ハノーファー市立図書館

ハノーファー市はニーダーザクセン州にあり,その州都である。人口は約54万人である。市内には中央館のほか16の分館と移動図書館がある。ドイツ図書館統計(DBS)によれば,この市の図書館の蔵書は物理メディアが107万点で,年間の貸出は298万点である。物理メディア以外を含めると432万点である。職員は201名で,専門職スタッフは44名である。

図書館のルーツは15世紀にさかのぼるが,現在の建物のうちタワー部分は1930年頃に建てられた。このタワーはヨーロッパ最初の図書館の高層建築物とも言われている。ハノーファーには現在でも高層建築物はあまりないため,最上階からの眺めはすばらしい。その後,何期かに分けて増設されてきた。1933年以降,発禁となった書物が目録から削除されたが,完全には廃棄されず,書庫の一隅で保管された。その一方で,迫害されたユダヤ人が収蔵していた資料も多く収集しており,これらは近年調査が行われ,所有者への返還作業が進められている1。第二次世界大戦中,建物はゲシュタポの本部として使われた。1943年10月の空襲ではタワーの上部が破壊され,蔵書の半分を失った。

タワーは閉架式の時代から書庫として使用されてきた。内部は中二階のようなフロアが積み重なる書庫である。説明してくれた図書館員は背が高く,階段では猫背にならないと頭をぶつけてしまう。こうした書庫は,日本でも古い図書館で見られる。建物自体はニーダーザクセン州の文化財保護法に基づき保護建築物に指定されており,建て替えは難しい。図書館員も,将来どうなるか分からないと話していた。貴重な資料も多く所蔵されている2。銃弾跡のある図書もあった。貴重な資料は,まもなく文書館などと同じ施設に移転する予定である。ヨーロッパの夏は近年暑い。この建物も例外ではない。空気を循環させる設備はあるが冷房はないとのことだった。タワーを案内してもらった日も,資料保存環境としては適切と言えない温度であった。

タワーと接続している新しい施設が現在,開架式の図書館として使われている。入口を入るとコミュニティ掲示板がある。これはハンブルク市の図書館でも見た。E階には閲覧スペース,カウンター,ラウンジ,貸出返却や予約資料の受取,コピー機,スキャナー,PCや検索端末,さらに図書のフリーマーケットなどがある。一部が最上階まで吹き抜けになっており,とても開放的である。レンガ造りになっている部分は増設前の外壁である。ただし近年のように暑い夏には温度調節に課題があるとのことだった。吹き抜けを囲むように上の階には閲覧席が並び,PCなどで作業する利用者がいた。

書架は1階から上にある。1階はフィクション中心で,児童室もここにある。2階以上は一般書が並び,5階まで続く。階によってはイベントスペース兼閲覧室もあり,4階には自然光が入る心地よい空間がある。最上階には大きな閲覧机が並び,観光資料などもあった。ハノーファー出身の思想家ハンナ・アーレントの名を冠した部屋もある。

いくつか興味深かった点は以下のとおりである。まず,ハノーファーの図書館がもっとも混雑するのは4月とのことだった。日本で混雑する夏はそれほど混雑しない。4月に利用者が増えるのは,大学入学資格試験(アビトゥーア)を控えた生徒が勉強に来るためとのことで,混雑時には床に座って勉強する生徒もいるそうである。資料の排架も興味深い。図書と一緒にオーディオブックやDVDが混在して並んでいる。例えば,歴史の棚には関連する映画のDVDが一段置かれている。日本のように視聴覚資料を独立のコーナーに分けるのではなく,主題ごとに排架する方法は参考にできるかもしれない。

分類はASBというドイツ独自の公共図書館向け分類法である。ドイツの公共図書館ではASBかKABが主流とのことだった。十進分類法よりも公共図書館の現場には親和性があるとのことだった。図書の装備は基本的に書店が行い納品している。ただし,一部は館内で装備している。システムはSySiLOG GmbH社のものを導入している。フローティングコレクションなどは採用せず館籍ごとに管理している。説明では,これでうまく運用できているとのことだった。

1階には「テクノテーク」が設置されている3。こうした施設は近年,ドイツの公共図書館で拡大しているとのことだった。ドイツ技術者協会(VDI)との協力によって設置されている。ここではVRヘッドセット,3Dプリンター,プログラミングロボットなどを利用できる。大学と連携してSTEMやメイカーズ関連のイベントも開催されており,当日もイベントが開催されていた。メイカースペースだけではなく,新しいテクノロジーとの接点や教育機能を持たせている点が興味深い。

5階には「方法図書館(MethoThek)」という小さなコーナーがある4。コーナーには関連するキットが置かれている。ここでは議論の仕方や学び方といった「方法」に焦点を当てている。具体的には,会議のファシリテーション,チューリッヒ・リソース・モデル,LegoSeriousPlayなどである。キットの貸出に加えてワークショップが開催されている。試験的な試みのようであるが興味深い。

今回,実際に見ることはできなかったが,この図書館では「修理カフェ」を開催している5。ものを簡単に捨てるのではなく修理して長く使い続けることを支援しているわけである。図書,小型家電,衣料品,スマホ,おもちゃなどが対象である。毎月1回,開催されている。ただし,適切な修理技術者が来られるとは限らないこと,必要なパーツや工具がないこともあること,などが留保事項として書かれている。

最近では,分館の一部で「LibraryPlus」という名称で職員不在時の開館も行っている。中央館も月曜日から金曜日は9時から11時まで職員不在で開館している。説明してくれた図書館員の方によると,将来的にはこの方法により日曜日の開館も実施したいとのことだった。現状,ドイツでは労働時間法により日曜日開館は認められていない。しかし,美術館などは例外規定により開館している。ドイツ図書館協会では「日曜日は図書館へ行こう」というキャンペーンを展開し,日曜開館の実現を目指しているようである6

  1. https://www.proveana.de/de/projekt/ns-raubgut-der-stadtbibliothek-hannover-ein-projekt-zur-erbenermittlung-und-der-suche-nach, https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Wir-%C3%BCber-uns/Provenienzforschung-in-der-Stadtbibliothek-Hannover ↩︎
  2. https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Bibliotheken-%C3%96ffnungszeiten/Zentralbibliothek/Historische-Best%C3%A4nde2/Sicherung-der-Altbest%C3%A4nde-f%C3%BCr-die-Zukunft ↩︎
  3. https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Veranstaltungen/TechnoThek-Hannover ↩︎
  4. https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Veranstaltungen/Workshop-s-in-der-MethoThek-der-Stadtbibliothek-Hannover/Was-ist-die-MethoThek ↩︎
  5. https://www.hannover.de/Leben-in-der-Region-Hannover/Bildung/Bibliotheken-Archive/Stadtbibliothek-Hannover/Veranstaltungen/Willkommen-im-Repair-Caf%C3%A9 ↩︎
  6. https://www.bibliotheksverband.de/sonntagsoeffnung ↩︎