行ったところ(9/23〜)

アストン図書館

バーミンガム市の分館である1。市の中心から数キロ北に行ったところにある。サッカーのアストン・ヴィラというチームがあるが,そのスタジアムから1kmもないところにある。図書館の規模は小さく,図書館員によるとバーミンガムで最も小さい図書館の一つとのことである。サッカーチームはワールドワイドだが,図書館は小さい。バーミンガム市はメトロポリタン・バラであり,単一自治体である。人口は約114万人で,図書館数は36館である2

アストン図書館の開館日は月曜日だけで,9時から17時まで開いている。ただし13時から14時までは休みである。職員は二人であった。以前は少し離れた場所にあったが,数年前に現在の場所に移転したとのことである。移転前の建物は民間に売り出される懸念があるようで「Save Birmingham」などの市民による活動があり,地域で守ろうという運動が行われている3。売却の懸念のある建物は図書館だけではなく,他の施設もたくさん含まれている。バーミンガム市の財政状況悪化のためである。

図書館は2部屋に分かれている。手前が大人の部屋で奥が児童室である。大人の部屋にはPCが2台あり,どちらも利用されていた。蔵書は非常に少ない。その中にDESI言語の図書が一定数見られた。予約資料の受取等はできるとのことだった。奥の児童室は大人向けと比べて充実している。ちょうどお父さんが子どもの本を返却し,新たに借りていっていた。児童室は外とガラス張りの壁で仕切られている。はじめは気づかなかったが,ガラスの向こうは消防署の車庫であった。そのために,子どもに大人気とのことである。

CGP社の学習参考書も置かれていた。比較的人気があるとのことだった。見た限りでは書き込みなどはされていなかった。図書館全体はとても手が行き届いており,児童室も飾り付けが工夫されていた。小さな場所での運営,そして週1回の開館は市の財政の厳しさを物語っている。図書館員は,別の曜日は別の図書館で働いている。

ちなみに,周辺を歩いていると,リッチフィールドロードとロッキーレーンの角近くに,別の「アストン図書館」を見つけた。そこは1903年開館で,カーネギーの資金提供によって建てられたことが銘板に刻まれていた。建物に「Public Library」と大きく書かれていたため,図書館ではないかと思ってうろうろしていたところ,中から男性が出てきた。昔は図書館だったが今は普通の住宅とのことである。

ケンジントン図書館(リバプール)

ロンドンと同じケンジントンという名称だが,こちらはリバプール市にある分館である4。図書館の入口の銘板によると,1890年に開館したとあるので,築135年の建物である。図書館員によるとカーネギー寄贈による図書館としてはかなり初期のものだという。近年では,老朽化の問題が出ているようである5。この図書館の開館日は月,水,木,金で,10時から17時または18時まで開館している。

入口を入るとカウンターがあり,右手にはPCが4台ある。訪問時には2台が使われており,1台では利用者がビデオ会議をしていた。入って左手に書架が並んでいる。手前が児童コーナーである。床の箱に入っているのは表紙が厚い乳幼児向け絵本である。書棚左から順番に,絵本,簡単な読み物(easy readers),物語が著者順で並んでいる。児童用の一般書は分類が付けられ「Information Book」として別に排架されていた。電子書籍の案内もある。コミックは「COMICS PLUS」というサービスがある。これは16歳以上と未満でアクセスできるコンテンツが異なり,未満の場合は限定アクセスである。また,多言語絵本の LOTE4Kids を提供している。65以上の言語(ウェブでは100言語以上と記載)を収録しているという6

大人向けは,フィクションがフロア中央に並び,周りを一般書が囲んでいる。フィクションはロマンス,冒険,犯罪,サイエンスフィクションなどに細分化されている。簡単な読み物として,リーディング・エージェンシーのQuick Readsやペンギンズリーダーズが別の棚に置かれていた。書架の中にもPCが8台あり,3台が使われていた。

プログラムとしては,ジグソーパズルクラブを開催している。これは子どもも大人も参加できるものである。また「ワンストップショップ」という行政サービスもある。これは,税金,住宅手当,駐車許可証(路上)などについて市の担当者が来て相談できるものである。予約制で,訪問日は開催日だったが,予約がなかったためか開催されていなかった。

この図書館は直営ではなく,2019年にKensington Fields Community Association(KFCA)に移管されている7。ただし,市のウェブサイトではそうした記載はないので,分かりにくい。KFCAは図書館閉鎖の情報を得てカウンシルに働きかけたようである。移管の際,市が7.5万ポンド(約1,500万円)を2年間補助金として支出することが決められていた8。また,それ以外にも同時に移管された駐車場や施設利用料から一定の予算確保を見込んでいたようだが,移管後の状況は不明である。KFCAは他の施設の事業も請け負っている。研究によればリバプールではコミュニティ移管後,貸出が増えたという報告もあるが9,長期的にはよく分からない(この図書館は研究には含まれていない)。一方でリバプールでは,コミュニティ図書館を運営する事業者が多額の借金を抱える問題が生じており,そのため市からの補助金が止められる可能性が出ている10。団体は仮に補助金が止められた場合,図書館を閉鎖すると言っているようである。コミュニティ図書館運営の不安定さを物語っている。

バーミンガム図書館

2013年に開館した。この図書館の開館は世界的に注目を集めた。開館時,マララ・ユスフザイさんが挨拶をしている11。カレントアウェアネスでも何回か取り上げられている12。その巨大さと壮大さは繰り返し言及されてきた。2014年には240万人以上が来館したという。一方で,バーミンガム市は市の財政悪化に伴い,2014年以降,図書館も大きな影響を受けた13。ゴミ収集すら支障が出ている状況である。これは,男女同一賃金に関わる裁判の結果,市に多額の補償金支払い義務が発生したことなどによる。図書館についても職員の半減や14,開館時間の短縮などがたびたびニュースで取り上げられてきた15

図書館はバーミンガム中心部にある。黒いガラスの外壁をステンレスの円で作った模様が覆っている。金色の外壁部分もありゴージャスである。観光客と思われる利用者も多い。図書館の広さは31,000㎡とのことでとても広い。近年,台湾で見られる巨大図書館を思わせる。閲覧席は豊富で,天井も高く,ガラスの外壁から光が差し込む開放的な空間である。

建物に入るとスタッフが親切に案内をしてくれる。グラウンドフロアにはライブラリーストアがある。エスカレーターが動いており,デパートのようである。2階以上は,エスカレーターの周囲に円形の書架が配置されている。階の間に見える書棚には立ち入りできない。グラウンドフロア奥には中二階(MG: Mezzanine)があり,「Book Browse」と呼ばれるレンディングライブラリーがある。ここでは旅行書や歴史,手芸,ガーデニング,ペット,スポーツ,伝記,哲学や社会科学などの図書が並び,フィクションのコーナーも充実していた。

その下のLower Ground(LG)には音楽図書室と児童図書室がある。音楽図書室には通常の図書以外に,多くのCDや楽譜が排架されている。そこに外とつながる円形の空間があり卓球台が置かれている。グラウンドフロアから上がった1階はバーミンガム成人教育サービス(Birmingham Adult Education Service: BEAS)がある16。数学,英語,IT,会計など多様なコースを提供している。語学教育のBrasshouseもある。この階にはDESI言語やポーランド語,イタリア語などコミュニティ言語の書棚もあった。

2階は「ナレッジフロア」で,一般書とスタディールームがある。光が多く差し込むがシェードがなく,窓際の閲覧席はややまぶしい。閲覧席は広く,そして豊富にある。雑誌の合冊本などを収蔵する集密書架に自由にアクセスできる点が興味深い。表紙を出しての展示や,特集展示などはそれほど多くない。図書のうち,貸出可能なものは背表紙に黄色のシールがついている。見てみると,1/4〜1/3ぐらいがであろうか。図書の出版年を見ると,1960年代の古い図書も並んでおり,本来は書庫にあるべきような図書も開架しているようであった。また,貸出禁止のものの多くは,以前のレファレンスライブラリーから引き継いだものが多い印象である。新しい図書や,複本のうちの1冊などが貸出用になっている感じである。

3階は「ビジネス&ラーニング」のフロアで,英国図書館と連携しているビジネスIPセンターがある。経営,知的財産,投資,社史(カンパニーヒストリー),国際取引などの資料のほか,「JOB LIBRARY」という書棚があり試験対策,履歴書,デジタルスキル,面接対策の資料も並ぶ。この階には「バーミンガム・フォトグラフィー・コレクション」という壁面を使った展示があった。これはバーミンガムアーカイブ&コレクションからのものである。資料はデジタルアーカイブで公開されており,その一部が展示されている。この階には空中庭園もある。観光客がここで一休みしたり,写真を撮ったりしている。かなり遠くまでバーミンガムの街を見渡すことができる。

4階はアーカイブ&コレクションのフロアで,地域資料が豊富にある17。マイクロフィルムや地図コレクションも充実している。それぞれキャビネットに収蔵されアクセスできる。マイクロフィルムの中にはWAR DEATHなどを時期ごとに収録したものなどがある。部隊の上官(オフィサー)などが載っているようだった。地図コレクションのコーナーには,地図から街の発展を読み取れる壁面展示がある。この図書館は1553年以降の55,000点の地図を所蔵している。こうした壁面展示は,ややもすると忘れられてしまうデジタルアーカイブの資料に気づかせてくれる点で貴重だ。ロンドンの図書館ではこうした地域の歴史的史資料を見ることはあまりなかったが,ここは充実している。7階にはミーティングルームと「The Secret Garden」がある。さらに高い空中庭園からさらに遠くまで街を眺望できる。9階にはシェイクスピアメモリアルルームとスカイラインビューポイントがある。

開館から10年ほどが経過して,施設には古くなっているところも見られる。エスカレーターは大きなきしむ音を定期的にたてているし,天井から雨漏りをしているところもあった。また,グラウンドフロアと1階の間にあったカフェも閉鎖されている。マンチェスター市の財政状況の悪化がこうしたところに出ているのかもしれない。

ハンズワース図書館

バーミンガム市の図書館分館のひとつである18。アストン図書館で,行くべきと教えてもらった図書館である。訪ねるとアストン図書館にいた図書館員がいた。この図書館はワンフロアの,それほど大きな図書館ではないが,とても手が行き届いていた。また,「ハブ化」の実態に触れることもできた。バーミンガム市では,分館のうち10館ほどをこうしたハブ図書館として運営をするとのことである。市では近いうちに大きな再編を予定しているという話しも聞いた。

建物は比較的古く,味のあるレンガ造りであり,最近の新聞記事によると近い将来改修が予定されているという19。入口を入ると目の前にカウンターがあり,左手にはPCとコミュニティ情報の掲示板がある。また,黒人の歴史特集があり,オバマ大統領をはじめ関連図書が展示されていた。これは,黒人歴史月間に合わせたものである。カウンターの後ろは児童室である。それほど大きくはないが,飾り付けが工夫されておりあたたかい雰囲気である。絵本や様々な読み物が並んでいた。図書館の中央にはPCが6台ほど並んでおり,いずれも利用されていた。その周りに一般書が排架されている。

奥の部屋にはフィクションが並んでいた。細かいジャンル分けはあまりなく,著者名順である。オーディオブック,大型活字本,地域資料もある。手前にはティーンコーナーがありPCが2台あった。書架の周囲には写真が飾られている。

当日は「50代以上のエクササイズ」と「生活費に関するアドバイス」が開催されていた。エクササイズでは通常,机やソファーが置かれている場所に30席ほどの椅子が並べられていた。祈りから始まる。インストラクターは70代の「ミスター・ハンズワース」とも呼ばれる方で,長く図書館の警備員をしてきた方である。大英帝国勲章のMemberを授与されている。地域への恩返しとして活動しているとのことであった。エクササイズは椅子に座りながらだったが,息がはずむ。席はほぼ埋まっている。参加者同士,顔見知り同士も多いようだった。インストラクターの人間性と俊敏な動きが参加者の気分を盛り上げていた。

「生活費に関するアドバイス」のコーナーはエクササイズの隣の,図書館の真ん中の部屋で行われている。ブースが2つ設けられ,個別相談が行われていた。たくさんの市民が訪れ,相談待ちの市民は常時7,8人にいた。相談の具体的な中身は分からなかったが,バーミンガムの類似の相談の調査では,借金返済,公共料金延滞,公的給付の案内,住宅支援,就職支援,緊急事態対応などが話題として挙げられている20。支援は自信や安心といった精神的な面にも効果があるとされている。こうした意義が共有されているため,利用者が多いのであろう。他にも多くのイベントが開催されている。アルツハイマー協会による「脳のための歌」は,認知症の人がフレンドリーな雰囲気の中,一緒に歌う会である21

図書館のハブ化は,図書館自らが望んだというよりも自治体の施策として進められている側面が強い。そのため,こうした活動のために開架スペースを減らすといったことも求められる。しかし,図書館として様々な人をサポートすることの重要性は図書館員の間で共有されていた。図書館が実施することで,関連図書へのアクセスやウェブへのアクセスといった情報面からの支援ができる点は意義があるとも強調されていた。ハブ化した図書館の実態に触れることができ,貴重な機会であった。

リバプール中央図書館

リバプール市はイングランド北西部にあり,人口は約50万人である。公式ウェブサイトによると,他に13の図書館と5つの独立して運営されている図書館がある22。図書館は街の中心にある23。周辺には図書館を含めて歴史的建造物が建ち並び,その荘厳さに圧倒される。現在の図書館は,1860年にウィリアム・ブラウン図書館・博物館として建設され,博物館と建物を共有してきた。近年改修され,2013年に新たに開館している。元の図書館に加えて,あとから加わったピクトン閲覧室,ホーンビー図書館は,グレードIIの指定建造物になっている。2018年にはBooksellerのLibrary of the Yearに選出されている。

この図書館の詳細を描写すると分量が多くなるので,注目されることを中心に述べる。館内は中央部が吹き抜けになっており,最上階にはアトリウムがある。外の光が取り込まれて明るい。外観はクラシカルな建築様式だが,内部は現代的な空間になっていることに驚かされる。入口右側の円形の建物も図書館の一部であることには,あとから気づいた。

入口を入ると,図書の展示が多くされている。グラフィックノベル,新刊図書,映画化された図書などが並んでいる。左手には「relish」というカフェがあり,利用者がコーヒーを飲みながら本を読んだり,スマホを見たり,ぼーっとしたり,ノートPCを利用している。右手にはグラフィックノベルが並び,日本の漫画もある。その先は円形の大きな児童室である。「エンパシー」を特集した棚や育児の棚もある。「エンパシー」はブレイディみかこ氏の著書(『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』)で,イギリスの学校教育に触れながら紹介されていた。ティーンのコーナーでも特集されていた。グラウンドフロア奥にはリーディングウェルの「本の処方箋」でリスト化された図書の棚もある。こうしてまとめているのはとても効果的だと感じた。この図書館では,こうした細かい工夫が行き届いている。

階段を上った1階にはDDCの000から699までが排架されている。雑誌の棚には表紙をコピーしてパウチしたものが置かれ,読みたければカウンターまで持ってくるようにと案内されている。またデジタルでアクセスできるものはその旨書かれている。多くの雑誌が電子的に利用できることが分かる。こうした案内はとても役立つ。この階を含め,全体でPCが130台設置されており,よく利用されていた。

この階には英国図書館と連携したBusiness and IP Centre(BIPC)が置かれている。そこには豊富な関連図書とともに「スキルスワップ」というホワイトボードがある。ここでは,自分で提供できるスキルをメモにして掲示できるようになっていた。見てみると,ピアノ,チェス,英語,スペイン語などが並んでいて,なかなか興味深い。

この階には Oak Room がある24。この図書館では4,000点の貴重書が収集されている。ここではそれらの一部が公開されている。常設展示として『Birds of America』が展示されていた。記憶によれば,これは,以前,爆笑問題が国立国会図書館に行くNHKの番組(爆笑問題のニッポンの教養)で紹介されていた図書ではなかったか。隣接するホーンビー図書館は広く,ヒュー・フレデリック・ホーンビー氏によって収集された図書が収蔵されている。いくつか展示ケースがあり貴重書が紹介されているが,中に「日本コレクション」の展示ケースがあり,ちりめん本などが紹介されていた。その奥のピクトン・リーディングルームは見事な円形の閲覧空間である25。大英博物館図書室を模したとも言われている。資料も飾りではなく,しっかり選書されている様子がうかがえた。

2階は700から999までの図書があり,音楽コーナーには楽譜がたくさん並んでいた。3階は地域資料が充実しており,リバプール記録オフィスと呼ばれるコーナーがある。13世紀以降の記録を所蔵し,デジタルアーカイブとしても公開している。訪問時はOwen Owenを特集していた。貴重書などを閲覧する「サーチルーム」もある。ファミリーヒストリーのコーナーもあり,家系調査に役立つ図書がまとめられていた。

マイクロフィルムの大きなキャビネットがあり,横にはリーダーが20台もあった。索引のクリアファイルも充実しており,内容をすぐに探せるようになっていた。イングランドの1837年以降の出生・結婚・死亡のデータ,埋葬記録,街路名簿,国勢調査の回答,遺言検認カレンダーなどがマイクロフィルムや図書で所蔵されていた。これらの多くは有料のウェブからもアクセスできるが,図書館からは無料でアクセス可能であり,一部はデジタル化されておらず,ここでしか利用できない26

最上階には屋上テラスがあり,気持ちのよい空間であった。利用者は多く,訪問時は特に高校生など若者が多かった印象である。全体に,知の殿堂的なたたずまい(入口やピクトン・リーディングルーム)と,カフェや多数のPC,BIPCといった現代的な施設,さらに地域史資料の充実など,バランスのとれた図書館であると感じた。また,巨大図書館でありながら,細部まで作り込まれている図書館でもあった。

バーケンヘッド中央図書館

大都市バラのウィラルにある。ウィラルはマージーサイドという都市カウンティに属している。人口は約30万人で,マージ川を挟んだリバプールの隣である。ウィラルには図書館が11館あり,うち3館がコミュニティ図書館である27。2022年に大規模な図書館閉鎖があり,9館が閉鎖された。その後,一部がコミュニティ図書館として再開されている28。バーケンヘッド中央図書館は直営で運営されている。ウィラルの図書館の基本データは表のとおりである。図書館数は多いが,イベント開催回数,その参加者数,来館者密度などは少ない。

Wirral 人口 図書館数 1館あたり人口 住民利用率 イベント開催回数(1館/1週間)
328,873 25 13,155 5.5% 0.8
イベント参加者数(1館1週間) 貸出密度 貸出密度(ebook含む) 来館者密度 1館あたりPC台数
17.7 1.6 1.7 1.2 4.1
* 表の出典等は「行ったところ(8/26〜)アイデアストア クリスプストリート」を参照のこと。

図書館は駅から少し離れたところにある。郊外の図書館という感じである。ウィラルは歴史的に複数の自治体が合併した経緯があり,「中央」と名の付く図書館が3つ存在するが,バーケンヘッドはその一つである。入口を入ると,ロビーになっているところがある。そこに「ウクライナの物語」という立て看板とディスプレイ,ヘッドホンがある。これは,ウィスパード・テイルズという団体がマージーサイドに避難してきたウクライナ人への聞き取りをしたものである。当事者の生の声を聞くことができる29

グラウンドフロアは大きく3つに分かれている。右側が「コネクト&インスパイヤー・ハブ」,真ん中が図書館,左側が「ザ・ラーニング・ハブ」である。右側の「コネクト&インスパイヤーハブ」は,勉強,仕事,研究に使える部屋という位置づけである30。ここにはPCが9台置かれ,ソファや防音の会議室もある。資料はない。イングランド芸術協議会(ACE)の図書館改善基金によって設置されたものである。「ザ・ラーニング・ハブ」は訪問時,閉室していた。

図書館に入ると右側に児童コーナーがあり,Dual language bookと呼ばれる英語とそれ以外の言語が併記された絵本がある。図書館の奥にあるドアが開け放たれている。ドアの上には「Pocket Park」と書かれている。外に出ると,小さな庭がありベンチが置かれている。また,菜園もある。緑陰読書を楽しむことができる。ちょうど,秋晴れで外での読書には絶好の日だった。この図書館では,CDやDVDが混配されていたり,表紙を見せて展示されているなど,いろいろ工夫が見られる。

「More Music in Wirral Libraries」というポスターがある。ウィラルの図書館の音楽関連サービスが紹介されていた。音楽会,レコード鑑賞会,ウクレレの貸出,輪唱の会,さらにSpotifyでの地元ミュージシャンのリスト提供などが挙げられている。最後のものは,地元のミュージシャン支援という点で興味深い。また,この図書館には,Playlist for Lifeという団体のポスターが掲示されていた31。認知症の人を支援するため,その人の個人向けの音楽のプレイリストを作る取組である。音楽は認知症になっても楽しむことができるし,症状改善にもプラスの効果が期待できるという。英国では1,000以上の図書館が,この取組を支援しているという32

階を上がった1階は「Information Wirral」と書かれたレファレンスライブラリーである。地域資料が充実している他,様々な分野の図書がある。レファレンスブックだけでなく,専門的な図書や貴重書が置かれている。また,階段の途中には第一次・第二次世界大戦で戦死したウィラルの兵士の名前を刻んだ銘板が掲げられていた。さらに,地元の詩人であり第一次世界大戦で戦死したウィルフレッド・オーエンの常設展示もあった33。彼の一生を紹介するととともに,関連図書や塹壕で過ごすオーエンの模型などが展示されていた。階段の窓には美しいステンドグラスがあったが,オーエンを忍んで親族によって贈られたものだという。

この図書館では様々なプログラムを提供している。興味深いのは,家族で参加できる自然関連プログラムである34。10月に企画されているもので,鳥の餌箱作り,蜜蝋でのリップクリームやキャンドル作り,植木鉢作り,ミツバチを救う方法などを学ぶといった活動が日替わりで開催されている。これはLibraries ConnectedがACEの支援を受けて資金を拠出している。国からの助成が重要な役割を果たしている。シェアード・リーディングも毎週月曜日1.5時間,開催している。英国では,The Readerという団体が関わり,リーダー役のボランティアの養成なども行っているようである35

ファウンテンブリッジ図書館

エディンバラの分館である36。現在の建物は1940年に開館している。ロンドンでよく見る赤いレンガ造りの建物とは異なり,全体に黒い外観である。写真では伝わらないかもしれないが,なかなかシックである。エディンバラはスコットランドの首都であり,人口は50万人弱である。スコットランド全体の人口は約550万人である。都道府県でいえば兵庫県の人口に近い。スコットランドは英国を構成する一地域であるが,図書館の法制度などはイングランドと異なっている。エディンバラの図書館は直営である。

図書館内はワンフロアで天井が高い。建物は大きく二つに分かれている。左側は書棚の並ぶ図書館,右側はコミュニティ・ミーティング・スペースとコンピュータを利用できるスペースである。コンピュータは12台ほどあり,すべて使用されていた。左側のフロアは,入るとすぐにカウンターがある。床は緑のカーペットで書棚は木製である。温かみがある。自動貸出返却機は導入されていないようだった。エディンバラ市のドルリー墓地(Dalry Necropolis)に関する展示が行われていた。また,「金曜レゴクラブ」の力作が子どもの名前とともに展示されていた。

フロア中央はフィクションが並び,歴史,古典,短編などに分けられている。周囲を囲むように一般書があり,英国図書賞2025やブックTokの特集コーナーも見られた。右側には児童コーナーがあり,その前に「ヤングアダルト」コーナーがあった。英国では「Teen」と呼ぶことが多いが,ここでは日本と同様に「ヤングアダルト」である。コーナーは小規模ながら,小さな電子ピアノやコミックがあり,ディスレクシア・フレンドリーの図書もあった。これはバリントン・ストークによる出版物である。奥にはソファが置かれた閲覧スペースがある。窓辺には緑が飾られ,自然光が差し込んで明るい。ポーランド語,中国語,ウルドゥー語などのコミュニティ言語の資料もあった。一般書はレジャー,アート,バイオグラフィーなどのテーマごとに排架されている。

興味深かったのは分類と延滞料である。分類記号がDDCでないようだったので尋ねたところ,米国議会図書館分類(LCC)とのことだった。図書館員によれば,周辺の自治体ではあまり見ないので,エディンバラは珍しいのではないかとのことであった。これまで見てきた公共図書館の中でもLCCを用いていたのは数少ない。延滞料金についてだが,エディンバラでは徴収をやめている。コロナ禍の際,予約やCD・DVDの利用料とともに延滞料金も停止していた。平常化した後も延滞料金は引き続き徴収しない方針になっている。イングランドでも検討しているとの話しは聞いてきたが,実際に停止しているのは,初めてである。

全体としては,イングランドの図書館と大きな違いは感じなかった。ただし,イングランドの図書館内でよく目にするACEやLibraries Connectedのロゴは見られなかった。また,延滞料徴収をやめているなどの違いも見られた。同じ英国にあっても,少し違う傾向のあることを知ることができた。

エディンバラ中央図書館

エディンバラの中心地にある。まわりは観光客であふれていた。目の前にはスコットランド国立図書館がある。中央図書館の構造は少し複雑である。建物の右側は1830年代に,最初に建てられた建物で,現在は児童図書館などが入っている。左側はジョージ4世橋の下のカウゲート通りから建物が続いているかなり高い建物である。こちらは1890年に新たに建てられたもので,レンディングライブラリーなどが入っている。

建物中央の入口から入るとレンディングライブラリーがある37。入口にはカーネギー図書館を表す「Let there be light」の文字があった。館内では表紙を見せての展示が多くされている。木製のしっかりした造りの書棚が並んでいた。天井は高い。入口には「issue and returned」と書かれた貸出返却カウンターがあり,書棚の上には「Bay10」などのサインが出ている。棚番号である。フィクションを中心に科学,コンピュータ,健康など一般書が並んでいた。

部屋を出て階段を上ると2階にレファレンス図書館がある38。階段にはカーネギーの胸像や『草花百種 下』など明治期の日本の著作が飾られていた。レファレンス図書館は「ザ・レファレンス図書館」という雰囲気である。多くの閲覧席が並び,それを取り囲む壁には書架が並んでいる。資料は貸出不可であった。利用者はノートPCで作業をする人が多い。レファレンス図書館は,近年,自習や仕事の場としての利用が中心のように見える。天井は高く丸天井になっており,見事な空間であった。

レンディングライブラリーの下のフロアには音楽図書館がある39。レコード資料が充実していた。最近は楽器の貸出もしている。このフロアは下のフロアと吹き抜けでつながっていた。下のフロアはエディンバラとスコットランドのコレクションである。図書には貸出用と閲覧用がともにあり,マンチェスターと同様であった。マイクロフィルムや地図が充実しており,デジタル化も進められているが,まだまだとのことである。地域資料に関する索引も本格的で著者や主題などから検索できる。新聞用の主題索引もあった。写真をファイリングしたキャビネットもある。これらは住民からの寄贈や地域の団体からの提供,図書館で撮影したものなどである。索引から探すこともできる。

興味深い取組として,「犬にやさしい図書館」(Dog friendly libraries)がある40。これは,一定のルールのもと,図書館に犬を連れてきてよい日を設けたものである(木曜日)。あくまで行儀のよい犬が対象である。また中央図書館では行っていないが,分館ではMacmillan Cancer Supportと連携した事業を行っている41。複数の図書館で週1回,2時間程度,がんに苦しむ人,家族,関係者などの相談を受け付けているとのことであった。

ダンファームリンカーネギー図書館

スコットランドのファイフの図書館である42。ファイフの人口は約37万人である。ダンファームリンはかつてのスコットランドの首都であった。グラスゴーからバスで1時間強である。ダンファームリンはカーネギーの故郷である。図書館のすぐ近くにはカーネギーの生家がある。現在はミュージアムとして公開されていた(写真左上)。無料だが展示は立派である。また,図書館の隣にはダンファームリン・アビーという大きな教会があった。図書館員の方に言われるまで,お城だと思っていたほど,立派な建物である。ここにはかつて宮殿もありチャールズ1世などが生まれた地であった。図書館からはフォース湾にかかるフォース橋が見える。景色がとてもよい。

図書館は1883年に開館した。ここは,カーネギーが最初に寄付をした図書館と言われている。図書館は何度か改修され,現在の姿になったのは1993年である。通りから見るとクラシカルな建物だが,現在の入口は現代的であった。築140年の建物でも,改修によって現代的な建物となり,また現代的機能を備えることができることを示している。入口を入るとロビーがあり,コミュニティに関する情報が掲示されていた。まっすぐ進むと児童室がある。

左にはレンディングライブラリーがある。カウンター前にはこの規模の図書館にしてはかなり充実したグッズ売り場が並んでいた。レンディングライブラリーの館内は天井が高く,光が差し込む明るい空間である。柱は最初の図書館当時のものであった。著名な画家,James Archerによる大きなカーネギーの肖像画がティーンのコーナーの上に飾られている。レンディングライブラリーにはフィクションと一般書があり,PCも10台ほど設置されていた。PCを利用する人や読書をする人が滞在している。書架の間にはソファーがあるが閲覧席はない。書棚には読書に関する箴言などが見られた。エディンバラと同様,延滞料はかからない。また予約は無料である。ただし,自治体で所蔵していない資料のリクエストは6ポンドの費用がかかる。

児童室は独立しており,奥におはなし会用の部屋がある。スコットランドでは,Scottish Book Trustによりブックバグ(bookbug)という取組が行われている。これは,幼児向けの図書を渡す活動(いわゆるブックスタート)と,図書館でのセッション(お話し会)によって行われている43。こうした活動は幼児期のリテラシー強化の観点から重視されているようである。児童室の前の「庭」には牛の置物や植栽による迷路があり,ドアを開放することもあるという。児童室は大人向けの部屋とは完全に分かれている。階段を上がると右にカフェがあり賑わっている。ここのざわざわ感は館内全体に響いていた。

その先にリーディングルームと呼ばれるレファレンスルームがあった。ここは静かな独立した空間である。階段状になっており,一番下に職員,2段目・3段目に閲覧席が並ぶ。PCが設置されるとともに,自分のPCを持ち込んで作業することもできる。曲線が美しい書棚にはレファレンスブックやスコットランド,ファイフの資料がある。ここでもファミリーヒストリーを調べるためのツールがそろっていた。マイクロは「マイクロフィッシュ」を使っている。国民的詩人のロバート・バーンズの銅像もあった。棚には,1600年代の書物も普通に展示されていた。ちなみに,温度管理された事務用の集密書架には中性紙の箱に収められた多くの貴重資料が保管されていた。上の階はミュージアムで,ファイフの歴史を紹介する展示が並ぶ。カーネギーの生家にもあったという織機や,炭鉱関連の品々,地域の写真などが展示されている。

カーネギーが最初に寄付した図書館ということで訪問をしたが,その建物を残しながら拡張している点が印象的だった。入口や館内の柱などでは,かつての図書館の一部を残している。開館時の図書館の入口は,道路に面したところにある。多くのカーネギー図書館の入口に掲げられている「LET THERE BE LIGHT」がすでにここにも見られる。その上には礎石が置かれている。これは1881年にカーネギーの母マーガレットが据えたものである。レンディングライブラリーの奥から昔の入口を入ったところも見ることができる。ここにはマーガレットの胸像がある。

この図書館はFife Cultural Trust(慈善団体)が担っている。直営ではない。ファイフでは他にもミュージアムやシアターを併設する図書館があり,Trustにすることで,それらを一つの組織として運営できるというメリットがあるという。また,慈善団体が運営することで,柔軟な運営や成果管理などの利点もある。しかし,委託をする要因として特に大きいのは節税効果である。スコットランドではイングランドと異なり,Trust化により節税効果が期待できる。そのため,多くの自治体で導入が進んだ。現在ではスコットランドの半分以上の自治体で,図書館を含む文化サービスをTrustにより運営しているという44。ただし,その後の制度変更により,新たに設置されるTrustには税制上の優遇は認められなくなったとのことである。

エルダー・パーク図書館

グラスゴーの分館の一つである45。エルダー・パークという大きな公園の近くにある。コミュニティ・ハブとの複合施設である。建物は1903年に建てられた古いもので,イザベル・エルダー婦人の寄付によって建設された。開館時はカーネギーも列席している。建物はスコットランドの指定建築物でカテゴリAというものに位置づけられている。これは,歴史的に顕著な意味を持つ建物に与えられる。2024年に改修をして再オープンしている46。経費は400万ポンド(日本円で8億円)であった。

建物の中央部分が図書館で,天井は高く,ガラスの窓から光が入り明るい。新しい絨毯が敷かれている。大人向けと児童向けの部屋があり,児童向けは分館らしく比較的大きい。館内には図書資料のない部屋がいくつかある。それらの部屋のドアには「レファレンスルーム」「ブレイルルーム」「リーディングルーム」と書かれているが,現在はコミュニティスペースである。訪問時,レファレンスルームでは高齢者の創作活動が,リーディングルームではグループによる会合が開かれていた。改修前,「レファレンスルーム」は名前のとおり,レファレンスルームとして使われていたが,改修によりコミュニティスペースに転用されている。その奥にはコミュニティ・キッチンも設けられている。2階はかつて児童室だったが,現在はスタッフルームとして使われている。

大人向けの図書室に入るとすぐにカウンターがあり,真ん中に一般書,周囲にフィクションが並んでいる。日本人著者の図書が目に入る。八木詠美『空芯手帳(Diary of a Void)』や高村薫『レディ・ジョーカー』,Haru Yamada の “Kiku: The Japanese Art of Good Listening” などが表紙が見えるように展示してあった。グラフィックノベルもある。ここもそうだが,英国では日本のコミックよりもDCやマーベルなどアメリカのコミックが多い。ローカルヒストリーのコーナーもある。部屋の中央にはPCが何台かあり,利用者が利用していた。マクミラン・キャンサー・サポートの棚もあり,パンフレットなど置かれている。

興味深い点は,改修に際して,図書館のスペースがコミュニティスペースへと変更されていることである。この傾向は近隣の図書館にも見られた。例えばそれほど離れていないところにパーティック図書館がある47。ここも歴史的建造物で美しい外観を持つが,2019年に改修されている。入口入って左右が大人向けと子ども向けの図書館であり,その奥には学習や仕事のできる作業スペースがある。ここは,元々ティーン向けのスペースだったところである。改修の際,新たに中二階も設けられている48。滞在していた利用者は多かった。このように,本来の図書館の場所だったところがコミュニティ・スペースや作業スペースに変わっている。

もう一つ注目すべきは ASN ユースクラブである49。ASN は Additional Support Needs の頭文字をとったものである。このクラブは日本でいえば特別な支援が必要な若者の集まりである。クラブは身体障害や学習障害などを持つ12歳から17歳の若者が対象で,毎週土曜日に開催されている。活動内容は,デジタル機器を使った活動のほか,レゴ,STEM活動,芸術,クラフト活動などである。スウェーデンのストックホルムの図書館でもそうした若者だけにサービスをする時間を設けていたが,少しそれに似ている。

ミッチェル図書館

グラスゴーの中心館である50。グラスゴーはエディンバラと並ぶスコットランドの自治体である。人口は約63万人で,スコットランド最大である。市内には公式ウェブサイトによると33館の図書館がある。ミッチェル図書館はヨーロッパ最大級の図書館とも言われる51。最初の図書館は,1877年,たばこ産業に関わったスティーブン・ミッチェルによって建てられた。1911年にアンドリュー・カーネギーの支援を受けて現在の場所に移った。直近では2005年に改修されている。

入口はいくつかある。グランビルストリート側から入ると,まず展示コーナーがある。訪問時には19世紀グラスゴーの演劇関連の資料が展示されていた。図書館にはこうした貴重な資料が多く,展示はそれをお披露目するよい機会になっているという。逆側のノースストリート側から入ると,この図書館の歴史を知ることのできる写真展示がある。ただし,入口目の前のリーディングホールは現在使われていないため,図書館内に入るには少し歩く必要がある。

グランビルストリート側から図書館に入ると,案内コーナー(Information)やカフェ(The Mitchell Café),閲覧席やPCなどのある大きな空間が広がる。書架はほとんど置かれていない。ここは静寂空間ではなく,会話を前提とした場である。カフェは平日午前中にも関わらず賑わっていた。この場所には,以前,多くのPCが置かれていたが,現在ではノートパソコンの持ち込みが増えたこともあり,WiFiを提供してPCは大幅に減らしたとのことだった。向かいにはミッチェル劇場があるが,訪問時は閉まっていた。「シーズ図書館」もあり,キャビネットの中に種が入っている。そこにはガーデニング関連の図書も並べられていた。

その奥にはいわゆるレンディングライブラリーがある。分類はDDCである。フィクションや一般書が排架され,小さな児童コーナーがある。ブックバグのイベントやコーディングのコースも開催されている。レンディングライブラリーの一角には「ヘルス&ウェルビーイング」コーナーがある。ここでは,マクミラン・キャンサー・サポートと連携してパンフレットや小冊子を提供している。パンフレットは,日本の国立がん研究センターが図書館に配布しているようなものである。毎週2時間,ボランティアによる患者や家族への相談の機会も設けられている。秘密を守るため,個室が用意されている。

その奥の階段を上ると,BIPCのコーナーがある。ここでは知的財産の相談やビジネスプラン作成のワークショップ,ネットワーキングを目的としたコーヒーモーニングなどが行われている。COBRA(Complete Business Reference Adviser)と呼ばれるA4数枚をホチキスでとめたものがたくさん置かれている。一つを手に取ると「著作権の侵害を避けるには」と書かれている。このようにCOBRAにはテーマごとに活用できる情報が整理されている。ビジネス支援サービスのパスファインダーといったところであろうか。また,BIPCでサービスを受けた会社の製品が展示ケースで紹介されているのも興味深い。そこには,BIPCのサービスがどのように役立ったかも書かれていた。

2階には学習室(Ballie’s Reading Room)がある。絨毯が敷かれ,席間がゆったりとしている。試験時期には近隣のグラスゴー大学の学生で混み合うという。3階は市民相談窓口(Citizen Advice Bureau)がある。ここでは,社会保障や借金,家族関係,就労,住宅,消費者問題などの相談を受け付けている。図書館による運営ではなく自治体による運営である。その横は図書館の部屋で,就労や住宅,マネーに関する情報が集められていた。相談に来た人への情報面での支援である。

4階はいわゆるレファレンスライブラリーである。しかし,ここでは図書を貸出している。2005年以降,貸出可に変更されたという。排架されているのは比較的新しい図書が中心である。古い図書は書庫に収蔵されている。書庫も見せてもらったが,膨大な量の蔵書が収蔵されていた。書庫は何回かにわたって増築されており,最も古い区画にはかなり古い図書が保管されていた。この図書館は音楽資料も充実しており,楽曲のカード索引がある。1988年以降はコンピュータで検索できる。ミュージック・キャレルもあり,室内で楽器を弾くことができる。

5階は地域資料である。グラスゴーのアーカイブズや家系図センターの部屋と,地図や地域資料家系図資料を扱う部屋に分かれている。アーカイブや家系図センターは予約制である。家系図センターは,有料だが政府公式のデータベースなどを使って調査することができる。イングランド同様,地方の中央館では地域の資料が非常に充実していたのが印象的であった。

ヒルヘッド図書館

グラスゴーにある分館の一つである52。1975年に開館した。近年,グラスゴーの財政状況の悪化から閉鎖が噂され,2021年にはchange.orgで署名活動が展開された53。しかし,当局はその噂を否定し,閉鎖は事実ではないと説明した。館内に入ると,入口すぐに比較的大きなカウンターがあり,左側が児童コーナー,右側が大人向けのエリアになっている。螺旋階段を上がると中二階があり,18台のPCがある。閲覧室も充実している。フロアには絨毯が敷かれ,ソファーも置かれている。落ち着いた雰囲気の図書館である。

児童コーナーは,まず子ども向けのグラフィックノベルが並んでいる。壁に沿って,絵本,物語,Junior Factsと書かれた一般書がある。また,ディスクレシア向けの図書やその横に「Super Readable」とサインの出ている読みやすい図書もある。一番奥にはParent’s Collectionという保護者向けの図書の棚があった。児童用PCも2台設置されている。

大人向けのエリアでは,入口近くにフィクションが並んでいる。まず,英国でよく見られるように古典作品がまとめられていた。「バスブック」と題された展示には,持ち運びに便利な,バスで読めるような図書があった。「ヤングアダルト」コーナーもあり,その周辺にはLGBTQ+やトランス・ヴォイスといったテーマの図書が特集されている。1階には9台のPCがある。さらに,小規模ながらグラスゴーコレクションのコーナーもあった。イベントも各種行われているが,難聴の人が聴力検査などを受けられるプログラムが月に1度,行われていた。RNIDという団体によるものである。ここでもMacmillan Cancer Supportと連携しており,スコットランドでは健康面のプログラムが充実している印象である。

図書館では,月曜日,水曜日,日曜日の14時から16時まで,無料の紅茶とコーヒーを提供している54。英国では,市民を歓迎する暖かい空間を作る取り組みが,図書館を含むさまざまな場所で展開されている。「Warm Welcome Campaign」と呼ばれる活動で,図書館は1,430館が参加しているという55。図書館によっては紅茶やコーヒーだけでなく,朝食やお菓子を提供している。地域の人々が安心して立ち寄ることができる場を作る,そのことで孤立を解消することなども目的とされているようである。この活動では,単なる飲食の提供にとどまらず,市民の交流や帰属意識の向上といった効果も期待されている。必ずしも図書館利用を前提としない活動を推進している点が興味深い。

この図書館を含め,グラスゴー市内の図書館はGlasgow Lifeという団体が運営している56。Glasgow Lifeは慈善団体として,図書館のみならず博物館やスポーツ施設など文化・スポーツに関わる事業を担っている。スコットランドでは,このような慈善団体による運営は税制上の利点があるため,複数の自治体で導入されている。

ストーリーハウス・チェスター図書館

チェシャー・ウェスト・アンド・チェスター(CWAC)の図書館である57。CWACは単一自治体であり,人口は約36万人である58。公式ウェブサイトによれば,このCWACには23の図書館がある。CWACの図書館の基本データは表のとおりである。貸出密度や来館者密度などが比較的高い。ストーリーハウスは2017年に開館した図書館を含む複合施設の名称である59。建物や劇場などの運営はトラスト(慈善団体)が担っているが,図書館部分は自治体が運営している。図書館は毎日開館しており,月曜日から土曜日までは朝8時から夜11時までと長時間開館である。

Cheshire West and Chester 人口 図書館数 1館あたり人口 住民利用率 イベント開催回数(1館/1週間)
371,652 29 12,816 12.2% 6.0
イベント参加者数(1館1週間) 貸出密度 貸出密度(ebook含む) 来館者密度 1館あたりPC台数
71.9 3.0 3.3 11.8 3.1
* 表の出典等は「行ったところ(8/26〜)アイデアストア クリスプストリート」を参照のこと。

チェスターは観光地であり,ストーリーハウスはその中心地にある。建設に際してはアーツカウンシル・イングランドなどから資金を得ている。開館時,エリザベス女王とメーガン妃が臨席した60。施設としてのストーリーハウスは数々の賞を受賞している。ガーディアン公共サービス賞もその一つである61。その意味では,文化施設として近年,注目されている。

入口を入ると,図書で作られたゲートがある。図書館内には,作家であり,また多彩な顔を持っていたベンジャミン・ゼファニヤ氏の言葉が書かれている62。彼は亡くなる前,2021年から23年にかけてストーリーハウスの「アーティスト・イン・レジデンス」に指名され,ストーリーハウスと関わりを持っていた63。ちなみに,彼の出身は,バーミンガムのハンズワースである。入口から見て左手には映画館,劇場,レストラン,図書館がある。上階にはフィクションのフロア,右手には児童室がある。児童室のおはなしの部屋には『不思議の国のアリス』の絵が大きく描かれている。

左手に進むと,フロア中央がレストランのキッチンになっており,その周囲を取り囲むように席が配置されている。ここはコワーキングスペース的な位置づけである。壁際にはコンピュータ,社会,科学分野の図書がテーマごとに並んでいる。床や書棚,閲覧席が木材で統一され,温かみのあるおしゃれな空間である。この部屋は洋楽が大きな音で流れており,かなりにぎやかであった。

上の中二階にあたるフロアには映画館がある。映画館は白い壁で囲まれ虹色が投影されている。訪問した平日には映画が4本上映されていた。映画館周辺には閲覧席や書棚,PCデスクがあり,一般書やグラフィックノベルが並んでいる。図書を図書館に閉じ込めるのではなく,他の文化活動と融合させるというコンセプトである64。ボードゲームを楽しむグループが見られた。

入口の上階にはフィクションのフロアがあり,赤い絨毯の階段を上ると円形の書棚がある。中はリビングのような空間で,「次に読む本をお探しですか?」というクリアファイルが置かれている。おすすめの図書が紹介されている。児童室の上にはレファレンスルームに相当する部屋がある。地域資料,家系調査,地図,演劇の台本などがそれほど多くないが並んでいる。ここは静寂室の役割も果たしている。

レファレンスルームの隣にミーティングルームがある。訪問当日にはデジタル・バディーズ,シェアード・リーディング,フライデイ・アップリフトといったプログラムが行われていた。デジタルバディーズは高齢者へのデジタル支援,シェアード・リーディングは詩を声に出して読み合い,考えを共有する会である65。フライデイ・アップリフトは講師・メンターの指導のもと,問題を共有し,対処法を学ぶ会とのことである66

電子資料は以下のとおりである。電子書籍やオーディオブック,新聞,雑誌は BorrowBox や Libby を通じて提供されている。家系図調査には Ancestry,Find my past,The 1921 CENSUS などがある。新聞のアーカイブとして NewsBank や The British Newspaper Archive,政府情報は Public Information Online が利用できる。また,学生向けにはレポート作成に役立つ Issue Onlineや,Elsevier,Wiley,Springerといった学術出版社の論文にアクセスできるAccess to Researchも提供されている。Access to Research はカレントアウェアネスでも紹介されている67

  1. https://www.birmingham.gov.uk/directory_record/5122/aston_library ↩︎
  2. https://www.birmingham.gov.uk/directory/14/libraries_in_birmingham ↩︎
  3. https://savebirmingham.org/ ↩︎
  4. https://liverpool.gov.uk/libraries/local-libraries/ ↩︎
  5. https://liverpoolnoise.com/arts-and-culture/culture-in-liverpool/preserving-the-heart-of-kensington-the-fight-to-keep-kensington-library-alive/ ↩︎
  6. https://lote4kids.com/ ↩︎
  7. https://www.kfca.co.uk/news-and-whats-on/fantastic-news ↩︎
  8. https://www.tnlcommunityfund.org.uk/media/insights/documents/Kensington-Library-Liverpool.pdf ↩︎
  9. http://dx.doi.org/10.1108/LM-09-2018-0072 ↩︎
  10. https://www.liverpoolecho.co.uk/news/liverpool-news/council-boss-says-i-need-32182957 ↩︎
  11. https://www.bbc.com/news/uk-england-birmingham-23934792 ↩︎
  12. https://current.ndl.go.jp/e1473 ↩︎
  13. https://www.bbc.co.uk/news/articles/cm2973jn0y4o ↩︎
  14. https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-birmingham-30409906 ↩︎
  15. https://www.bbc.co.uk/news/uk-england-birmingham-31354592 ↩︎
  16. https://www.brasshouse.ac.uk/ ↩︎
  17. https://www.birmingham.gov.uk/info/50134/archives_and_collections ↩︎
  18. https://www.birmingham.gov.uk/handsworth-library ↩︎
  19. https://www.birminghammail.co.uk/news/midlands-news/full-list-10-birmingham-libraries-32435849 ↩︎
  20. https://pure-oai.bham.ac.uk/ws/portalfiles/portal/224181588/Living_with_the_Cost_of_Living_Crisis_Castle_Vale_WEB_240416.pdf ↩︎
  21. https://www.alzheimers.org.uk/get-support/dementia-support-services/your-local-services/singing-for-the-brain ↩︎
  22. https://liverpool.gov.uk/libraries/local-libraries/ ↩︎
  23. https://en.wikipedia.org/wiki/Liverpool_Central_Library ↩︎
  24. https://liverpool.gov.uk/libraries/explore-central-library/rare-books/ ↩︎
  25. https://en.wikipedia.org/wiki/Picton_Reading_Room_and_Hornby_Library ↩︎
  26. https://liverpool.gov.uk/libraries/archives-family-history/family-history/ ↩︎
  27. https://www.wirral.gov.uk/libraries-and-archives/find-library ↩︎
  28. https://www.birkenhead.news/call-to-see-library-services-return-in-two-areas-of-wirral/ ↩︎
  29. https://www.whisperedtales.org/ukrainianstories ↩︎
  30. https://www.birkenhead.news/birkenhead-librarys-new-connect-and-inspire-hub-opens/ ↩︎
  31. https://www.playlistforlife.org.uk/ ↩︎
  32. https://www.playlistforlife.org.uk/libraries/ ↩︎
  33. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%B3 ↩︎
  34. https://www.eventbrite.com/cc/wild-about-libraries-family-sessions-4624613 ↩︎
  35. https://www.thereader.org.uk/ ↩︎
  36. https://www.edinburgh.gov.uk/directory-record/1229181/fountainbridge-library ↩︎
  37. https://www.edinburgh.gov.uk/directory-record/1229173/central-lending-library ↩︎
  38. https://www.edinburgh.gov.uk/directory-record/1229197/reference-library ↩︎
  39. https://www.edinburgh.gov.uk/directory-record/1229191/music-library ↩︎
  40. https://www.edinburgh.gov.uk/using-library/dog-friendly-libraries ↩︎
  41. https://www.edinburgh.gov.uk/libraries/macmillan-cancer-support-libraries ↩︎
  42. https://www.onfife.com/venues/dunfermline-carnegie-library-galleries/ ↩︎
  43. https://www.scottishbooktrust.com/reading-and-stories/bookbug/about-bookbug ↩︎
  44. https://audit.scot/uploads/docs/report/2018/nr_180518_councils_aleos.pdf ↩︎
  45. https://www.glasgowlife.org.uk/libraries/venues/elder-park-library ↩︎
  46. https://wearelibrarypeople.com/inspiration/elder-park-library-community-hub, https://www.bbc.com/news/articles/cpvv0e2w917o ↩︎
  47. https://www.glasgowlife.org.uk/libraries/venues/partick-library, https://en.wikipedia.org/wiki/Partick_Library ↩︎
  48. https://www.glasgowlife.org.uk/news/partick-library-re-opens-following-15m-investment ↩︎
  49. https://www.glasgowlife.org.uk/event/2/asn-youth-club ↩︎
  50. https://www.glasgowlife.org.uk/libraries ↩︎
  51. https://en.wikipedia.org/wiki/Mitchell_Library ↩︎
  52. https://www.glasgowlife.org.uk/libraries/venues/hillhead-library ↩︎
  53. https://www.glasgowwestendtoday.scot/news/revealed-partick-burgh-hall-and-hillhead-library-on-list-of-possible-budget-closures-673/ ↩︎
  54. https://www.warmwelcome.uk/space?l=26259 ↩︎
  55. https://www.librariesconnected.org.uk/news/public-libraries-places-belonging-centre-warm-welcome-campaign ↩︎
  56. https://en.wikipedia.org/wiki/Glasgow_Life ↩︎
  57. https://www.cheshirewestandchester.gov.uk/residents/libraries ↩︎
  58. https://en.wikipedia.org/wiki/Cheshire_West_and_Chester ↩︎
  59. https://www.storyhouse.com/ ↩︎
  60. https://www.cheshire-live.co.uk/news/chester-cheshire-news/queen-meghan-stars-show-opening-14785486 ↩︎
  61. https://www.theguardian.com/society/2018/nov/28/chesters-award-winning-library-cultural-transformation-public-service-awards ↩︎
  62. https://en.wikipedia.org/wiki/Benjamin_Zephaniah ↩︎
  63. https://chester.com/whats-on/benjamin-zephaniah-announced-as-artist-in-residence-for-storyhouse/ ↩︎
  64. https://dcmslibraries.blog.gov.uk/2018/07/06/storyhouse-how-an-innovative-library-has-energized-the-life-of-a-cultural-hub/ ↩︎
  65. https://www.storyhouse.com/whats-on/shared-reading-on-mondays/ ↩︎
  66. https://www.storyhouse.com/whats-on/friday-uplift/ ↩︎
  67. https://current.ndl.go.jp/car/30417 ↩︎