのようなものをかぶった外国にルーツを持つと思われる女性ふたりがドイツ語を学んでいた。その周囲には外国語の図書が多く並んでいる。説明によると13の言語の資料があるとのことだった11。それらは英語,ロシア語,クルド語,ポーランド語,アラビア語,フランス語などである。それぞれかなりの分量があった。図書館員の方の説明によると,ハノーファーの分館中でも最大規模とのことである。確かに充実している。さらに,それらの言語の児童用図書も所蔵していた。家庭での母語によるコミュニケーションを促進するのにとても有効と感じた。絵本の中には,ドイツ語が併記されているものもある。この図書館では,バイリンガルの絵本映画(絵を投影)といったイベントも開している。多民族国家ドイツに求められるサービスと感じた。
ドイツでは図書館利用に料金が徴収される。ハノーファー市でもカードを作るには年間24ユーロが必要である。月に2ユーロである。ハノーファー市では料金徴収について州法に規定はなく市の利用規則に基づいている。あらゆる市民へのサービスと有料制との関係についてあえてお尋ねしたところ,図書館員の方は,多様な資料を借りられることを考えれば決して高いものではないと説明していた。また,カードを持たない人が利用できないわけではないことも強調していた。確かに資料を館外に持ち出すにはカードが必要だが,館内での利用は無料であり,利用者は誰でも歓迎しているとのことだった。
この図書館でも物の貸出が行われている。ボードゲームなどが多く揃っていた。その中でも見慣れないものがあった。透明なプラスチックのケースの中に小さな人形のようなものが入っている。このことを尋ねると,「tonies」や「EDURINO」という製品だった12。これらは,特に最近,人気があるとのことだった。toniesの仕組みは,箱に入っている小さなフィギュアを専用のboxに置くと,boxから物語や音楽などが聞けるというものである。EDURINOも,フィギュアである点は同じだが,箱ではなくスマホ等にアプリを入れて使う。こちらは楽しみながらの学習を促すものである。フィギュアは高価なため,図書館で借りる人が多いようである。
決して大きな図書館ではないが,非常に開放的で気持ちのよい図書館だった。そして,図書館員の方のホスピタリティの高さにも感銘を受けた。






- https://www.buecherhallen.de/ueber-uns.html ↩︎
- https://www.buecherhallen.de/zentralbibliothek-meldung/eroeffnung-vorderdeck-der-zentralbibliothek.html ↩︎
- https://www.buecherhallen.de/eimsbuettel.html ↩︎
- https://www.hamburg.de/politik-und-verwaltung/behoerden/behoerde-fuer-kultur-und-medien/aktuelles/pressemeldungen/buecherhallen-flexibib-521054 ↩︎
- https://www.buecherhallen.de/altona.html ↩︎
- この図書館の図書館員に対する「図書館の1日」というインタビュー映像がYouTubeにある。https://www.youtube.com/watch?v=takRoUWyTpg ↩︎
- https://www.buecherhallen.de/altona-meldung/bunt-statt-braun-veranstaltungsmarathon.html ↩︎
- https://www.bibliotheksverband.de/sites/default/files/2024-06/2024_01_dbv%20Stellungnahme_Demokratie.pdf ↩︎
- https://bibliotheksportal.de/ueber-bibliotheken/bibliotheken-und-demokratie/ ↩︎
- https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Bibliotheken-%C3%96ffnungszeiten/Oststadtbibliothek ↩︎
- https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Bibliotheken-%C3%96ffnungszeiten/Oststadtbibliothek/Internationale-Medien ↩︎
- https://www.youtube.com/watch?v=AMXy7NScyUo ↩︎