図書館でのオーラルヒストリー

英国のバーケンヘッド中央図書館の入口で,ウクライナからの避難民に自身のストーリーを語ってもらい,それを来館者が視聴できるようにしていたのを見たことがある。日本でも,東日本大震災に関する記録について,公共図書館を含む地域の機関が体験者の語りを収集している例があった。そうした取組に比べると,シンシナティ・ハミルトン・カウンティ公共図書館(CHPL) ダウンタウン本館では,より日常的なレベルでオーラルヒストリーに取り組んでいた。

CHPL本館の2階に,キャサリン・C & トーマス・E・ヒューネフェルド・ストーリーセンター(The Catherine C. and Thomas E. Huenefeld Story Center)がある1。これは,二人の図書館への献身的な支援にちなんで名付けられた施設であり,2024年の図書館リニューアルにあわせて整備された。館内には,オーラルヒストリーを視聴できるタッチスクリーンや,口述を記録するためのスタジオが設けられている。

このストーリーセンターの目的は,ハミルトン・カウンティに関わる個人,地域,建物などの物語を収集,保存し,共有することにある。図書や雑誌といった通常の流通形態では残りにくい経験や記憶を対象としている点が特徴である。その際,歴史的に疎外されてきた集団や有色人種を含む,多様なコミュニティの声と経験に特に配慮している2

ストーリーセンターでは,毎週月曜日,火曜日,水曜日に,オーラルヒストリー収録のため,スタジオを開放している。希望する人は,そこで自身の経験を映像や音声として残すことができる。収録された記録は図書館でアーカイブされ,許諾の得られたものは公開されている。タッチスクリーンで映像を視聴できるほか,YouTube,Podcast,Spotifyなどを通じて公開されているものもある。

図書館では以前より,地域の機関と連携し,さまざまなプロジェクトを立ち上げてきた。これまでに,退役軍人,LGBTQ+の歴史,地域の劇場3,アパラチア地方の人々,黒人ドライバー,図書館員など,多様な人々へのインタビューを行ってきた。また,本館だけでなく,ウエストエンド分館でも「ウェストエンド・ストーリーズ・プロジェクト」として,地域の人々のオーラルヒストリーを収集する取組が進められている4

日本でも,戦争や災害に加えて,政治等,学問的な観点からオーラルヒストリーの取組が進められてきた(図書館学でも)。一方で,CHPLの事例は,地域の人々の日常に関わる記録を残している点に特徴がある。特に,社会的に疎外されてきた集団に配慮している点は重要である。オーラルヒストリーでしか語られない記録が確かに存在し,それらを残すことには大きな意義を持つと感じた。

  1. https://chpl.org/main/story-center/ ↩︎
  2. https://freedomcenter.org/voice/event/share-your-green-book-story/ ↩︎
  3. https://chpl.org/blogs/post/main-library-celebrates-local-theater-with-an-oral-history-project/ ↩︎
  4. https://chpl.org/explore/?post-type=blogs&tag=west-end-stories-project ↩︎